労働衛生コンサルタント試験 2025年 労働衛生一般 問05

石綿による健康影響等




問題文
トップ
月桂冠とEXPERTの文字を支える手

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2025年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2025年度(令和07年度) 問05 難易度 石綿による健康影響は2年連続しての出題。内容は基本的なものであり、確実に正答できなければならない。
石綿の健康影響  2 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問5 石綿に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)石綿が肺組織や胸膜などに長く滞留することが原因となって、肺がんや中皮腫が発生すると考えられている。

(2)石綿のばく露作業者が喫煙している場合、肺がんの患リスクが増大する。

(3)石綿ばく露によって生じる肺がんは、通常の肺がんと比較して、発生部位、病理組織型が大きく異なる。

(4)中皮腫の罹患リスクは石綿の種類によって異なり、クロシドライトは他の石綿に比べてリスクが高い。

(5)石綿関連疾患の中で、中皮腫は潜伏期間が長く、他の石綿関連疾患に比べて、より少ないばく露量でも罹患する。

正答(5)

【解説】

問5試験結果

試験解答状況
図をクリックすると拡大します

(1)正しい。石綿が肺組織や胸膜などに長く滞留することが原因となって、肺がんや中皮腫が発生すると考えられている。例えば、日本肺癌学会のサイト「Q79 アスベストが原因なのでしょうか」には、「アスベストは細長い繊維となって鼻や口から吸入され、気管支を通過して肺内の肺胞はいほうという小さな袋まで運ばれます。一度吸い込まれるといつまでも肺内にとどまり、一部は肺胞を貫いて胸膜に到達します。そして、長い年月をかけて生体内でがん化を引き起こすと考えられています」とされている。

【石綿と肺がん・中皮腫】

第8章 悪性胸膜中皮腫

Q79 アスベストが原因なのでしょうか

  悪性胸膜中皮腫の原因はアスベスト(石綿せきめん)と考えられています。アスベストと悪性胸膜中皮腫の発生の因果関係は、実際にアスベスト曝露歴ばくろれきと病気の発生の関連を調査した研究から明らかです。アスベスト曝露によって起こる病気を「アスベスト関連疾患」と呼びます。アスベストの曝露量や曝露期間によって、アスベスト肺やびまん性胸膜肥厚せいきょうまくひこうなどの良性疾患や、肺がんや悪性胸膜中皮腫などの悪性疾患が発生します。とくに悪性胸膜中皮腫では、初めてアスベストに曝露したときから実際に発症するまでに 30〜40 年前後の長い期間があります。アスベスト肺、胸膜プラークなどの画像所見がある方は、のちに中皮腫が発生するリスクがあります。

  アスベストとは、天然の繊維状鉱物せんいじょうこうぶつで、クリソタイル(白石綿しろせきめん)、クロシドライト(青石綿あおせきめん)、アモサイト(茶石綿ちゃせきめん)、アクチノライト、アンソフィライト、トレモライトの6種類が商業用に生産されてきました。アスベストは細長い繊維となって鼻や口から吸入され、気管支を通過して肺内の肺胞はいほうという小さな袋まで運ばれます。一度吸い込まれるといつまでも肺内にとどまり、一部は肺胞を貫いて胸膜に到達します。そして、長い年月をかけて生体内でがん化を引き起こすと考えられています。

  (後略)

※ 日本肺癌学会「Q79 アスベストが原因なのでしょうか」(日本肺癌学会 患者さんのための肺がんガイドブック(2019年版))より

なお、「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書の関連部分を以下に引用しておく。

【石綿と肺がん・中皮腫】

Ⅱ 石綿関連疾患と石綿ぱく露との関係

1 中皮腫

(2)石綿が原因であることを判断する際の考え方

  すでに論じたとおり、中皮腫は、そのほとんどが石綿を原因とするものであり、中皮腫の診断の確からしさが担保されれば、石綿を原因とするものと考えて差し支えない。

  石綿ばく露量と発症との関係については、主に職業ばく露によって発症するが、IPCS(国際化学物質安全計画)(1986)も鉱山や工場周辺における近隣ばく露により中皮腫発症リスクが増加するとしており、また、家庭内ばく露による発症も報告されているなど、石綿の低濃度ばく露によっても発症する。ただし、へルシンキ国際会議において、Tossavainen(1997)は、大気中の石綿繊維 0.01 本/ml 以下の一般環境ばく露ではほとんど問題にならないと報告しており、一般環境ばく露程度では発症リスクは増加しないと考えられる。

  (中略)

