問30 化学物質のリスクアセスメントにおけるリスクの見積りの方法に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)マトリクス法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度をそれぞれ縦軸と横軸とした表に、あらかじめ発生可能性と重篤度に応じたリスクを割り付けておき、発生可能性に該当する行を選び、次に見積り対象となる危険又は健康障害の重篤度に該当する列を選ぶことにより、リスクを見積もる方法である。
(2)数値化法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを数値演算(足し算、掛け算等)してリスクを見積もる方法である。
(3)枝分かれ図を用いた方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度について、危険性への遭遇の頻度、回避可能性等をステップごとに分岐していくことにより、リスクを見積もる方法である。
(4)コントロール・バンディングは、化学物質を取り扱う作業ごとに「化学物質の有害性」、「揮発性・飛散性」及び「ばく露量」の三つの要素の情報から、リスクの程度を3段階にランク分けしてリスクを見積もる方法である。
(5)管理濃度が定められている物質についての気中濃度等の測定による方法は、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する方法である。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。
柳川に著作権があることにご留意ください。
| 2025年度(令和07年度) | 問30 | 難易度 | 化学物質RA指針に関する問題は、ほぼ必出。本問は、基本が理解できているかどうかを問う問題。 |
|---|---|---|---|
| 化学物質RA指針 | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問30 化学物質のリスクアセスメントにおけるリスクの見積りの方法に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)マトリクス法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度をそれぞれ縦軸と横軸とした表に、あらかじめ発生可能性と重篤度に応じたリスクを割り付けておき、発生可能性に該当する行を選び、次に見積り対象となる危険又は健康障害の重篤度に該当する列を選ぶことにより、リスクを見積もる方法である。
(2)数値化法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを数値演算(足し算、掛け算等)してリスクを見積もる方法である。
(3)枝分かれ図を用いた方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度について、危険性への遭遇の頻度、回避可能性等をステップごとに分岐していくことにより、リスクを見積もる方法である。
(4)コントロール・バンディングは、化学物質を取り扱う作業ごとに「化学物質の有害性」、「揮発性・飛散性」及び「ばく露量」の三つの要素の情報から、リスクの程度を3段階にランク分けしてリスクを見積もる方法である。
(5)管理濃度が定められている物質についての気中濃度等の測定による方法は、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する方法である。
正答(4)
【解説】
本問は「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成27年9月18日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号/最終改正:令和5年4月27日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)及び平成27年9月18日基発0918第3号「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」(以下「通達」という。)からの出題である。
化学物質の自律的管理において、中心をなすのがリスクアセスメントである。リスクアセスメントにどのような方法があるのか、またそのメリット・デメリットはどのようなものかについては、口述試験においても問われるおそれがあるので、確認しておく必要がある。
(1)適切である。通達の9の(2)のウに示されている「マトリクス法」は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度をそれぞれ縦軸と横軸とした表に、あらかじめ発生可能性と重篤度に応じたリスクを割り付けておき、発生可能性に該当する行を選び、次に見積り対象となる危険又は健康障害の重篤度に該当する列を選ぶことにより、リスクを見積もる方法である(※)。
※ ただし、マトリクス法は、危険性のリスクアセスメントや、災害性の急性中毒のリスクアセスメントには使用できても、慢性ばく露のリスクアセスメントに使えるようなものではない。これについて、行政は認めようとしないが、慢性ばく露による健康影響の発生の可能性を算定することは不可能であろう。
なお、このマトリクスは行政のガイドラインに載っているものであるが、筆者はこのままの使用は推奨しない。詳細は、「なぜリスクアセスメントは「役に立たない」のか?」を参照してほしい。
【マトリクス法】
9 リスクの見積り
(1)事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第34条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用によりリスクアセスメント対象物によるリスクを見積もるものとする。
ア リスクアセスメント対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又はリスクアセスメント対象物により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)及び当該危険又は健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があること。
(ア)発生可能性及び重篤度を相対的に尺度化し、それらを縦軸と横軸とし、あらかじめ発生可能性及び重篤度に応じてリスクが割り付けられた表を使用してリスクを見積もる方法
