労働衛生コンサルタント筆記試験(労働衛生一般)直前チェックシート

酸素欠乏症と硫化水素中毒の発生機序と防止対策


協議するビジネスパーソン

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、労働衛生教育の対象者、教育内容、実施時期等について解説しています。

 労働衛生コンサルタント試験の筆記試験の直前チェックシートとして作成しました。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

【酸素欠乏症と硫化水素中毒の発生機序と防止対策】

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酸素欠乏症と硫化水素中毒の発生機序と防止対策については、ほぼ必出であり、しかも難易度はそれほど高くなく、繰り返して同じ内容が問われる傾向もある。必要なことは確実に覚えておくようにしたい。

1 酸素欠乏の機序

肺胞でのガス交換のイラスト

©看護roo!

※ 図をクリックすると拡大します

酸素欠乏に関する重要事項として厚労省のパンフレット「なくそう 酸素欠乏症・硫化水素中毒」の酸素欠乏症の表によれば、酸素濃度が6%未満の空気にばく露すると、瞬時に昏倒する。

これは酸欠空気を1回でも吸入すると、肺胞内の酸素濃度が毛細血管側よりも下がるので、毛細血管側へ酸素が移動しにくくなり(外呼吸が困難となる)、意識喪失のリスクが発生するのである。

図は、肺胞における外呼吸の仕組みを示したイラストであるが、赤い玉が酸素を表している。肺胞と血管の間には半透膜があり、その両側で、ある物質の濃度が不平衡状態になっていると、その物質は濃度が高い方から低い方へ移動する性質(浸透圧)がある。この性質を利用して、酸素を肺胞から血管側へ取り込み、二酸化炭素を排出するのが外呼吸の仕組みである。

酸素濃度の低い空気を吸い込むと、この外呼吸ができなくなるので、一瞬で意識喪失のリスクが生じるのである。なお、(一財)中小建設業特別教育協会(※)の資料によると、空気中酸素濃度が6%となり、動脈血中酸素飽和度が 30 %以下になると、「数回のあえぎ呼吸で失神・昏倒・呼吸緩徐、停止・けいれん・心停止・死亡」という症状が現れるとされている。

※ (一財)中小建設業特別教育協会「【第2章】第2節 酸素欠乏症の病理と症状②」(酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育 教育課程)より

2 酸素欠乏と症状

酸素欠乏と症状については、コンサルタント試験では、杉本(※)から出題されることがある。

※ 杉本和弘「酸素欠乏・硫化水素危険作業について」(名古屋大学全学技術センター)

なお、杉本による酸素濃度等と症状の表と、政府のパンフレットに記載されている表を参考までに示しておく。

【酸素濃度等と症状】

1 酸素及び硫化水素の濃度による人体の影響

表1.酸素濃度と症状等
酸素濃度 症状等
21% 大気中濃度
18% 安全下限界
16% 自覚症状現れる
14% 運動機能の低下
10% 死の危険
6% 昏倒、即死
表2.硫化水素濃度と症状等
H2S 濃度 症状等
0.3ppm 臭気を感知する
10ppm 眼の粘膜刺激値下限界
20ppm 嗅覚疲労が起こる
100ppm 長時間暴露で窒息死
700ppm 呼吸麻痺で死亡
5000ppm 即死

※ 杉本和弘「酸素欠乏・硫化水素危険作業について」(名古屋大学全学技術センター)
【酸素欠乏症】
酸素
濃度
症状等
21% 通常の空気の状態
18% 安全限界だが連続換気が必要
16%
12%
8%
6%
頭痛、吐き気
目まい、筋力低下
失神昏睡、7~8分以内に死亡
瞬時に昏倒、呼吸停止、死亡
【硫化水素中毒】
硫化水素
濃  度
症状等
5ppm程度 不快臭
10ppm 許容濃度(眼の粘膜の刺激下限界)
20ppm