  ばく露開始から発症までの期間については、各研究が指摘しているように、中皮臆は、最初のばく露から 30 年から 40 年以上のちに発病することから、職業ばく露由来か否かを明らかにするためには、職業歴・居住歴を詳細に確認する必要がある。また、30 歳以下の若年発症例については、居住歴と潜伏期間をも考慮に入れた石綿ばく露の可能性及び中皮腫の診断精度を確認する必要がある。

2 肺がん

(2)石綿が原因であることを判断する際の考え方

  肺がんは、喫煙との関係が大きい疾患である。石綿ばく露量と発症との関係については、一般に高濃度あるいは中濃度の職業性ばく露が関係しているもので、通常の一般環境ばく露では、石綿によって肺がんの発症リスクが2倍になることは考えられない。

  現在ある様々な医学的知見を総合すると、石綿が原因である肺がんであることを判断するための考え方としては、肺がんの発症リスクを2倍に高める石綿ばく露量であるとする考えが妥当である。その指標としては、25本/ml × 年以上の累積ばく露量がこれに該当し、これを示す医学的所見は、石綿肺(第1型以上)、乾燥肺重量1g当たり石綿小体 5000 本以上、BALF 1ml 中石綿小体5本以上又は乾燥肺重量1g当たり石綿繊維 200 万本以上(5μm 超)とするのが妥当と考える。

  (中略)

  一方、ばく露期間に関しては、ヘルシンキ国際会議のコンセンサスレポート(1997)では、25本/ml × 年に相当するものとして、石綿製品製造業、断熱工事業、石綿吹付作業などの高濃度ばく露では1年、造船作業、建設作業などの中濃度ばく露では5~10 年としているが、我が国では、業種別・職種別にばく露の程度は明らかではなく、また、同じ業種・職種でも作業内容やその頻度によってばく露の程度に差があることから、わが国では業種・職種をもって高濃度ばく露あるいは中濃度ばく露と評価することはできないと考える。

  これらのことから、ヘルシンキ国際会議のコンセンサスレポートに示された業種別・作業別のばく露期間をそのまま採用することは困難であり、職業ばく露とみなすために必要なばく露期間に関しては、諸外国での取扱いを踏まえ、胸膜プラーク等の石綿ばく露所見が認められ、原則として石綿ばく露作業に概ね 10 年以上従事したことをもって肺がんリスクを2倍に高める指標とみなすことは妥当である。

  (後略)

※ 石綿に関する健康管理等専門家会議「「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書」(2006年2月)より

(2)正しい。石綿のばく露作業者が喫煙している場合、肺がんの患リスクが増大する。

【喫煙と石綿ばく露と肺がんの関係】

Ⅱ 石綿関連疾患と石綿ぱく露との関係

2 肺がん

(1)成因、診断等

ア 病因

(ア)石綿ぱく露との関係

  肺がん(原発性)は、石綿に特異的な疾患である中皮腫と異なり、喫煙をはじめ、石綿以外に発症原因が多く存在する疾患であり、石綿よりも喫煙の影響の方が大きいといわれている。WHO/IARC (国際がん研究機関)は、World Cancer Report(2003)で男性の 80 %、女性はそれより低く、全世界では 45 %、北ヨーロッパに限れば 70 %が喫煙によるものだと報告している。

  なお、肺がん発症における喫煙と石綿の関係は、相加的よりも相乗的に作用すると考えられており、IPCS(1999)は、喫煙歴も石綿ばく露歴も無い人の発がんリスクを1とすると、喫煙歴があって石綿ばく露歴がない人では 10.85 倍、喫煙歴が無く石綿ばく露歴がある人では 5.17 倍、喫煙歴も石綿ばく露歴もある人は 53.24 倍になるとしている。

  このように、喫煙は、石綿による肺がんの発症リスクを極めて高くすることから、石綿による肺がん発症を予防する観点からは、禁煙することが望ましい。

  (後略)

※ 石綿に関する健康管理等専門家会議「「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書」(平成18年2月)より

上記の IPCS(1999)による石綿へのばく露歴と喫煙歴の有無ごとの罹患リスクを表形式にまとめると次のようになる。喫煙の肺がんへの罹患リスクが大きいことが分かる。また、10.85(ばく露歴なし・喫煙歴あり)× 5.17(ばく露歴あり・喫煙歴なし)=56.09 となり、53.24(ばく露歴あり・喫煙歴あり)と近い数値となる。

喫煙歴
なし あり
ばく露歴 なし 1.00 10.85
あり 5.17 53.24

(3)誤り。石綿ばく露によって生じる肺がんは、通常の肺がんと比較して、発生部位、病理組織型が異なるわけではない。例えば、環境省「石綿ばく露者の健康管理に関する保健指導マニュアル」には「石綿ばく露によって生じる肺がんには、発生部位や病理組織型(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がんなど)の特徴はありません」とされている。