(イ)~(オ) (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成27年9月18日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号/最終改正:令和5年4月27日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)より
【マトリクス法】
9 リスクの見積りについて
(2)指針の9(1)アに示す方法の実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
ア及びイ (略)
ウ 指針の9(1)ア(ア)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度をそれぞれ縦軸と横軸とした表(行列:マトリクス)に、あらかじめ発生可能性と重篤度に応じたリスクを割り付けておき、発生可能性に該当する行を選び、次に見積り対象となる危険又は健康障害の重篤度に該当する列を選ぶことにより、リスクを見積もる方法であること。(別紙2の例1を参照。)
エ~キ (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」」(平成27年9月18日基発0918第3号)より
(2)適切である。通達の9の(2)のエに示されている「数値化法」は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを数値演算(足し算、掛け算等)してリスクを見積もる方法である(※)。
※ 見方を変えれば、数値化法は、マトリクス法の変形ともいえる。要は、マトリクス法ではマトリクスの各セルの中に自由な数値を入れられるが、例えば足し算法では、各セルの中には、行と列の対応する数値の和を入れるということである。
すなわち、数値化法は、マトリクスの内容を実態に合わせて柔軟に変更できないのである。そのため、筆者としては数値化法ではなくマトリクス法を推奨している。
この点について、数値化法は3要素法を使えるがマトリクス法は2要素法しか使えないので、数値化法の方が優れているという反論がある。しかし、これは誤解であろう。マトリクス法でも3要素法は問題なく使えるのである。
【数値化法】
9 リスクの見積り
(1)事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第34条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用によりリスクアセスメント対象物によるリスクを見積もるものとする。
ア リスクアセスメント対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又はリスクアセスメント対象物により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)及び当該危険又は健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があること。
(ア) (略)
(イ)発生可能性及び重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを加算又は乗算等してリスクを見積もる方法
(ウ)~(オ) (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成27年9月18日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号/最終改正:令和5年4月27日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)より
【数値化法】
9 リスクの見積りについて
(2)指針の9(1)アに示す方法の実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
ア~ウ (略)
エ 指針の9(1)ア(イ)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度を一定の尺度によりそれぞれ数値化し、それらを数値演算(足し算、掛け算等)してリスクを見積もる方法であること。(別紙2の例2を参照。)
オ~キ (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」」(平成27年9月18日基発0918第3号)より
(3)適切である。通達の9の(2)のオに示されている「枝分かれ図を用いた方法」は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度について、危険性への遭遇の頻度、回避可能性等をステップごとに分岐していくことにより、リスクを見積もる方法である(※)。一般にはリスクグラフ法と呼ばれている。
※ 現実には、化学物質のリスクアセスメントでリスクグラフ法が用いられることはほとんどない。なお、この方法は機械・設備のリスクを判定するときに用いられることが多い。なお、その内容からも分かるように、これはアクシデントによる爆発・火災のリスクや急性中毒によるリスクにしか対応していない(慢性ばく露による災害のリスクには対応できない。)。
【枝分かれ図を用いた方法】
9 リスクの見積り
(1)事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第34条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用によりリスクアセスメント対象物によるリスクを見積もるものとする。
ア リスクアセスメント対象物が当該業務に従事する労働者に危険を及ぼし、又はリスクアセスメント対象物により当該労働者の健康障害を生ずるおそれの程度(発生可能性)及び当該危険又は健康障害の程度(重篤度)を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があること。
(ア)及び(イ) (略)
(ウ)発生可能性及び重篤度を段階的に分岐していくことによりリスクを見積もる方法
(エ)及び(オ) (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成27年9月18日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号/最終改正:令和5年4月27日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)より
【枝分かれ図を用いた方法】
9 リスクの見積りについて
