問8 潜水による健康障害に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)環境圧の変化に伴い、体内の開鎖空間で体積の変化が生じ気圧外傷を起こす。
(2)寝不足、疲労、脱水及び肥満は、減圧症の発症リスクを高める要因となる。
(3)減圧すると組織内に取り込まれた二酸化炭素が過飽和状態となり、気泡が組織や血管内に形成され減圧症が生じる。
(4)減圧時に肺が過膨張となってガスが動脈系に入ると、末梢の組織で気泡による動脈ガス塞栓症が生じる。
(5)水温が低い環境で運動の負荷が大きいと、肺水腫が生じる可能性が高い。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
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| 2025年度(令和07年度) | 問08 | 難易度 | 潜水作業は頻出であり、しかも本問は過去問の学習で正当可能。こんな問題を落としてはならない。 |
|---|---|---|---|
| 潜水作業と健康障害 | 2 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問8 潜水による健康障害に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。
(1)環境圧の変化に伴い、体内の開鎖空間で体積の変化が生じ気圧外傷を起こす。
(2)寝不足、疲労、脱水及び肥満は、減圧症の発症リスクを高める要因となる。
(3)減圧すると組織内に取り込まれた二酸化炭素が過飽和状態となり、気泡が組織や血管内に形成され減圧症が生じる。
(4)減圧時に肺が過膨張となってガスが動脈系に入ると、末梢の組織で気泡による動脈ガス塞栓症が生じる。
(5)水温が低い環境で運動の負荷が大きいと、肺水腫が生じる可能性が高い。
正答(3)
【解説】
減圧時の健康障害に関する過去問は多い。しかも本問の正答の肢である(3)は、2021年度 問6のイと同じ内容なのである。
そのこともあるのか、正答率は高かった。一方、15%程度の受験者が(5)と解答している。
(1)適切である。本肢にあるように、環境圧が変化すれば、体内の開鎖空間の中にある気体の体積が変化して、身体の組織が変形することになり、強度が耐え切れなくなれば気圧外傷を起こす。
なお、この気圧外傷が肺に起これば、肺胞が破れて空気が肺と胸壁の間に入り気胸を引き起こすことがある。また、空気が肺の外に漏れれば、漏れた場所によって縦隔気腫、皮下気腫、空気塞栓症などを発症する。
本肢の現象が肺以外の臓器で起きるのがスクイーズである。なお、厚労省の労災認定基準(※)では、スクイーズについて次の場合は労働災害とすることとされている。
※ 厚生労働省「高気圧作業による疾病(潜函病、潜水病等)の認定について」(昭和 36 年5月8日基発第 415 号)
【スクイーズの労災認定】
標記について、潜函、潜水その他高気圧作業に従事する労働者が、当該作業により、下記に掲げる潜函病、又は潜水病にかかった場合には労働基準法施行規則別表第1の2第2号6に、聴器及び副鼻腔の障害並びに歯牙疾患、過膨脹による肺破裂、潜水墜落病等にかかった場合には、同別表第2号13にそれぞれ該当する疾病として取り扱われたい。
5 潜水墜落病等(いわゆるスクイーズ)について
潜水作業中に、体表に不平均に圧が加わったことにより発生した高度の頭部、顔面部のうっ血、浮腫、皮下粘膜の出血又は眼球突出若しくは呼吸困難等の症状を呈した場合
※ 厚生労働省「高気圧作業による疾病(潜函病、潜水病等)の認定について」(昭和 36 年5月8日基発第 415 号)より
(2)適切である。寝不足、疲労、脱水及び肥満は、減圧症の発症リスクを高める要因となる。例えば、鈴木(※)は、減圧症を起こしやすい要因として次のものを挙げる。
※ 鈴木信哉「減圧障害の発生機序 その予防と治療」(第8回 潜水医学講座小田原セミナー 2007年2月)
【減圧症の発症リスク】
1 減圧症
気泡出現が必ずしも減圧症の発症と一致するわけではないが、気泡出現の程度に比例して減圧症が発症しやすくなるという報告があり、気泡の出現は、減圧が適切かどうかのある程度の目安となる。
減圧症は気泡が組織内や血管内に形成されることにより惹起される病態であるが、減圧症は臨床症状により、Ⅰ型(軽症)及びⅡ型(重症)減圧症に分類される。減圧症を起こしやすい要因としては、
① 寝不足、疲労、ストレス(不安)
② 脱水(飲水不足)
③ 潜水前の飲酒
④ 肥満
⑤ 高齢
⑥ 病気やけが
⑦ 減圧停止を必要とする潜水
⑧ 繰り返しの潜水
⑨ 潜水前、中、後の運動過多
⑩ 冷水での潜水
⑪ 潜水後の飛行、山越え
⑪ 高地での潜水
などがある。
※ 鈴木信哉「減圧障害の発生機序 その予防と治療」(第8回 潜水医学講座小田原セミナー 2007年2月)より
(3)適切ではない。減圧すると組織内に取り込まれた窒素(二酸化炭素ではない)が過飽和状態となり、気泡が組織や血管内に形成され減圧症が生じる。本肢は、冒頭でも説明したように、2021年度 問6のイと同じ内容である。
(4)減圧障害には、減圧症と動脈ガス塞栓症がある。動脈ガス塞栓症は、(1)の解説で述べた肺から漏れたガスが動脈系に入った場合に、末梢の組織で気泡によって生じる疾病である。臨床症状としては、「減圧から短時間のうちに、片側の運動麻痺、痙攣発作や意識障害がみられる
」とされている(※)。
※ 合志清隆他「高気圧作業安全衛生規則の課題と今後のあり方について」(J UOEH(産業医科大学雑誌) Vol.44 No.4 2022年)
(5)適切である。肺水腫とは肺胞の周囲の毛細血管中の水が肺胞へ溜まることである(※)。水泳や潜水によって肺水腫が起きるのは、浸水性肺水腫(IPE:Immersion Pulmonary Edema)と呼ばれ、環境圧が上がることで血液が毛細血管へ移動して血流量が増えることなどによる。また、環境圧が上がることで毛細血管内の圧力が上がることによる陰圧性肺水腫、運動により血流が増加することによる運動誘発性肺水腫や、低い水温のために毛細血管が狭くなることで血圧が上がることなども関係する。
※ なお、胸水は、肺の外側に水が溜まることであり、肺水腫はこれとは異なる
水泳時の肺水腫のリスク要因には、圧刺激の強さ、水温の低さ、運動の激しさ、多量の飲水、高血圧症、心臓弁膜症、心筋症、肺疾患、肥満、高年齢、女性などがある。また、一度、水泳時に肺水腫に罹ったことがある場合も発症のリスクは高いと考えるべきである。





