問10 鉛中毒予防のため事業者が講ずべき措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
ただし、鉛業務は遠隔操作によって行う隔離室におけるものではなく、また、鉛中毒予防規則に定める適用の除外及び設備の特例はないものとする。
(1)鉛化合物を含有する釉薬を用いて行う施釉又は当該施釉を行った物の焼成の業務(臨時に行う業務を除く。)を行う屋内作業場について、1年以内ごとに1回、定期に、空気中における鉛の濃度を測定していない。
(2)屋内作業場で自然換気が不十分な場所におけるはんだ付けの業務に労働者を従事させるとき、当該業務を行う作業場所に、全体換気装置を設けているが、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置のいずれも設けていない。
(3)鉛ライニングの業務に常時従事する労働者に対する医師による特別の項目についての健康診断(6か月以内ごとに1回、定期に行うものに限る。以下「健康診断」という。)について、前回の健康診断において血液中の鉛の量の検査及び尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、当該検査を省略している。
(4)鉛化合物を製造する工程において、鉛等の鋳造を行う鉛業務に労働者を従事させるとき、当該業務を行う屋内の作業場所に有効な局所排気装置を設け、これを稼働させているが、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させていない。
(5)電線又はケーブルを製造する工程における鉛の溶融の業務に労働者を従事させるとさ、鉛の溶融を行う屋内の作業場所にプッシュプル型換気装置を設けているが、当該換気装置に、ろ過除じん方式の除じん装置又はこれと同等以上の性能を有する除じん装置を設けていない。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更する(号番号等を除く)などの修正を行いました。
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2024年度(令和6年度) | 問10 | 難易度 | 鉛則に関する問題は、2022 年度以来2年ぶりの出題。細かな省令の内容を問う条文問題でかなりの難問。 |
---|---|---|---|
鉛則の規定 | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問10 鉛中毒予防のため事業者が講ずべき措置に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、違反となるものはどれか。
ただし、鉛業務は遠隔操作によって行う隔離室におけるものではなく、また、鉛中毒予防規則に定める適用の除外及び設備の特例はないものとする。
(1)鉛化合物を含有する釉薬を用いて行う施釉又は当該施釉を行った物の焼成の業務(臨時に行う業務を除く。)を行う屋内作業場について、1年以内ごとに1回、定期に、空気中における鉛の濃度を測定していない。
(2)屋内作業場で自然換気が不十分な場所におけるはんだ付けの業務に労働者を従事させるとき、当該業務を行う作業場所に、全体換気装置を設けているが、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置のいずれも設けていない。
(3)鉛ライニングの業務に常時従事する労働者に対する医師による特別の項目についての健康診断(6か月以内ごとに1回、定期に行うものに限る。以下「健康診断」という。)について、前回の健康診断において血液中の鉛の量の検査及び尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、当該検査を省略している。
(4)鉛化合物を製造する工程において、鉛等の鋳造を行う鉛業務に労働者を従事させるとき、当該業務を行う屋内の作業場所に有効な局所排気装置を設け、これを稼働させているが、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させていない。
(5)電線又はケーブルを製造する工程における鉛の溶融の業務に労働者を従事させるとさ、鉛の溶融を行う屋内の作業場所にプッシュプル型換気装置を設けているが、当該換気装置に、ろ過除じん方式の除じん装置又はこれと同等以上の性能を有する除じん装置を設けていない。
正答(4)
【解説】
本問は、正答率が5%を下回っている。かなり特殊な条文を題材にした問題であり、さすがに難易度が高すぎるのではないだろうか。これは捨て問と割り切ってよい。
(1)違反とはならない。鉛則第 52 条により、作業環境測定を行わなければならないのは、安衛令第 21 条第八号に定める業務である。しかし、同号は、安衛令別表第四第十四号(鉛化合物を含有する釉薬を用いて行う施釉又は当該施釉を行った物の焼成の業務)については定めていない。
