問4 労働安全衛生法令に基づく健康診断のうち、労働者に対しその業務内容にかかわらず実施する健康診断(以下「一般健康診断」という。)に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。
(1)常時 50 人以上の労働者を使用する事業者は、一般健康診断を行わなければらないが、常時使用する労働者の数が 50 人未満の場合であっても、事業者は同様の健康診断を実施するよう努めなければならない。
(2)一般健康診断は、所定の項目について実施しなければならないが、あらかじめ対象労働者の同意を得た場合には一部の項目を省略することができる。
(3)事業者は、一般健環診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対し、医師文は保健師による保健指導を行うよう努めなければならない。
(4)事業者は、事業者の指定した医師が行う一般健康診断を受診していない労働者を業務に従事させる場合には、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。
(5)事業者は、一般健康診断の結果に基づく医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合への報告その他の適切な措置を講じなければならない。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更する(号番号等を除く)などの修正を行いました。
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2024年度(令和6年度) | 問04 | 難易度 | 健康診断に関するごく基本的な内容の問題。確実に正答したい。 |
---|---|---|---|
一般の健康診断 | 3 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問4 労働安全衛生法令に基づく健康診断のうち、労働者に対しその業務内容にかかわらず実施する健康診断(以下「一般健康診断」という。)に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。
(1)常時 50 人以上の労働者を使用する事業者は、一般健康診断を行わなければらないが、常時使用する労働者の数が 50 人未満の場合であっても、事業者は同様の健康診断を実施するよう努めなければならない。
(2)一般健康診断は、所定の項目について実施しなければならないが、あらかじめ対象労働者の同意を得た場合には一部の項目を省略することができる。
(3)事業者は、一般健環診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対し、医師文は保健師による保健指導を行うよう努めなければならない。
(4)事業者は、事業者の指定した医師が行う一般健康診断を受診していない労働者を業務に従事させる場合には、遅滞なく、所轄労働基準監督署長に届け出なければならない。
(5)事業者は、一般健康診断の結果に基づく医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、労働者の実情を考慮して、就業場所の変更等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
正答(3)
【解説】
本問は、正答率がかなり高かった。(1)と(5)と解答した受験者が一部おられるが、(3)について誤解をしたのだろうか。
労働衛生の専門家にとっては、あまりにも当然のことなので、多くのテキストで強調した書き方はされていない。そのため、かえって初学者にとっては迷う選択肢だったのかもしれない。
(1)誤り。安衛法第 66 条(安衛則第 44 条)の健康診断は、常時使用する労働者の数によらず義務である。
なお、健康診断の結果の報告は、安衛則第 52 条の規定により、常時 50 人以上の労働者を雇用する事業者にのみ義務付けられている。このことと誤解しないこと。
【労働安全衛生法】
(健康診断)
第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第66条の10第1項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
2~5 (略)
【労働安全衛生規則】
(定期健康診断)
第44条 事業者は、常時使用する労働者(第45条第1項に規定する労働者を除く。)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一~十一 (略)
2~4 (略)
(健康診断結果報告)
第52条 常時50人以上の労働者を使用する事業者は、健康診断(第44条又は第45条の健康診断であつて定期のものに限る。以下この項において同じ。)を行つたときは、遅滞なく、電子情報処理組織を使用して、次に掲げる事項を所轄労働基準監督署長に報告しなければならない。
一~十 (略)
2 (略)
(2)誤り。このような規定はない。健康診断項目等の省略に関する規定は、安衛則第 44 条第2項から第4項に定められている。しかし、あらかじめ対象労働者の同意を得た場合には一部の項目を省略することができるとはされていない。
労働者の同意を得た場合に健康診断を省略できるという規定を設けると、事業者が労働者に同意を強要するおそれがあり、また同意することを条件に雇用するなどといったことがあり得るので、このような規定は設けていないのである。
これは、近代的市民法の原則である「私的自治の原則」(その一部に契約自由の原則がある)に対する、現代的福祉国家の法理による修正なのである。そもそも、労働法は近代的市民法理への現代的福祉国家の法理からのアンチテーゼとして存在している。
さらに言えば、(個人主義の思想に反するのでやや問題はあるが)労働者の健康の保持は、社会的な利益につながるものであり、労働者本人といえど自由にはできないものなのだと考えることもできよう。
