労働安全コンサルタント試験 2013年 産業安全一般 問21

熱化学計算による危険性評価




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 このページは、2013年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2013年度(平成25年度) 問21 難易度 過去に類問がない(その後の出題もない)。高校の化学レベルの問題だが、意外に難問だったようだ。
熱化学計算

問21 危険物の管理のため、ニトロメタンCH3NO2とメタンCH4の危険性評価を熱化学計算により行った。次の記述のうち、誤っているものはどれか。

ただし、ニトロメタン、メタン、水H2O及び二酸化炭素CO2の生成熟は、それぞれ27.0、17.9、57.8、94.0[kcal/mol]とする。

(1)熱化学計算では反応速度や反応の起こりやすさを予測することはできない。

(2)一般に、熱化学計算で得られる爆発熱と燃焼熱では、爆発熱の方が大きくなる。

(3)ニトロメタンの爆発熱はメタンの燃焼熱よりも小さい。

(4)燃焼熱の計算上メタン1モルから得られる二酸化炭素と、爆発熱の計算上ニトロメタン1モルから得られる二酸化炭素のモル数は異なる。

(5)メタンの燃焼熱は191.7kcal/molである。

正答(2)

【解説】

熱化学計算という用語は、あまり一般的なものではないが、化学反応による生成熱の(発生量又は吸収量の)ヘスの総熱量不変の法則(※1)を用いた計算ということである(※2)。なお、爆発熱の場合は、不完全燃焼となることを考慮する。

※1 ヘスの総熱量不変の法則(the law of constant heat summation)とは、「化学反応での反応熱は、反応前後の状態のみで決まり、反応経路によらず一定である」というものである。

ヘスの法則によって、化学反応の反応熱は、生成物(化学式の右辺)の生成熱の総和から、反応物(左辺)の生成熱の総和を減じることで算出できることになる。

※2 高校の授業でおなじみの、化学反応式に反応熱を加えた「熱化学方程式」は、2022年からは教科書からなくなり、「エンタルピーの変化」という概念が導入される。もちろん、物理化学的な現象に変化があるわけではなく、どう表すかが変わるということである。

(1)正しい。ヘスの法則によっては、その化学反応による生成熱が計算できるだけであり、反応速度や反応の起こりやすさまで予測することはできない。

(2)誤り。爆発でも燃焼でも、空気中の酸素との化学反応が完全に進んで同じ生成物ができるのであれば、ヘスの法則により生成熱は爆発熱と燃焼熱で同じになるはずである。

しかし、爆発は燃焼に比して急激に起きるため、どうしても反応が不完全になる。すなわち不完全燃焼になりやすいのである(※)。このため、熱化学計算で得られる爆発熱と燃焼熱では、一般に燃焼熱の方が大きくなる

※ 火薬類は内部に酸素を有しており、爆発のときは外部の酸素との結合は無視できる程度となる。すなわち、爆発のときは外部からの酸素と結合して「燃焼」するわけではないのである。しかし、火薬類でも通常の燃焼であれば、外部の酸素と結合する。

(3)正しい。ニトロメタンの「爆発」の化学反応式は、外部から酸素が供給されなければ、次のようになると考えられる(※)

4CH3NO2 → 4CO + 4H2O + 2H2 + 2N2

※ 熱化学方程式では、ニトロメタンの係数を1にして、すべての係数を4で割り、「→」を「=」に変えるべきだが、とりあえず通常の化学式の書き方をしている。

しかし、問題文中に一酸化炭素の生成熱が書かれていないので、通常の「燃焼」によって外部から酸素が供給されて反応が完全に進んだ場合を考えよう。その場合は、

4CH3NO2 + 3O2 → 4CO2 + 6H2O + 2N2

となる。左辺の生成熱の総和は、酸素は単体であるから生成熱は(定義により)ゼロであるから、

4 × 27.0 ≒ 108 kcal/mol

となる。右辺の生成熱の総和は、窒素は単体であるからこれもゼロであり、

4 × 94.0 + 6 × 57.8 ≒ 723 kcal/mol

となる。従って、反応が完全に進んだ場合のニトロメタン1分子当たりの生成熱は、

( 723 - 108 ) ÷ 4 ≒ 154 kcal/mol

となる。そして、(2)の解説で述べたように、爆発熱の場合はこれよりも小さくなる。

一方、メタンの燃焼の化学反応式は、

CH4 + 2O2 → CO2 + 2H2O

であるから、左辺の生成熱の総和は、与えられた数値により、

17.9 kcal/mol

となる。右辺の生成熱の総和は、

94.0 + 2 × 57.8 ≒ 209.6 kcal/mol

となる。従って、メタン1分子当たりの生成熱は、

209.6 - 17.9 ≒ 191.7 kcal/mol

となる。従って、ニトロメタンの爆発熱はメタンの燃焼熱よりも小さい。

(4)正しい。燃焼熱の計算上メタン1モルから得られる二酸化炭素と、爆発熱の計算上ニトロメタン1モルから得られる二酸化炭素のモル数を比較すると、双方の反応が完全に進むと仮定すれば、二酸化炭素の発生量は(3)で示した反応式から同じになる。

しかし、ニトロメタンの爆発では、外部から酸素が供給されず不完全燃焼によって、ほとんどが一酸化炭素となるので、二酸化炭素の量はメタンの燃焼よりも小さくなる。

(5)正しい。(3)で示した通りである。メタンの燃焼熱は191.7kcal/molとなる。

【考察】

本問は、一酸化炭素の生成熱が書かれていないために、引っ掛け問のような感じになっている。ただ、ヘスの法則だけ知っていて反応式が分からなければ、(2)で燃焼と爆発で生成熱は「同じ」はずだと考えるだろうから、結果的に(2)が誤っていると考えて「正答」できただろう。

一方、窒素酸化物の生成熱が問題文に書かれていないことと、与えられたニトロメタンの化学式から(外部の酸素の供給があると考えて)「燃焼」の反応式を推測(※)すれば、ニトロメタンもメタンも炭素原子の数は同じなのだから生成する二酸化炭素の数は同じで(4)は誤りだが、ヘスの法則から(2)も誤りで正答が二つになってしまうと考えるだろう。

※ 覚えていた受験生は、ほとんどいないだろう。

そこで、爆発と燃焼で生成物が異なるのではないかと気が付けば、(4)は正しいのではないかと考えるだろう。そうなると、(2)は燃焼熱の方が爆発熱よりも大きいのだと仮定すれば、(2)だけが誤りだとしても矛盾はないことになり、「正答」できたのではないだろうか。

難問だった割には、正答率は高かったかもしれない。

2021年01月31日執筆 2021年02月02日加筆