労働安全コンサルタント試験 2016年 産業安全関係法令 問15

労働安全衛生法令上違反となる事項




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 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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本問が最後の問題です
2016年度(平成28年度) 問15 難易度 労働安全衛生法全体に関する知識問題である。確実に正答できなければならない問題である。
安衛法全般

問15 常時 200 人の労働者を使用する造船業の事業場から、労働安全コンサルタントに安全診断の依頼があり、安全診断を行った結果、当該事業場において事業者が講じている措置は次のとおりであった。これらの措置のうち、労働安全衛生法令上、違反となるものは次のうちどれか。

なお、この事業場では、造船業の仕事の一部を請負人(労働者数 150 人)に請け負わせている。

(1)構内の工場に設置している1基の天井クレーン(つり上げ荷重 20 トン)については、使用していない間は月1回の定期自主検査を行っていなかったが、使用を再開する際には、当該定期自主検査と同じ事項について自主検査を行っていた。

(2)構内の工場には、動力プレスが6台、シャーが7台設置されており、動力プレスによる作業では作業主任者を選任していたが、シャーによる作業では作業主任者を選任していなかった。

(3)船舶の修理のために船倉で交流アーク溶接機を用いて溶接作業を行う場合、作業を開始するときに作業箇所及びその周辺における引火性の物の蒸気又は可燃性ガスの濃度の測定を行っていたが、その濃度が低いときは、作業中の濃度の測定は行っていなかった。

(4)新たに職務に就くこととなった職長に対しては法定の事項について教育を行っていたが、その一部について十分な知識及び技能を有すると認められる者については、当該部分の教育を省略していた。

(5)造船所内では当該事業場の労働者と請負人の労働者が混在して作業を行っていることから統括安全衛生責任者を選任していたが、総括安全衛生管理者は選任していなかった。

正答(3)

【解説】

(1)違反とはならない。定期自主検査について、クレーン等安全規則第 35 条第1項但し書き及び第2項の規定により、本肢は違反とはならない。

なお、ここにいうクレーンはクレーン則第3条により「つり上げ荷重が3トン以上(スタッカー式クレーンにあつては、1トン以上)のクレーン」に限られている。

【労働安全衛生法】

(定期自主検査)

第45条 事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない。

2~4 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(特定機械等)

第12条 (柱書 略)

一~三 (略)

 つり上げ荷重が3トン以上の移動式クレーン

五~八 (略)

 (略)

(定期に自主検査を行うべき機械等)

第15条 法第45条第1項の政令で定める機械等は、次のとおりとする。

 第12条第1項各号に掲げる機械等、第13条第3項第五号、第六号、第八号、第九号、第十四号から第十九号まで及び第三十号から第三十四号までに掲げる機械等、第十四条第二号から第四号までに掲げる機械等並びに前条第十号及び第十一号に掲げる機械等

二~十一 (略)

 (略)

【クレーン等安全規則】

第35条 事業者は、クレーンについて、1月以内ごとに1回、定期に、次の事項について自主検査を行なわなければならない。ただし、1月をこえる期間使用しないクレーンの当該使用しない期間においては、この限りでない。

 巻過防止装置その他の安全装置、過負荷警報装置その他の警報装置、ブレーキ及びクラツチの異常の有無

 ワイヤロープ及びつりチエーンの損傷の有無

 フツク、グラブバケツト等のつり具の損傷の有無

 配線、集電装置、配電盤、開閉器及びコントローラーの異常の有無

 ケーブルクレーンにあつては、メインロープ、レールロープ及びガイロープを緊結している部分の異常の有無並びにウインチの据付けの状態

 事業者は、前項ただし書のクレーンについては、その使用を再び開始する際に、同項各号に掲げる事項について自主検査を行なわなければならない。

(2)違反とはならない。作業主任者の選任の必要な業務を定める安衛令第6条は、第7号に「動力により駆動されるプレス機械を五台以上有する事業場において行う当該機械による作業」が定められているが、シャー(せん断機)については同条に定めがない。従って本肢は違反とはならない。

【コラム:プレス作業主任者選任規定の不思議】

なぜ、シャーには義務付けられなかったのか

法令の策定にあたって、プレスによる作業に作業主任者の選任が必要で、シャーによる作業に必要でないこととした経緯はよく分からない。プレスもシャーも安全という観点からみれば、似たような機械である。おそらく、シャーはプレスほど国内の稼働台数が少ないため、負傷者数もプレスによるものに比して少なかったために規制がかからなかったものであろう。

プレスが5台以上と4台以下で、必要性が異なる?

