労働衛生コンサルタント試験 2025年 労働衛生一般 問21

作業姿勢と腰部の椎間板内圧




問題文
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月桂冠とEXPERTの文字を支える手

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2025年度(令和07年度) 問21 難易度 作業姿勢と腰部の椎間板内圧に関する問題は初出。一般的ではない内容だが、正答率は極端に低くはなかった。
作業姿勢  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問21 次のイ~ニの作業姿勢において、腰部の椎間板内圧が大きいに並べたものは(1)~(5)のうちどれか。

座位 背もたれを使用せず、座位にて背筋せすじを伸ばした姿勢
立位前かがみ 立位にて膝を伸ばし、背を丸めて上半身を前方に傾けた姿勢
立位前かがみ荷持ち 20 kg の荷物を持ち、立位にて膝を伸ばし、背を丸めて上半身を前方に傾けた姿勢
立位膝曲げ荷持ち 20 kg の荷物を持ち、立位にて膝を曲げ、背筋を伸ばした姿勢

(1)ハ  ロ  ニ  イ

(2)ハ  ニ  イ  ロ

(3)ハ  ニ  ロ  イ

(4)ニ  ハ  イ  ロ

(5)ニ  ハ  ロ  イ

正答(3)

【解説】

問21試験結果

試験解答状況
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衛生一般の作業姿勢に関する問題は、これまでの過去問では意味の不明な肢や根拠の不明な肢が混じっていることが多かった(※)

※ とはいえ、これまではその肢の正誤が分からなくても正答可能な問題が多かったので、あまり問題とはならなかった。むしろ難易度はそれほど高くはなかったのである。

本年度の問題は、厚労省の作成した「腰痛予防対策講習会テキスト」を見れば正答は明確である(※)が、難易度は近年の過去問よりも高くなっている。

※ ハがロより大きいことは当然だが、すべての選択肢がそうなっているので、そのことで肢を絞ることはできない。

1 腰痛予防テキストから

動作や姿勢による椎間板圧縮力

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本問の作業姿勢と椎間板圧縮力について、(座位を除いて)厚労省の「腰痛予防対策講習会テキスト(陸上貨物 講義)」(※)に、図が示されている。

※ 株式会社平プロモート「腰痛予防対策講習」(中央労働災害防止協会監修:厚生労働省「腰痛予防対策講習会テキスト」)

これによると、「腰を屈めて 20kg を持つ」(本問のハ。以下同じ。)と椎間板圧縮力は 420kg 重となり、「パワーポジションで 20kg を持つ」(ニ)と 360kg 重、「おじぎをしている」(ロ)と 200kg 重となるとされている。従って、椎間板圧縮力は、ハ、ニ、ロの順で大きいことが分かる。

イと他の肢との大小関係は分からないが、ハ、ニ、ロの順になっているのは(3)しかないので、(3)が正答であることが分かる。

2 Nachemson の論文から

イと(ニ以外の)他の肢との大小関係については、姿勢と腰部の椎間板内圧に関してよく引用される Nachemson(※)の「体重 70 Kg の被験者の異なる位置における第3腰椎椎間板にかかる総荷重」のグラフから判断できる。これは、腰痛について学んだことがあれば、一度は見たことがあるといってよいほど有名な図である。

※ Nachemson A「The load on lumbar disks in different positions of the body」(Clin Orthop Relat Res.1966;45)(この論文は、WEB には公開されていない)

作業姿勢と腰部の椎間板内圧

図をクリックすると拡大します(※)

Nachemson の「体重 70 Kg の被験者の異なる姿勢における第3腰椎椎間板にかかる総荷重」のグラフ(及びTABLE 2)によると、「直立立位」のときの腰部の椎間板内圧は 99 kgであり、「背もたれを使用せず座位にて背筋を伸ばした姿勢」(イ)では 142kg となる。また、「立位にて膝を伸ばし、背を丸めて上半身を前方に傾けた姿勢」(ロ)では 148kg、「立位にて膝を伸ばし、背を丸めて上半身を前方に傾けて 20 kg の荷を手に持ったた姿勢」(ハ)では 215kg となるとされている。

※ 図は、Nachemson (前掲書)。なお、第3腰椎椎間板にかかる総荷重の単位は、kg重と書くべきだが、原文に従って kg と表現している。

従って、ハ、ロ、イの順で腰部の椎間板内圧が大きいことが分かる。もっとも、Nachemson は、本問のニに関するデータはないので、これだけでは、ニと他の肢の大小関係を判断することはできない。

なお、具体的な数字については、前掲書の「体重の異なる個人における、異なる姿勢での第3腰椎椎間板にかかるおおよその荷重(kg)」が TABLE 2 に示されている。

【作業姿勢と腰部の椎間板内圧】

TABLE 2. Approximate Load in Kg.on the 3rd Lumbar Disk in Different Positions in Individuals of Varying Body Weights
Weight of Subject (Kg.) 50 60 70 80 90 100
Position of Body Load on the Disk (Kg.)
Upright sitting, unsupported 110 126 142 158 174 190
Upright standing 75 87 99 111 123 135
Reclining (lateral decubitus) 55 63 71 79 87 95
Reclining (relaxed, supine) 15 15 20 20 25 25
Sitting + forward tilting of 20° 145 168 191 214 237 260
Sitting + forward tilting of 20° and 10-Kg.load in each hand 226 249 270 295 317 340
Standing + forward tilting of 20° 110 129 148 167 186 205
Standing + forward tilting of 20° and 10-Kg. load in each hand 177 195 215 234 262 287
※ Nachemson A「The load on lumbar disks in different positions of the body」(Clin Orthop Relat Res.1966;45)より

この表を見れば分かるように、体重が 70kg でない場合でも、腰部の椎間板内圧の姿勢による大きさの順は変わらない。

3 腰部椎間板の圧縮率を判定するアプリ

BlessPro2:姿勢評価のための2次元生体力学解析ソフト

図をクリックすると拡大します(※)

なお、最後に、瀬尾(※)が開発したアプリを紹介しておこう。これは、作業姿勢と両手に持つ荷の質量によって、腰部椎間板の圧縮率などを自動で計算できるソフトウエアで、Windows10 以降のパソコンに対応しており無料で公開されている。

※ 瀬尾明彦他「BlessPro2:姿勢評価のための2次元生体力学解析ソフト

ただ、あくまでも立位のみしか判定できず、椅子に座った状態は算定できない。アプリを起動したときの画面は図のようになっており、膝、腰、腕、頸の状態を自由に設定でき、その状態での腰部椎間板の圧縮率が表示されるようになっている。

このアプリで、本問のロ~ニの場合の腰部椎間板の圧縮率を算出すると次のようになった。ただし、年齢、性別、体重、身長、膝・腰などの角度等が本問に具体的に示されているわけではないので、年齢(25歳)、性別(男性)、体重(60kg)、身長(170cm)は初期設定のままとし、膝・腰などの角度は筆者の判断で妥当と思われる数値を入力している(※)

※ ハとニの荷の質量は、20kg としている。膝や腰の角度をわずかに変えるだけで、腰部椎間板の圧縮率はかなり変化するので、数字は参考までにとどめて欲しい。

関心があれば、ご自身で数値を入れていろいろ試してほしい。

Fc=943 N Fc=1,644 N Fc=1,170 N

※ 図をクリックすると拡大します

従って、ハが最も大きく、ニ、ロの順となっており、厚労省のテキストと同じ結論となっている。

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