労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生関係法令 問11

特定化学物質障害予防規則全般




問題文
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2人で受験勉強する医療関係者

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更する(号番号等を除く)などの修正を行いました。

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2024年度(令和6年度) 問11 難易度 特化則は例年出題され条文問題ではあるが、本年も例年と同様にかなりの難問だった。
特化則の規定  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問11 特定化学物質の製造、取扱い等に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、誤っているものはどれか。

ただし、特定化学物質障害予防規則に定める適用の除外はないものとする。

(1)硫化水素のガスを含有する気体を排出する製造設備の排気筒には、吸収方式若しくは酸化・還元方式のいずれかの処理方式による排ガス処理装置又はこれらと同等以上の性能を有する排ガス処理装置を設けなければならない。

(2)塩化ビニルを製造する特定化学設備又はその附属設備については、2年を超える期間使用しない場合を除き、2年以内ごとに1回、定期に、自主検査を行い、所定の事項を記録し、これを3年間保存しなければならない。

(3)アルキル水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基であるものに限る。以下同じ。)を製造し、又は取り扱う屋内作業場については、6か月以内ごとに1回、定期に、アルキル水銀化合物の空気中における濃度を測定し、その都度所定の事項を記録し、これを3年間保存しなければならない。

(4)ジクロロメタンを製造し、又は取り扱う作業場において常時作業に従事する労働者については、1か月を超えない期間ごとに、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間等の所定の事項を記録し、これを 30 年間保存するものとする。

(5)エチレンオキシドを製造し、又は取り扱う業務に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し、6か月以内ごとに1回、定期に、医師による特別の項目についての健康診断を行わなければならない。

正答(5)

【解説】

問11試験結果

試験解答状況
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本問は、かろうじて正答の肢(誤っている肢)である(5)を選んだ受験者が、他の肢を選んだ受験者よりも高かったものの、正答率はきわめて低かった。

実際にエチレンオキシドを使用している事業場とかかわったことでもなければ、(5)が誤りであると自信をもって答えることは難しいだろう。

(1)正しい。特化則第 10 条第1項の規定により、硫化水素のガスを含有する気体を排出する製造設備の排気筒には、吸収方式若しくは酸化・還元方式のいずれかの処理方式による排ガス処理装置又はこれらと同等以上の性能を有する排ガス処理装置を設けなければならない。

【特定化学物質障害予防規則】

(排ガス処理)

第10条 事業者は、次の表の上欄に掲げる物のガス又は蒸気を含有する気体を排出する製造設備の排気筒又は第4条第4項若しくは第5条第1項の規定により設ける局所排気装置若しくはプッシュプル型換気装置には、同表の下欄に掲げるいずれかの処理方式による排ガス処理装置又はこれらと同等以上の性能を有する排ガス処理装置を設けなければならない。

処理方式
(略) (略)
硫化水素 吸収方式
酸化・還元方式
(略) (略)

 (略)

(2)正しい。特化則第 31 条により、特定化学設備又はその附属設備については、2年を超える期間使用しない場合を除き、2年以内ごとに1回、定期に、自主検査を行わなければならない。また、同規則第 32 条により、自主検査を行ったときは、所定の事項を記録し、これを3年間保存しなければならない。

ここで、塩化ビニルを製造する特定化学設備は、安衛令第 15 条第十号(及び同令別表第三第2号6、安衛則第 662 条の2並びに特化則第2条第1項第三号)により特定化学設備となる。

【安全衛生法施行令】

(定期に自主検査を行うべき機械等)

第15条 (柱書 略)

一~九 (略)

 特定化学設備(別表第三第二号に掲げる第二類物質のうち厚生労働省令で定めるもの又は同表第三号に掲げる第三類物質を製造し、又は取り扱う設備で、移動式以外のものをいう。)及びその附属設備

十一 (略)

別表第三 特定化学物質(第六条、第十五条、第十七条、第十八条、第十八条の二、第二十一条、第二十二条関係)

 (略)

 第二類物質

1~5 (略)

 塩化ビニル

7~37 (略)

 (略)

【安全衛生規則】

(令第十五条第一項第十号の厚生労働省令で定める第二類物質)

第662条の2 令第15条第1項第十号の厚生労働省令で定めるものは、特化則第2条第三号に規定する特定第二類物質とする。

【特定化学物質障害予防規則】

(定義等)

第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

一及び二 (略)

