労働安全コンサルタント試験 2016年 産業安全関係法令 問02

建設業における安全衛生管理体制




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 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問02 難易度 重層下請け構造における安全衛生管理体制は基本中の基本。本問は正答できる必要がある。
労働安全衛生管理体制

問2 建設業における安全衛生管理体制に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。

(1)都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、統括安全衛生責任者の業務の執行について、当該統括安全衛生責任者を選任した事業者に勧告することができる。

(2)建設業の仕事の発注者で特定元方事業者以外のものは、一の場所において行われる当該仕事を2以上の請負人に請け負わせている場合において、当該場所において当該仕事に係る2以上の請負人の労働者が作業を行うときは、当該仕事を自ら行う請負人のうちから、特定元方事業者の講ずべき措置を講ずべき者1人をあらかじめ同意を得て指名しなければならない。

(3)元方安全衛生管理者を選任すべき事業者による元方安全衛生管理者の選任は、その事業場に専属の者を選任して行わなければならない。

(4)安全衛生責任者を選任すべき事業者は、その仕事を行う場所において、店社安全衛生管理者の職務を行う者を選任し、店社安全衛生管理者にその職務を行わせているときは、当該場所において安全衛生責任者を選任しているものとみなされる。

(5)安全衛生責任者を選任すべき請負人は、選任した安全衛生責任者に対し、当該請負人がその労働者の作業の実施に関して作成する計画と特定元方事業者が作成する仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画との整合性の確保を図るための統括安全衛生責任者との調整を行わせなければならない。

正答(4)

【解説】

(1)正しい。安衛法第 10 条第3項は「都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができる」とされている。そして、同法第 15 条第5項は、統括安全衛生管理者についてこれを準用している。条文そのままの問題である。

【労働安全衛生法】

(総括安全衛生管理者)

第10条 (第1項及び第2項 略)

 都道府県労働局長は、労働災害を防止するため必要があると認めるときは、総括安全衛生管理者の業務の執行について事業者に勧告することができる。

(統括安全衛生責任者)

第15条 (第1項~第4項 略)

 第10条第3項の規定は、統括安全衛生責任者の業務の執行について準用する。この場合において、同項中「事業者」とあるのは、「当該統括安全衛生責任者を選任した事業者」と読み替えるものとする。

(2)正しい。安衛法第 30 条第2項は、「特定事業の仕事の発注者(注文者のうち、その仕事を他の者から請け負わないで注文している者をいう。以下同じ。)で、特定元方事業者以外のものは、1の場所において行なわれる特定事業の仕事を2以上の請負人に請け負わせている場合において、当該場所において当該仕事に係る2以上の請負人の労働者が作業を行なうときは、厚生労働省令で定めるところにより、請負人で当該仕事を自ら行なう事業者であるもののうちから、前項に規定する措置を講ずべき者として1人を指名しなければならない」とされている。

ここに、条文の冒頭の「特定事業」とは、安衛法第 15 条第1項で「建設業その他政令で定める業種(安衛令第7条により造船業=本問では考慮する必要なし)に属する事業」とされている。

そして、安衛則第 643 条第1項は、「法第 30 条第2項の規定による指名は、次の者について、あらかじめその者の同意を得て行わなければならない」とある。

【労働安全衛生法】

(統括安全衛生責任者)

第15条 (前略)建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)(後略)

2~5 (略)

(特定元方事業者等の講ずべき措置)

第30条 (第1項 略)

 特定事業の仕事の発注者(注文者のうち、その仕事を他の者から請け負わないで注文している者をいう。以下同じ。)で、特定元方事業者以外のものは、1の場所において行なわれる特定事業の仕事を2以上の請負人に請け負わせている場合において、当該場所において当該仕事に係る2以上の請負人の労働者が作業を行なうときは、厚生労働省令で定めるところにより、請負人で当該仕事を自ら行なう事業者であるもののうちから、前項に規定する措置を講ずべき者として1人を指名しなければならない。1の場所において行なわれる特定事業の仕事の全部を請け負つた者で、特定元方事業者以外のもののうち、当該仕事を2以上の請負人に請け負わせている者についても、同様とする。

3及び4 (略)

【労働安全衛生規則】

(特定元方事業者の指名)

第643条 法第30条第2項の規定による指名は、次の者について、あらかじめその者の同意を得て行わなければならない。

一及び二 (略)

 (略)

(3)正しい。安衛則第 18 条の3は「法第 15 条の2第1項の規定による元方安全衛生管理者の選任は、その事業場に専属の者を選任して行わなければならない」とされている。これも条文そのままの問題である。

