労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生関係法令 問14

酸素欠乏症等防止規則による措置




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2人で受験勉強する医療関係者

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更する(号番号等を除く)などの修正を行いました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2024年度(令和6年度) 問14 難易度 酸欠則の基本的な条文問題。この年度は全体に難易度が高く、本問レベルの問題を落とすと合格は難しい。
酸欠則  3 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問14 酸素欠乏症等の防止に関する次のイ~二の記述について、労働安全衛生法令上、正しいもののみを全て挙げたものは(1)~(5)のうちどれか。

イ メタンを含有する地層に接する井戸の内部における作業、しょうゆを入れたことのある醸造槽の内部における作業は、どちらも第一種酸素欠乏危険作業に該当する。

ロ 第二種酸素欠乏危険作業については、その日の作業を開始する前等の所定の時期に、作業を行う場所の空気中の酸素及び硫化水素の濃度を、作業環境測定士に測定させなければならない。

ハ 酸素欠乏危険作業に労働者を従事させるときは、労働者を当該作業を行う場所に入場させ、及び退場させる時に、人員を点検しなければならない。

ニ 酸素欠乏危険作業に労働者を従事させる場合であって、爆発、酸化等の防止のため換気することができないときは、同時に就業する労働者の人数と同数以上の空気呼吸器、酸素呼吸器、送気マスク又は電動ファン付き呼吸用保護具を備え、労働者にこれを使用させなければならない。

(1) イ  ロ  ハ

(2) イ  ロ  ニ

(3) イ  ハ

(4) ロ  ニ

(5) ハ  ニ

正答(3)

【解説】

問14試験結果

試験解答状況
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イ 正しい。本肢の「メタンを含有する地層に接する井戸の内部における作業、しょうゆを入れたことのある醸造槽の内部における作業」は、いずれも酸欠則第2条第六号に該当するので酸素欠乏危険作業に該当する。

一方、いずれも同条第八号に該当しないので、第二種酸素欠乏危険作業には該当しない。従って、同条第七号により、第一種酸素欠乏危険作業に該当する。

第二種酸素欠乏危険場所とは、酸素欠乏のほかに硫化水素の発生の恐れのある場所である。硫化水素は、物が腐敗するときなどに発生する。メタンを含有する地層に接する井戸の場合、必ずしも硫化水素が発生するとは限らない。また、しょうゆの醸造では、有機物を発酵させるが腐敗はさせないので硫化水素が発生する量は多くない(※)

※ 有機物の腐敗と発酵は、微生物の働きによる有機物の変化という意味においては同じ現象である。しかし、発酵の場合は人に有益なものに変わり、腐敗の場合は人に有益性のないものに変わることで区別されている。どちらの場合も硫化水素は発生するが、一般に腐敗の方が硫化水素の発生量は多い。

なお、槇光章「腐敗食品の硫化水素の発生に関する研究」(家政学雑誌 Vol.17 No.5 1966年)など参照

【安全衛生法施行令】

別表第六 酸素欠乏危険場所(第六条、第二十一条関係)

 次の地層に接し、又は通ずる井戸等(井戸、井筒、たて坑、ずい道、潜函かん、ピツトその他これらに類するものをいう。次号において同じ。)の内部(次号に掲げる場所を除く。)

イ及びロ (略)

 メタン、エタン又はブタンを含有する地層

ニ及びホ (略)

二~七 (略)

 しようゆ、酒類、もろみ、酵母その他発酵する物を入れてあり、又は入れたことのあるタンク、むろ又は醸造槽の内部

九~十二 (略)

【酸素欠乏症等防止規則】

(定義)

第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~五 (略)

 酸素欠乏危険作業 労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所(以下「酸素欠乏危険場所」という。)における作業をいう。

 第一種酸素欠乏危険作業 酸素欠乏危険作業のうち、第二種酸素欠乏危険作業以外の作業をいう。

 第二種酸素欠乏危険作業 酸素欠乏危険場所のうち、令別表第六第三号の三、第九号又は第十二号に掲げる酸素欠乏危険場所(同号に掲げる場所にあつては、酸素欠乏症にかかるおそれ及び硫化水素中毒にかかるおそれのある場所として厚生労働大臣が定める場所に限る。)における作業をいう。