 特定第二類物質 第二類物質のうち、令別表第三第二号1、2、4から7まで、8の2、12、15、17、19、19の4、19の5、20、23、23の2、24、26、27、28から30まで、31の2、34、35及び36に掲げる物並びに別表第一第一号、第二号、第四号から第七号まで、第八号の二、第十二号、第十五号、第十七号、第十九号、第十九号の四、第十九号の五、第二十号、第二十三号、第二十三号の二、第二十四号、第二十六号、第二十七号、第二十八号から第三十号まで、第三十一号の二、第三十四号、第三十五号及び第三十六号に掲げる物をいう。

三の2~七 (略)

2及び3 (略)

第31条 事業者は、特定化学設備又はその附属設備については、2年以内ごとに1回、定期に、次の各号に掲げる事項について自主検査を行わなければならない。ただし、2年を超える期間使用しない特定化学設備又はその附属設備の当該使用しない期間においては、この限りでない。

一及び二 (略)

 (略)

(定期自主検査の記録)

第32条 事業者は、前2条の自主検査を行なつたときは、次の事項を記録し、これを3年間保存しなければならない。

一~六 (略)

(3)正しい。特化則第 36 条第1項により、第二類物質(※)を製造し、又は取り扱う屋内作業場については、6か月以内ごとに1回、定期に、アルキル水銀化合物の空気中における濃度を測定しなければならない。

※ 本肢のアルキル水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基であるものに限る。以下同じ。)は、安衛令別表第三第二号7に定められており、第二類物質である(特化則第2条第1項第二号)。

なお、特化則第 36 条第1項が別表第一第三十七号に掲げる物を除いているが、これは特定有機溶剤混合物については重量濃度が5wt%のものを除いているのである。また、第二類物質から別表第一に掲げる物を除いているが、これは第二類物質の混合物については成分である第二類物質の濃度を測定すればよく、混合物について測定をする必要はないといっているのである(立法技術的なことなので、分からなければ気にする必要はない。)。

また、特化則第 36 条第2項により、測定の都度所定の事項を記録し、これを3年間保存しなければならない(※)

※ なお、アルキル水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基であるものに限る。)は、同条第3項の対象ではないので、30 年間保存する必要はない。

【労働安全衛生法】

(作業環境測定)

第65条 事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。

2~5 (略)

【安全衛生法施行令】

(作業環境測定を行うべき作業場)

第21条 法第65条第1項の政令で定める作業場は、次のとおりとする。

一~六 (略)

 別表第四第一号から第八号まで、第十号又は第十六号に掲げる鉛業務(遠隔操作によつて行う隔離室におけるものを除く。)を行う屋内作業場

八~十 (略)

別表第三 特定化学物質(第六条、第十五条、第十七条、第十八条、第十八条の二、第二十一条、第二十二条関係)

 (略)

 第二類物質

1及び2 (略)

 アルキル水銀化合物(アルキル基がメチル基又はエチル基である物に限る。)

3の2~37 (略)

 (略)

【特定化学物質障害予防規則】

(定義等)

第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。

 (略)

 第二類物質 令別表第三第二号に掲げる物をいう。

三~七 (略)

2及び3 (略)

(測定及びその記録)

第36条 事業者は、令第21条第七号の作業場(石綿等(石綿障害予防規則(平成17年厚生労働省令第21号。以下「石綿則」という。)第2条第1項に規定する石綿等をいう。以下同じ。)に係るもの及び別表第一第三十七号に掲げる物を製造し、又は取り扱うものを除く。)について、6月以内ごとに1回、定期に、第一類物質(令別表第三第一号8に掲げる物を除く。)又は第二類物質(別表第一に掲げる物を除く。)の空気中における濃度を測定しなければならない。

 事業者は、前項の規定による測定を行つたときは、その都度次の事項を記録し、これを三年間保存しなければならない。

一~七 (略)

 事業者は、前項の測定の記録のうち、令別表第三第一号1、2若しくは4から7までに掲げる物又は同表第二号3の2から6まで、8、8の2、11の2、12、13の2から15の2まで、18の2から19の5まで、22の2から22の5まで、23の2から24まで、26、27の2、29、30、31の2、32、33の2若しくは34の3に掲げる物に係る測定の記録並びに同号11若しくは21に掲げる物又は別表第一第十一号若しくは第二十一号に掲げる物(以下「クロム酸等」という。)を製造する作業場及びクロム酸等を鉱石から製造する事業場においてクロム酸等を取り扱う作業場について行つた令別表第三第二号11又は21に掲げる物に係る測定の記録については、30年間保存するものとする。