【労働安全衛生規則】
(定期健康診断)
第44条 事業者は、常時使用する労働者(第45条第1項に規定する労働者を除く。)に対し、1年以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。
一~十一 (略)
2 第1項第三号、第四号、第六号から第九号まで及び第十一号に掲げる項目については、厚生労働大臣が定める基準に基づき、医師が必要でないと認めるときは、省略することができる。
3 第1項の健康診断は、前条、第45条の2又は法第66条第2項前段の健康診断を受けた者(前条ただし書に規定する書面を提出した者を含む。)については、当該健康診断の実施の日から一年間に限り、その者が受けた当該健康診断の項目に相当する項目を省略して行うことができる。
4 第1項第三号に掲げる項目(聴力の検査に限る。)は、45歳未満の者(35歳及び40歳の者を除く。)については、同項の規定にかかわらず、医師が適当と認める聴力(1,000ヘルツ又は4,000ヘルツの音に係る聴力を除く。)の検査をもつて代えることができる。
(3)正しい。安衛法第 66 条の7の規定により、事業者は、一般健環診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認められる労働者に対し、医師文は保健師による保健指導を行うよう努めなければならない。
条文のままの問題である。
【労働安全衛生法】
(保健指導等)
第66条の7 事業者は、第66条第1項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第5項ただし書の規定による健康診断又は第66条の2の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
2 (略)
(4)誤り。このような規定はない。そもそも事業者は安衛法第 66 条第1項の規定により原則として一般の健康診断を実施しなければならず、労働者は同条第5項の規定によりそれを受診しなければならないのである。従って、違法に健康診断を実施していない場合に、これを届け出させるわけがない(※)。
※ このようなことを義務付けることは、法違反を犯したことを自ら届け出させることになり、黙秘権(憲法第 38 条第1項)を侵害することとなろう。
また、同項但書きに例外規定があるので、違法ではない場合もあり得るが、その場合は健康診断は受けているのであるから、わざわざ所轄の署長に届け出させる必要性はないといってよい。
【労働安全衛生法】
(健康診断)
第66条 事業者は、労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による健康診断(第66条の10第1項に規定する検査を除く。以下この条及び次条において同じ。)を行わなければならない。
2~4 (略)
5 労働者は、前各項の規定により事業者が行なう健康診断を受けなければならない。ただし、事業者の指定した医師又は歯科医師が行なう健康診断を受けることを希望しない場合において、他の医師又は歯科医師の行なうこれらの規定による健康診断に相当する健康診断を受け、その結果を証明する書面を事業者に提出したときは、この限りでない。
(5)誤り。安衛法第 66 条の5には、医師又は歯科医師から聴取した意見を「当該事業場の労働者の過半数で組織する労働組合」へ報告せよとはされていない。報告するべきは、衛生委員会、安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会である。
事業場には、過半数組合のほか少数組合や非組の労働者が存在しているケースもある。統計的な情報ならともかく、少数組合や非組の労働者に関する医師又は歯科医師の意見を、過半数組合に報告させるはずがなかろう。
【労働安全衛生法】
(健康診断の結果についての医師等からの意見聴取)
第66条の4 事業者は、第66条第1項から第4項まで若しくは第5項ただし書又は第66条の2の規定による健康診断の結果(当該健康診断の項目に異常の所見があると診断された労働者に係るものに限る。)に基づき、当該労働者の健康を保持するために必要な措置について、厚生労働省令で定めるところにより、医師又は歯科医師の意見を聴かなければならない。
(健康診断実施後の措置)
第66条の5 事業者は、前条の規定による医師又は歯科医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、作業環境測定の実施、施設又は設備の設置又は整備、当該医師又は歯科医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会(労働時間等の設定の改善に関する特別措置法(平成4年法律第90号)第7条に規定する労働時間等設定改善委員会をいう。以下同じ。)への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
2及び3 (略)
(保健指導等)
第66条の7 事業者は、第66条第1項の規定による健康診断若しくは当該健康診断に係る同条第5項ただし書の規定による健康診断又は第66条の2の規定による健康診断の結果、特に健康の保持に努める必要があると認める労働者に対し、医師又は保健師による保健指導を行うように努めなければならない。
2 (略)
(面接指導等)
第66条の8 (第1項~第4項 略)
5 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
(心理的な負担の程度を把握するための検査等)
第66条の10 (第1項~第5項 略)
6 事業者は、前項の規定による医師の意見を勘案し、その必要があると認めるときは、当該労働者の実情を考慮して、就業場所の変更、作業の転換、労働時間の短縮、深夜業の回数の減少等の措置を講ずるほか、当該医師の意見の衛生委員会若しくは安全衛生委員会又は労働時間等設定改善委員会への報告その他の適切な措置を講じなければならない。
7~9 (略)