労働安全コンサルタント試験 2016年 産業安全一般 問04

金属材料の損傷




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 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問04 難易度 金属材料の損傷に関するやや高度な知識問題である。機械分野以外の受験生には難問だろうか。
金属材料の損傷

問4 金属材料の損傷などに関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)乱流を伴う高流速の腐食性流体中で、金属が機械的な摩滅作用と腐食作用を受け、局部的に大きな損耗を生じる損傷を、エロージョン・コロージョンという。

(2)腐食は、全面腐食と局部腐食に大別されるが、全面腐食は、局部腐食と比べて腐食減量が大きいため、機械や構造部材の健全性に与える影響が大きい。

(3)応力腐食割れは、材料特性、引張応力の存在及び腐食環境の三つの因子がそろった場合に発生する。

(4)鋼では、一般に疲労限度が見られるが、アルミニウム合金などの非鉄金属は明確な疲労限度をもたない。

(5)金属材料に一定の荷重を負荷し続けるとき、時間とともに変形が進行する現象をクリープという。

正答(2)

【解説】

(1)適切である。エロージョン・コロージョンという言葉は、美浜原発の事故の説明に用いられて一般に知られるようになった。ここで、エロージョンとは浸食と訳され、機械的な作用による金属表面の損傷のことであり、コロージョンとは腐食と訳され、金属の電気化学反応による劣化のことである。

金属の表面は、とくになにもしなくても被膜が形成されて内部が保護されるものが多いが、この被膜が脆いと、本肢にあるように乱流を伴う高流速の腐食性流体にさらされた場合、被膜が部分的に破壊されたり、被膜そのものが減肉化したりして腐食加速が生じる。これをエロージョン・コロージョンという。

(2)適切ではない。ある機械設備を構成する金属部品の一部が深く腐食すれば、局所的であったとしても、重要な部分であれば、その機械設備全体の正常な動作に深刻な支障をきたす。また、局所的な腐食は肉眼で確認できないことも多く、気付かないことがある。

一方、金属の表面が全体的に(均一に)浅く腐食したとしても、機械設備の稼働にとってそれほど問題にならない。また、腐食速度を予測しやすいため、定期的な部品の交換によって対処できる。

(3)適切である。一般財団法人機械振興協会によると、応力腐食割れとは「装置、機器を組み立てるときに行われる溶接や冷間加工(室温で加工するプレス成形、曲げ等)による残留応力及び使用時にかかる外部応力により、材料に引張応力がかかりこれと特定の環境の腐食作用とによって材料に割れをもたらす現象」である。

ステンレスやアルミなどは腐食に強いが、これは表面が腐食するとその腐食によって薄い被膜ができ、その被膜がそれ以上の腐食を防ぐからである。このような合金でも以下の3つの要件がそろうと応力腐食割れが生じる。

・ 材料そのものの応力腐食割れへの感受性(純金属には発生しない)

・ 引張応力の発生(圧縮応力では生じない)

・ 環境因子の存在(液体中の酸素や塩化物イオン)

(4)適切である。疲労限度(耐久限度)とは、疲労破壊を起こさない(と考えられる)応力の値のことを言う。理論的には、これ以下の応力が、無限回に繰り返して加わっても疲労破壊は起きないことになる。機械設計において、繰り返し荷重を受ける部分の検討を行う際には重要な指標である。

一般に、降伏を示す鋼などは疲労限度が存在し、アルミニウムなど降伏を示さない材料は疲労限度が存在しない傾向がある。

なお、実務においては、ほとんどの材料で疲労破壊があり得ることに注意しなければならない。

(5)適切である。高温下で、一定温度に保持された金属において、一定荷重を加えたときに時間とともにひずみが増加する現象をクリープ(creep)という。通常の応力による変形では時間の経過によって変形量が増加することはないが、クリープ現象では時間とともに変形量が増加する。なお、プラスチックでは、常温でもクリープが発生する。

なおAT車でアクセルを踏まない状態で車がゆっくりと動く現象もクリープ(creep)というが、日常用語のクリープとは、赤ん坊や昆虫が這って進むことや、忍び足を意味する言葉である。

2018年10月27日執筆 2020年04月26日修正