労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2024年 問1

化学物質に関する労働衛生管理(一般)




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 このページは、2024年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行いました。

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次の問題
2024年度(令和6年度) 問 1 化学物質の自律的管理の導入の影響か、昨年度に引き続き問1は化学物質管理の問題となった。
化学物質管理
2025年05月06日執筆

問1 化学物質管理に関する以下の設問に答えよ。

  • (1)職場の化学物質による健康障害を防止するためには、リスクアセスメントを実施することが必要である。リスクアセスメントのステップの一つとして化学物質の有害性の特定がある。化学物質の有害性に関して、次の問に答えよ。
    ① 安全データシート(SDS)の作成目的、記載事項及び活用方法、並びに、化学物質の有害性の特定における SDS の利用の仕方について、150 ~ 200 字程度で述べよ。

    • 【解説】

      1 安全データシートの作成目的
      安全データシート(SDS)の目的は職場の安全サイトの安全衛生キーワードに端的に示されている。
      【SDS】
      1 SDSとは
      SDSとは、安全データシート(Safety Data Sheet)の略語です。これは、化学物質および化学物質を含む混合物を譲渡または提供する際に、その化学物質の物理化学的性質や危険性・有害性及び取扱いに関する情報を化学物質等を譲渡または提供する相手方に提供するための文書です。 SDSに記載する情報には、化学製品中に含まれる化学物質の名称や物理化学的性質のほか、危険性、有害性、ばく露した際の応急措置、取扱方法、保管方法、廃棄方法などが記載されます。
      (以下略)
      ※ 厚生労働省「安全衛生キーワード」の「SDS」(職場の安全サイト
      2 安全データシートの記載事項
      また、SDSの記載内容は、法令に定められている。
      【労働安全衛生法】
      (文書の交付等)
      第57条の2 労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は第56条第1項の物(以下この条及び次条第1項において「通知対象物」という。)を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により通知対象物に関する次の事項(前条第二項に規定する者にあつては、同項に規定する事項を除く。)を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければならない。ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない。
       名称
       成分及びその含有量
       物理的及び化学的性質
       人体に及ぼす作用
       貯蔵又は取扱い上の注意
       流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
       前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項
      2及び3 (略)
      【労働安全衛生規則】
      第34条の2の4 法第57条の2第1項第七号の厚生労働省令で定める事項は、次のとおりとする。
       法第五十七条の二第一項の規定による通知を行う者の氏名(法人にあつては、その名称)、住所及び電話番号
       危険性又は有害性の要約
       安定性及び反応性
       想定される用途及び当該用途における使用上の注意
       適用される法令
       その他参考となる事項
      なお、JIS Z 7253:2019「GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法−ラベル,作業場内の表示及び安全データシート(SDS)」には、安全データシートの記載項目は次のように定められている。
      【SDSの全体構成及びその内容】
      7 SDSの全体構成及びその内容
      7.1 全体構成
       産業用又は業務用に製造された化学品を JIS Z 7252 に従って分類した結果、危険有害性クラス及び危険有害性区分に該当する場合には、SDSを作成し、情報伝達を行わなければならない。SDS には,化学品について、次の 16 の項目及びその情報を記載する。これらの項目の番号、項目名及び順序を変更してはならない。
       化学品及び会社情報
       危険有害性の要約
       組成及び成分情報
       応急措置
       火災時の措置
       漏出時の措置
       取扱い及び保管上の注意
       ばく露防止及び保護措置
       物理的及び化学的性質
      10 安定性及び反応性
      11 有害性情報
      12 環境影響情報
      13 廃棄上の注意
      14 輸送上の注意
      15 適用法令
      16 その他の情報
      7.2 (略)
      ※ JIS Z 7253:2019「GHSに基づく化学品の危険有害性情報の伝達方法−ラベル,作業場内の表示及び安全データシート(SDS)
      3 安全データシートの活用方法
      安全データシートを受け取った側の事業者による活用については、「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針(最終改正:令和4年5月 31 日)」の第5条に定められている。
      要するに、関係労働者への周知、リスクアセスメントでの利用、安全衛生教育への活用の3点である。
      【労働安全衛生法】
      (安全データシートの掲示等)
      第5条 事業者は、化学物質等を労働者に取り扱わせるときは、第3条第1項の規定により通知された事項又は前条第5項の規定により作成された文書に記載された事項(以下この条においてこれらの事項が記載された文書等を「安全データシート」という。)を、常時作業場の見やすい場所に掲示し、又は備え付ける等の方法により労働者に周知するものとする。
