労働安全コンサルタント試験 2017年 産業安全関係法令 問15

労働安全衛生法一般




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 このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2017年度(平成29年度) 問15 難易度 安衛法全般に関する基本的な知識問題である。確実に正答できなければならない。
労働安全衛生法一般

問15 常時550人の労働者を使用する金属製品製造業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断を行った結果、当該事業場における状況は次のとおりであった。これらのうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。なお、当該事業場には、事業の実施を統括管理する者として工場長が、それに準ずる者として副工場長がおり、また、労働者の9割で組織する労働組合がある。

(1)工場長が総括安全衛生管理者として選任され、産業安全の実務経験が10年以上ある製造課長と製造課の係長の2人が兼任の安全管理者として選任されていた。安全管理者には2人とも、総括安全衛生管理者が統括管理すべき業務のうち安全に係る技術的事項を管理するのに必要な知識についての研修を受けさせていたが、総括安全衛生管理者には受けさせていなかった。

(2)安全委員会を単独で設置せず安全衛生委員会を設置し、安全衛生委員会の議長には、労働組合との間における別段の定めがなかったため、副工場長が指名されていた。

(3)工場に固定式のガス集合溶接装置を設置するときに、その計画を労働基準監督署長に届け出ていたが、当該計画を作成するに当たり、労働安全コンサルタント等外部の専門家を参画させてはいなかった。

(4)工場の倉庫内においてフォークリフトを用いて作業が行われていた。この作業について作業計画及び制限速度を定めるとともに、荷等に接触することを防止するため誘導者を配置していたが、倉庫内は関係労働者以外の立ち入りを禁止する措置は講じていなかった。

(5)所轄都道府県労働局長からの安全衛生改善計画作成の指示を受けており、改善計画を作成するに当たり、労働組合の意見は聴いていなかったが、労働安全コンサルタントによる安全に係る診断は受けていた。

正答(5)

【解説】

(1)違反はない。この工場は

① 製造業に属する 300 人以上の事業場(安衛令第2条第二号)であり、事業の実施を統括管理する者(工場長)を総括安全衛生管理者として選任しているので、この点について違反はない。

② また、2名の非専任の安全管理者を選任しているが、専任とする必要はない(安衛則第4条第1項第四号)ので、この点についても違反はない。

③ 総括安全衛生管理者に教育を受けさせていないが、総括安全衛生管理者に教育を受けさせなければならないとする規定はなく(安衛法第19条の2は努力義務であり、また総括安全衛生管理者は対象となっていない)違反はない。

【労働安全衛生法】

(総括安全衛生管理者)

第10条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第二十五条の二第二項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。

一~五 (略)

 総括安全衛生管理者は、当該事業場においてその事業の実施を統括管理する者をもつて充てなければならない。

 (略)

(安全管理者)

第11条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、安全管理者を選任し、その者に前条第1項各号の業務(第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者を選任した場合においては、同条第1項各号の措置に該当するものを除く。)のうち安全に係る技術的事項を管理させなければならない。

 (略)

(安全管理者等に対する教育等)

第19条の2 事業者は、事業場における安全衛生の水準の向上を図るため、安全管理者、衛生管理者、安全衛生推進者、衛生推進者その他労働災害の防止のための業務に従事する者に対し、これらの者が従事する業務に関する能力の向上を図るための教育、講習等を行い、又はこれらを受ける機会を与えるように努めなければならない。

2及び3 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)

第2条 労働安全衛生法(以下「法」という。)第10条第1項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。

 林業、鉱業、建設業、運送業及び清掃業 100人

 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 300人

 その他の業種 1,000人

【労働安全衛生規則】

(安全管理者の選任)

第4条 法第11条第1項の規定による安全管理者の選任は、次に定めるところにより行わなければならない。

一~三 (略)

 次の表の中欄に掲げる業種に応じて、常時同表の下欄に掲げる数以上の労働者を使用する事業場にあつては、その事業場全体について法第10条第1項各号の業務のうち安全に係る技術的事項を管理する安全管理者のうち少なくとも1人を専任の安全管理者とすること。ただし、同表四の項の業種にあつては、過去3年間の労働災害による休業1日以上の死傷者数の合計が100人を超える事業場に限る。

