問10 特定機械等である移動式クレーンによる労働災害を防止するため事業者が講ずべき措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。
(1)移動式クレーンを用いて作業を行うときは、移動式クレーンの転倒等による労働者の危険を防止するため、あらかじめ、当該作業に係る場所の広さ、地形及び地質の状態、運搬しようとする荷の重量、使用する移動式クレーンの種類及び能力等を考慮して、作業の方法、転倒を防止するための方法並びに作業に係る労働者の配置及び指揮の系統について定めなければならない。
(2)移動式クレーンを用いて作業を行うときは、移動式クレーンの運転者及び玉掛けをする者が当該移動式クレーンの最大作業半径を常時知ることができるよう、表示その他の措置を講じなければならない。
(3)移動式クレーンについては、移動式クレーン明細書に記載されているジブの傾斜角の範囲をこえて使用してはならない。
(4)移動式クレーンに係る作業を行うときは、当該移動式クレーンの上部旋回体と接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない。
(5)移動式クレーンを用いて荷をつり上げるときは、外れ止め装置を使用しなければならない。

このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2016年度(平成28年度) | 問10 | 難易度 | 移動式クレーンに関する基本的な知識問題。頻出事項でもあり、確実に正答できなければならない。 |
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移動式クレーン | 3 |
問10 特定機械等である移動式クレーンによる労働災害を防止するため事業者が講ずべき措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。
(1)移動式クレーンを用いて作業を行うときは、移動式クレーンの転倒等による労働者の危険を防止するため、あらかじめ、当該作業に係る場所の広さ、地形及び地質の状態、運搬しようとする荷の重量、使用する移動式クレーンの種類及び能力等を考慮して、作業の方法、転倒を防止するための方法並びに作業に係る労働者の配置及び指揮の系統について定めなければならない。
(2)移動式クレーンを用いて作業を行うときは、移動式クレーンの運転者及び玉掛けをする者が当該移動式クレーンの最大作業半径を常時知ることができるよう、表示その他の措置を講じなければならない。
(3)移動式クレーンについては、移動式クレーン明細書に記載されているジブの傾斜角の範囲をこえて使用してはならない。
(4)移動式クレーンに係る作業を行うときは、当該移動式クレーンの上部旋回体と接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない。
(5)移動式クレーンを用いて荷をつり上げるときは、外れ止め装置を使用しなければならない。
正答(2)
【解説】
(1)正しい。クレーン等安全規則(以下「クレーン則」という。)第 66 条の2第1項に、移動式クレーンについて本肢に記載されているのと同様なことについて作業方法を定めるように規定されている。
【クレーン等安全規則】
(作業の方法等の決定等)
第66条の2 事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、移動式クレーンの転倒等による労働者の危険を防止するため、あらかじめ、当該作業に係る場所の広さ、地形及び地質の状態、運搬しようとする荷の重量、使用する移動式クレーンの種類及び能力等を考慮して、次の事項を定めなければならない。
一 移動式クレーンによる作業の方法
二 移動式クレーンの転倒を防止するための方法
三 移動式クレーンによる作業に係る労働者の配置及び指揮の系統
2 (略)
(2)誤り。このような規定はない。
ある質量の荷をつるときの最大作業半径を求める方法は、その荷の質量につり具の質量を加えた荷重を計算し、その荷重をつることができる最大の作業半径を、定格総荷重表を用いて求める。そのようなことは、作業が始まる前に行った上で、作業に必要な荷を作業に必要な範囲でつることができるように、十分な性能の移動式クレーンを選定・準備しておくべきであろう。