       事業者は、労働安全衛生法第28条の2第1項又は第57条の3第1項の調査を実施するに当たっては、安全データシートを活用するものとする。
       事業者は、化学物質等を取り扱う労働者について当該化学物質等による労働災害を防止するための教育その他の措置を講ずるに当たっては、安全データシートを活用するものとする。
      ※ 厚生労働省「化学物質等の危険性又は有害性等の表示又は通知等の促進に関する指針(最終改正:令和4年5月 31 日)」
      4 化学物質の有害性の特定における SDS の利用の仕方
      最後の「化学物質の有害性の特定における SDS の利用の仕方」については、安全データシートは、危険性又は有害性が記載されている文書なのであるから、それを読む以外に何があるのかという気がしないでもない。
      試験官が何を答えさせたいのかは推測するしかない(※)が、問題文が抽象的に過ぎてどのようにでも考えられよう。SDS のどの項目を利用するべきかということなのか、あらかじめ予備知識を身に着けておく必要があるということなのか(あるいは事業場内外の専門家を活用せよというのか)、SDS はだれでもアクセスできる場所に置くか社内ネットワークに載せろというのか・・・。
      ※ 受験者がどれほど高度な知識を有していても、この推測を外してしまえば高得点は望めないのが口述試験の特徴とはいえ、残念ながら労働衛生コンサルタント試験の健康管理科目は、前提条件が書かれていなかったり、抽象的な文章が多くこの推測がしにくい設問がときどき出されるのである。
      公的な文書(リスクアセスメント指針など)に、何か書かれていないか探してみたが、見つからなかった。
      5 解答の書き方
      本小問は、150 ~ 200 字程度で述べよとされている。各項目ごとに150 ~ 200 字程度とも読めるが、常識的には全体で150 ~ 200 字程度というであろう。ところが SDS に記載する項目として法令に定められている内容をそのまま記述すれば、それだけで 176 文字になってしまう。
      記述式の問題の場合、試験官が求めていないことを書いても加点要素とはならないが、間違っていれば減点されることとなる。従って、余計なことは書かないようにしつつ、必要事項は盛り込まなければならない。そして、何が必要事項か(試験官が求めているのか)については、推測するしかない。
      解答の一例として、次のような記述が考えられよう。
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    • 【解答例】
      安全データシート(SDS)の目的、活用方法等は以下のことが挙げられる。
      ○ 目的:化学物質による労働災害を防止するため、製造・輸入を行う企業から、実際に使用する企業まで、危険有害性の情報を円滑に伝えること
      ○ 記載事項:化学品及び会社情報、危険有害性の要約、組成及び成分情報、取扱い及び保管上の注意、有害性情報、適用法令など 16 項目が JIS に定められている。
      ○ 活用方法:①関係労働者への情報の周知、②リスクアセスメントへの活用、③安全衛生教育への活用など
      ○ 化学物質の有害性の特定における SDS の利用の仕方:SDSに記載されている組成及び成分情報、危険有害性の要約及び有害性情報を活用して有害性を特定する。利用者は必要な知識を得るようにするとともに、社内外の専門家を活用することが望ましい。
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  •   ② 化学物質の発がん性に関して、国際がん研究機関(IARC)による分類がある。どのような考え方によって分類を行うかについて述べよ。また、その分類の内容はどのようなものかについて述べよ。

    • 【解説】
      これについての詳細は、当サイトの「各種公的機関の発がん性評価の読み方」を参照して頂きたい。
      IARC(国際がん研究機関)は、国連の WHO の下部組織である。国際的にも発がん性の評価機関としてはもっとも権威のある機関だと言ってよい。
      IARCは、かつては発がん性区分を5段階に分けていたが、現在は4段階に分けている。かつてのグループ4(probably not carcinogenic to humans(ヒトに対して恐らく発がん性がない))は、2019 年1月に IARC の諮問グループによる改訂で廃止が発表された(※)
      ※ 一般公衆に誤解があることに留意して、従来のグループ4に該当していたものはグループ3(not classifiable as to its carcinogenicity to humans(ヒトに対して発がん性を分類できない)に統合された。
      なお、グループ3は分類できない(not classifiable)ということであって、発がん性が弱いと言っているわけではないことに留意されたい。グループ3は、原則として、ヒトについて「発がん性の不十分な証拠」があり動物実験で「発がん性の不十分な証拠又は限定的な証拠」がある場合に分類される。なお、廃止されたグループ4は、原則として、「発がん性がないことを示唆する証拠」がある場合に分類されていた。
      記号 意味 日本語訳
      1 carcinogenic to human ヒト発がん性がある
      2A probably carcinogenic to humans おそらくヒト発がん性がある
      2B possibly carcinogenic to humans ヒト発がん性の可能性がある
      3 not classifiable as to its carcinogenicity to humans ヒト発がん性については分類することができない
      4(廃止) probably not carcinogenic to humans おそらくヒト発がん性がない
      本小問のポイントは2つである。1つは、ICGIH の分類は発がん性の強さによって分類されているのではなく、証拠の確からしさで分類しているということである。
      当たり前だと思うかもしれないが、こういう当たり前のことを(あまりにも当たり前だということで)書き落としてしまうと、「知らない」と評価されることになる。
      そして、もうひとつは上記の表の4段階を正確に書けるかということである。
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    • 【解答例】
