労働衛生コンサルタント筆記試験直前チェックシート

労働衛生3管理の見分け方




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、労働衛生の3管理の各管理をどのように見分けるかを示しています。

 労働衛生コンサルタント試験の筆記試験の直前チェックシートとして作成しました。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

【労働衛生の3管理】

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【労働衛生3管理の見分け方】

労働衛生の分野では、伝統的に、労働衛生管理を作業環境管理、作業管理及び健康管理の3管理に分類する考え方がある。労働衛生コンサルタント試験では、この区別がよく出題されるのである。

しかし、労働衛生管理について学び始めたばかりだと、その違いが分かりにくいのではないかと思う。実際に、この3つの違いを、正しくかつ分かりやすく説明している参考書というものを見たことがない。というより労働衛生について体系立てて解説した専門書と言うものが、ほとんどないのではあるが・・・。

受験テクニックとしては、次のように覚えるとよいだろう。

【受験テクニック】

①  作業環境管理 : 音や電磁波のような物体ではないものを含めて、人がいなくても存在している“モノ”を管理する。
②  作業管理 : 作業者の体内に存在する“モノ”ではないが、作業者が存在して初めて意味を持つ“モノ”を管理する
③  健康管理 : 作業者の体内の“もの”あるいは“現象”を管理する。

例えば、“個人用保護具の使用”は、どうだろう。個人用保護具は、作業者の体内に存在しているものではなく、体外に存在してはいるが、作業者がいなければ意味がないので、作業管理となる。

【具体的な例】

ただ、実際には、この“テクニック”だけで簡単に区別できるようなものではない。個々のケースについて覚えていくしかない。そこで、過去の出題例を参考にいくつか例を挙げておこう。

まず、作業環境管理であるが、例えば、次のように作業を行う環境を改善したり、その評価(測定)を行ったりすることは「人がいなくても存在している“モノ”を管理」しているので作業環境管理となる。

【作業環境管理の例】

  • 有害な化学物質を取扱う装置の密閉化
  • 局所排気装置、プッシュプル型換気装置及び全体換気装置の設置又は性能の改善
  • 取扱う化学物質の、より有害性の低いものへの変更
  • 振動工具の、より「周波数補正振動加速度実効値の3軸合成値」の小さなものへの変更
  • 生産工程の改良による有害な化学物質の発散の抑制
  • 作業環境測定の実施
  • 局所排気装置の気流の風速の測定
  • 放射線業務を行う作業場における線量当量率の測定

また、次のようなことは作業者がいなければ実施することは不可能である。従って作業管理となる。

管理区域を設定は分かりにくいかもしれないが、管理区域など作業者が居て初めて意味を持つものである。作業者が居なければ何の意味もないだろう。

ルール作りは作業管理と覚えておこう。

【作業管理の例】

  • 有害な作業を行う時間の短縮
  • 作業方法の改善による有害物質の発散の抑制
  • 作業方法や作業姿勢の改善による作業負荷や有害要因へのばく露の抑制
  • 有害物質への個人ばく露濃度の測定
  • 放射線業務における「個人線量当量」の測定
  • 放射線業務を行う作業場所で、外部放射線による実効線量を算定し、管理区域を設定する。
  • 有機溶剤を取り扱う業務における呼吸用保護具の使用
  • 有害な化学物質の取扱いに関する作業規程の作成とその遵守
  • 有害な業務が行われる場所への立入禁止とその表示
  • 生物学的モニタリングの実施
  • 高温多湿作業場所における作業への暑熱順化期間の設定。

最後に健康管理であるが、これは比較的分かりやすいからかあまり出題されない。過去問も多くはないが、次のようなことは「作業者の体内の“もの”あるいは“現象”を管理」するので健康管理となる。

【健康管理の例】

  • 特殊健康診断の実施(生物学的モニタリングを除く)による職業性疾病の早期発見
  • 特殊健康診断の結果による作業者の有害業務以外の業務への配転
  • 介護作業等腰部に著しい負担のかかる作業に従事する労働者に対する、腰痛予防体操の実施

【留意事項】

1 個人ばく露測定と生物学的モニタリング

上記の中で迷いそうなもので重要なものとしては、個人ばく露測定と生物学的モニタリングがある。この2つは、作業者のばく露の程度を調べるための指標である。これらは(受験テクニックとして)作業管理に用いる手法だと覚えておく。現実には、この2つは作業管理にも作業環境管理にも使えるが、受験時にはそこまで気にする必要はない。ただし、生物学的モニタリングは健康管理には使えないことに留意すること。

なお、作業環境測定は、通常は作業環境管理に用いられると考えてよいが、作業管理にも使えないわけではない。そして、かなりややこしいのがC測定、D測定である。これは、個人サンプラーを用いた個人サンプリング法によるものであるが、あくまでも作業環境測定であって、個人ばく露測定には該当しないものとされている(※)。従って、これも教科書的には作業環境管理に該当するのである。

※ 岩崎明夫「個人サンプリング法による作業環境測定とその実践」(産業保健 21 2021.7 第 105 号)

このため、個人サンプラー法による作業環境測定では測定時間は対象となる作業を行っている時間であるが、個人ばく露測定では作業を行っていない時間もサンプリングを行うのである。すなわち、8時間勤務のうち、現場で測定対象となる化学物質を扱っている時間は2時間だけで残りの6時間は別な建物の中で事務作業を行っている場合を考えよう。前者ではその2時間だけサンプリングして、得られた値を2時間で除して平均するが、後者では事務作業を行っている時間もサンプリングを行って8時間で除して平均するのである。

これにより、前者では作業場の平均の濃度が得られ、後者では個人のばく露の状況が得られることになる。従って、基準値も、前者では場を評価するための指標である管理濃度、後者は個人のばく露量を評価するためのばく露限界値となる。

 表.個人サンプラー法による作業環境測定と個人ばく露測定の主な特徴
個人サンプラー法に
よる作業環境測定
個人ばく露測定
目的 場の評価・管理 個人のリスク評価・管理
サンプリング器具 個人サンプラー 個人サンプラー
サンプリング位置 呼吸域 呼吸域
測定時間 作業時間中 8時間または作業時間中
評価に用いる値 作業時間平均値 8時間平均値
基準値 管理濃度 ばく露限界値 (8時間)

※ 岩崎明夫「個人サンプリング法による作業環境測定とその実践」(産業保健 21 2021.7 第 105 号)

2 暑熱順化期間の設定と腰痛予防体操の実施

また、暑熱順化期間の設定が作業管理で、腰痛予防体操の実施が健康管理になることも迷いそうなところである。これは、厚生労働省「職場における熱中症予防対策マニュアル」(2021年(令和3年)4月最終改訂)と「職場における腰痛予防対策指針」にそのように分類されているのである。

これは、暑熱順化期間の設定は、暑熱作業という特定の作業への対応を目的としており、腰痛予防体操の実施は一般的な健康問題への対応を目的としているということからそのように分類されているのである。。

2020年11月22日執筆 2024年02月24日最終改訂