労働衛生コンサルタント試験 2025年 労働衛生一般 問22

化学物質の濃度基準値適用の技術指針




問題文
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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2025年度(令和07年度) 問22 難易度 濃度基準値に関する告示に関する問題。化学物質の自律的管理に必要な内容。正答できなければならない。
濃度基準値  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問22 厚生労働省の「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)濃度基準値が設定されている物質について、リスクの見積りの過程において、労働者がばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業を把握した場合、確認測定を実施する。

(2)確認測定では、労働者の呼吸域における物質の濃度を測定する。

(3)確認測定は、労働者のばく露が最も高いと想定される均等ばく露作業における、最も高いばく露を受ける労働者を選定して行う。

(4)「労働者の呼吸域」とは、労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした、半径1mの、顔の前方に広がった半球の内側をいう。

(5)この指針の対象となる物質であっても、人に対する発がん性が明確な物質の場合は、「八時間濃度基準値」及び「短時間濃度基準値」のいずれも設定されていない。

正答(4)

【解説】

問22試験結果

試験解答状況
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本問は、問題文本分にもあるように、厚生労働省の「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号技術上の指針公示第24号/最終改正:令和7年10月8日技術上の指針公示第28号。以下「指針」という。)に関するものである。

化学物質の自律的管理の中心をなすリスクアセスメントを行うために重要な指針であり、化学物質管理のために内容を把握しておく必要がある。

(1)正しい。指針の1-2の(2)により、濃度基準値が設定されている物質について、リスクの見積りの過程において、労働者がばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業を把握した場合、確認測定を実施するものとされている。

【確認測定を行う場合】

1 総則

1-2 実施内容

  事業者は、次に掲げる事項を実施するものとする。

(1)(略)

(2)濃度基準値が設定されている物質について、リスクの見積りの過程において、労働者が当該物質にばく露される程度が濃度基準値を超えるおそれがある屋内作業を把握した場合は、ばく露される程度が濃度基準値以下であることを確認するための労働者の呼吸域における物質の濃度の測定(以下「確認測定」という。)を実施すること。

(3)(略)

※ 厚生労働省「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号技術上の指針公示第24号/最終改正:令和7年10月8日技術上の指針公示第28号)より

(2)正しい。指針の3-1の(3)により、確認測定では、労働者の呼吸域における物質の濃度を測定することとされている。

【確認測定の位置】

3 確認測定の対象者の選定及び実施時期

3-1 確認測定の対象者の選定

(1)及び(2)(略)

(3)均等ばく露作業ごとに確認測定を行う場合は、均等ばく露作業に従事する労働者の作業内容を把握した上で、当該作業における最大ばく露労働者を選定し、当該労働者の呼吸域における物質の濃度を測定することが妥当であること。

(4)~(6)(略)

※ 厚生労働省「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号技術上の指針公示第24号/最終改正:令和7年10月8日技術上の指針公示第28号)より

(3)正しい。指針の3-1の(2)により、確認測定は、労働者のばく露が最も高いと想定される均等ばく露作業における、最も高いばく露を受ける労働者を選定して行うこととされている。

【確認測定の対象者】

3 確認測定の対象者の選定及び実施時期

3-1 確認測定の対象者の選定

(1)(略)

(2)全ての労働者のばく露の程度が濃度基準値以下であることを確認するという趣旨から、事業者は、労働者のばく露の程度が最も高いと想定される均等ばく露作業における最も高いばく露を受ける労働者(以下「最大ばく露労働者」という。)に対して確認測定を行うこと。その測定結果に基づき、事業場の全ての労働者に対して一律のリスク低減措置を行うのであれば、最大ばく露労働者が従事する作業よりもばく露の程度が低いことが想定される作業に従事する労働者について確認測定を行う必要はないこと。しかし、事業者が、ばく露の程度に応じてリスク低減措置の内容や呼吸用保護具の要求防護係数を作業ごとに最適化するために、当該作業ごとに最大ばく露労働者を選定し、確認測定を実施することが望ましいこと。

(3)~(6)(略)

※ 厚生労働省「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号技術上の指針公示第24号/最終改正:令和7年10月8日技術上の指針公示第28号)より

(4)誤り。指針の3-1の(2)によれば、、「労働者の呼吸域」とは、「当該労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした、半径30センチメートルの、顔の前方に広がった半球の内側をいうこと」とされている。「半径1m」ではない。

日本語の「呼吸域」の言葉の意味として、1メートルというのはやや長すぎるだろう。呼吸をするときに1メートル先の空気を吸い込む人間は、そう多くはない。

【労働者の呼吸域とは】

2 リスクアセスメント及びその結果に基づく労働者のばく露の程度を濃度基準値以下とする措置等を含めたリスク低減措置

2-1 基本的考え方

(6)事業者は、リスクアセスメントと濃度基準値については、次に掲げる事項に留意すること。

ア及びイ(略)