【労働安全衛生法】
(作業環境測定)
第65条 事業者は、有害な業務を行う屋内作業場その他の作業場で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、必要な作業環境測定を行い、及びその結果を記録しておかなければならない。
2~5 (略)
【安全衛生法施行令】
(作業環境測定を行うべき作業場)
第21条 法第65条第1項の政令で定める作業場は、次のとおりとする。
一~七 (略)
八 別表第四第一号から第八号まで、第十号又は第十六号に掲げる鉛業務(遠隔操作によつて行う隔離室におけるものを除く。)を行う屋内作業場
九及び十 (略)
別表第四 鉛業務(第六条、第二十一条、第二十二条関係)
一~十三 (略)
十四 鉛化合物を含有する釉薬を用いて行なう施釉又は当該施釉を行なつた物の焼成の業務
十五~十八 (略)
備考 (略)
【鉛中毒予防規則】
(測定)
第52条 事業者は、令第21条第八号に掲げる屋内作業場について、1年以内ごとに1回、定期に、空気中における鉛の濃度を測定しなければならない。
2 (略)
(2)違反とはならない。鉛則第 16 条は、自然換気が不十分な場所におけるはんだ付けの業務(同規則第1条第五号リ)に労働者を従事させるときは、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を設けなければならないとしている。
従って、その業務を行う作業場所に、全体換気装置を設けているが、局所排気装置又はプッシュプル型換気装置のいずれも設けていなくても違反とはならない。
はんだ付けの業務は、規制がかなり緩いと覚えておくとよいだろう。
【鉛中毒予防規則】
(定義等)
第1条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~四 (略)
五 鉛業務 次に掲げる業務並びに令別表第四第八号から第十一号まで及び第十七号に掲げる業務をいう。
イ~チ (略)
リ 自然換気が不十分な場所におけるはんだ付けの業務
ヌ~ワ (略)
(はんだ付けに係る設備)
第16条 事業者は、屋内作業場において、第一条第五号リに掲げる鉛業務に労働者を従事させるときは、当該業務を行なう作業場所に、局所排気装置、プッシュプル型換気装置又は全体換気装置を設けなければならない。
(3)違反とはならない。鉛則第 53 条第2項により、定期に行う健康診断については、前回の健康診断において血液中の鉛の量の検査及び尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、当該検査を省略できる。
なお、鉛ライニングの業務に常時従事する労働者については、6月ごとの定期健康診断の対象となっている。
【労働安全衛生法】
(健康診断)
第66条 (第1項 略)
2 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。
3~5 (略)
【安全衛生法施行令】
(健康診断を行うべき有害な業務)
第22条 法第66条第2項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。
一~三 (略)
四 別表第四に掲げる鉛業務(遠隔操作によつて行う隔離室におけるものを除く。)
五及び六 (略)
2及び3 (略)
別表第四 鉛業務(第六条、第二十一条、第二十二条関係)
一~六 (略)
七 鉛ライニングの業務(仕上げの業務を含む。)
八~十八 (略)
備考 (略)
【鉛中毒予防規則】
(健康診断)
第53条 事業者は、令第22条第1項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6月(令別表第四第十七号及び第1条第五号リからルまでに掲げる鉛業務又はこれらの業務を行う作業場所における清掃の業務に従事する労働者に対しては、1年)以内ごとに1回、定期に、次の項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
一~五 (略)
六 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査
2 前項の健康診断(定期のものに限る。)は、前回の健康診断において同項第五号及び第六号に掲げる項目について健康診断を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該項目を省略することができる。
3及び4 (略)
(4)違反となる。本肢の「鉛化合物を製造する工程において、鉛等の鋳造を行う鉛業務」は、鉛則第1条第五号ヘに該当する。
