問14 設備や構造物の強度計算に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
(1)均質で長さ方向に一様な断面を持つ木製の足場板の曲げ強度の計算においては、板に作用する最大曲げモーメントを板の断面係数で除して最大曲げ応力を求める。
(2)H形鋼の梁のせん断強度の計算においては、梁に作用する最大せん断力をウェブ部分の断面二次モーメントで除してせん断応力を求める。
(3)ボルトで重ね継ぎされた鋼板の引張強度の計算においては、鋼板に作用する引張力をボルト穴部分を含めた鋼板の総断面積で除して引張応力を求める。
(4)上下端の回転が自由で、かつ上下端の水平変位が拘束された単管足場の建地の座屈強度の計算においては、建地に作用する圧縮力に対し、上下端間隔の2分の1を座屈長さとして座屈応力を求める。
(5)厚さの異なる鋼板の端面を完全溶込み突合せ溶接とした継手の引張強度の計算においては、継手に作用する引張力に対し、厚い方の鋼板の板厚の平均値を有効のど厚として引張応力を求める。
このページは、2012年の労働安全衛生コンサルタント試験の「産業安全一般」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
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2012年度(平成24年度) | 問14 | 難易度 | 設備・構造物の強度計算は、頻出事項である。基本的な知識で正答可能な問題である。 |
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設備や構造物の強度計算 | 3 |
問14 設備や構造物の強度計算に関する次の記述のうち、適切なものはどれか。
(1)均質で長さ方向に一様な断面を持つ木製の足場板の曲げ強度の計算においては、板に作用する最大曲げモーメントを板の断面係数で除して最大曲げ応力を求める。
(2)H形鋼の梁のせん断強度の計算においては、梁に作用する最大せん断力をウェブ部分の断面二次モーメントで除してせん断応力を求める。
(3)ボルトで重ね継ぎされた鋼板の引張強度の計算においては、鋼板に作用する引張力をボルト穴部分を含めた鋼板の総断面積で除して引張応力を求める。
(4)上下端の回転が自由で、かつ上下端の水平変位が拘束された単管足場の建地の座屈強度の計算においては、建地に作用する圧縮力に対し、上下端間隔の2分の1を座屈長さとして座屈応力を求める。
(5)厚さの異なる鋼板の端面を完全溶込み突合せ溶接とした継手の引張強度の計算においては、継手に作用する引張力に対し、厚い方の鋼板の板厚の平均値を有効のど厚として引張応力を求める。
正答(1)
【解説】
(1)適切である。 均質で長さ方向に一様な断面を持つ材料は、木製の足場板に限らず、最大曲げ応力 σmax は、曲げモーメント M を断面係数 Z で除して求めることができる。
σmax= | M |
Z |
(2)適切ではない。梁に曲げモーメントが加われば、梁には軸方向の応力とせん断応力が発生する。本肢の「せん断応力」とは文脈から「せん断応力度」のことだと思われるが、せん断応力度とは、一言でいえば、外力(せん断力)を断面積で除した値である。最大せん断力(単位はSI系で「N」)をウェブ部分の断面二次モーメント(単位はSI系で「m4」)で除してせん断応力度(単位はSI系で「N/m2」、通常は「N/mm2」を用いる)を求めることができるわけがない。
なお、せん断力(外力) Q が発生している H 形鋼(横向き)の梁の、せん断応力度 τ は次式によって表せる(※)。
中村恒善「建築構造力学 図説・演習Ⅰ」(丸善 1994年)などを参照されたい。
τ(y) = | Q・S(y) |
I・b(y) |
S(y) | : | 図の塗りつぶし部の中立軸 N-N に関する断面1次モーメント |
b(y) | : | 中立軸 N-N からの距離 y での断面の幅 |
I | : | H 形断面梁の中立軸 N-N に関する断面 2 次モーメント |
y | : | 中立軸 N-N からの距離 |
そして、H形鋼(横向き)のせん断応力は、ウエブ幅がフランジ幅に比べて十分に小さければ、ウェブ部に大きく加わり、フランジ部にはほとんど加わらない。また、実務上はウエブのせん断応力は一様分布と見なしてかまわない。
このため、日本道路協会「道路橋示方書(鋼橋編)」などでは、断面に作用するせん断力はウエブ部のみを考慮して安全側の評価にすることより、薄肉断面ウエブのせん断応力度 τ は次式で算定してもよいとされている。
τ = | Q |
A |
A | : | ウェブの断面積 |
Q | : | せん断力 |
(3)適切ではない。JIS B 8821:2013」には、「引張応力は,ボルト穴を除いた有効な純断面積で式(1)によって計算する
」とされている。なお、(1)とは、
σt | : | 引張応力(N/mm2) |
An | : | 断面積(mm2) |
N | : | 軸方向引張力(N) |
σta | : | 箇条7(※)による許容引張応力(N/mm2) |
※ 箇条7は省略した。関心のある方は、原典に当たって欲しい。
によって示されているが、ここにいう断面積とはボルト孔を除いた断面積である。
(4)適切ではない。座屈長さとは、支点間の距離である。上下端の回転が自由で、かつ上下端の水平変位が拘束された単管足場であれば、座屈長さは上下端の間隔となる。上下端間隔の2分の1を座屈長さとして座屈応力を求めることはできない。
※ 座屈長さについては、「建築構造学講座@京都大学」サイトの「第12章 柱の座屈 No.2」が参考になる。
(5)適切ではない。溶接学会によれば、「強度計算に用いる理論のど厚には余盛の高さ、溶け込みは含まない。完全溶込みの開先溶接の場合には部材の厚さとし、部材の厚さが異なる場合には薄い方の厚さとする
」とされている。
※ 溶接学会編「新版 溶接・接合技術特論」(産報出版2005年)272ページ
常識で考えても、安全のことを考えれば、厚い方の鋼板の板厚の平均値を有効のど厚として引張応力を求めるわけがないだろう。