問25 右のページの図(下図=引用者)は、人が停止中の機械の危険域に侵入した場合に、機械の不意な作動を防止する防護装置の機能不全によって危害が発生するET(Event Tree)図である。このETA(Event Tree Analysis)に関する以下の文中の A ~ C に入る語句又は数値として、適切なものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、次の①~⑤の前提条件を考慮すること。
① 正常な防護装置は人を瞬時に検出して機械を不作動状態にし、この状態は手動による解除まで維持される。
② 人が危険域に侵入しようとする事象の発生率は10-4[1/時間]で、侵入した場合には、平均0.2[時間]とどまる。
③ 防護装置の危険側故障率は10-6[1/時間]で、危険側故障状態は修復されるまでに平均1,000[時間]継続する。そのため、危険側故障状態の確率は約10-3となる。
④ 機械は自動的に平均1.5分間の停止及び作動を繰り返し、人は機械の作動中においては、危険域に侵入しようとしても、実際には危険域に侵入しない。そのため、人が危険域に存在する確率は10-5となる。
⑤ 図中のλは、上記②の人が危険域に侵入しようとする事象の発生率又は上記③の防護装置の危険側故障率を意味する。また、図中のQは、上記④の人が危険域に存在する確率又は上記③の危険側故障状態の確率を意味する。さらに、危害の発生率[1/時間]は、λ×Q×0.5となる。
危害は、起事象である「 A 」が真(Yes)、条件1である「 B 」が真(Yes)、そして条件2である「機械の作動(停止状態であった機械が人の侵入後に不意に作動する。)」が真(Yes)となることにより起こり、この危害の発生率はおおよそ C [1/時間]と推定される。
A | B | C | |||
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(1) | 防護装置の危険側故障 | 人の危険域侵入状態 | |||
(2) | 人の危険域侵入 | 防護装置の危険側故障状態 | |||
(3) | 防護装置の危険側故障 | 人の危険域侵入状態 | |||
(4) | 人の危険域侵入 | 防護装置の危険側故障状態 | |||
(5) | 防護装置の危険側故障 | 人の危険域侵入状態 |
このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2017年度(平成29年度) | 問25 | 難易度 | Event Tree Analysisに関するかなり複雑な問題である。捨て問と割り切っても良いかもしれない。 |
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Event Tree Analysis | 5 |
問25 右のページの図(下図=引用者)は、人が停止中の機械の危険域に侵入した場合に、機械の不意な作動を防止する防護装置の機能不全によって危害が発生するET(Event Tree)図である。このETA(Event Tree Analysis)に関する以下の文中の A ~ C に入る語句又は数値として、適切なものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
ただし、次の①~⑤の前提条件を考慮すること。
① 正常な防護装置は人を瞬時に検出して機械を不作動状態にし、この状態は手動による解除まで維持される。
② 人が危険域に侵入しようとする事象の発生率は10-4[1/時間]で、侵入した場合には、平均0.2[時間]とどまる。
③ 防護装置の危険側故障率は10-6[1/時間]で、危険側故障状態は修復されるまでに平均1,000[時間]継続する。そのため、危険側故障状態の確率は約10-3となる。
④ 機械は自動的に平均1.5分間の停止及び作動を繰り返し、人は機械の作動中においては、危険域に侵入しようとしても、実際には危険域に侵入しない。そのため、人が危険域に存在する確率は10-5となる。
⑤ 図中のλは、上記②の人が危険域に侵入しようとする事象の発生率又は上記③の防護装置の危険側故障率を意味する。また、図中のQは、上記④の人が危険域に存在する確率又は上記③の危険側故障状態の確率を意味する。さらに、危害の発生率[1/時間]は、λ×Q×0.5となる。
危害は、起事象である「 A 」が真(Yes)、条件1である「 B 」が真(Yes)、そして条件2である「機械の作動(停止状態であった機械が人の侵入後に不意に作動する。)」が真(Yes)となることにより起こり、この危害の発生率はおおよそ C [1/時間]と推定される。
A B C
(1)防護装置の危険側故障 人の危険域侵入状態 10-5~10-6
(2)人の危険域侵入 防護装置の危険側故障状態 10-6~10-7