      ICGIH の発がん性の分類は、発がん性の強さや発がんの部位によって行うのではなく、ヒトに対する発がん性の証拠の確からしさによって分類している。その分類は下記の4段階に分けて行っている。
      ○ 1:ヒト発がん性がある
      ○ 2A:おそらくヒト発がん性がある
      ○ 2B:ヒト発がん性の可能性がある
      ○ 3:ヒト発がん性については分類することができない
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  • (2)化学物質のリスクアセスメントには健康障害リスクを見積もるステップがある。比較的簡易にリスクの見積りができる手法としてクリエイト・シンプルがあるが、吸入ばく露を例として、リスクの見積りの方法について 100 ~ 150 字程度で述べよ。

    • 【解説】
      本小問も、リスクアセスメントを行う分析者が CREATE-SIMPLE を用いてどのように吸入ばく露のリスクを判断しているかを問うているのか、CREATE-SIMPLE が(内部で)どのようにリスクを評価しているかを問うているのか、どちらにでも取れる曖昧な表現となっている。
      しかし、前者では試験としての意味をなさないので、おそらくは後者であろう。
      クリエイト・シンプルがリスクを判定する方法は、次の2段階で行う。
      ① ばく露限界の決定及び推定ばく露濃度の算定(第1段階)
      ② ばく露限界と推定ばく露濃度を比較してリスクを算定する(第2段階)。
      1 ①のうち、ばく露限界の決定は次のように行う。
      信頼できる職業ばく露限界値がある場合はその値を用い、最大許容濃度がある場合はその 1/4、STEL 値がある場合はその 1/3 をばく露限界とする
      それらの値がない場合は GHS 分類と区分の結果から推定する。
      2 ①のうち、ばく露濃度の推定は次のように行う
      揮発性・飛散性及び取扱量から初期ばく露濃度範囲を算定する。次に、含有量、作業内容、換気条件、作業時間・頻度、呼吸用保護具の種類と有無によって補正する。
      3 ②のばく露限界と推定ばく露濃度の比較によるリスク判定は次のように行う。
      (1)推定ばく露濃度の最大値がばく露限界の10倍より大きければ大きなリスク(Ⅳ)
      (2)推定ばく露濃度の最大値がばく露限界の1倍から10倍以下なら中程度のリスク(Ⅲ)
      (3)推定ばく露濃度の最大値がばく露限界の1/10から1倍以下なら小さなリスク(Ⅱ)
      (4)推定ばく露濃度の最大値がばく露限界の1/10以下なら些細なリスク(Ⅰ)
      問題は、これをどう100~150字にまとめるかであるが、解答欄のようにまとめてみればよいであろう。
      なお、CREATE-SIMPLE が吸入ばく露(経気道ばく露)のリスクを評価する方法についての詳細は、「CREATE-SIMPLEの設計基準」(2019年3月)を参照して頂きたい。
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    • 【解答例】
      まず、ばく露限界値等(最大許容濃度、STEL値だけがあれば一定の数で除する)があればそれを用い、なければ GHS 分類結果から算定して、「ばく露限界」を決定する。
      次に、揮発性・飛散性、取扱量、含有量、作業内容、換気条件、作業時間・頻度、呼吸用保護具の種類と有無から一定のルールに基づいて、「推定ばく露濃度」を算定する。
      最後に、推定ばく露濃度をばく露限界で除して、その値の大きさからリスクレベルを判定する。
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  • (3)化学物質による健康障害リスクを低減するための措置について、四つに分類し、それらを検討すべき優先順位の高い順に並べよ。ただし、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するものとする。また、それらの措置の具体的な内容をそれぞれ50 字程度で述べよ。

    • 【解説】
      本小問は「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号(改正:令和5年4月 27日 基発 0427 第3号))」の「10 リスク低減措置の検討及び実施」の「(1)」によって解答すればよい。
      【リスク低減措置の優先順位】
      10 リスク低減措置の検討及び実施
      (1)事業者は、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほか、法令に定められた措置がない場合には、次に掲げる優先順位でリスク低減措置の内容を検討するものとする。ただし、法令に定められた措置以外の措置にあっては、9(1)イの方法を用いたリスクの見積り結果として、ばく露濃度等がばく露限界を相当程度下回る場合は、当該リスクは、許容範囲内であり、リスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないものであること。
      ア 危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減
      イ 化学物質等に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又は化学物質等に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策
      ウ 作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策
      エ 化学物質等の有害性に応じた有効な保護具の使用
      ※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(最終改正:令和5年4月 27日 基発 0427 第3号)
      なお、最優先となる対策は一般的なリスクアセスメントであれば「本質安全化」となるが、化学物質のリスクアセスメントでは本質安全化だけではないことに留意すること。
      また、最優先事項は、化学物質リスクアセスメント指針の改正時期によっては異なっていることに留意すること。
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    • 【解答例】
      リスク低減の措置は優先順位の高い順に、本質安全化等、衛生工学的対策、管理的対策、保護具の使用の4つとなる。