建設業
有機化学工業製品製造業
石油製品製造業
300人
無機化学工業製品製造業
化学肥料製造業
道路貨物運送業
港湾運送業
500人
紙・パルプ製造業
鉄鋼業
造船業
1,000人
令第2条第一号及び第二号に掲げる業種(一の項から三の項までに掲げる業種を除く。) 2,000人

 (略)

(2)違反はない。安衛法第 19 条の規定により、安全委員会及び衛生委員会を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができるので、安全衛生委員会を設置していることは違反とはならない。

また、安衛法第 19 条が準用する第 17 条第3項の規定により、総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者(副工場長)が議長になっているので、この点についても違反はない。

なお、第5項の別段の定めの有無は、この場合には第3項を守っているので違反とは関係がない。過半数組合との間に、議長は「当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの又はこれに準ずる者以外の者を当てる」という労働協約の別段の定めがあったとしても、当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの又はこれに準ずる者を議長にした場合は、少なくとも安衛法違反になることはない(※)

※ もちろん、そのような状態は望ましいことではない。

【労働安全衛生法】

(安全委員会)

第17条 事業者は、政令で定める業種及び規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、安全委員会を設けなければならない。

一~三 (略)

 安全委員会の委員は、次の者をもつて構成する。ただし、第一号の者である委員(以下「第一号の委員」という。)は、1人とする。

 総括安全衛生管理者又は総括安全衛生管理者以外の者で当該事業場においてその事業の実施を統括管理するもの若しくはこれに準ずる者のうちから事業者が指名した者

二及び三 (略)

 安全委員会の議長は、第一号の委員がなるものとする。

 (略)

 前2項の規定は、当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合との間における労働協約に別段の定めがあるときは、その限度において適用しない。

(安全衛生委員会)

第19条 事業者は、第17条及び前条の規定により安全委員会及び衛生委員会を設けなければならないときは、それぞれの委員会の設置に代えて、安全衛生委員会を設置することができる。

2及び3 (略)

 第17条第3項から第5項までの規定は、安全衛生委員会について準用する。この場合において、同条第3項及び第4項中「第一号の委員」とあるのは、「第19条第2項第一号の者である委員」と読み替えるものとする。

(3)違反はない。安衛法第 88 条第4項は「事業者は、第1項の規定による届出に係る工事のうち厚生労働省令で定める工事の計画、第2項の厚生労働省令で定める仕事の計画又は前項の規定による届出に係る仕事のうち厚生労働省令で定める仕事の計画を作成するときは、当該工事に係る建設物若しくは機械等又は当該仕事から生ずる労働災害の防止を図るため、厚生労働省令で定める資格を有する者を参画させなければならない」とする。

そして、安衛則第 92 条の2は「法第88条第4項の厚生労働省令で定める工事は、別表第7の上欄第十号及び第十二号に掲げる機械等を設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更する工事とする」としている。

しかし、別表第七の上欄第十号及び第十二号には固定式のガス集合溶接装置は規定されていない。

【労働安全衛生法】

(計画の届出等)

第88条 事業者は、機械等で、危険若しくは有害な作業を必要とするもの、危険な場所において使用するもの又は危険若しくは健康障害を防止するため使用するもののうち、厚生労働省令で定めるものを設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更しようとするときは、その計画を当該工事の開始の日の三十日前までに、厚生労働省令で定めるところにより、労働基準監督署長に届け出なければならない。ただし、第二十八条の二第一項に規定する措置その他の厚生労働省令で定める措置を講じているものとして、厚生労働省令で定めるところにより労働基準監督署長が認定した事業者については、この限りでない。

2及び3 (略)

 事業者は、第1項の規定による届出に係る工事のうち厚生労働省令で定める工事の計画、第二項の厚生労働省令で定める仕事の計画又は前項の規定による届出に係る仕事のうち厚生労働省令で定める仕事の計画を作成するときは、当該工事に係る建設物若しくは機械等又は当該仕事から生ずる労働災害の防止を図るため、厚生労働省令で定める資格を有する者を参画させなければならない。

5~7 (略)

【労働安全衛生規則】

(資格を有する者の参画に係る工事又は仕事の範囲)