 「労働者の呼吸域」とは、当該労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした、半径30センチメートルの、顔の前方に広がった半球の内側をいうこと。

エ及びオ(略)

※ 厚生労働省「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号技術上の指針公示第24号/最終改正:令和7年10月8日技術上の指針公示第28号)より

なお、呼吸域については、「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等の適用等について」(令和4年11月30日基発1130第1号)などいくつかの行政通達にも同様に定義されている(※)

※ 厚労省の通達等では、最初に「労働者の呼吸域」の定義として、この概念を定めたのは、溶接ヒューム測定告示の施行通達「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について」(令和2年7月31日付け基発0731第1号)である。

【労働者の呼吸域とは】

1 有機溶剤等の濃度の測定関係(第1条、第4条、第7条及び第10条関係)

(2)第2項関係

 本項第1号の「労働者の呼吸する空気中の有機溶剤等の濃度を測定するために最も適切な部位」とは、労働者の呼吸域(当該労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした、半径30センチメートルの、顔の前方に広がった半球の内側をいう。以下同じ。)をいうものであること。ただし、呼吸用保護具を使用することにより労働者の呼吸域に試料採取機器の吸気口を装着できない場合等は、労働者の呼吸域にできるだけ近い位置とすること。

イ~オ(略)

※ 厚生労働省「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等の適用等について」(令和4年11月30日基発1130第1号)より

【労働者の呼吸域とは】

第2 細部事項

1 第1条(溶接ヒュームの濃度の測定)関係

(略)

 本条第1号の「労働者の呼吸する空気中の溶接ヒュームの濃度を測定するために最も適切な部位」とは、労働者の呼吸域(当該労働者が使用する呼吸用保護具の外側であって、両耳を結んだ直線の中央を中心とした、半径30センチメートルの顔の前方に広がった半球の内側をいう。以下同じ。)をいうものであること。ただし、呼吸用保護具を使用することにより呼吸域に試料採取機器の吸気口を装着できない場合等は、呼吸域にできるだけ近い位置とすること。また、溶接用の面体の外側の溶接ヒュームの濃度は、内側と比較して大幅に高いため、試料採取機器の採取口が溶接用の面体の内側に位置するように装着すること。

ウ~ク(略)

※ 厚生労働省「金属アーク溶接等作業を継続して行う屋内作業場に係る溶接ヒュームの濃度の測定の方法等の施行について」(令和2年7月31日基発0731第1号)より

(5)正しい。指針の6-1-2の(1)にあるように、人に対する発がん性が明確な物質の場合は、「八時間濃度基準値」及び「短時間濃度基準値」のいずれも設定されていない。

これは、日本産業衛生学会の許容濃度などについても、同様な傾向があり、発がん性分類が第1群となっているものについては、発がん性の観点から許容濃度を定めている物質は2物質(結晶性シリカ、1,2-ジクロロプロパン)のみとなっている(※)

※ その他に、発がん性以外の観点から許容濃度を定めている物質が8物質、過剰発がん生涯リスクレベルと対応する評価値を定めている物質が6物質ある。しかし、前者はばく露限界値として用いるべきではなく、後者についても日本産業衛生学会がばく露限界値として用いることを奨励していない。

なお、これについての詳細は、橋本晴男「発がん性物質のリスクアセスメント」(安全衛生コンサルタント Vol.44 No.151 2024年)を参照して欲しい。

【発がん性物質の濃度基準値】

6 濃度基準値の趣旨等及び適用に当たっての留意事項

6-1 濃度基準値の設定

6-1-2 発がん性物質への濃度基準値の設定

(1)濃度基準値の設定においては、ヒトに対する発がん性が明確な物質(別表1の左欄に※5及び別表2の左欄に※2と付されているもの。)については、発がんが確率的影響であることから、長期的な健康影響が発生しない安全な閾値である濃度基準値を設定することは困難であること。このため、当該物質には、濃度基準値の設定がなされていないこと。

(2)これらの物質について、事業者は、有害性の低い物質への代替、工学的対策、管理的対策、有効な保護具の使用等により、労働者がこれらの物質にばく露される程度を最小限度としなければならないこと。

※ 厚生労働省「化学物質による健康障害防止のための濃度の基準の適用等に関する技術上の指針」(令和5年4月27日技術上の指針公示第24号技術上の指針公示第24号/最終改正:令和7年10月8日技術上の指針公示第28号)より