      ア 本質安全化等:危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用
      イ 衛生工学的対策:化学物質等に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又は化学物質等に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等
      ウ 管理的対策:作業手順の改善、作業標準の作成と周知、立入禁止等
      エ 保護具の使用:化学物質等の有害性に応じた有効な保護具の着用
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  • (4)近年、職場の化学物質に関して自律的な管理を促進する施策が進められている。このような動向に関連して次の問に答えよ。
    ① 健康障害が判明した時点では、原因となる化学物質が特定化学物質障害予防規則の対象ではなかったものとして、
       インジウム
       1,2 - ジクロロプロパン
       オルト-トルイジン
    がある。これらの化学物質による典型的な健康障害は何か、それぞれ述べよ。

    • 【解説】
      1 インジウムについて
      また、インジウム・スズ酸化物(ITO:Indium Tin Oxide)について、日本バイオアッセイ研究センターによるげっ歯類への長期ばく露試験において、発がんを含む肺疾患の発症が確認されている。また、りん化インジウムについてもヒトに対する発がん性が疑われているなど、インジウム化合物について発がん性が疑われているところである。
      このため、インジウム化合物は、特化則等の改正によって第二類特定化学物質とされている(安衛令別表第三第二号3の2)。しかし、インジウム単体は通知対象物質とはされた(安衛令別表第九第七号)ものの特化則の対象とはされていない。
      本小問が、インジウム単体のことを指しているのか、インジウム・スズ酸化物のことを指しているのか疑問であるが、減点のリスクを避けるために、双方に触れておく方が良いだろう。
      なお、典型的な健康障害として、「発がん性」と答えるべきか、肺がんまで答えるべきかであるが、げっ歯類とヒトで発がんの部位が同じになるとは限らないため、肺がんと答えるべきではない。
      【有害性】
      有害性
      発がん性
      ヒトに対しておそらく発がん性がある
      ① IARC ではリン化インジウムとしての発がん性はグループ 2A と分類した。リン化インジウム以外のインジウム化合物の発がん性は不明であるが、発がん性はインジウムに起因していると考えられる。
      ② 日本バイオアッセイ研究センターの長期がん原性試験結果では、雌雄のラットに104週間、0.01、0.03、0.1mg/m3 濃度で ITO 研削粉をばく露させた結果、最低濃度の 0.01 mg/m3において肺に細気管支-肺胞上皮癌及び細気管支-肺胞上皮腺腫の発生増加が認められ、さらに、雄では肺に腺扁平上皮癌、雌では肺に腺扁平上皮癌と扁平上皮癌も認められた。
      なお、マウスにも、同様の濃度で 104 週間 ITO 研削粉をばく露させたが、発がんは認められなかった。
      急性毒性 LD50 > 10g/kg (ラット、経口)
      皮膚腐食性/刺激性 報告なし
      眼に対する重篤な損傷性/刺激性 報告なし
      反復投与毒性(生殖・発生毒性/発がん性は除く)
      肺水腫、肺胞蛋白症(ラット)
      肺の慢性炎症(マウス)
      (参考)
      日本バイオアッセイ研究センターの長期がん原性試験結果では、雌雄のラットに104週間、0.01、0.03、0.1 mg/m3濃度で ITO 研削粉をばく露させた結果、最低濃度の 0.01 mg/m3においてラットで肺胞蛋白症、肺胞上皮の過形成、肺胞壁の線維化、マウスでも肺胞蛋白症の発生増加が見られた。
      [ばく露が許容濃度される濃度の試算]
      試算値:3.0 × 10-4 mg ⁄ m3
      算定式:0.01 mg ⁄ m3(LOAEL)× 1/25(UF)× 6 ⁄ 8(労働補正)=3.0 × 10-4 mg ⁄ m3
      LOAEL:日本バイオアッセイ研究センターのラットの吸入による長期がん原性試験
      UF:LOAEL → NOAEL の変換(10)、種差(2.5)
      生殖毒性 情報なし
      ※ 厚生労働省「インジウム・スズ酸化物等の取扱い作業による健康障害防止に関する技術指針」(平成 22 年 12 月 22 日基発 1222 第2号)の表を筆者においてまとめた
      2 1,2 - ジクロロプロパン
      1,2 - ジクロロプロパンは、大阪府の印刷業における胆管がん発症(※)の原因物質とされている物質である。
      ※ 2013年(平成 25 年)に公表された「印刷事業場で発生した胆管がんの業務上外に関する検討会報告書」(2013 年3月 14 日)において、①胆管がんは、ジクロロメタン又は1,2-ジクロロプロパンに長期間、高濃度ばく露することにより発症し得ると医学的に推定できること、②大阪府の印刷事業場で発生した胆管がんは、1,2-ジクロロプロパンに長期間、高濃度ばく露したことが原因で発症した蓋然性が極めて高いこと、と報告されている。
      その後2013年の特化則等の改正により、現在は第二類特定化学物資となっている(安衛令別表第三第二号19の2)(※)
      ※ 搆健一「印刷事業場で発症した胆管がんの原因究明の状況」(産業保健21 2012年10月 Vol.70)など参照
      3 オルト-トルイジンについて
      オルト-トルイジンは、福井県の化学工場で発生した膀胱がん発症の原因物質とされている物質である(※)
      ※ 被災者のオルト-トルイジンへのばく露状況については、厚生労働省「福井県の事業場における膀胱がん発症に係る調査結果」(2016 年(平成 28 年)6月1日)など参照。
      なお、オルト-トルイジンを含む芳香族アミンによる尿路系がんの発症は、古典的な職業病であり、この事件の起きた当時はすでに明確になっていたことである(※)
      その後の2017年の特化則等の改正により、現在は第二類特定化学物資となっている(安衛令別表第三第二号8の2)
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    • 【解答例】
