労働衛生コンサルタント試験 2025年 労働衛生一般 問16

物理的有害因子と障害の部位




問題文
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月桂冠とEXPERTの文字を支える手

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2025年度(令和07年度) 問16 難易度 医学的な内容だが、労働衛生分野ではごく基礎的な内容で、正答率は高い。正答できなければならない。
物理的因子  1 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

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問16 物理的因子と、それにより障害を受ける部位との次の組合せのうち、適切でないものはどれか。

物理的因子 障害を受ける部位
(1) 騒音 ・・・ 耳小骨
(2) 振動 ・・・ しょう神経
(3) 高気圧 ・・・
(4) レーザー光線 ・・・ 角膜
(5) 赤外線 ・・・ 水晶体

正答(1)

【解説】

問16試験結果

試験解答状況
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物理的因子と、それにより障害を受ける部位に関する問題は、2023年度の問14 においても出題されている。問題の形式は本問と同様であるが、各肢の具体的な物理因子と障害を受ける部位は、変更されている(※)

※ 過去問と同じ形式で、具体的な内容は変えるという出題の典型的な例である。過去問を学習するときに、その問題だけが解けるようになっても意味がない。

過去問を学習するときは、例えばこの問題については、たんにこの問題に表れた物理的因子と障害を受ける部位だけを覚えておくのではなく、労基則別表1の2を参照するなどして、様々な物理的因子とそれによる疾病を覚える必要があるということである。また、形式的に記憶するのではなく、その内容を自分のものにしておく必要がある。

2023 年度の問題も正答率は高かったが、今回はさらに正答率が高くなっている。ここの選択肢の内容は、労働衛生の分野では基本的な内容であり、初学者以外は正答できたものと思われる。

耳の構造

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(1)適切ではない。騒音によって、耳小骨(※)が障害されるわけではない。なお、厚労省の「騒音性難聴の認定基準について」は、「騒音ばく露によって障害される部位は内耳である」としている。

※ 耳小骨は、中耳にある音を伝える器官である。図は、(独法)高齢・障碍者雇用支援機構「聴覚障害者の職場定着推進マニュアル(第3版)」(2010年10月)より

また、騒音性難聴の機序について、和田(※)が、「曝露騒音が低音でも高音でも、騒音性難聴の初期変化は高音域の dip 型の難聴になる。そのメカニズムについては、外耳道共鳴説、リンパの渦流説、血管血流説などが提唱されいまだ確定ではないが、この周波数領域が解剖学的に固有蝸牛動脈と前庭蝸牛動脈蝸牛枝の吻合部に相当し血流障害に基づく有毛細胞障害が起こりやすいと説明する血管血流説が最も合理的と考えられる」としていることを紹介しておく。

※ 和田哲郎「騒音性難聴の最近の知見(疫学、基礎など)」(日本耳鼻咽喉科学会会報 Vol.120 No.3 2017年)

【騒音性難聴の病態】

(解説)

1.騒音性難聴の病態

  (前略)

  騒音ばく露によって障害される部位は内耳である。内耳に起こる病的変化の発生機序に関しては必ずしも明らかになってはいないが、蝸牛基底回転におけるラセン器の変性であると考えられている。

  (後略)

※ 厚生労働省「騒音性難聴の認定基準について」(昭和61年3月18日基発第149号)

(2)適切である。労基則別表1の2に、身体に振動を与える業務による末しよう神経障害が定められている。

なお、振動によって、手指等の末梢循環障害、末梢神経障害及び運動器(骨、関節系)障害の3つの障害が発生する。

【労働基準法施行規則】

第35条 法第75条第2項の規定による業務上の疾病は、別表第一の二に掲げる疾病とする。

別表第一の二条 (第三十五条関係)

一及び二 (略)

 身体に過度の負担のかかる作業態様に起因する次に掲げる疾病

1及び2 (略)

 さく岩機、びよう打ち機、チェーンソー等の機械器具の使用により身体に振動を与える業務による手指、前腕等の末しよう循環障害、末しよう神経障害又は運動器障害

四~十一 (略)

【振動障害とは】

 職場のあんぜんサイト

 安全衛生キーワード

 振動障害

1 振動障害とは

  振動障害は、チェーンソー、グラインダー、刈払機などの振動工具の使用により発生する手指等の末梢循環障害、末梢神経障害及び運動器(骨、関節系)障害の3つの障害の総称です。

  (後略)

※ 厚生労働省「振動障害」(職場のあんぜんサイト:安全衛生キーワード)

(3)適切である。ヒトはその変化が急速でさえなければ、かなりの高圧にも耐えられる。例えば、中山(※)によると、ヒトは 90 気圧程度までは生存可能と考えられるとされている。しかしながら、高圧になることで酸素の分圧が高くなり、高分圧の酸素を長時間呼吸すると、胸部違和感、咳・痰、肺活量の減少などの症状が生じる。