(2)指針の9(1)アに示す方法の実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
ア~エ (略)
オ 指針の9(1)ア(ウ)に示す方法は、危険又は健康障害の発生可能性とその重篤度について、危険性への遭遇の頻度、回避可能性等をステップごとに分岐していくことにより、リスクを見積もる方法(リスクグラフ)であること。
カ及びキ (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」」(平成27年9月18日基発0918第3号)より
(4)適切ではない。図は、厚労省の職場のあんぜんサイトの「厚生労働省版コントロール・バンディング」の「液体または粉体を扱う作業(鉱物性粉じん、金属粉じん等を生ずる作業を除く。)」のリスク判定の概念図である。厚労省版コントロールバンディングでは、「化学物質の揮発性・飛散性」及び「化学物質の取扱量」から労働者のばく露量を推定し、これを「化学物質の有害性」(GHS分類区分)から推定したばく露限界とを比較してリスクレベルを判定する仕組みである。
※ 単純化しているので、必ずしも正確なものではない。
液体または粉体を扱う作業に関するコントロールバンディングのマニュアル(※)によれば、「有害性ランクと揮発性・飛散性ランクと取扱量ランクを基に、リスクの高さを1~4で表す(4の方がリスクが高い)。 また、眼や皮膚へのリスクがある場合はSも表示する
」とされている。
※ 厚生労働省「リスクアセスメント実施支援システム 操作マニュアル (改良CB)」(平成31年3月)
すなわち、コントロール・バンディングは、本肢にあるような「化学物質を取り扱う作業ごとに「化学物質の有害性」、「揮発性・飛散性」及び「ばく露量」の三つの要素の情報から、リスクの程度を3段階にランク分けしてリスクを見積もる方法」というわけではない。
また、こちらの図は、「鉱物性粉じん、金属粉じん等の生ずる作業」についての、厚生労働省版コントロール・バンディングによるリスク判定の概念図である。この図も必ずしも正確なものではなく、実際には、「土砂・鉱物の有害性」、「化学物質の有害性」及び「化学物質の許容濃度」のいずれかから「有害性ランク」(労働者の職業ばく露限界)を推定し、これを作業の種類に応じて推定した「ばく露ランク」(労働者のばく露量)と比較することで、リスクレベルを判定する仕組みなのである。
厚労省の作成したマニュアル(※)によれば、ばく露ランク、リスクレベル、有害性ランクは次のように決まるとされている。
※ 厚生労働省・みずほ情報総研株式会社「リスクアセスメント実施支援システム ~粉じん等が生ずる作業~ 操作マニュアル」(平成30年3月)
【測定による方法】
3.操作手順
3.3 リスクアセスメント Step3
① ばく露ランク
ランク EPS1-EPS4 は、作業の種類、作業環境によって決まり、推定される粉じんへのばく露の程度を表している(4の方がリスクが高い)。
② リスクレベル
リスクの高さを1~4で表す(4の方がリスクが高い)。また、下記の有害性ランクがSとなる場合には、リスクレベルにもSを表示する。
③ 有害性ランク
ランクA~Eは、ばく露した場合の有害性の程度を表している(Eの方が有害性が高い)。ランクSは、その化学物質が皮膚に触れると障害を起こす可能性があることを表している。
※ 厚生労働省・みずほ情報総研株式会社「リスクアセスメント実施支援システム ~粉じん等が生ずる作業~ 操作マニュアル」(平成30年3月)より
やや、分かりにくい説明がされているが、ばく露ランク(①)を作業の種類と作業環境によって決め、次に有害性ランク(③)を各種の有害性データから決め、①と③の大小関係からリスクレベル(②)を決めているわけである。この場合も、本肢のいうように、化学物質を取り扱う作業ごとに「化学物質の有害性」、「揮発性・飛散性」及び「ばく露量」の三つの要素の情報から、リスクの程度を3段階にランク分けしてリスクを見積もっているわけではない。
(5)適切である。指針の9の(1)のイの(ア)に示されているように、管理濃度が定められている物質についての気中濃度等の測定による方法は、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する方法である。
【測定による方法】
9 リスクの見積り
(1)事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第34条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用によりリスクアセスメント対象物によるリスクを見積もるものとする。
イ 当該業務に従事する労働者がリスクアセスメント対象物にさらされる程度(ばく露の程度)及び当該リスクアセスメント対象物の有害性の程度を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があること。
(ア)管理濃度が定められている物質については、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する方法
(イ)~(オ) (略)
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(平成27年9月18日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第3号/最終改正:令和5年4月27日危険性又は有害性等の調査等に関する指針公示第4号)より
【測定による方法】
9 リスクの見積りについて
(3)指針の9(1)イに示す方法はリスクアセスメント対象物による健康障害に係るリスクの見積りの方法について定めたものであるが、その実施に当たっては、次に掲げる事項に留意すること。
ア 指針の9(1)イ(ア)から(ウ)までは、リスクアセスメント対象物の気中濃度等を実際に測定し、管理濃度、濃度基準値又はばく露限界と比較する手法であること。なお、(イ)に定めるばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するための測定の方法については、技術上の指針に定めるところによること。(別紙3の1参照)
イ~キ (略)
別紙3 リスクアセスメント対象物による有害性に係るリスク見積りについて
1 定量的評価について
(1)管理濃度が定められている物質については、作業環境測定により測定した当該物質の第一評価値を当該物質の管理濃度と比較する。
※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について」」(平成27年9月18日基発0918第3号)より