      1 インジウムについて
      インジウムリンについて、おそらくヒトに発がん性があると考えられ、これはインジウムに起因していると考えられている
      2 1,2 - ジクロロプロパン
      胆管がん
      3 オルト-トルイジン
      膀胱がん
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  •   ② 作業環境測定の結果により第三管理区分とされた場合に実施すべき措置について、次の問に答えよ。
    ア A測定とB測定による作業環境測定の結果から管理区分を決定するとき、第三管理区分となるのはどのような場合か述べよ。

    • 【解説】
      作業環境測定の結果は、作業環境評価基準(昭和63年9月1日労働省告示第七十九号)によって次のように定めることとされている。ここで、A測定による評価とB測定による評価が異なる場合は、悪い方を採用する。
      【A測定】
      管理区分 評価値と測定対象物に係る別表に掲げる管理濃度との比較の結果
      第一管理区分 第一評価値が管理濃度に満たない場合
      第二管理区分 第一評価値が管理濃度以上であり、かつ、第二評価値が管理濃度以下である場合
      第三管理区分 第二評価値が管理濃度を超える場合
      【B測定】
      管理区分 評価値又はB測定の測定値と測定対象物に係る別表に掲げる管理濃度との比較の結果
      第一管理区分 第一評価値及びB測定の測定値(二以上の測定点においてB測定を実施した場合には、そのうちの最大値。以下同じ。)が管理濃度に満たない場合
      第二管理区分 第二評価値が管理濃度以下であり、かつ、B測定の測定値が管理濃度の一・五倍以下である場合(第一管理区分に該当する場合を除く。)
      第三管理区分 第二評価値が管理濃度を超える場合又はB測定の測定値が管理濃度の一・五倍を超える場合
      【総合判定】
      A測定 X<A2 ①第3管理区分 ④第3管理区分 ⑦第3管理区分
      A2≦X≦A1 ②第2管理区分 ⑤第2管理区分 ⑧第3管理区分
      A1<X ③第1管理区分 ⑥第2管理区分 ⑨第3管理区分
      A1:第1評価値、A2:第2評価値
      B:B測定結果、X:管理濃度
      B<X X≦B≦1.5X 1.5X<B
      B測定
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    • 【解答例】
      A測定の第二評価値が管理濃度を超える場合又はB測定の測定値が管理濃度の1.5倍を超える場合に第3管理区分となる。
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  •    イ 第三管理区分に区分された場所について作業環境管理専門家が改善困難と判断した場合等は、個人サンプリング測定等による化学物質の濃度測定を行うこととされている。個人サンプリング測定における測定方法について、A測定・B測定と対比し、250 字程度で述べよ。

    • 【解説】
      本小問の「個人サンプリング測定等による化学物質の濃度測定」は、特化則第 36 条の3の2第4項(第一号)の規定により義務付けられるものである。
      【特定化学物質障害予防規則】
      第36条の3の2 事業者は、前条第2項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所(同条第1項に規定する措置を講じていないこと又は当該措置を講じた後同条第2項の評価を行つていないことにより、第一管理区分又は第二管理区分となつていないものを含み、第5項各号の措置を講じているものを除く。)については、遅滞なく、次に掲げる事項について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(当該事業場に属さない者に限る。以下この条において「作業環境管理専門家」という。)の意見を聴かなければならない。
       当該場所について、施設又は設備の設置又は整備、作業工程又は作業方法の改善その他作業環境を改善するために必要な措置を講ずることにより第一管理区分又は第二管理区分とすることの可否
       (略)
      2及び3 (略)
       事業者は、第1項の第三管理区分に区分された場所について、前項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場合又は第1項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難と判断した場合は、直ちに、次に掲げる措置を講じなければならない。
       当該場所について、厚生労働大臣の定めるところにより、労働者の身体に装着する試料採取器等を用いて行う測定その他の方法による測定(以下この条及び第36条の三の四において「個人サンプリング測定等」という。)により、特定化学物質の濃度を測定し、厚生労働大臣の定めるところにより、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること(当該場所において作業の一部を請負人に請け負わせる場合にあつては、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させ、かつ、当該請負人に対し、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させること。)。ただし、前項の規定による測定(当該測定を実施していない場合(第1項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分又は第二管理区分とすることが困難と判断した場合に限る。)は、前条第2項の規定による測定)を個人サンプリング測定等により実施した場合は、当該測定をもつて、この号における個人サンプリング測定等とすることができる。
      二~四 (略)
      5~9 (略)
      本小問の場合の特定化学物質等の個人サンプリング法等による化学物質の濃度測定の具体的な手法については、厚生労働大臣告示「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(2022年(令和4年)11月30日厚生労働省告示第341号)第7条によって定められている。
      この告示の第7条は、特定個人サンプリング法対象特化物(第1項第一号又は第2項)、とそれ以外にわけて(第1項第二号)にわけて規定している。
