労働衛生コンサルタント試験 2025年 労働衛生一般 問27

疫学及び統計




問題文
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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2025年度(令和07年度) 問27 難易度 疫学と統計に関する問題は過去問にも多い。過去問の内容を十分に理解できていれば正答可能である。
疫学及び統計  3 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問27 労働災害の調査及び原因の分析に関する次のイ~ニの記述について、正しいもののみを全て挙げたものは(1)~(5)のうちどれか。

イ ある原因と疾病との関係の仮説に基づいて、疾病のある群とない群に分け、各々の群で原因と考えられる事象の相違があるかどうかを調べる調査方法は、コホート研究といわれる。

ロ 前向き調査は、後ろ向き調査に比べ、結果が出るまでの観察期間が長期にわたり、費用や労力が大きい。

ハ 前向き調査の結果、算出される相対危険度(リスク比)は、ばく露群の患率(Ie)と非ばく露群の罹患率(Iu)との比 Ie/Iu を示し、この値が大きいほど因果関係が存在する可能性が高い。

ニ 横断研究では、ばく露と疾病との因果関係は証明できない。

(1)イ  ロ

(2)イ  ニ

(3)イ  ロ  ハ

(4)ロ  ハ  ニ

(5)ハ  ニ

正答(4)

【解説】

問27試験結果

試験解答状況
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イ 誤り。厚労省のサイト(※)によれば、コホート研究とは、「ある要因をもつグループともたないグループについて、時間がたつとともに予想する結果が起きるか、起きないかを調査し、2つのグループを比較する研究方法です。調査するグループのことを「コホート」といいます」とされている。

※ 厚生労働省「もう一歩進んだ「情報の見極め方」」(厚生労働省『「統合医療」情報発信サイト』

本肢の調査は、時間の経過による変化を観察しているわけではないので、コホート研究とはいえない。厚労省のサイトの定義によれば、ケース・コントロール研究ということになろう。

なお、(一社)日本疫学会(※)によれば、コホート研究「調査時点で、仮説として考えられる要因を持つ集団(ばく露群)と持たない集団(非ばく露群)を追跡し、両群の疾病の罹患率または死亡率を比較する方法」と定義されている。

※ (一社)日本疫学会「コホート研究」(疫学用語の基礎知識

【コホート研究】

<観察研究>

   「観察研究」は、患者さんを観察した結果を分析する研究方法です。観察研究は、時間との関係によって大きく3つに分類されます。

横断研究:ある時点での患者さんの状態を調査する研究方法です。

ケース・コントロール研究:病気など、ある事象の有無について、時間をさかのぼってその原因(と疑われるもの)の有無を調査し、患者さんのグループを比較する研究方法です。事象(病気)をもつ患者さんのグループを「ケース」、もたない患者さんのグループを「コントロール」といいます。患者さんのなかには、「治療法が効いていない」と思って病院に来るのをやめてしまった人もいるのですが、そのような患者さんに医師が質問することはできませんでした。

コホート研究:ある要因をもつグループともたないグループについて、時間がたつとともに予想する結果が起きるか、起きないかを調査し、2つのグループを比較する研究方法です。調査するグループのことを「コホート」といいます。

※ 厚生労働省「もう一歩進んだ「情報の見極め方」」(厚生労働省『「統合医療」情報発信サイト』)より

ロ 正しい。コホート研究研究の前向き調査(prospective study)は集団のその後の状況を調べるものであり、後ろ向き調査(retrospective study)は過去の状況を調べるものである。すなわち、前向き調査は、統計的に意味のあるかなりの人数の集団について、長期間にわたって追跡をする必要がある。前向き調査は結果が出るまでの観察期間が長期になり、費用や労力も大きくなる。

ハ 正しい。相対危険度(リスク比)は、危険因子に曝露した群の罹患リスクの、曝露していない群の罹患リスクに対する比で示される。

【相対危険度(リスク比)】

3 関連性の指標

  相対危険度は、曝露要因がある場合とない場合の疾病リスクの比である。本来は二つの集団における累積罹患率の比であるが、一般的には、二つの集団における観察人年当たりの罹患率の比であらわされる。例えば、喫煙の肺がん罹患率が400(対10万人年)で、非使用者の罹患率が100であれば、喫煙による肺がん罹患に対する相対危険度は400/100=4となる。

※ 喫煙者10,000人と非喫煙者10,000人を10年間追跡(コホート研究)
肺がん発症 罹患率
喫煙者 10,000 400 400/10万人年
非喫煙者 10,000 100 100/10万人年

  また、有機塩素系農薬の曝露量が多い集団の乳がん罹患率が300で、少ない集団の罹患率が100であれば、相対危険度は300/100=3となる。相対危険度は、二つ以上の集団の罹患率を直接測定することができる無作為割付臨床試験や前向きコホート研究で使われる。

※ 国立研究開発法人 国立がん研修センター「総論 -疫学研究の方法-」(内分泌かく乱化学物質の健康影響に関する検討会中間報告書追補その2別冊)より

ニ 正しい。横断研究は、ある時点において、Aという事象にばく露ろされたグループと、暴露されていないグループについて、双方のグループである影響が発生している確率の差から、ばく露と影響の関係を考察するものである。ただ、症例対照研究と比較しても、厳密な意味で因果関係の立証まではできるわけではない(※)。もっとも、厳密な意味での立証が「有害性の証明」のために常に必要かといわれると、やや疑問もある。しかし、(1)が明らかに誤っているので、こちらは正しいとした。

※ ただ、このようなことを言い出すと、ヒトに対する発がん性についての少なくない「証明」が、厳密な意味では証明されていないということになりかねない。

【横断研究】

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3.研究デザイン

④ 横断研究(cross-sectional study)

  横断研究は、時間軸において1点のみで測定を行い、曝露(治療)のアウトカムへの影響を推定しようとする研究デザインである。RCTやコホート研究の問題点に加えて、時間軸において1点のみでの測定になるため、因果関係の立証には弱いデザインであること、研究仮説によっては「逆の因果(reverse causation)」と呼ばれる問題が常に残る。例えば、所得とうつ病の関係を横断調査で行った場合、所得が低いのでうつ病になりやすいのか、うつ病のために所得が低いのか、結論づけることは難しい。

※ 小松裕和他「第2回 疫学用語の確認と論文の読み方(疫学各論1)」(臨床医のための疫学シリーズ:地域中核病院で行う臨床研究)より

【横断研究】

Ⅱ.医療の質と安全の観察研究の分類とその特徴

1.時間軸に基づいた分類

3)横断研究 Cross-sectional Study

  横断研究は、一定の時点で集団からデータを収集し、曝露とアウトカムを同時に評価する研究デザインである。このタイプの研究は迅速に実施することができ、比較的低コストであり、広範囲の集団に対して実施可能であるため、主にアンケート調査や診断の研究に用いられる。しかし、横断研究は一時的なデータポイントのみに基づいて結論を導く必要がある。そのため、暴露とアウトカム間の時間的関係を明確にすることができず、因果効果の推定には限界がある。

※ 比良野圭太「医療の質安全学における研究手法:各論(非実験的研究)」(医療の質・安全学会誌 Vol.19 No.2 2024年)より