労働安全コンサルタント試験 2017年 産業安全一般 問07

クレーン等及び玉掛け用具




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合格

 このページは、2017年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2017年度(平成29年度) 問07 難易度 クレーン等及び玉掛けに関するやや高度な知識問題。合否を分けるレベル。確実に正答したい。
クレーン等/玉掛け用具

問7 クレーン、移動式クレーン及び玉掛け用具に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)天井クレーンでの荷振れ防止運転をするとき、一般に、追いノッチ運転を行う方が、インチング運転を行うよりも電動機への負荷が小さい。

(2)ホイールクレーンの後方安定度は、アウトリガーを設置しないで荷をつらず、主ジブ長さを最小、かつ、主ジブ角度を最大にした状態において評価する。

(3)つりクランプは、使用荷重について上限及び下限が設定されており、また、ぜい性材料、高硬度材料及び低硬度材料のつり荷に対しては使ってはならない。

(4)繊維スリングを用いた玉掛け作業において目通しつりをする場合は、できるだけ浅絞りになるようにする。

(5)チェーンスリングは、ワイヤロープと比べて耐熱性に優れているが、一度高温状態で使用した後は、その温度に応じて使用荷重を減じて使用する。

正答(4)

【解説】

(1)適切である。追いノッチもインチングも、天井クレーンの荷振れを防ぐための方法である。

追いノッチ

  ※ 厚生労働省「床上操作式クレーン運転技能講習補助教材」より

追いノッチは、次のように行う。天井クレーンを動かす(Ⅰ)ときには、荷の動きが慣性で遅れるので(Ⅱ)、動かし始めた直後に一旦停止し、荷が動き出してクレーンの直下にきたタイミング(Ⅲ)でクレーンを動かすようにする。また、停止時には停止すべき場所の手前でクレーンをいったん止め(Ⅳ)、荷が慣性で前方に触れて本来の停止位置まで進んだタイミング(Ⅴ)で、荷が振れた位置までクレーンを動かして止める(Ⅵ)方法である。

インチングは、クレーンを動かしたり止めたりを細かく繰り返して荷振れを防止する方法である。モータは起動するときに大きなトルクを必要とするため大電流が流れ、停止時にはブレーキによる摩擦熱が発生する。インチングでは、これを繰り返すので高熱が発生し、モータへの負担が大きくなる。

なお、クレーンの運転業務に関する技能講習でも、不必要なインチングはしないように指導している(実技試験では減点の対象になる)。

(2)適切である。移動式クレーン構造規格第13条第3項に、「後方安定度は、移動式クレーンが次の状態にあるものとして計算するものとする」とし、以下の状態が示されている。そして、「主ジブ長さを最小、かつ、主ジブ角度を最大にした状態」にすると、主ジブの重心が最も後方にくるので、移動式クレーンの後方安定に関しては最も不利な状態である。

なお、本肢は同項第4号の但し書きに触れていないので、やや微妙ではある(誤りとする余地もあろう)が、(4)が明らかに誤っているので本肢は正しいと考える。

【移動式クレーン構造規格】

(後方安定度)

第13条 (第1項及び第2項略)

 前二項に規定する後方安定度は、移動式クレーンが次の状態にあるものとして計算するものとする。

 後方安定度に影響がある質量は、移動式クレーンの後方安定に関し最も不利となる状態にあること。

 荷をつっていない状態にあること。

 水平かつ堅固な面の上にあること。

 アウトリガーを有する移動式クレーンにあっては、当該アウトリガーを使用しない状態にあること。ただし、自動的にアウトリガーの張出幅を検出して、後方安定度を確保することができるよう旋回角度又はジブの傾斜角を制限する安全装置を備えている移動式クレーンにあっては、当該アウトリガーを使用した状態とすることができる。

 拡幅式のクローラを有するクローラクレーンにあっては、(以下略)

(3)適切である。つりクランプは、荷が重すぎても軽すぎても荷が外れるおそれがある。また、荷が極端に硬いとクランプが滑りやすく、一方、脆性が弱い荷では荷の表面が破壊されて荷が落下する危険がある。

なお、つりクランプの作業については、日本クレーン協会から「玉掛け用クランプの作業マニュアル」(JCAS9061-95)が公表されている。

(4)適切ではない。繊維スリングは、浅絞りにした方がスリングに力はかからないが、すべりやすいため荷が外れるおそれがあるので、一般には深絞りをする。玉掛の技能講習でも、そのように指導している。

なお、ワイヤロープでシャックルを用いて、単体の荷の玉掛けをする場合は、ワイヤロープが変形することがあるので、ワイヤロープのメーカーはあだ巻きにして浅絞りとすることを推奨している。もっとも、円柱形の荷をつるときに、同一方向にワイヤロープを巻いてシャックルを用いて2点づりをする場合は、つっているときに深絞りになってしまうので、最初から深絞りにした方がよい。

(5)適切である。チェーンスリングの場合は、高温で使用すると焼き戻しが行われたようになるなど、以下のような問題がある(※)ので、その後は使用荷重を減じて用いる。

※ 以下、大洋製器工業(株)「アツアツでどこまで耐えられるんだ!」を参考にした。

  • 高温脆性/硬度低下
  • 炭化物の析出による脆性
  • 熱衝撃(冷却・膨張)の繰り返しによる疲労破壊

なお、減率の例が(一社)日本クレーン協会「玉掛用つりチェーンの種類と取扱方法」に掲載されている。ただし、減率は製作したメーカによって異なっているので、実際の取扱いに当たっては各メーカのマニュアルに従って使用するべきである。

2018年10月27日執筆 2021年12月04日最終修正