      特定個人サンプリング法対象特化物の場合は、C、D測定又は簡易な方法(第7条第2項)によって行うこととされている。それ以外の物質の場合は、A、B測定によることとされている。
      従って、本小問は、特定個人サンプリング法対象特化物の場合についての問ということになる。
      【特定化学物質の濃度の測定の方法等】
      (特定化学物質の濃度の測定の方法等)
      第7条 特化則第36条の3の2第4項第一号の規定による測定は、次の各号に掲げる区分に応じ、それぞれ当該各号に定めるところによらなければならない。
       労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。次号において「令」という。)別表第三第一号3若しくは6又は同表第二号1、2、5から7まで、8の2から11まで、13、13の2、15から18まで、19、19の4から22まで、23から23の3まで、25、27、27の2、30、31の2、33、34の3若しくは36に掲げる物(以下この条において「特定個人サンプリング法対象特化物」という。)の濃度の測定 測定基準第10条第5項各号に定める方法
       令別表第三第一号3、6若しくは7に掲げる物又は同表第二号1から3まで、3の3から7まで、8の2から11の2まで、13から25まで、27から31の2まで若しくは33から36までに掲げる物(以下第八条において「特定化学物質」という。)であって、前号に掲げる物以外のものの濃度の測定 測定基準第10条第4項において読み替えて準用する測定基準第2条第1項第一号から第三号までに定める方法
       前項の規定にかかわらず、特定個人サンプリング法対象特化物の濃度の測定は、次に定めるところによることができる。
       試料空気の採取は、特化則第36条の3の2第4項柱書に規定する第三管理区分に区分された場所において作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器を用いる方法により行うこと。この場合において、当該試料採取機器の採取口は、当該労働者の呼吸する空気中の特定個人サンプリング法対象特化物の濃度を測定するために最も適切な部位に装着しなければならない。
       前号の規定による試料採取機器の装着は、同号の作業のうち労働者にばく露される特定個人サンプリング法対象特化物の量がほぼ均一であると見込まれる作業ごとに、それぞれ、適切な数(2以上に限る。)の労働者に対して行うこと。ただし、当該作業に従事する一の労働者に対して、必要最小限の間隔をおいた2以上の作業日において試料採取機器を装着する方法により試料空気の採取が行われたときは、この限りでない。
       試料空気の採取の時間は、当該採取を行う作業日ごとに、労働者が第一号の作業に従事する全時間とすること。
       前2項に定めるところによる測定は、測定基準別表第一の上欄に掲げる物の種類に応じ、それぞれ同表の中欄に掲げる試料採取方法又はこれと同等以上の性能を有する試料採取方法及び同表の下欄に掲げる分析方法又はこれと同等以上の性能を有する分析方法によらなければならない。
      ※ 厚生労働省「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(最終改訂:2024(令和6年)4月10日厚生労働省告示第187号)
      なお、特定化学物質のC、D測定については、作業環境測定基準第 10 条第5項に定められている。
      【特定化学物質の濃度の測定】
      (特定化学物質の濃度の測定)
      第10条 (第1項~第3項 略)
       第二条第一項第一号から第三号までの規定は、前三項に規定する測定について準用する。この場合において、同条第一項第一号、第一号の二及び第二号の二中「土石、岩石、鉱物、金属又は炭素の粉じん」とあるのは、「令別表第三第一号1から7までに掲げる物又は同表第二号1から36までに掲げる物(同号34の2に掲げる物を除く。)」と、同項第三号ただし書中「相対濃度指示方法」とあるのは「直接捕集方法又は検知管方式による測定機器若しくはこれと同等以上の性能を有する測定機器を用いる方法」と読み替えるものとする。
       前項の規定にかかわらず、第一項に規定する測定のうち、令別表第三第一号1、3から6まで又は同表第二号1、2、3の2、5から11まで、13、13の2、15から18まで、19、19の4から22まで、23から23の3まで、25から27の2まで、30、31の2から33まで、34の3若しくは36に掲げる物(以下この項において「個人サンプリング法対象特化物」という。)の濃度の測定は、次に定めるところによることができる。
       試料空気の採取等は、単位作業場所において作業に従事する労働者の身体に装着する試料採取機器等を用いる方法により行うこと。
       前号の規定による試料採取機器等の装着は、単位作業場所において、労働者にばく露される個人サンプリング法対象特化物の量がほぼ均一であると見込まれる作業ごとに、それぞれ、適切な数の労働者に対して行うこと。ただし、その数は、それぞれ、5人を下回つてはならない。
       第一号の規定による試料空気の採取等の時間は、前号の労働者が一の作業日のうち単位作業場所において作業に従事する全時間とすること。ただし、当該作業に従事する時間が2時間を超える場合であつて、同一の作業を反復する等労働者にばく露される個人サンプリング法対象特化物の濃度がほぼ均一であることが明らかなときは、2時間を下回らない範囲内において当該試料空気の採取等の時間を短縮することができる。
       単位作業場所において作業に従事する労働者の数が5人を下回る場合にあつては、第二号ただし書及び前号本文の規定にかかわらず、一の労働者が一の作業日のうち単位作業場所において作業に従事する時間を分割し、2以上の第一号の規定による試料空気の採取等が行われたときは、当該試料空気の採取等は、当該2以上の採取された試料空気の数と同数の労働者に対して行われたものとみなすことができること。
       個人サンプリング法対象特化物の発散源に近接する場所において作業が行われる単位作業場所にあつては、前各号に定めるところによるほか、当該作業が行われる時間のうち、空気中の個人サンプリング法対象特化物の濃度が最も高くなると思われる時間に、試料空気の採取等を行うこと。
       前号の規定による試料空気の採取等の時間は、15分間とすること。
      6~9 (略)
      ※ 厚生労働省「作業環境測定基準」(最終改訂:2024(令和6年)4月10日厚生労働省告示第187号)
