問9 酸素欠乏症及び硫化水素中毒とその予防に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)空気中の酸素濃度が約 16 %を下回ると脈拍数や呼吸数の増加が現れる。
(2)酸素濃度が6%未満の空気を1回でも吸入すると、意識喪失のリスクがある。
(3)酸素欠乏症の症状は、重度の筋作業中や疲労しているときに重症化する。
(4)硫化水素は無色で腐卵臭があり、水には溶けにくい。
(5)硫化水素濃度 20 ~ 30ppm で嗅覚疲労、100 ~ 300ppm で嗅覚神経麻痺が起こる。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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| 2025年度(令和07年度) | 問09 | 難易度 | ほぼ過去問の学習だけで正答でき、レベルも衛生管理者試験程度である。こんな問題を落としてはならない。 |
|---|---|---|---|
| 酸素欠乏症等 | 2 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問9 酸素欠乏症及び硫化水素中毒とその予防に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)空気中の酸素濃度が約 16 %を下回ると脈拍数や呼吸数の増加が現れる。
(2)酸素濃度が6%未満の空気を1回でも吸入すると、意識喪失のリスクがある。
(3)酸素欠乏症の症状は、重度の筋作業中や疲労しているときに重症化する。
(4)硫化水素は無色で腐卵臭があり、水には溶けにくい。
(5)硫化水素濃度 20 ~ 30ppm で嗅覚疲労、100 ~ 300ppm で嗅覚神経麻痺が起こる。
正答(4)
【解説】
(1)正しい。本肢は、おそらく杉本(※)から出題したものであろう。ここには「酸素濃度が低下し、16 %になると脈拍・呼吸数増加などの自覚症状が現れ(る)
」と、ほぼ本肢と同じ表現がある。
※ 杉本和弘「酸素欠乏・硫化水素危険作業について」(名古屋大学全学技術センター)
なお、杉本による酸素濃度等と症状の表と、政府のパンフレットに記載されている表を参考までに示しておく。
【酸素濃度等と症状】
1 酸素及び硫化水素の濃度による人体の影響
表1.酸素濃度と症状等 酸素濃度 症状等 21% 大気中濃度 18% 安全下限界 16% 自覚症状現れる 14% 運動機能の低下 10% 死の危険 6% 昏倒、即死
表2.硫化水素濃度と症状等 H2S 濃度 症状等 0.3ppm 臭気を感知する 10ppm 眼の粘膜刺激値下限界 20ppm 嗅覚疲労が起こる 100ppm 長時間暴露で窒息死 700ppm 呼吸麻痺で死亡 5000ppm 即死 ※ 杉本和弘「酸素欠乏・硫化水素危険作業について」(名古屋大学全学技術センター)
| 酸素 濃度 |
症状等 |
|---|---|
| 21% | 通常の空気の状態 |
| 18% | 安全限界だが連続換気が必要 |
| 16% 12% 8% 6% |
頭痛、吐き気 目まい、筋力低下 失神昏睡、7~8分以内に死亡 瞬時に昏倒、呼吸停止、死亡 |
| 硫化水素 濃 度 |
症状等 |
|---|---|
| 5ppm程度 | 不快臭 |
| 10ppm | 許容濃度(眼の粘膜の刺激下限界) |
| 20ppm ↓ 350ppm ↓ 700ppm |
気管支炎、肺炎、肺水腫 生命の危険 呼吸麻痺、昏倒、呼吸停止、死亡 |
※ 厚生労働省「なくそう 酸素欠乏症・硫化水素中毒」
(2)正しい。(1)の解説で示した厚労省のパンフレット「なくそう 酸素欠乏症・硫化水素中毒」の酸素欠乏症の表によれば、酸素濃度が6%未満の空気にばく露すると、瞬時に昏倒する。
これは酸欠空気を1回でも吸入すると、肺胞内の酸素濃度が毛細血管側よりも下がるので、毛細血管側へ酸素が移動しにくくなり(外呼吸が困難となる)、意識喪失のリスクが発生するのである。