従って、同規則第 58 条第3項(第一号)が適用される。第3項には「労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない」とされ、第5項のような但書きはない(※)。
※ 通常、労働安全衛生法令の考え方は、基本的に呼吸用保護具などの保護具の着用の必要がない状況にすることが原則である。むしろ、呼吸用保護具でもよしとするのは、極端に有害性の高い業務や臨時的な業務等に限られるのである。
本肢は「有効な局所排気装置を設け、これを稼働させている」とされているため、呼吸用保護具の使用をしていなくても違反ではないと考えた受験者が多かったのではないかと思う。鉛則第 58 条の第1項と第3項は、有害性が高いことから局所排気装置を設けたとしても呼吸用保護具の着用が必要となる例外的なケースである。
そのため、本肢の業務に労働者を従事させるとき、当該業務を行う屋内の作業場所に有効な局所排気装置を設け、これを稼働させていたとしても、その労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。
【鉛中毒予防規則】
(定義等)
第1条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~四 (略)
五 鉛業務 次に掲げる業務並びに令別表第四第八号から第十一号まで及び第十七号に掲げる業務をいう。
イ~ホ (略)
ヘ 鉛化合物を製造する工程において鉛等の溶融、鋳造、粉砕、混合、空冷のための攪拌、ふるい分け、〔か〕焼、焼成、乾燥若しくは運搬をし又は粉状の鉛等をホツパー、容器等に入れ、若しくはこれらから取り出す業務
ト~ワ (略)
(呼吸用保護具等)
第58条 事業者は、令別表第四第九号に掲げる鉛業務に労働者を従事させるときは、当該労働者に有効な呼吸用保護具及び労働衛生保護衣類を使用させなければならない。
2 (略)
3 事業者は、第一項の業務以外の業務で、次の各号のいずれかに該当するものに労働者を従事させるときは、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。
一 第1条第五号イ、ロ若しくはヘに掲げる鉛業務又はこれらの業務を行う作業場所における清掃の業務
二~六 (略)
4 (略)
5 事業者は、第一項及び第三項に規定する業務以外の業務で、次の各号のいずれかに該当するものに労働者を従事させるときは、当該労働者に有効な呼吸用保護具を使用させなければならない。ただし、当該業務を行う作業場所に有効な局所排気装置、プッシュプル型換気装置、全体換気装置又は排気筒(鉛等若しくは焼結鉱等の溶融の業務を行う作業場所に設ける排気筒に限る。)を設け、これらを稼動させるときは、この限りでない。
一~三 (略)
6~8 (略)
(5)違反とはならない。鉛則第26条第1項の表に、同規則第1条第五号ニは対象とされていない。
【鉛中毒予防規則】
(定義等)
第1条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~四 (略)
五 鉛業務 次に掲げる業務並びに令別表第四第八号から第十一号まで及び第十七号に掲げる業務をいう。
イ~ハ (略)
ニ 電線又はケーブルを製造する工程における鉛の溶融、被鉛、剝鉛又は被鉛した電線若しくはケーブルの加硫若しくは加工の業務
ホ~ワ (略)
(呼吸用保護具等)
第26条 事業者は、次の表の上欄に掲げる鉛業務について設ける同表の下欄に掲げる設備には、ろ過除じん方式の除じん装置又はこれと同等以上の性能を有する除じん装置を設けなければならない。
鉛業務 | 設備等 |
---|---|
第1条第五号イに掲げる鉛業務 | (略) |
第1条第五号ロに掲げる鉛業務 | (略) |
第1条第五号ハに掲げる鉛業務 | (略) |
第1条第五号ホに掲げる鉛業務 | (略) |
第1条第五号ヘに掲げる鉛業務 | (略) |
第1条第五号トに掲げる鉛業務 | (略) |
令別表第四第十一号に掲げる鉛業務 | (略) |
第1条第五号チに掲げる鉛業務 | (略) |
第1条第五号ヲに掲げる鉛業務 | (略) |
2及び3 (略)
【コンサルタント試験に必要な能力とは】
2024 年度の労働衛生法令には、極端に正答率の低い問題が含まれているが、これもそのひとつである。あまりにも細かな省令に関する条文問題である。ここまで条文を覚えていないとコンサルタントとして認められないというのは、正しいことなのだろうか。
常識的に、すべての関係省令の内容を知っている者がいるとは思えない。コンサルタントに必要な能力は法令や通達(解釈例規)をこと細かに覚えていることではないだろう。何か法令上の問題が起きたり、疑問が生じたりしたときに、法令や通達を検索して正しく解釈する能力のはずである。
このような問題ばかりが出題されていては、安全衛生に熱意もあり専門的な知識もある者が合格できないことになってしまうのではないだろうか。強い疑問を感じる。