      問題は、これをどう回答するかであるが、A、B測定と対比させて答えよとなっているので、測定する場所、測定する時間、測定する時間帯について解答すればよいであろう。
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    • 【解答例】
      安衛法における個人サンプリング測定は、平均的な作業者のばく露量及び、作業者の中で最もばく露量が高くなる時間帯のばく露量を測定する。これに対し、A測定は場の平均的な濃度を測定し、B測定は(作業者が移動する範囲内で)最も濃度が高くなる場所・時間帯について測定する。
      A測定が作業場を均等に区分して床上 50cm から 150cm の高さでサンプリングを行うのに対し、個人サンプリング測定では作業者の身体(呼吸域近傍)に装着してサンプリングを行う。
      測定する時間は、A測定・B測定が 10 分以上の連続した時間であるのに対し、個人ばく露測定では原則として全作業時間(少なくとも2時間以上)で、最もばく露量が高くなる時間帯の測定は15分である。
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  •    ウ 個人サンプリング測定の結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させるとともに、保護具着用管理責任者を選任することが義務付けられた。呼吸用保護具の使用に当たって、有効な呼吸用保護具の選定における留意事項について箇条書きで四つ挙げよ。また、呼吸用保護具が適切に装着されていることの確認の方法について述べよ。

    • 【解説】
      本小問が「義務付けられた」とする法的な根拠は、前小問と同じく特化則第 36 条の3の2である。読み飛ばして構わないが、参考までに条文を挙げておく。
      【特定化学物質障害予防規則】
      第36条の3の2 事業者は、前条第2項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場所(同条第1項に規定する措置を講じていないこと又は当該措置を講じた後同条第2項の評価を行つていないことにより、第一管理区分又は第二管理区分となつていないものを含み、第5項各号の措置を講じているものを除く。)については、遅滞なく、次に掲げる事項について、事業場における作業環境の管理について必要な能力を有すると認められる者(当該事業場に属さない者に限る。以下この条において「作業環境管理専門家」という。)の意見を聴かなければならない。
       当該場所について、施設又は設備の設置又は整備、作業工程又は作業方法の改善その他作業環境を改善するために必要な措置を講ずることにより第一管理区分又は第二管理区分とすることの可否
       (略)
      2及び3 (略)
       事業者は、第1項の第三管理区分に区分された場所について、前項の規定による評価の結果、第三管理区分に区分された場合又は第1項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分若しくは第二管理区分とすることが困難と判断した場合は、直ちに、次に掲げる措置を講じなければならない。
       当該場所について、厚生労働大臣の定めるところにより、労働者の身体に装着する試料採取器等を用いて行う測定その他の方法による測定(以下この条及び第36条の三の四において「個人サンプリング測定等」という。)により、特定化学物質の濃度を測定し、厚生労働大臣の定めるところにより、その結果に応じて、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させること(当該場所において作業の一部を請負人に請け負わせる場合にあつては、労働者に有効な呼吸用保護具を使用させ、かつ、当該請負人に対し、有効な呼吸用保護具を使用する必要がある旨を周知させること。)。ただし、前項の規定による測定(当該測定を実施していない場合(第1項第一号の規定により作業環境管理専門家が当該場所を第一管理区分又は第二管理区分とすることが困難と判断した場合に限る。)は、前条第2項の規定による測定)を個人サンプリング測定等により実施した場合は、当該測定をもつて、この号における個人サンプリング測定等とすることができる。
       前号の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)について、当該呼吸用保護具が適切に装着されていることを厚生労働大臣の定める方法により確認し、その結果を記録し、これを3年間保存すること。
       保護具に関する知識及び経験を有すると認められる者のうちから保護具着用管理責任者を選任し、次の事項を行わせること。
      ア~ウ (略)
       (略)
      5~9 (略)
      1 呼吸用保護具の選定
      このうち、呼吸用保護具の選定については、「防じんマスク、防毒マスク及び電動ファン付き呼吸用保護具の選択、使用等について」(令和5年5月 25 日基発 0525 第3号)の第1の「4 呼吸用保護具の選択」に示されている。
      この「4 呼吸用保護具の選択」は全体で(1)~(4)の4項目となっており、本小問に「箇条書きで四つ」とあるのはこれを指すものと思われる。通達の原文はかなり長文なので、各自、リンク先で確認して欲しい。
      解答としては、当然に簡略化して書く必要がある。解答案を参照して頂きたい。
      2 呼吸用保護具が適切に装着されていることの確認の方法
      本小問の「適切に装着されていることの確認」がフィットチェックのことなのか、フィットテストのことなのかはやや曖昧であるが、前者はたんなるチェック方法であり、化学物質の自律的管理においてフィットテストが義務づけられた経緯などから考えると、後者のことを問うていると考えられる。
      呼吸用保護具が適切に装着されていることの確認の方法については、特化則第36条の3の2第4項第二号の「厚生労働大臣の定める方法」が、「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等(2022年(令和4年)11月30日厚生労働省告示第341号)」の第9条が準用する第3条に示されている(※)。これについては、厚生労働省のパンフレット「第三管理区分の作業場での作業には、測定に基づき適切な呼吸用保護具を使用しましょう」に分かりやすい説明がある。
      ※ この他、フィットテストを行う者に対する教育について、「フィットテスト実施者に対する教育実施要領令和3年4月6日基安化発 0406 第3号)」が示されている。