(3)防護装置の危険側故障 人の危険域侵入状態 10-6~10-7
(4)人の危険域侵入 防護装置の危険側故障状態 10-7~10-8
(5)防護装置の危険側故障 人の危険域侵入状態 10-8~10-9
※ 画面の小さなデバイスでは選択肢が画面からはみ出します。スクロールして確認してください。
正答(4)
【解説】
本問は、試験協会によると正答は(4)であるとされている。その理由を調べてみたが、明確な根拠は見つからなかった。だが、次のような理由で(4)が正答となるのではないかと思う。
1 起事象が何か
まず、起事象(A)が何かであるが、起事象を「防護装置の危険側故障」であるとする選択肢の(1)、(3)及び(5)では、図の条件1(Q)が「人の危険域侵入状態」となっている。しかし、侵入した「状態」となるのは、条件④(=図の条件2)と合わせてのことであって、条件1を「人の危険域侵入状態」とすることは誤りであるということらしい。
2 危害の確率
そこで、起事象を「人の危険域侵入」と仮定すると、次のようになる。
(1)人の危険域侵入(λ)
人の危険域侵入(λ)は条件②から10-4[1/時間]となる。なお、ここで考慮すべきは、人が危険域へ侵入しようとする回数が1時間当たりどれだけかということであり、1回あたりの危険域にとどまる時間は考慮する必要はない。それを考慮して、λを0.2[時間]×10-4[1/時間]とするとλは人が危険域へとどまっている確率(時間の割合)となってしまう。
(2)図の条件1(Q)
図の条件1(Q)は、正答によれば「防護装置の危険側故障状態」とされている。従って、条件③から10-3となる。ただし、これは厳密には「防護装置の危険側故障状態となっている確率」であろう。
(3)図の条件2
図の条件2は、条件④に該当する。すなわち機械が作動しているのは0.5の確率(割合)で、そのときには人は実際には危険域に侵入しないわけである。これも確率であるから無名数である。
(4)最終的な危害の確率
最後に条件⑤から危害の発生率はλ×Q×0.5となる。
従って、危害の発生率は10-4[1/時間]×10-3×0.5=5×10-8[1/時間]となる。そして、誤差を考慮してC=10-7~10-8となる。
3 この問題のポイント:コンサルト試験にはめったにないひっかけ問題であること
この問題のポイントは、図の条件2に「機械の作動」と記されており、これが条件④のことだと気づくかどうかだけであろう。
(1)図の条件2の曖昧性
しかし、条件2を独立した危害発生の条件(人が危険域に侵入しても機械が作動しなければ2回に1回の割で危害を受けない)と考える余地はあるのではなかろうか。その場合は、起事象(λ)又は条件1(Q)に「人の危険域侵入状態」が入るはずだということになる。
このように考えた受験生は、私を含めて多かったようである。
(2)問題文中の誤答への誘導(ひっかけ)
この問題は、コンサルタント試験としてはめずらしく「ひっかけ」問題なのである。しかも次のように、2か所にひっかけるためのワナが仕掛けてあるので、注意しなければならない。
ア 条件②に「侵入した場合には、平均0.2[時間]とどまる」とあり、不要な条件が記されていること。
イ 条件⑤に、「さらに、危害の発生率[1/時間]は、λ×Q×0.5となる」とことさらに、「さらに」という言葉を使ってあり、いかにもこの0.5が条件④とは別な新しい条件であるかのように装われていること。
(3)ひっかけられた場合の回答
ここに私はひっかかってしまい、次のように考えたのである。
ア 起事象λ
起事象λは、防護装置危険側故障であり、条件の③から10-3となる。
イ 条件①(Q)
条件①(Q)は人の危険域侵入状態であり、
(ア)人が危険域に侵入しようとする発生率は、条件②で10-4とされており、さらに④から2回に1回は機械が作動しているので実際には侵入しないから10-4×1/2=5×10-5となる。
(イ)機械が故障していることを前提としての確率であるが、人が実際に危険域に侵入している状態となるのは、1回につき0.2[時間]であるから、0.2×5×10-5=10-5となる。そして、なぜかこれは条件④に結論が書かれている。
ウ 図の条件2
さらに、人が危険域に侵入していたとしても、事故の発生率は条件⑤(=図の条件2)で確率0.5とされている。この場合は、0.5は無名数ではなく0.5[回/時間]すなわち、1時間に0.5回の確率で危害が発生するということを意味する。
エ 結論
従って、危害の発生率はλ×Q×0.5=0.5×10-8となる。
ここで誤差を考慮して危害を受ける確率(C)は10-8~10-9になる。
3 評論
ただ、自分が間違えたからというのではないが、図中の条件2が条件④のことだと気づくかどうかというだけのことで、気づかないようにするためのワナを仕掛けておくというこの種の問題が、コンサルタント試験の問題としてふさわしいのかという気がしないでもない。