【労働安全衛生法】

(元方安全衛生管理者)

第15条の2 前条第1項又は第3項の規定により統括安全衛生責任者を選任した事業者で、建設業その他政令で定める業種に属する事業を行うものは、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、元方安全衛生管理者を選任し、その者に第30条第1項各号の事項のうち技術的事項を管理させなければならない。

 (略)

【労働安全衛生規則】

(元方安全衛生管理者の選任)

第18条の3 法第15条の2第1項の規定による元方安全衛生管理者の選任は、その事業場に専属の者を選任して行わなければならない。

(4)誤り。安全衛生責任者は、安衛法第 16 条の規定により「第 15 条第1項又は第3項の場合において、これらの規定により統括安全衛生責任者を選任すべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うものは、安全衛生責任者を選任し、その者に統括安全衛生責任者との連絡その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない」とされている。

すなわち、以下の①又は②の場合に、統括安全衛生管理者の選任の義務のない請負人に対して、選任が義務付けられているものである。

 安衛法第 15 条第1項の場合(特定元方事業者が、統括安全衛生責任者を選任しなければならない場合)

  具体的には、建設業又は造船業の事業者が、1の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせている場合で、その労働者及び関係請負人の労働者が当該場所において作業を行うとき。ただし、労働者数が安衛令第7条で定める数未満である場合は除かれている。

 安衛法第 15 条第3項の場合(安衛法第 30 条第4項の規定による指名が行われた場合)

  具体的には、特定事業の仕事の発注者で、特定元方事業者以外のものが、1の場所において行なわれる特定事業の仕事を2以上の請負人に請け負わせている場合で当該場所において当該仕事に係る2以上の請負人の労働者が作業を行なうときなど。

一方、店社安全衛生管理者とは、安衛法第15条の3によって、以下の場合に義務付けられるものである。

 建設業の元方事業者が、その労働者及び関係請負人の労働者に対して一の場所において作業を行わせる場合。ただし、労働者の数が厚生労働省令で定める数未満である場所及び統括安全衛生責任者を選任しなければならない場所は除かれている。

 安衛法第 30 条第4項の規定による指名が行われた場合であって、すべての労働者の数が厚生労働省令で定める数以上であるとき。ただし、統括安全衛生責任者を選任しなければならない場所は除かれている。

店社安全衛生管理者の職務を行う者を選任し、店社安全衛生管理者にその職務を行わせているときは、当該場所において安全衛生責任者を選任しているものとみなされるなどという規定はない。従って本肢は誤っている。

そもそも、責任者とはある事項が行われていることについて最終的に責任を負うべきものであり、管理者とはある責任者の指揮命令下にあってある事項を実際に担当するものである。ここでは、安全衛生責任者は、その下請けである事業者の責任者として、統括安全衛生責任者との連絡調整等に当たる役割を有している(※)

※ 安衛則第 12 条の6の保護具着用管理責任者は、責任者という名称だが、実質は管理者というべきであろう。

そのため、管理者には一定の資格要件があることが多いが、責任者にはそのような要件はない。この2つに代替関係があることなど。あり得ないことである。

【労働安全衛生法】

(統括安全衛生責任者)

第15条 事業者で、1の場所において行う事業の仕事の一部を請負人に請け負わせているもの(当該事業の仕事の一部を請け負わせる契約が2以上あるため、その者が2以上あることとなるときは、当該請負契約のうちの最も先次の請負契約における注文者とする。以下「元方事業者」という。)のうち、建設業その他政令で定める業種に属する事業(以下「特定事業」という。)を行う者(以下「特定元方事業者」という。)は、その労働者及びその請負人(元方事業者の当該事業の仕事が数次の請負契約によつて行われるときは、当該請負人の請負契約の後次のすべての請負契約の当事者である請負人を含む。以下「関係請負人」という。)の労働者が当該場所において作業を行うときは、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、第三十条第一項各号の事項を統括管理させなければならない。ただし、これらの労働者の数が政令で定める数未満であるときは、この限りでない。

 (略)

 第30条第4項の場合において、同項のすべての労働者の数が政令で定める数以上であるときは、当該指名された事業者は、これらの労働者に関し、これらの労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、統括安全衛生責任者を選任し、その者に元方安全衛生管理者の指揮をさせるとともに、同条第1項各号の事項を統括管理させなければならない。この場合においては、当該指名された事業者及び当該指名された事業者以外の事業者については、第1項の規定は、適用しない。