第92条の2 法第88条第4項の厚生労働省令で定める工事は、別表第七の上欄第十号及び第十二号に掲げる機械等を設置し、若しくは移転し、又はこれらの主要構造部分を変更する工事とする。

 (略)

別表第七 (第八十五条、第八十六条関係)

機械等の種類 事項 図面等
(略) (略) (略)

十 型枠支保工(支柱の高さが3.5メートル以上のものに限る。)

(略) (略)
(略) (略) (略)

十二 足場(つり足場、張出し足場以外の足場にあつては、高さが10メートル以上の構造のものに限る。)

(略) (略)
(略) (略) (略)

(4)違反はない。フォークリフトは安衛則第 151 条の2により車両系荷役運搬機械等とされている。

そして、作業計画(安衛則第 151 条の3)、制限速度(安衛則第 151 条の5)を定めたことが違反とならないことは当然である。接触の防止について立ち入り禁止措置をとらなかったことは、安衛則第 151 条の7により「誘導者を配置し、その者に当該車両系荷役運搬機械等を誘導させ」ているので違反とはならない。

【労働安全衛生規則】

(定義)

第151条の2 この省令において車両系荷役運搬機械等とは、次の各号のいずれかに該当するものをいう。

 フオークリフト

二~七 (略)

(作業計画)

第151条の3 事業者は、車両系荷役運搬機械等を用いて作業(不整地運搬車又は貨物自動車を用いて行う道路上の走行の作業を除く。以下第151条の7までにおいて同じ。)を行うときは、あらかじめ、当該作業に係る場所の広さ及び地形、当該車両系荷役運搬機械等の種類及び能力、荷の種類及び形状等に適応する作業計画を定め、かつ、当該作業計画により作業を行わなければならない。

2及び3 (略)

(制限速度)

第151条の5 事業者は、車両系荷役運搬機械等(最高速度が毎時十キロメートル以下のものを除く。)を用いて作業を行うときは、あらかじめ、当該作業に係る場所の地形、地盤の状態等に応じた車両系荷役運搬機械等の適正な制限速度を定め、それにより作業を行わなければならない。

 (略)

(接触の防止)

第151条の7 事業者は、車両系荷役運搬機械等を用いて作業を行うときは、運転中の車両系荷役運搬機械等又はその荷に接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない。ただし、誘導者を配置し、その者に当該車両系荷役運搬機械等を誘導させるときは、この限りでない。

 (略)

(5)違反となる。安衛法第 79 条第2項が準用する第 78 条第2項は、「特別安全衛生改善計画を作成しようとする場合には、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない」と定めている。

【労働安全衛生法】

(特別安全衛生改善計画)

第78条 厚生労働大臣は、重大な労働災害として厚生労働省令で定めるもの(以下この条において「重大な労働災害」という。)が発生した場合において、重大な労働災害の再発を防止するため必要がある場合として厚生労働省令で定める場合に該当すると認めるときは、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、その事業場の安全又は衛生に関する改善計画(以下「特別安全衛生改善計画」という。)を作成し、これを厚生労働大臣に提出すべきことを指示することができる。

 事業者は、特別安全衛生改善計画を作成しようとする場合には、当該事業場に労働者の過半数で組織する労働組合があるときにおいてはその労働組合、労働者の過半数で組織する労働組合がないときにおいては労働者の過半数を代表する者の意見を聴かなければならない。

3~6 (略)

(安全衛生改善計画)

第79条 都道府県労働局長は、事業場の施設その他の事項について、労働災害の防止を図るため総合的な改善措置を講ずる必要があると認めるとき(前条第1項の規定により厚生労働大臣が同項の厚生労働省令で定める場合に該当すると認めるときを除く。)は、厚生労働省令で定めるところにより、事業者に対し、当該事業場の安全又は衛生に関する改善計画(以下「安全衛生改善計画」という。)を作成すべきことを指示することができる。

 前条第2項及び第3項の規定は、安全衛生改善計画について準用する。この場合において、同項中「第1項」とあるのは、「次条第1項」と読み替えるものとする。

2018年10月28日執筆 2024年11月25日最終改訂

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