 (略)

(4)正しい。特化則第 38 条の4の規定により、ジクロロメタンを製造し、又は取り扱う作業場において常時作業に従事する労働者については、1か月を超えない期間ごとに、従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間等の所定の事項を記録し、これを 30 年間保存するものとするとされている。

なお、「ものとする」とは、「ねばならない」をやや婉曲に著すときの用語である。法令で用いられる場合は独特のニュアンスを持つ用語である。名宛人が行政官庁である場合などに用いられることが多い。本条の場合は、記録の 30 年保存について事業者側の反発が強かったため、婉曲な表現にしたものである(※)

※ 例えば、令和4年12月26日基発1226第4号に「特別管理物質については、特化則第38条の4において作業記録等の 30 年間保存が既に義務付けられている」と記されているように、義務であることについてはとくに疑問はない。

【安全衛生法施行令】

別表第三 特定化学物質(第六条、第十五条、第十七条、第十八条、第十八条の二、第二十一条、第二十二条関係)

 (略)

 第二類物質

1~19の2 (略)

19の3 ジクロロメタン(別名二塩化メチレン)

19の4~37 (略)

 (略)

【特定化学物質障害予防規則】

(作業の記録)

第38条の4 事業者は、第一類物質(塩素化ビフェニル等を除く。)又は令別表第三第二号3の2から6まで、8、8の2、11から12まで、13の2から15の2まで、18の2から19の5まで、21、22の2から22の5まで、23の2から24まで、26、27の2、29、30、31の2、32、33の2若しくは34の3に掲げる物若しくは別表第一第三号の二から第六号まで、第八号、第八号の二、第十一号から第十二号まで、第十三号の二から第十五号の二まで、第十八号の二から第十九号の五まで、第二十一号、第二十二号の二から第二十二号の五まで、第二十三号の二から第二十四号まで、第二十六号、第二十七号の二、第二十九号、第三十号、第三十一号の二、第三十二号、第三十三号の二若しくは第三十四号の三に掲げる物(以下「特別管理物質」と総称する。)を製造し、又は取り扱う作業場(クロム酸等を取り扱う作業場にあつては、クロム酸等を鉱石から製造する事業場においてクロム酸等を取り扱う作業場に限る。)において常時作業に従事する労働者について、1月を超えない期間ごとに次の事項を記録し、これを30年間保存するものとする

 (略)

 従事した作業の概要及び当該作業に従事した期間

 (略)

(5)誤り。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者に対する健康診断の義務は、安衛法第 66 条第2項後段に定められている。その対象となる業務は、安衛令第 22 条第2項に定められているが、エチレンオキシド(酸化エチレン)は対象となっていない。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項 略)

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3~5 (略)

【安全衛生法施行令】

(健康診断を行うべき有害な業務)

第22条 (第1項 略)

 法第66条第2項後段の政令で定める有害な業務は、次の物を製造し、若しくは取り扱う業務(第十一号若しくは第二十二号に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第十一号若しくは第二十二号に係るものを製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務、第十二号若しくは第十六号に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第十二号若しくは第十六号に係るものを鉱石から製造する事業場以外の事業場においてこれらの物を取り扱う業務及び第九号の二、第十三号の二、第十四号の二、第十四号の三、第十五号の二から第十五号の四まで、第十六号の二若しくは第二十二号の二に掲げる物又は第二十四号に掲げる物で第九号の二、第十三号の二、第十四号の二、第十四号の三、第十五号の二から第十五号の四まで、第十六号の二若しくは第二十二号の二に係るものを製造し、又は取り扱う業務で厚生労働省令で定めるものを除く。)又は石綿等の製造若しくは取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務とする。

一~二十四 (詳細は略すが、エチレンオキシドは定められていない。)

 (略)

【特定化学物質障害予防規則】

(健康診断の実施)

第39条 (第1項 略)

 事業者は、令第22条第2項の業務(石綿等の製造又は取扱いに伴い石綿の粉じんを発散する場所における業務を除く。)に常時従事させたことのある労働者で、現に使用しているものに対し、別表第三の上欄に掲げる業務のうち労働者が常時従事した同項の業務の区分に応じ、同表の中欄に掲げる期間以内ごとに1回、定期に、同表の下欄に掲げる項目について医師による健康診断を行わなければならない。

3~7 (略)

別表第三 (第三十九条関係)

(表)3~7 (略すが、エチレンオキシドは定められていない。)

2025年04月20日執筆