※ 中山英明「高圧環境における居住」(人間工学 Vol.16 No.2 1980 年)

【高分圧酸素の健康影響】

1.高圧下の生存条件

(2)酸素(O2)分圧

  生命の維持に不可欠の酸素も、長時間暴露となると 0.17 ~ 0.5 気圧に保つことが酸欠もしくは酸素中毒を回避する手段となる。高分圧酸素は酸素中毒を起こすが、分圧 2.0 以上で中枢神経障害を、0.5 気圧以上で肺水腫を起こす(Fig.1)。空気が高圧下の呼吸ガスとして不適なことは、4 ATA を超えれば必ずしも安全であるとはいえないことによる。(後略)

※ 中山英明「高圧環境における居住」(人間工学 Vol.16 No.2 1980 年)

また、高気圧から急激に減圧すると、肺内の空気によって肺胞を傷つけられ間質気腫が生じることがある。例えば、日高他は、「正しく呼気をしながら浮上しているにもかかわらず、肺圧外傷あるいは空気塞栓症が生じる原因として、まず肺内にブラ、ブレブあるいは瘢痕等の病変部が存在する場合があげられる。すなわち、適切な呼気を行っていても、肺内の病変部の一部に空気が捕捉されて閉じ込められたままとなって、浮上時にその部分の過膨張を来し、そこから肺圧外傷さらには空気塞栓症が引き起こされる可能性があり、剖検で確認された症例も報告されている」としている。

※ 日高利彦他「浮上直後の意識障害」(日救急医会誌 No.4 1993年)

(4)適切である。強いレーザー光線が眼に当たると、角膜疾患が発症する。例えば、石場(※)は、「「レーザーの人体に対する悪影響」に関しては「皮膚に関してはやけど」、「目に関しては角膜、網膜傷害」「その他の障害として、装置の高電圧部接触による感電や加工粉じん、発生ガスなどの2次的な影響による健康障害」などが一般的に考慮されている」としている。

※ 石場義久「レーザー用保護めがねの使用時における留意点」(日レ医誌 Vol.40 No.2 2019年)

なお、「レーザー光線による障害防止対策要綱」では、レーザーを取り扱う労働者に角膜などの健康診断をすることとしている。

【レーザー機器取扱作業と目の検査】

Ⅰ クラス4のレーザー機器に係る措置

3 作業管理・健康管理等

(6)健康管理

  レーザー業務に常時従事する労働者については、雇い入れ又は配置替えの際に視力検査に併せて前眼部(角膜、水晶体)検査及び眼底検査を行うこと。

Ⅱ クラス3Bのレーザー機器に係る措置

3 作業管理・健康管理等

(5)健康管理

  レーザー業務に常時従事する労働者については、雇い入れ又は配置替えの際に視力検査に併せて前眼部(角膜、水晶体)検査を行うこと。

Ⅲ クラス3Rのレーザー機器に係る措置

2 作業管理・健康管理等

(5)健康管理

  レーザー業務従事者(400nm ~ 700nm の波長域外のレーザー光線を放出するレーザー機器を取り扱う業務又は当該レーザー光線にさらされるおそれのある業務に常時従事する労働者に限る。)については、雇い入れ又は配置替えの際に視力検査に併せて前眼部(角膜、水晶体)検査を行うこと。

※ 厚生労働省「レーザー機器のクラス別措置基準」(「レーザー光線による障害防止対策要綱」(昭61.1.27 基発第39号/最終改正:平成17年3月25日基発第0325002号の別記)

(5)適切である。労基則別表1の2に、赤外線にさらされる業務による白内障(※)等の眼疾患が定められている。また、昭和31年5月18日基発第308号は、赤外線にさらされる業務について、1年以内ごとに1回、網膜熱傷、白内障及び皮膚障害について健康診断を行うことを定めている。

※ いうまでもないが、白内障とは水晶体が白濁する疾病である。赤外線によって水晶体の温度が上がり、これによって白内障が発症すると考えられている。

【労働基準法施行規則】

第35条 法第75条第2項の規定による業務上の疾病は、別表第一の二に掲げる疾病とする。

別表第一の二条 (第三十五条関係)

 (略)

 物理的因子による次に掲げる疾病

 (略)

 赤外線にさらされる業務による網膜火傷、白内障等の眼疾患又は皮膚疾患

3~5 (略)

三~十一 (略)

また、ACGIH は、眼の角膜と水晶体の保護のための赤外放射の許容基準を公表している(※)

※ ただし、これについては、奥野勉他「水晶体混濁を引き起こす赤外放射の照度の閾値とその曝露時間依存性」(労働安全衛生総合研究所特別研究報告 JNIOSH-SRR-NO.44 2014年)などによって、不適切ではないかと指摘されている。