      なお、本告示に示されている JIS T 2150 は 2006 年版が改正されて、現在は 2021 年版が最新となっているが、最新版は WEB には公開されていない。
      【特定化学物質の濃度の測定の方法等】
      第3条 有機則第28条の3の2第4項第二号の厚生労働大臣の定める方法は、同項第一号の呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用する労働者について、日本産業規格 T 8150(呼吸用保護具の選択、使用及び保守管理方法)に定める方法又はこれと同等の方法により当該労働者の顔面と当該呼吸用保護具の面体との密着の程度を示す係数(以下この条において「フィットファクタ」という。)を求め、当該フィットファクタが要求フィットファクタを上回っていることを確認する方法とする。
       フィットファクタは、次の式により計算するものとする。
      FF=C outC in
      この式において、FFC out 及び C in は、それぞれ次の値を表すものとする。
      括弧左 FF   フィットファクタ 括弧右
      C out   呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度
      C in   呼吸用保護具の内側の測定対象物の濃度
       第1項の要求フィットファクタは、呼吸用保護具の種類に応じ、次に掲げる値とする。
       全面形面体を有する呼吸用保護具 500
       半面形面体を有する呼吸用保護具 100
      第8条 特化則第36条の3の2第4項第一号に規定する呼吸用保護具(第5項において単に「呼吸用保護具」という。)は、要求防護係数を上回る指定防護係数を有するものでなければならない。
       前項の要求防護係数は、次の式により計算するものとする。
      PFr=CC0
      この式において、PFrC 及び C0 は、それぞれ次の値を表すものとする。
      括弧左 PFr   要求防護係数 括弧右
      C   特定化学物質の濃度の判定の結果得られた値
      C0   評価基準別表の上欄に掲げる物の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる管理濃度
       前項の特定化学物質の濃度の測定の結果得られた値は、次の各号に掲げる場合の区分に応じ、それぞれ当該各号に定める値とする。
       C測定(測定基準第10条第5項第一号から第四号までの規定により行う測定をいう。次号において同じ。)を行った場合又はA測定(測定基準第10条第4項において読み替えて準用する測定基準第2条第1項第一号から第二号までの規定により行う測定をいう。次号において同じ。)を行った場合(次号に掲げる場合を除く。)空気中の特定化学物質の濃度の第一評価値
       C測定及びD測定(測定基準第10条第5項第五号及び第六号の規定により行う測定をいう。以下この号において同じ。)を行った場合又はA測定及びB測定(測定基準第10条第4項において読み替えて準用する測定基準第2条第1項第二号の二の規定により行う測定をいう。以下この号において同じ。)を行った場合 空気中の特定化学物質の濃度の第一評価値又はB測定若しくはD測定の測定値(2以上の測定点においてB測定を行った場合又は2以上の者に対してD測定を行った場合には、それらの測定値のうちの最大の値)のうちいずれか大きい値
       前条第2項に定めるところにより測定を行った場合 当該測定における特定化学物質の濃度の測定値のうち最大の値
       第1項の指定防護係数は、別表第一から別表第四までの上欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値とする。ただし、別表第五の上欄に掲げる呼吸用保護具を使用した作業における当該呼吸用保護具の外側及び内側の特定化学物質の濃度の測定又はそれと同等の測定の結果により得られた当該呼吸用保護具に係る防護係数が同表の下欄に掲げる指定防護係数を上回ることを当該呼吸用保護具の製造者が明らかにする書面が、当該呼吸用保護具に添付されている場合は、同表の上欄に掲げる呼吸用保護具の種類に応じ、それぞれ同表の下欄に掲げる値とすることができる。
       呼吸用保護具は、ガス状の特定化学物質を製造し、又は取り扱う作業場においては、当該特定化学物質の種類に応じ、十分な除毒能力を有する吸収缶を備えた防毒マスク又は別表第四に規定する呼吸用保護具でなければならない。
       前項の吸収缶は、使用時間の経過により破過したものであってはならない。
      第9条 第三条の規定は、特化則第36条の3の2第4項第二号の厚生労働大臣の定める方法について準用する。
      ※ 厚生労働省「第三管理区分に区分された場所に係る有機溶剤等の濃度の測定の方法等」(最終改訂:2024(令和6年)4月10日厚生労働省告示第187号)
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    • 【解答例】
      1 呼吸用保護具の選定
      (1)呼吸用保護具の種類の選択
      呼吸用保護具は適切な吸収缶の物を用いる。ただし、①酸素欠乏環境では給気式のマスクを使用する、②粉じんの存在する環境では防じん機能を有するものを使用する、③引火性の物の蒸気又は可燃性ガス、④可燃性の粉じんがあるところでは電動ファン付き呼吸用保護具は防爆式のものを使用するべきことに留意する。
      (2)要求防護係数を上回る指定防護係数を有する呼吸用保護具を選択する。
      (3)法令に保護具の種類が規定されている場合はそれを遵守する。
      (4)その他の留意事項
      ア 作業環境中の有害物質の種類、作業内容、有害物質の発散状況、作業時のばく露の危険性の程度等を考慮する。
      イ 防護性能に関係する事項以外の要素(着用者、作業、作業強度、環境等)についても考慮する。
      ウ 目の保護が必要な場合は、全面形面体又はルーズフィット形呼吸用インタフェースを使用する。
      2 呼吸用保護具が適切に装着されていることの確認の方法
      呼吸用保護具(面体を有するものに限る。)を使用する労働者について、呼吸用保護具の外側の測定対象物の濃度を呼吸用保護具の内側の測定対象物の濃度で除してフィットファクタを求め、マスクの指定防護係数がそのフィットファクタを上回っていることを確認する。
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