また、事業場でプレスが5台以上の場合のみ作業者主任者が必要とした理由もよく分からない。作業主任者とは、作業を行う都度、選任しなければならないものである。ある1台のプレスを用いて作業を行うときに、工場内のどこか他の場所にプレスが3台あっても選任の必要はないが、4台あれば必要というのも不思議な話である。

おそらく、プレスが5台以上の場合にのみ作業主任者の選任が必要としたのは、中小規模事業場には資金力や人材が不足しがちであることに配慮したのだろう。

【労働安全衛生法】

(作業主任者)

第14条 事業者は、高圧室内作業その他の労働災害を防止するための管理を必要とする作業で、政令で定めるものについては、都道府県労働局長の免許を受けた者又は都道府県労働局長の登録を受けた者が行う技能講習を修了した者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、当該作業の区分に応じて、作業主任者を選任し、その者に当該作業に従事する労働者の指揮その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。

【労働安全衛生法施行令】

(作業主任者を選任すべき作業)

第6条 法第14条の政令で定める作業は、次のとおりとする。

一~六 (略)

 動力により駆動されるプレス機械を5台以上有する事業場において行う当該機械による作業

八~二十三 (略)

(3)違反となる。安衛則第 328 条の3は「事業者は、船舶の改造、修理、清掃等を行う場合に、船倉等当該船舶の内部又はこれに接する場所において、火花若しくはアークを発し、若しくは高温となって点火源となるおそれのある機械等又は火気を使用する作業を行うときは、当該作業を開始するとき及び当該作業中随時、作業箇所及びその周辺における引火性の物の蒸気又は可燃性ガスの濃度を測定しなければならない」とする。

本肢の交流アーク溶接機が、本条のアークを発するものに該当することはいうまでもない。そして、本条は「当該作業中随時」、引火性の物の蒸気又は可燃性ガスの濃度を測定しなければならないとする。「濃度が低いときは、作業中の濃度の測定は」行わなくともよいとは定められていない。

船舶は、狭隘で換気がされにくく、しかも改造、修理、清掃等をするときは、様々な業者が一斉に入り込んで、様々な作業を行い、有機溶剤などを使用することも多い。連絡調整が行き届かないことも現実として起こり得るし、有機溶剤を用いて洗浄や塗装の作業を行うと気中濃度が高くなりやすいのである。

現実に、アーク溶接の作業を開始した時にはいなかった他の業者が、作業中に近くの場所で塗装業務を始めて、有機溶剤の気中濃度が上がったりすることも考えられる。そのため、船舶の修理作業などでアーク溶接を使用するときは、随時、引火性の物の蒸気又は可燃性ガスの濃度を測定していないと危険なのである。

【労働安全衛生規則】

(船舶の改造等)

第328条の3 事業者は、船舶の改造、修理、清掃等を行う場合に、船倉等当該船舶の内部又はこれに接する場所において、火花若しくはアークを発し、若しくは高温となつて点火源となるおそれのある機械等又は火気を使用する作業を行うときは、当該作業を開始するとき及び当該作業中随時、作業箇所及びその周辺における引火性の物の蒸気又は可燃性ガスの濃度を測定しなければならない。

(4)違反とはならない。安衛法第 60 条は、「事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなった職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない」とする。

そして、本条の「厚生労働省令で定めるところ」は安衛則の第 40 条に定めるが、同条第3項には「事業者は、前項の表の上欄に掲げる事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、当該事項に関する教育を省略することができる」とある。従って本肢は違反とはならない。

おそらく立法時には、十分な知識を有する者に、形式的に教育を行ってもあまり意味はないと考えられたものであろう。

なお、どのような者が十分な知識を有するかについては、平成25年6月14日基安安発0614第1号によれば、「一般的には、事業者が職長教育を行おうとする労働者に対して行われた教育事項及びその時間と、則第 40 条第2項に定める教育事項及びその時間とを比較した上で、当該労働者が十分な知識及び技能を有しているものと認められた事項に関する教育を省略できることとしている」とされている。

