問17 化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)フッ化水素の水溶液であるフッ酸は、金属の洗浄、半導体のエッチング等に用いられ、ミストの吸入により眼、鼻、気道に粘膜刺激症状を生じ、肺炎、肺気腫を生じることもある。
(2)2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(TCDD)は、廃棄物の焼却の際に副産物として発生し、ダイオキシン類の中でも最も毒性が強く、人に対する発がん性が認められている。
(3)ホルムアルデヒドは、接着剤や塗料の原料として用いられ、いわゆる「シックハウス症候群」の原因物質の一つで、粘膜刺激作用のほか、咳、上気道炎、流涙、接触皮膚炎などを生じる。
(4)ナフタレンは、合成樹脂の原料や防虫剤、有機顔料などの用途に使用され、人に対する登がん性が疑われている。
(5)塩化ビニルは、合成樹脂の原料として用いられ、高濃度の急性ばく露ではレイノー症状、指の骨の溶解(指端骨溶解)、肝血管肉腫などが見られる。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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| 2025年度(令和07年度) | 問17 | 難易度 | やや引っ掛け的な要素を持つ問題である。問題文はよく読まなければならない。 |
|---|---|---|---|
| 化学物質 | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問17 化学物質による健康障害に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)フッ化水素の水溶液であるフッ酸は、金属の洗浄、半導体のエッチング等に用いられ、ミストの吸入により眼、鼻、気道に粘膜刺激症状を生じ、肺炎、肺気腫を生じることもある。
(2)2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(TCDD)は、廃棄物の焼却の際に副産物として発生し、ダイオキシン類の中でも最も毒性が強く、人に対する発がん性が認められている。
(3)ホルムアルデヒドは、接着剤や塗料の原料として用いられ、いわゆる「シックハウス症候群」の原因物質の一つで、粘膜刺激作用のほか、咳、上気道炎、流涙、接触皮膚炎などを生じる。
(4)ナフタレンは、合成樹脂の原料や防虫剤、有機顔料などの用途に使用され、人に対する登がん性が疑われている。
(5)塩化ビニルは、合成樹脂の原料として用いられ、高濃度の急性ばく露ではレイノー症状、指の骨の溶解(指端骨溶解)、肝血管肉腫などが見られる。
正答(5)
【解説】
化学物質による健康障害に関する問題というだけで、やや苦手意識を持たれる方もおられるかもしれない。しかし、本問は、問題文をよく読めば、ほぼ常識問題といえる。
問題文を見た瞬間に、「解けない」などと思ってはいけないという典型のような問題である。とにかく問題文はよく読まなければならない。
(1)正しい。フッ化水素の水溶液であるフッ酸(フッ化水素酸)が、金属の洗浄、半導体のエッチング等に用いられる(※)ことは正しい。
※ ステンレス鋼やチタンなどの表面酸化膜を溶解除去する目的で、フッ酸と硝酸や硫酸の混合液などを用いて、金属の酸洗い(pickling)が行われている。なお、フッ酸は危険性が極めて高いため、金属洗浄の現場において使用量の削減や代替化が進んでいる。
また、フッ酸は、シリコンはほとんど溶かさずに酸化シリコン(ガラス)を溶かすという性質があり、半導体のエッチングや表面の酸化シリコンの除去などに使用される。半導体産業では、エッチングの他にも拡散炉の洗浄などで、付着した酸化シリコンの除去のために大量のフッ酸が用いられている。
また、フッ酸は、政府が行った GHS 分類・区分で、皮膚腐食性/刺激性が区分1となっており、ミストを吸入すれば眼、鼻、気道に(軽症ですめば)粘膜刺激症状を生じることも正しい(※)。
