労働安全コンサルタント試験 2013年 産業安全関係法令 問10

クレーン等による危険を防止する措置




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合格

 このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2013年度(平成25年度) 問10 難易度 やや引っ掛け的な問題ではあるが、基本的な知識を問う問題である。正答できなければならない。
クレーン等の災害防止

問10 クレーン等による危険を防止するため事業者が講ずべき措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。

(1)事業者は、移動式クレーンに荷をつったままで当該移動式クレーンを走行させるときは、その走行速度を5km/h以下にさせなければならない。

(2)事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、玉掛けをする者が当該移動式クレーンの定格荷重を常時知ることができるよう、表示その他の措置を講じなければならない。

(3)事業者は、クレーンに係る作業を行う場合において、ハッカーを用いて玉掛けをした荷がつり上げられているときは、つり上げられている荷の下に労働者を立ち入らせてはならない。

(4)事業者は、瞬間風速が35m/sをこえる風が吹くおそれのあるときは、建設用リフトについて、地下に設置されているものを除き、控えの数を増す等その倒壊を防止するための措置を講じなければならない。

(5)事業者は、ゴンドラの作業床において作業を行うときは、当該作業を行う労働者に要求性能墜落制止用器具その他の命綱を使用させなければならない。

正答(1)

【解説】

(1)誤り。クレーン則にこのような規定はない。なお、移動式クレーンの荷を吊ったままの走行は、昭和50年4月1日基発第218号「荷役、運搬機械の安全対策について」(第2の4の(3)のヘ)により、「原則として禁止させること」とされている。

ただし、クレーン協会は、吊り荷走行を前提とした指針(「油圧ショベル兼用屈曲ジブ式移動式クレーンのつり荷走行時の能力設定に関する指針」)を策定している。これは、作業中に現実に荷をつったままで走行することが多いという現実があるため、むしろ、それを前提として安全に作業を行う方法をガイドラインとして示す方がよいという考えにたったものである。

このため、移動式クレーンの製造業者も吊り荷走行時の定格荷重をマニュアル等に公表していることが多い。

厚生労働省は前記通達を現時点でも有効なものであるとしているが、事実上、有名無実化しているといってよい。

【荷役、運搬機械の安全対策について(昭50年4月10日基発第218号)】

  最近における労働災害は、全体として減少の傾向をたどっているが、その中においてコンベヤ、フォークリフト、ショベルローダ、移動式クレーン、ダンプトラックその他の荷役運搬機械(以下「荷役・運搬機械」という)によるものは、依然として減少をみていない状況にある。このような現状にかんがみ、これら荷役・運搬機械を使用する作業における安全確保については、この際総合的な対策を推進する必要がある。

  ついては、荷役・運搬機械を構内で使用する事業場に対する監督指導にあたっては、法令に定めるもののほか、当面下記の事項に留意のうえ、これらの機械による労働災害の防止に万全を期せられたい。

第2 個別事項

4 移動式クレーン

(3)作業方法

 荷をつって走行することは、原則として禁止させること。

(2)正しい。クレーン則第70条の2により、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、運転者及び玉掛けをする者が当該移動式クレーンの定格荷重を常時知ることができるよう、表示その他の措置を講じなければならない。

なお、定格荷重とは、移動式クレーンの構造・材料や、ジブの長さと傾斜角の変化に応じて実際につることができる荷重であり、ジブの長さや傾斜角が変化すれば、それに応じて定格荷重も変化する。定格総荷重に、フック、グラブバケット等のつり具の質量を加えると「定格総荷重」となり、定格総荷重の最大値がその移動式クレーンの「つり上げ荷重」である。

【クレーン等安全規則】

(定格荷重の表示等)

第70条の2 事業者は、移動式クレーンを用いて作業を行うときは、移動式クレーンの運転者及び玉掛けをする者が当該移動式クレーンの定格荷重を常時知ることができるよう、表示その他の措置を講じなければならない。

(3)正しい。クレーン則第74条の2(第一号)の規定により、ハッカーを用いて玉掛けをした荷がつり上げられているときは、つり上げられている荷の下に労働者を立ち入らせてはならない。

ハッカー

 ※ 厚生労働省「玉掛け技能講習補助教材」より

なお、実務においては、どのような玉掛け方法であったとしても、クレーン等でつり上げられている荷の下に労働者を立ち入らせるべきではない。

【クレーン等安全規則】

第74条の2 事業者は、移動式クレーンに係る作業を行う場合であつて、次の各号のいずれかに該当するときは、つり上げられている荷(第六号の場合にあつては、つり具を含む。)の下に労働者を立ち入らせてはならない。

 ハッカーを用いて玉掛けをした荷がつり上げられているとき。

二~六 (略)

(4)正しい。クレーン則第189条により、瞬間風速が35m/sをこえる風が吹くおそれのあるときは、建設用リフトについて、地下に設置されているものを除き、控えの数を増す等その倒壊を防止するための措置を講じなければならない。

【クレーン等安全規則】

(暴風時の措置)

第189条 事業者は、瞬間風速が毎秒三十五メートルをこえる風が吹くおそれのあるときは、建設用リフト(地下に設置されているものを除く。)について、控えの数を増す等その倒壊を防止するための措置を講じなければならない。

(5)正しい。ゴンドラ則第17条第1項の規定により、ゴンドラの作業床において作業を行うときは、当該作業を行う労働者に要求性能墜落制止用器具その他の命綱を使用させなければならない。

【ゴンドラ安全規則】

(要求性能墜落制止用器具等)

第17条 事業者は、ゴンドラの作業床において作業を行うときは、当該作業を行う労働者に要求性能墜落制止用器具(安衛則第百三十条の五第一項に規定する要求性能墜落制止用器具をいう。)その他の命綱(以下この条において「要求性能墜落制止用器具等」という。)を使用させなければならない。

2及び3 (略)

※ 本条の「要求性能墜落制止用器具」は、出題当時は「安全帯」とされていた。本問の問題文も出題時には「安全帯」とされていたが、法令が改正されたので修正している。

2021年01月23日執筆 2021年12月04日改訂