図は、肺胞における外呼吸の仕組みを示したイラストであるが、赤い玉が酸素を表している。肺胞と血管の間には半透膜があり、その両側で、ある物質の濃度が不平衡状態になっていると、その物質は濃度が高い方から低い方へ移動する性質(浸透圧)がある。この性質を利用して、酸素を肺胞から血管側へ取り込み、二酸化炭素を排出するのが外呼吸の仕組みである。
酸素濃度の低い空気を吸い込むと、この外呼吸ができなくなるので、一瞬で意識喪失のリスクが生じるのである。なお、(一財)中小建設業特別教育協会(※)の資料によると、空気中酸素濃度が6%となり、動脈血中酸素飽和度が 30 %以下になると、「数回のあえぎ呼吸で失神・昏倒・呼吸緩徐、停止・けいれん・心停止・死亡
」という症状が現れるとされている。
※ (一財)中小建設業特別教育協会「【第2章】第2節 酸素欠乏症の病理と症状②」(酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育 教育課程)より
(3)正しい。例えば、(一財)中小建設業特別教育協会(※)の資料は、「酸素濃度と酸素欠乏症の症状等との関係を表2-3(表略:引用者)に示します。これらの症状は、筋力をたくさん必要とする労働や疲れているとき、あるいは二日酔い等の場合は重症化します
」としている。
※ (一財)中小建設業特別教育協会「【第2章】第2節 酸素欠乏症の病理と症状②」(酸素欠乏・硫化水素危険作業特別教育 教育課程)より
(4)誤り。硫化水素のモデルSDSによれば、硫化水素は「無色の圧縮液化ガス」で「特徴的な臭気(腐敗した卵)」があるとされている。従って本肢の前段の「無色で腐卵臭がある」ことは正しい。
しかし、溶解度は「5 g/L(20℃)(水)」とされており、水には溶けやすい。だからこそ、温泉の湯に硫化水素が溶け込み、これによって温泉客の硫化水素中毒が発生するのである。環境省のガイドライン(※)は、入湯客や温泉施設職員が硫化水素中毒にり患しないようにするための防止策を定めている。
環境省「温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止のためのガイドライン」(2017 年9月)
(5)正しいとしてよい。濃度については、テキストによって違いがあるが、硫化水素濃度 20 ~ 30ppm で嗅覚疲労、100 ~ 300ppm で嗅覚神経麻痺が起こる。
例えば、環境省の「平成27年度温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止策検討委託業務 後半(平成28年3月)」(温泉の保護と利用「関連資料」)には次のように記されている。
【硫化水素と嗅覚疲労】
ヒアリング結果のまとめ2
中央労働災害防止協会 労働衛生調査分析センター
化学物質調査分析課 技術専門役 衛生管理士
東久保 一朗 様
於:中央労働災害防止協会
硫化水素を測定する際に注意すべきこととして考えられることはありますか?
1.ヒトは硫化水素濃度 20 から 30ppm で嗅覚疲労を発症し、それ以上の濃度になっても強さを感じなくなる。さらに 100ppm 以上になると嗅覚神経麻痺で臭いを感じなくなる。
※ 環境省の「平成27年度温泉利用施設における硫化水素中毒事故防止策検討委託業務 後半(平成28年3月)」(温泉の保護と利用「関連資料」)より
なお、経済産業省の「AEGL翻訳情報」の「急性曝露ガイドライン濃度(AEGL)硫化水素」の項には次のように記されている。
【硫化水素と嗅覚疲労】
設定根拠(要約):
空気中臭気閾値は 0.008 ~ 0.13 ppm であり、100 ppm で嗅覚疲労が起こる場合がある。Beauchamp et al.(1984)は、150 ppmで嗅神経麻痺が認められたことを報告している。H2S の環境大気中濃度の平均は、0.00071 ~ 0.066 ppmである。
※ 経済産業省サイト「急性曝露ガイドライン濃度(AEGL)硫化水素」(AEGL 翻訳情報)より