ロ 誤り。酸欠則第3条により、第二種酸素欠乏危険作業についてその日の作業を開始する前等の所定の時期に、作業を行う場所の空気中の酸素及び硫化水素の濃度を測定しなければならないことは正しい。

しかし、同規則第 11 条第3項が準用する同条第2項(第二号)により、測定を行うべきは「第二種酸素欠乏危険作業に係る酸素欠乏危険作業主任者」である。作業環境測定士に測定させなければならないのではない。

酸素欠乏危険場所は、その日の作業を行う前に測定しなければならないので、作業環境測定士に測定を行わせるのは現実的ではない(※)

※ 作業環境測定士がいる事業場は、かなりの大企業である。

【安全衛生法】

(作業環境測定)

第65条 事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。

2~5 (略)

【安全衛生法施行令】

(作業環境測定を行うべき作業場)

第21条 法第65条第1項の政令で定める作業場は、次のとおりとする。

一~八 (略)

 別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所において作業を行う場合の当該作業場

 (略)

【酸素欠乏症等防止規則】

(作業環境測定等)

第3条 事業者は、令第21条第九号に掲げる作業場について、その日の作業を開始する前に、当該作業場における空気中の酸素(第二種酸素欠乏危険作業に係る作業場にあつては、酸素及び硫化水素)の濃度を測定しなければならない。

 (略)

(作業主任者)

第11条 (第1項 略)

 事業者は、第一種酸素欠乏危険作業に係る酸素欠乏危険作業主任者に、次の事項を行わせなければならない。

 (略)

 その日の作業を開始する前、作業に従事するすべての労働者が作業を行う場所を離れた後再び作業を開始する前及び労働者の身体、換気装置等に異常があつたときに、作業を行う場所の空気中の酸素の濃度を測定すること。

三及び四 (略)

 前項の規定は、第二種酸素欠乏危険作業に係る酸素欠乏危険作業主任者について準用する。この場合において、同項第一号中「酸素欠乏」とあるのは「酸素欠乏等」と、同項第二号中「酸素」とあるのは「酸素及び硫化水素」と、同項第三号中「酸素欠乏症」とあるのは「酸素欠乏症等」と読み替えるものとする。

ハ 正しい。酸欠則第8条第1項。酸素欠乏危険作業に労働者を従事させるときは、労働者を当該作業を行う場所に入場させ、及び退場させる時に、人員を点検しなければならない。

酸素欠乏危険場所における作業では、働いている人員を把握しておかないと、作業場所で酸欠で倒れている作業者がいても分からないためである。もっとも、退場の際に不足人員が判明しても遅いことが多いことも事実ではあるが・・・。

【酸素欠乏症等防止規則】

(人員の点検)

第8条 事業者は、酸素欠乏危険作業に労働者を従事させるときは、労働者を当該作業を行う場所に入場させ、及び退場させる時に、人員を点検しなければならない。

 (略)

ニ 誤り。酸欠則第5条の2第1項により、酸素欠乏危険作業に労働者を従事させる場合であって、爆発、酸化等の防止のため換気することができないときは、同時に就業する労働者の人数と同数以上の空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気マスクを備え、労働者にこれを使用させなければならない。

電動ファン付き呼吸用保護具は、有害物を濾過する保護具であり、酸素を供給する能力はないので、酸素欠乏危険場所では使用できない。

【酸素欠乏症等防止規則】

(換気)

第5条 事業者は、酸素欠乏危険作業に労働者を従事させる場合は、当該作業を行う場所の空気中の酸素の濃度を十八パーセント以上(第二種酸素欠乏危険作業に係る場所にあつては、空気中の酸素の濃度を十八パーセント以上、かつ、硫化水素の濃度を百万分の十以下。次項において同じ。)に保つように換気しなければならない。ただし、爆発、酸化等を防止するため換気することができない場合又は作業の性質上換気することが著しく困難な場合は、この限りでない。

2及び3 (略)

(保護具の使用等)

第5条の2 事業者は、前条第一項ただし書の場合においては、同時に就業する労働者の人数と同数以上の空気呼吸器等(空気呼吸器、酸素呼吸器又は送気マスクをいう。以下同じ。)を備え、労働者にこれを使用させなければならない。

2及び3 (略)

2025年04月20日執筆