※ 皮膚腐食性/刺激性が区分1なのだから、実際にフッ酸のミストを吸入すれば、粘膜刺激症状(可逆性)程度ではすまず、間違いなく腐食症状(不可逆性)を起こすだろう。本問で(1)を誤っている肢として選択した受験者がかなりおられるが、「刺激性」が誤りで「腐食性」ではないかと考えたものであろう。しかし、(5)が明らかに誤っているので、こちらは正しいとしておく。
さらに、国際化学物質安全性カード(ICSCs)「フッ化水素酸(70%水溶液)」によると、短期曝露の影響として肺炎が生じるとされている。
一方、フッ酸へのばく露で、肺気腫(※)を生じるという報告は見つけられなかった。2022年の「「労働基準法施行規則第35条専門検討会化学物質による疾病に関する分科会」検討結果報告書」でも「弗化水素酸(弗化水素含む)」で肺気腫が生じるとはされていない。また、化学物質について大規模な文献調査を行った株式会社三菱総合研究所「業務上疾病に関する医学的知見の収集に係る調査研究 報告書」(2015 年3月)の「8 弗化水素酸」の項にも肺気腫を生じるという記述はない。しかし(5)が明らかに誤りなのでこちらは正しいとしておく。
※ 肺気腫の最大の原因は喫煙であると考えられている。職業病としては、水酸化ナトリウムにばく露して肺気腫などの症状を呈したとする報告があり、フッ化カルボニルのげっ歯類への投与で肺気腫を生じたという報告書も見られる。また、2017年には、樹脂製造化学工場で架橋型アクリル酸系水溶性高分子化合物の粉じんにより肺組織の線維化、間質性肺炎、肺気腫、気胸等の肺疾患が発生したことが判明した。なお、肺気腫は現代の医学では治すことはできず、進行を遅らせることしかできない。
(2)正しい。2,3,7,8-四塩化ジベンゾ-パラ-ジオキシン(TCDD) は、環境省の「参考資料-2 塩素化ダイオキシン類の毒性について」(※)によると、ダイオキシン類のうち最も毒性が強いとされ、他のダイオキシン類の毒性の基準となる。また、ほ乳類を用いた実験で発がん性が認められている。
※ 環境省「平成16年度 臭素系ダイオキシン等排出実態調査結果報告書」(2006年12月)
【ダイオキシン類の毒性】
塩素化ダイオキシン類の毒性について
ダイオキシン類には多くの同族体が存在するが、毒性試験には、主に、最も毒性が強いとされる 2,3,7,8-TCDD を被験物質として用いている。
Ⅰ 実験動物による影響
1.発がん性
実験動物に対する 2,3,7,8-TCDD の発がん性については、Kociba らがラットの試験により、100ng/kg/日(2年間の連続投与)の投与量で、肝細胞がんの発生を観察、報告しているが、その他に、マウスやラットを用いた長期試験で甲状腺濾胞腺腫、口蓋・鼻甲介・舌及び肺の扁平上皮がん、リンパ腫の誘発が、ともに、投与量 71ng/kg/日(2年間の連続投与)において認められている。
なお、発がんメカニズムについては、遺伝子傷害性を検出するための複数の試験系で陰性の結果が得られ、マウスやラットを用いる二段階発がんの試験系でプロモーション作用が証明されている。
※ 環境省「参考資料-2 塩素化ダイオキシン類の毒性について」(平成16年度 臭素系ダイオキシン等排出実態調査結果報告書)
(3)正しい。ホルムアルデヒドは、接着剤や塗料の原料として用いられることは、厚労省のモデルSDS「ホルムアルデヒド」に記されている。
【ホルムアルデヒドの用途】
1.化学物質等及び会社情報
推奨用途及び使用上の制限:
ポリアセタール樹脂・ユリア樹脂及びメラミン樹脂接着剤・フェノール樹脂・合成ゴム・メラミン樹脂(接着剤を除く)・ユリア樹脂(接着剤を除く)原料、溶剤、医薬・繊維処理剤・紙力増強剤・土木建築材料原料、キレート剤、農薬合成原料、石炭酸系・尿素系・メラミン系合成樹脂、農薬(失効農薬)、消毒剤 (NITE-CHRIPより引用)
4.応急措置
予想される急性症状及び遅発性症状:
吸入:鼻咽頭粘膜の刺激(灼熱感、くしゃみ衝動、風邪)、場合によっては喘息発作/喘息性不調、高濃度は強い呼吸障害、咳発作、胸の圧迫感、頭痛、循環器反応を引き起こすことがある。声門浮腫/痙攣、気管支痙攣、場合によっては気管支炎、肺炎、肺水腫のリスク。
