問5 金属材料の硬さ、耐摩耗性又は疲労強度の向上のために行われる材料の表面処理に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)炎焼入れは、材料表面に酸素とアセチレンなどによる炎を当てて加熱した後、急冷して焼入れするもので、簡易かつ低コストであり、大きな工作物も扱うことができるが、均一加熱でないので薄板部品には不向きである。
(2)高周波焼入れは、高周波誘導電流で材料表面層を急速加熱し、その後急冷して焼入れする手法であるが、表面層の硬度の向上及び同層への圧縮残留応力の導入による疲労強度の向上の効果は、炎焼入れの場合より小さい。
(3)ショットピーニングは、鋳鋼、ガラス、セラミックスなどの小球を高速で工作物表面に繰返し吹き付けるもので、工作物表面には塑性変形による圧縮残留応力が生じ、その疲労強度は向上する。
(4)浸炭は、高温状態の鋼の表面から炭素を拡散・浸透させ、その後、焼入れすることによって、内部よりも表面層を硬化させる表面処理法であるが、処理に伴うひずみの発生を避けることが難しい。
(5)溶射は、溶融状態に加熱した溶射材料粉末を素材表面に高速度で吹き付けて保護皮膜とするもので、対象とする素材と溶射材料は金属をはじめとして広範囲で、加工による変形は小さいが、一般に皮膜と素材の密着強さは高くない。
このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2016年度(平成28年度) | 問05 | 難易度 | 金属材料の表面処理に関するやや高度な知識問題である。機械分野以外の受験生には難問だろうか。 |
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金属材料の表面処理 | 5 |
問5 金属材料の硬さ、耐摩耗性又は疲労強度の向上のために行われる材料の表面処理に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)炎焼入れは、材料表面に酸素とアセチレンなどによる炎を当てて加熱した後、急冷して焼入れするもので、簡易かつ低コストであり、大きな工作物も扱うことができるが、均一加熱でないので薄板部品には不向きである。
(2)高周波焼入れは、高周波誘導電流で材料表面層を急速加熱し、その後急冷して焼入れする手法であるが、表面層の硬度の向上及び同層への圧縮残留応力の導入による疲労強度の向上の効果は、炎焼入れの場合より小さい。
(3)ショットピーニングは、鋳鋼、ガラス、セラミックスなどの小球を高速で工作物表面に繰返し吹き付けるもので、工作物表面には塑性変形による圧縮残留応力が生じ、その疲労強度は向上する。
(4)浸炭は、高温状態の鋼の表面から炭素を拡散・浸透させ、その後、焼入れすることによって、内部よりも表面層を硬化させる表面処理法であるが、処理に伴うひずみの発生を避けることが難しい。
(5)溶射は、溶融状態に加熱した溶射材料粉末を素材表面に高速度で吹き付けて保護皮膜とするもので、対象とする素材と溶射材料は金属をはじめとして広範囲で、加工による変形は小さいが、一般に皮膜と素材の密着強さは高くない。
正答(2)
【解説】
(1)適切である。炎焼入れ(flame hardening)とは、本肢にいうように、バーナーを用いて炎を金属表面に吹き付けて行う焼き入れである。燃焼ガスとしてはアセチレンが主に用いられる。加工品の全体に炎を吹き付けるのではなく、火口や加工品を動かしながら加熱することが多い。高温になるので、融点の低い金属や薄板金属に用いることはできない。
(2)適切ではない。高周波焼入れ(induction hardening)は、高周波の電磁波により金属表面に電流を流し、そのジュール熱で焼入れを行うものである。高周波電流は表皮効果により金属表面に流れるため、表面のみに焼入れを施すことができる。
高周波焼入れでは、周波数と電流の大きさを調整することにより、処理の深さと温度を調整することができる。また、加熱速度は炎焼入れよりも大きく、表面に大きな圧縮残留応力が生じ、耐摩耗性のみならず耐疲労性も向上する。
(3)適切である。ショットピーニングとは、無数の小さな球(ショット)を高速度で金属表面にぶつけることをいう。ショットは加工される金属よりも硬く、金属の表面が加工硬化を起こす。さらに圧縮残留応力が生じるため、繰返し荷重が加わっても、圧縮残留応力によって相殺される形で作用するので、疲れ強さが増す。
(4)適切である。浸炭とは、文字通り金属表面に炭素を浸透させて高度を増す処理のことである。その方法としては、固体浸炭、ガス浸炭、液体浸炭、真空浸炭、プラズマ浸炭などがある。
通常の焼入れであってもひずみは必ず生じるが、浸炭焼入れの場合はひずみが大きくなる傾向がある。ひずみをあらかじめ予測して、焼入れ後に望む寸法になるように焼入れ前の加工品の寸法を調整できればよいが、現在ではひずみの大きさを予測することは難しいというのが現状である。
(5)適切である。日本溶射学会によれば、溶射とは「何らかの熱エネルギー源によって、皮膜となる材料を溶融あるいは半溶融状態にすると同時に、運動エネルギーを付与して高速で飛行する溶滴を作り出し、これを次々と基材表面に衝突、積層させて皮膜を形成する表面被覆プロセスである」。
加工品本体に熱を加えたり、物理的な力を加えたりするわけではないので加工品の変形量は少ない。一方、プラズマ溶射、高速フレーム溶射などでは密着性に優れた被膜を形成することができるものの、密着強さは溶射における大きな技術的課題であることは事実である。従って本肢は適切でないとは言えない。