最大作業半径を、作業中に玉掛けをする者が常時知ることができるように、表示したとしてもあまり意味があるとは思えない。
(3)正しい。クレーン則第 70 条に「事業者は、移動式クレーンについては、移動式クレーン明細書に記載されているジブの傾斜角(つり上げ荷重が3トン未満の移動式クレーンにあっては、これを製造した者が指定したジブの傾斜角)の範囲をこえて使用してはならない」とある。
なお、本問は問題文の中で特定機械と断ってあるので、吊り上げ荷重は3トン以上であり、カッコ書きの適用はない。
【労働安全衛生法】
(製造の許可)
第37条 特に危険な作業を必要とする機械等として別表第一に掲げるもので、政令で定めるもの(以下「特定機械等」という。)を製造しようとする者は、厚生労働省令で定めるところにより、あらかじめ、都道府県労働局長の許可を受けなければならない。
2 (略)
別表第一 (第三十七条関係)
一~三 (略)
四 移動式クレーン
五~八 (略)
【労働安全衛生法施行令】
(特定機械等)
第12条 法第37条第1項の政令で定める機械等は、次に掲げる機械等(本邦の地域内で使用されないことが明らかな場合を除く。)とする。
一~三 (略)
四 つり上げ荷重が3トン以上の移動式クレーン
五~八 (略)
2 (略)
【クレーン等安全規則】
(傾斜角の制限)
第70条 事業者は、移動式クレーンについては、移動式クレーン明細書に記載されているジブの傾斜角(つり上げ荷重が3トン未満の移動式クレーンにあつては、これを製造した者が指定したジブの傾斜角)の範囲をこえて使用してはならない。
(4)正しい。クレーン則第74条に「事業者は、移動式クレーンに係る作業を行うときは、当該移動式クレーンの上部旋回体と接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない」とある。
【クレーン等安全規則】
(立入禁止)
第74条 事業者は、移動式クレーンに係る作業を行うときは、当該移動式クレーンの上部旋回体と接触することにより労働者に危険が生ずるおそれのある箇所に労働者を立ち入らせてはならない。
※ クレーン則第 74 条は、2025 年4月1日以降、次のように改正される。
(立入禁止)
第74条 事業者は、移動式クレーンに係る作業を行うときは、当該作業場において作業に従事する者が当該移動式クレーンの上部旋回体と接触することにより危険が生ずるおそれのある箇所に立ち入ることについて、禁止する旨を見やすい箇所に表示することその他の方法により禁止しなければならない。
(5)正しい。クレーン則第 66 条の3に「事業者は、移動式クレーンを用いて荷をつり上げるときは、外れ止め装置を使用しなければならない」とある。
なお、本条の外れ止め装置とは、同規則第 20 条の2にあるように、玉掛け用ワイヤロープ等がフツクから外れることを防止するための装置である。そして、移動式クレーンのフックには必ず外れ止め装置が具備されている(※)。
※ クレーン構造規格第32条及び移動式クレーン構造規格第32条は、共に「フックは、玉掛け用ワイヤロープ等が当該フックから外れることを防止するための装置を備えるものでなければならない」と規定している。
しかし、クレーン構造規格第 32 条には例外規定があるが、移動式クレーン構造規格には第 32 条には例外規定がないのである。
【クレーン等安全規則】
(外れ止め装置の使用)
第20条の2 事業者は、玉掛け用ワイヤロープ等がフツクから外れることを防止するための装置(以下「外れ止め装置」という。)を具備するクレーンを用いて荷をつり上げるときは、当該外れ止め装置を使用しなければならない。
(外れ止め装置の使用)
第66条の3 事業者は、移動式クレーンを用いて荷をつり上げるときは、外れ止め装置を使用しなければならない。
【移動式クレーン構造規格】
(外れ止め装置)
第32条 フックは、玉掛け用ワイヤロープ等が当該フックから外れることを防止するための装置を備えるものでなければならない。
【クレーン構造規格】
(外れ止め装置)
第32条 フックは、玉掛け用ワイヤロープ等が当該フックから外れることを防止するための装置を備えるものでなければならない。ただし、特定の荷をつるために使用するフックその他のフックで、玉掛け用ワイヤロープ等が当該フックから外れるおそれがないものについては、この限りでない。