労働安全コンサルタント試験 2016年 産業安全一般 問25

災害の調査及び原因の分析の技法




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 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問25 難易度 災害統計分析の技法に関する高度な知識問題である。難問だったと思われる。
災害統計分析の技法

問25 労働災害の調査及び原因の分析などに用いる技法に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)FTA(Fault tree analysis)は、所与の好ましくない事象を頂上事象として、演繹的に頂上事象が起こる全ての筋道を洗い出すための分析技法であり、その筋道は、論理的な樹形図で示す。

(2)ETA(Event tree analysis)では、帰納的推理によって、様々な起因事象を可能性のある結果に導く道筋を事象の木と呼ばれる樹形図で示す。

(3)FMEA(Failure mode and effect analysis)は、コンポーネント、システムなどを対象として、故障モード、故障のメカニズム、その影響などを明らかにする分析技法である。

(4)HAZOP(Hazard and operability)スタディーズは、予想又は所定の性能からの考えられる逸脱をチェックリストで特定して、事故や労働災害のリスクを演繹的推論法で特定する定量的技法である。

(5)予備的ハザード分析(Preliminary hazard analysis)は、簡易な帰納的分析法であり、危険な状態、システムに危害を引き起こす可能性のある事象などを明らかにする技法である。

正答(4)

【解説】

本問のFTAとETAについては松岡俊介「プラントの安全性評価 第4回 システムの安全性解析」が参考となる。

(1)適切である。JIS Q 31010:2012によると、FTAとは「調査対象の望ましくない事象(“頂上事象”という)の原因となり得る要因を突き止め、分析するための技法である。原因となる要素は演えき(繹)的に特定し、論理的に関係付け、原因となる要素と頂上事象との論理的関係を描き出した樹形図で図示する」とされている。

なお、具体的には、次のように行う。ここで、分析は「Yes」か「No」か等の二つの状態のいずれかとして行う。

  • ① まず、事故や災害などの「望ましくない事象」を取り上げ、これを「頂上事象」として位置づける。
  • ② 次にその原因となり得る事象を洗い出して、頂上事象に関連付ける。
  • ③ ②で関連付けた原因となり得る事象について、さらにその原因となり得る事象を洗い出して、これに関連付ける。
  • ④ ③を繰り返して、これ以上解析できないところまで分析する。

(2)適切である。JIS Q 31010:2012によると、ETAとは「結果を緩和するために設計される様々なシステムの動作又は不動作に従って,起因事象に続く事象の相互排他的順序を表す図式技法である」とされている。

具体的には、FTAとは逆に、次のように分析する。そして安全装置の機能が災害発生の防止に有効に機能する(成功する)か否かの可能性は、経験則によって判断する。

  • ① まず、起こり得る故障や人的な誤りを予測する。
  • ② ①で予測した故障や人的誤りによる影響の拡大を防止するための機能を検討する。
  • ③ ②で検討した機能が成功する可能性と失敗する可能性を予測する。
  • ④ ③で②の機能が失敗した場合に、さらにその影響の拡大を防止するための機能を検討する。
  • ⑤ 以下、これを繰り返して、最終的な事故や災害が発生する確率を算定する。

(3)適切である。FMEA(故障モード影響度解析)とは、ある機械設備の部品やユニットに着目し、それらの故障モードを分析して、その故障モードが機械設備に及ぼす影響を予想することにより、事故や災害を予測する手法である。本肢は正しい。

なお、リスク優先度(RPN)は次の式で表される。

RPN = 結果の重大性 × 発生する確率 × 検知できない確率

ここで、検知できない確率は、必ずしも線形とは限らない。

(4)適切ではない。平成12年3月21日基発第149号「化学プラントにかかるセーフテイ・アセスメントに関する指針」にHAZOPについての言及がある。HAZOPについては角田浩「化学プラントのセーフティアセスメント」に分かりやすくまとめられている。これらによると、次の①~③のように説明されている。

ここで、「ずれ」の特定は専門知識を有するチームで洗い出すのであり、チェックリストで行うのではない(JIS Q 31010:2012のB.6.1参照)。

  • ① 通常状態あるいは設計・運転意図からずれる可能性を想定する。
  • ② 「ずれ」の原因となり得る制御機器の不調(故障)、あるいは人間の誤操作等を仮定する。
  • ③ その結果システムに発生し得る影響(異常)を同定する。

(5)適切である。JIS Q 31010:2012によると、予備的ハザード分析とは「簡易な帰納的分析法であり、その目的は、所定の活動、施設又はシステムで危害を引き起こす可能性のある、ハザード、危険状態及び事象を特定することである」とされている。

2018年10月27日執筆 2020年04月29日修正