ある労働者が、十分な知識を有するといえるためには、その者が過去に職長教育の内容を包含する、より高度な教育を過去に受けていることが必要ということであろう。事業者の独自の判断で省略するべきものではないことは念頭に置いておいた方がよい。

【労働安全衛生法】

第60条 事業者は、その事業場の業種が政令で定めるものに該当するときは、新たに職務につくこととなつた職長その他の作業中の労働者を直接指導又は監督する者(作業主任者を除く。)に対し、次の事項について、厚生労働省令で定めるところにより、安全又は衛生のための教育を行なわなければならない。

一~三 (略)

【労働安全衛生規則】

(職長等の教育)

第40条 (第1項及び第2項 略)

 事業者は、前項の表の上欄に掲げる事項の全部又は一部について十分な知識及び技能を有していると認められる者については、当該事項に関する教育を省略することができる。

(5)違反とはならない。以下により本肢は違反とはならない。

ア 統括安全衛生責任者

統括安全衛生責任者は選任していたというのであるから、義務の有無にかかわらず違反になることはない。

なお、安衛法第 15 条は「事業者で、一の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が2以上あるため、その者が2以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)のうち、建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)は、その労働者及びその請負人(元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によって行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。以下「関係請負人」という。)の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによって生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、第 30 条第1項各号の事項を統括管理させなければならない。ただし、これらの労働者の数が政令で定める数未満であるときは、この限りでない」とされる。そして、ここにいう、特定事業とは建設業及び造船業(安衛令第7条第1項)であり、政令で定める数とは、造船業の場合は50名(同第2項)である。

本肢は、その労働者及びその関係請負人で当該場所において作業を行う労働者の数は明記していないが、50 人以上であれば、選任しなければならない。

イ 総括安全衛生管理者

安衛法第 10 条第1項は「業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない」とする。

ここに政令で定める規模は安衛令第2条に定めてあり、製造業(造船業も製造業である)については、常時雇用する労働者の数が300人以上の事業場である。なお、この人数は、当該場所において作業を行う労働者の数ではないことに注意する必要がある。

本肢の場合、常時雇用する労働者の数は 200 名であるから、選任していなくとも違反にはならない。

【労働安全衛生法】

(総括安全衛生管理者)

第10条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、厚生労働省令で定めるところにより、総括安全衛生管理者を選任し、その者に安全管理者、衛生管理者又は第25条の2第2項の規定により技術的事項を管理する者の指揮をさせるとともに、次の業務を統括管理させなければならない。

一~五 (略)

2及び3 (略)

(統括安全衛生責任者)

第15条 事業者で、1の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が2以上あるため、その者が2以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)のうち、建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)は、その労働者及びその請負人(元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。以下「関係請負人」という。)の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、第30条第1項各号の事項を統括管理させなければならない。ただし、これらの労働者の数が政令で定める数未満であるときは、この限りでない。

2~5 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(総括安全衛生管理者を選任すべき事業場)

第2条 労働安全衛生法(以下「法」という。)第10条第1項の政令で定める規模の事業場は、次の各号に掲げる業種の区分に応じ、常時当該各号に掲げる数以上の労働者を使用する事業場とする。

 (略)

 製造業(物の加工業を含む。)、電気業、ガス業、熱供給業、水道業、通信業、各種商品卸売業、家具・建具・じゆう器等卸売業、各種商品小売業、家具・建具・じゆう器小売業、燃料小売業、旅館業、ゴルフ場業、自動車整備業及び機械修理業 300人

 (略)

(統括安全衛生責任者を選任すべき業種等)

第7条 法第15条第1項の政令で定める業種は、造船業とする。

 法第15条第1項ただし書及び第3項の政令で定める労働者の数は、次の各号に掲げる仕事の区分に応じ、当該各号に定める数とする。

 ずい道等の建設の仕事、橋梁の建設の仕事(作業場所が狭いこと等により安全な作業の遂行が損なわれるおそれのある場所として厚生労働省令で定める場所において行われるものに限る。)又は圧気工法による作業を行う仕事 常時30人

 前号に掲げる仕事以外の仕事 常時50人

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