4及び5 (略)

(店社安全衛生管理者)

第15条の3 建設業に属する事業の元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者が1の場所(これらの労働者の数が厚生労働省令で定める数未満である場所及び第15条第1項又は第3項の規定により統括安全衛生責任者を選任しなければならない場所を除く。)において作業を行うときは、当該場所において行われる仕事に係る請負契約を締結している事業場ごとに、これらの労働者の作業が同一の場所で行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、店社安全衛生管理者を選任し、その者に、当該事業場で締結している当該請負契約に係る仕事を行う場所における第30条第1項各号の事項を担当する者に対する指導その他厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。

 第30条第4項の場合において、同項のすべての労働者の数が厚生労働省令で定める数以上であるとき(第15条第1項又は第3項の規定により統括安全衛生責任者を選任しなければならないときを除く。)は、当該指名された事業者で建設業に属する事業の仕事を行うものは、当該場所において行われる仕事に係る請負契約を締結している事業場ごとに、これらの労働者に関し、これらの労働者の作業が同一の場所で行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、厚生労働省令で定める資格を有する者のうちから、厚生労働省令で定めるところにより、店社安全衛生管理者を選任し、その者に、当該事業場で締結している当該請負契約に係る仕事を行う場所における第30条第1項各号の事項を担当する者に対する指導その他厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。この場合においては、当該指名された事業者及び当該指名された事業者以外の事業者については、前項の規定は適用しない。

(安全衛生責任者)

第16条 第15条第1項又は第3項の場合において、これらの規定により統括安全衛生責任者を選任すべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うものは、安全衛生責任者を選任し、その者に統括安全衛生責任者との連絡その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。

 (略)

(5)正しい。安衛則第 19 条第四号は、安全衛生責任者の職務として「当該請負人がその労働者の作業の実施に関し計画を作成する場合における当該計画と特定元方事業者が作成する法第 30 条第1項第5号の計画との整合性の確保を図るための統括安全衛生責任者との調整」を挙げる。ここに法第 30 条第1項第五号の計画とは、「仕事を行う場所が仕事ごとに異なることを常態とする業種で、厚生労働省令で定めるものに属する事業を行う特定元方事業者にあっては、仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画」をいう。そして、仕事を行う場所が仕事ごとに異なることを常態とする業種で、厚生労働省令で定めるものとは、安衛則第 638 条の2により、建設業とされている。

従って、事業者は、安全衛生責任者に対して、以下の3つの計画の整合性の確保を図るための統括安全衛生責任者との調整を行わせなければならない。本肢は正しい。

① 請負人がその労働者の作業の実施に関して作成する計画

② 建設業に属する事業を行う特定元方事業者の仕事の工程に関する計画

③ 建設業に属する事業を行う特定元方事業者の作業場所における機械、設備等の配置に関する計画

【労働安全衛生法】

(安全衛生責任者)

第16条 第15条第1項又は第3項の場合において、これらの規定により統括安全衛生責任者を選任すべき事業者以外の請負人で、当該仕事を自ら行うものは、安全衛生責任者を選任し、その者に統括安全衛生責任者との連絡その他の厚生労働省令で定める事項を行わせなければならない。

 (略)

(特定元方事業者等の講ずべき措置)

第30条 特定元方事業者は、その労働者及び関係請負人の労働者の作業が同一の場所において行われることによつて生ずる労働災害を防止するため、次の事項に関する必要な措置を講じなければならない。

一~四 (略)

 仕事を行う場所が仕事ごとに異なることを常態とする業種で、厚生労働省令で定めるものに属する事業を行う特定元方事業者にあつては、仕事の工程に関する計画及び作業場所における機械、設備等の配置に関する計画を作成するとともに、当該機械、設備等を使用する作業に関し関係請負人がこの法律又はこれに基づく命令の規定に基づき講ずべき措置についての指導を行うこと。

 (略)

2~4 (略)

【労働安全衛生規則】

(安全衛生責任者の職務)

第19条 法第16条第1項の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。

一~三 (略)

 当該請負人がその労働者の作業の実施に関し計画を作成する場合における当該計画と特定元方事業者が作成する法第30条第1項第五号の計画との整合性の確保を図るための統括安全衛生責任者との調整

五及び六 (略)

(法第三十条第一項第五号の厚生労働省令で定める業種)

第638条の2 法第30条第1項第五号の厚生労働省令で定める業種は、建設業とする。

2017年12月24日執筆 2024年11月29日最終改訂