【石綿による肺がんとその他の肺がん】

Ⅱ 基礎知識

4.石綿関連疾患について

② 肺がん(原発性肺がん)

【診断】

  石綿ばく露によって生じる肺がんには、発生部位や病理組織型(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がんなど)の特徴はありません。石綿ばく露が原因である肺がんの診断には、比較的高濃度の石綿ばく露作業歴のほかに、じん肺法で定められた1型以上と同様の肺線維化所見、広範囲な胸膜プラーク、肺内の石綿小体(乾燥重量肺1g当り 5,000 本以上)などの医学的所見が参考になります。

※ 環境省「石綿ばく露者の健康管理に関する保健指導マニュアル」(2017年6月)より

(4)正しい。石綿には、クリソタイル(白石綿)、クロシドライト(青石綿)、アモサイト(茶石綿)などがある。クロシドライト、アモサイトはクリソタイルに比べてリスクが高い。例えば、環境省「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン」には、「中皮腫の場合、クロシドライトの危険性が最も高く、アモサイトがこれに次ぎ、クリソタイルはクロシドライト、アモサイトよりも危険性が低いといわれています」とされている。

【石綿の種類と中皮腫のリスク】

1.本ガイドラインの策定について

(1)石綿について

  (略)

  石綿には、表 1-1 に示す6種類があります。石綿の種類により発症リスクに差があり、中皮腫の場合、クロシドライトの危険性が最も高く、アモサイトがこれに次ぎ、クリソタイルはクロシドライト、アモサイトよりも危険性が低いといわれています。

  (略)

表1-1 石綿の種類
石綿名
クリソタイル(白石綿 chrysotile)
アモサイト(茶石綿 amosite)
クロシドライト(青石綿 crocidolite)
アンソフィライト石綿(fibrous anthophyllite)
トレモライト石綿(fibrous tremolite)
アクチノライト石綿(fibrous actinolite)
※ 環境省「建築物等の解体等工事における石綿飛散防止対策に係るリスクコミュニケーションガイドライン」(2017年4月)より

なお、石綿の種類による発症リスクの高さは、肺がんについても同様である。参考までに環境再生保全機構「アスベスト(石綿)とは」について示す。

【石綿の種類と肺がんのリスク】

アスベスト(石綿)とはどのようなものか

アスベスト(石綿)の種類について

石綿 分類 石綿名 備考
蛇紋石族 クリソタイル(白石綿) ほとんどすべての石綿製品の原料として使用されてきた。世界で使われた石綿の9割以上を占める。
角閃石族 クロシドライト(青石綿) 吹付け石綿として使用されていた。他に青石綿は石綿セメント高圧管、茶石綿は各種断熱保温材に使われてきた。
アモサイト(茶石綿)
アンソフィライト石綿 他の石綿やタルク(滑石)、蛭石などの不純物として含まれる。アンソフィライト石綿は熊本県旧松橋町に鉱山があった。トレモライト石綿は吹付け石綿として一部に使用されていた。
トレモライト石綿
アクチノライト石綿

  石綿は、極めて細い繊維で、熱、摩擦、酸やアルカリにも強く、丈夫で変化しにくいという特性を持っていることから、建材(吹き付け材、保温・断熱材、スレート材など)、摩擦材(自動車のブレーキライニングやブレーキパッドなど)、シール断熱材(石綿紡織品、ガスケットなど)といった様々な工業製品に使用されてきました。

  しかし、石綿は肺がんや中皮腫を発症する発がん性が問題となり、現在では、原則として製造・使用等が禁止されています。その発がん性は次のようになります。

石綿の種類と発がん性

  

※ (独法)環境再生保全機構「アスベスト(石綿)とは」より

(5)正しい。石綿関連疾患の中で、中皮腫は一般に肺がんより潜伏期間が長く、他の石綿関連疾患に比べて、より少ないばく露量でも罹患する。例えば、(独法)環境再生保全機構「石綿と健康被害(第5版)」(2010年8月)は次のように述べる。

【石綿と肺がん・中皮腫】

2 石綿(アスベスト)による健康被害

2.3 石綿(アスベスト)関連疾患

  (前略)

 石綿粉じんのばく露量と潜伏期間

図をクリックすると拡大します

  石綿関連疾患は石綿ばく露開始から発症までの潜伏期間が長いことが特徴です。石綿肺、肺がん、中皮腫、胸膜プラークと石綿粉じんばく露量、潜伏期間との関係については、図7のようになります。胸膜プラークや中皮腫は石綿肺や肺がんよりも低濃度のばく露で発症することが知られています。

※ (独法)環境再生保全機構「石綿と健康被害(第5版)」(2010年8月)より