皮膚:濃度/時間に依存する腐食への刺激、皮膚の硬化と日焼けを伴う表在性の凝固壊死、アレルギー性皮膚反応、眼窩周囲水腫、蕁麻疹、遅延性湿疹形成、皮膚損傷と関連した全身的影響の可能性 。
眼:流涙、50ppm 濃度は腐食を引き起こす可能性 。
以上、GESTIS 参照。
※ 厚生労働省「ホルムアルデヒド」(職場のあんぜんサイト・モデルSDS)
さらに、平成14年3月15日基発第0315002号に、ホルムアルデヒドは「シックハウス症候群」の原因物質の一つであるとされている。
【ホルムアルデヒドとシックハウス】
近年、住宅に使用される建材等から室内に発散するホルムアルデヒド等の化学物質に室内空気が汚染されること等により、目、鼻、のど等への刺激、頭痛等の多様な症状が生じる、いわゆる「シックハウス症候群」が問題となっている。
厚生労働省労働基準局では、シックハウスに関連するホルムアルデヒド等の化学物質(以下「シックハウス関連化学物質」という。)についての職域における対策を検討するため、「職域におけるシックハウス対策に関する専門検討会」を設け、シックハウス関連化学物質の空気中濃度の実態の把握、指針値の検討等を進めてきたところである。
※ 厚生労働省「職域における屋内空気中のホルムアルデヒド濃度低減のためのガイドラインについて」(平成14年3月15日基発第0315002号)
また、先述したモデルSDSに、予想される急性症状として、咳、流涙が挙げられている。
さらに、厚生労働省「室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き」(※)によると、眼への刺激、喉への炎症、流涙があるとされている。なお、本問にはないが、発がん性は、IARC が 2A としている。
※ 厚生労働省「シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書-第6回及び第7回のまとめ」(2001年7月)
【ホルムアルデヒドによる健康影響】
4.室内空気中に存在する可能性のある揮発性有機化合物について
(1)ホルムアルデヒド
<健康影響>
短期暴露では0.08ppmあたりに臭いの検知閾値があるとされ、これが最も低い濃度での影響である。0.4ppm あたりに目の刺激閾値、0.5ppm あたりに喉の炎症閾値があるとされ、3ppm では目や鼻に刺激が起こり、4~5 ppmでは流涙し呼吸器に不快感が生じる。31ppm あたりで重篤な症状が起こり、104ppm あたりでは死亡する。IARC*で「ヒトに対し恐らく発がん性がある(2A)」と分類されているが、その作用機序からある一定以上の暴露がなければ発がんは起こらない(閾値がある)ものとされている。
* IARC(International Agency for Research on Cancer)は WHO に所属する国際的ながんの研究機関で、物質の発がん性について1、2A、2B、3、4(引用者注:2019年1月にクラス4は廃止された。)のクラス分けを行っている。
※ 厚生労働省「室内空気中化学物質についての相談マニュアル作成の手引き」(シックハウス(室内空気汚染)問題に関する検討会中間報告書-第6回及び第7回のまとめ)
また、日本産業衛生学会「許容濃度の暫定値(2007年度)の提案-ホルムアルデヒド」によれば、ホルムアルデヒドによって、上気道炎および接触皮膚炎が発症するとされている。
【ホルムアルデヒドによる健康影響】
4.生体影響
4.2.人体への影響
4.2.1.急性暴露
ヒトのホルムアルデヒド曝露による量・影響からみた主な症状は、曝露濃度が高くなるとともに不快感を伴う、眼、鼻および喉の刺激、流涙、流涕、咳、吐き気、呼吸困難を生じ,最後には死を引き起こすとしている。(略)
(略)
ホルムアルデヒドは眼や鼻咽頭を含む呼吸器系を刺激する物質として知られている。室内空気中に含まれるホルムアルデヒドは、まず刺激臭として感知され(閾値 0.05 ~1ppm)、続いて眼や上気道の粘膜刺激症状を引き起こす。水城らによれば、0.13ppm を超える濃度のホルムアルデヒドに曝露すると上気道の刺激が増加すると報告している。