350ppm

700ppm
気管支炎、肺炎、肺水腫
 
生命の危険
 
呼吸麻痺、昏倒、呼吸停止、死亡

※ 厚生労働省「なくそう 酸素欠乏症・硫化水素中毒

3 重要事項

以下の事項を押さえておくこと。

【重要事項(酸素欠乏)】

  • 酸素不足によって障害を最も受けやすいのは脳のうちの大脳皮質である。脳への酸素の供給が絶たれ無酸素下の状態が生じると、数秒から10秒程度で意識が消失し、約1分で自立呼吸ができなくなる。
  • 脳は体内全体の酸素の消費量の約25%を占め、その一方で筋肉のような酸素を蓄える機能もない。そのため、酸素の血液からの流入の欠乏に、きわめて敏感な器官でもある。
  • 呼吸中枢(呼吸運動を支配する神経中枢)は、脳幹の橋から延髄にかけての部分にある。なお、延髄にある中枢化学受容野と末梢化学受容体は、血液中の二酸化炭素濃度によって、呼吸数や心拍数を調節している。
  • 動脈血中の酸素分圧(PaO2)は大動脈小体と頸動脈小体で感知されている。これが延髄の呼吸中枢を刺激して換気を促進させる。
  • 酸素欠乏症等で全脳虚血になり、脳血流停止が長時間になると、①脳温の上昇と低酸素症、②脳浮腫、③頭蓋内圧亢進、④脳ヘルニア、⑤脳幹病変という病態を呈する
  • 酸素欠乏症の症状は、重度の筋作業中や疲労しているときに重症化する。
  • 酸素欠乏危険場所の作業環境測定は、測定者の他、補助者の監視の下に実施すべきである。
  • 電動ファン付き呼吸用保護具は、ろ過式であるから酸素欠乏症発生時に用いることはできない。
  • 酸素欠乏危険場所のうち、硫化水素発生のおそれの少ない場所における作業は第1種酸素欠乏危険作業とされている。
  • 硫化鉱、魚油を入れてあるタンクの内部は第1種酸素欠乏危険場所とされている。
  • 完全に酸化した酸化物は酸素を吸収しない。酸化物が存在してもそれだけでは酸素欠乏危険場所とはならない。

【重要事項(硫化水素中毒)】

  • 酸欠則では、酸素欠乏症と硫化水素中毒に罹患するおそれのある場所における作業を第2種酸素欠乏危険作業と規定している。
  • 海水が滞留していると硫化水素を発生させるリスクがある。
  • 硫化鉱を貯蔵している施設の内部の作業では、硫化水素中毒の危険がある。
  • タンパク質を形成するアミノ酸(システイン、メチオニン)は硫黄を含んでいる。含硫アミノ酸が分解される過程では、硫黄を硫化水素として放出する。
  • 硫黄が水素と結びつくのは酸化ではなく還元である。(硫黄が酸化しても硫化水素は生成されない。)
  • 硫化水素には神経毒性があり、高濃度の硫化水素を吸入すると、平衡感覚障害、記憶力低下、神経行動変化、意識消失、呼吸麻痺等の中枢神経系の急性症状が生じる。
  • 吸入気中の硫化水素の濃度が100ppmを超える連続ばく露では、気管支炎、肺炎、肺水腫による窒息が生じて死亡することがある。
  • 硫化水素にばく露したときの眼の症状として、結膜炎や角膜損傷が知られている。
  • 硫化水素にばく露することで、角膜や目の粘膜を刺激することがある。50ppmを超えると、目のかゆみ、痛みなどを感じ、視野が不明瞭、まぶしさが増して「ガス眼」の症状となることがある。硫化水素が眼の粘膜の水分に溶けて硫化アルカリに変化して角膜、粘膜の組織破壊を引き起こすためである。
  • 硫化水素の許容濃度は10ppm(管理濃度は1ppm)である。
  • 硫化水素は無色で腐卵臭がある。分子量は約34.1g/molで、空気の約28.8g/molより重いため、暗きょ、ピットなどに溜まりやすい。
  • 硫化水素の水溶解度は「5 g/L(20℃)(水)」とされており、水に溶けやすい。
  • 硫化水素は、水への溶解度が低いために上気道に炎症を起こしにくく、吸い込んだことに気付かずに肺に到達して、肺水腫を起こすリスクが高まる。
  • ヒトは硫化水素濃度 20 から 30ppm で嗅覚疲労を発症し、それ以上の濃度になっても強さを感じなくなる。さらに 100ppm 以上になると嗅覚神経麻痺で臭いを感じなくなる。
  • 環境省「平成27年度温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止策検討委託業務 後半(平成28年3月)」(温泉の保護と利用「関連資料」)より

【しきい値については、どのように考えるべきでしょうか。】

ガス濃度[ppm] 作用
0.025 臭いで感知しうる限界
0.3 明瞭に感知される
5~10 悪臭を強く感じる
20~50 目の炎症
50~150 頭痛、めまい、吐き気
150~200 悪臭の麻痺により臭気を感じなくなる
300 亜急性中毒(意識不明)
700~800 臭気を感ぜずに意識不明、30 分で生命危機
1000~2000 失神、痙攣、呼吸停止、死に至る
※ 環境省長野自然環境事務所「地獄谷歩道沿いの管理作業における安全対策マニュアル作成の手引き」(2012 年3月)
2026年08月26日執筆