4.2.2.慢性暴露
(略)
皮膚感作性については、ホルムアルデヒドに起因するとされる接触皮膚炎の症例が数多く報告されている。Shelley はホルムアルデヒドに起因する光過敏性皮膚炎で、急性の日焼け反応に似た症状を呈することを報告している。Rudzki らは、医療機関に従事する 152 名の皮膚炎症状を有する医療食の内、24 例にホルムアルデヒドに対する職業性の接触皮膚炎と診断できるパッチテストの結果を報告しており、一例は極めて重篤な症状であったとしている。
(略)
※ 日本産業衛生学会「許容濃度の暫定値(2007年度)の提案-ホルムアルデヒド」(産衛誌 Vol.49 2007年)
(4)正しい、ナフタレンについて、政府が作成したモデルSDSが、推奨用途として、合成樹脂の原料や防虫剤、有機顔料などの用途を示しており、本肢の前段は正しい。
また、モデルSDSで発がん性が区分2とされており、発がん性が疑われていることも正しい。
【ナフタレンの用途】
1.化学物質等及び会社情報
推奨用途及び使用上の制限:
染料中間体原料,防虫剤,無水フタル酸原料 (NITE-CHRIPより引用)
2.危険有害性の要約
健康に対する有害性
発がん性 区分2
※ 厚生労働省「ナフタレン」(職場のあんぜんサイト・モデルSDS)
また、IARC は、2002 年に発がん性区分を 2B(ヒトに対して発がん性があるかもしれない)」に分類した。なお、厚労省の「有害性総合評価表」は発がん性を「あり」としている。
(5)誤り。塩化ビニル(クロロエチレン)が、合成樹脂の原料として用いられることは正しい。しかし、4.応急措置の「急性症状及び遅発性症状の最も重要な徴候症状」に、本肢のような「レイノー症状、指の骨の溶解(指端骨溶解)、肝血管肉腫などが見られる」などという表現はない。
【ナフタレンの用途】
1.化学物質等及び会社情報
推奨用途及び使用上の制限:
塩化ビニル樹脂原料[塩化ビニル樹脂(ペーストレジンを含む)、塩化ビニル成分の多い共重合体(2 成分系:塩化ビニルモノマー、3 成分系:塩化ビニルモノマー)]、その他の共重合体[2 成分系:(塩化ビニルモノマー)、3 成分系:(塩化ビニルモノマー)]、塗料(NITE-CHRIPより引用)
4.応急措置
急性症状及び遅発性症状の最も重要な徴候症状
吸入:めまい、嗜眠、頭痛、意識喪失、かすみ眼、痺れ、刺痛感。
皮膚:液体に触れた場合は凍傷。
眼:充血、痛み。
以上、ICSC参照。
※ 厚生労働省「クロロエチレン」(職場のあんぜんサイト・モデルSDS)
なお、「塩化ビニル障害の予防について」(昭和50年6月20日基発第348号/最終改正:平成7年3月27日基発第145号)によると、肝の血管内腫、悪性新生物、肝疾患、脳血管の疾患、脾疾患、指端骨溶解症、レイノー症候群が生じるとされている。
しかしながら、これらの症状は長期ばく露(慢性ばく露)によって発症するものであり、本肢のような「高濃度の急性ばく露」で発症するような疾病ではない。ここで、「高濃度の急性ばく露」を読み落とすと、(1)がやや誤りともとれる微妙な内容だけに誤答してしまう。問題文はよく読まなければならない。
【塩化ビニルによる健康影響】
4.その他
(2)塩化ビニルを製造し、又は取り扱う作業(重合槽内における作業を含む。)に従事する労働者(退職者を含む。)から次の疾患等が発見された場合の労働基準局報告例規「衛 502 工業中毒等特殊疾病障害報告」には、「11 災害のあらまし」の欄の最初に朱書で当該疾病名等を記入すること。
なお、前記報告例規に該当しないものにあっては、発見された疾病等の概要について、本省労働衛生課まで報告すること。
イ 肝の血管内腫
ロ 悪性新生物(イを除く。)
ハ 肝疾患(イを除く。)
ニ 脳血管の疾患
ホ 脾疾患
ヘ 指端骨溶解症
ト レイノー症候群
※ 厚生労働省「塩化ビニル障害の予防について」(昭和50年6月20日基発第348号/最終改正:平成7年3月27日基発第145号)





