労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問30

化学物質リスクアセスメント指針




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 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2024年度(令和06年度) 問30 難易度 化学物質RA指針は過去問も多く、過去問の学習のみで正答できるものも多い。落としてはならない問題。
化学物質RA指針  1 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問30 厚生労働省の「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)化学物質管理者を選任し、リスクアセスメント及びリスク低減措置に関する技術的事項を管理させる。

(2)リスクアセスメント対象物の安全データシート(SDS)を入手した場合には、SDS に記載されている情報を確認することにより、危険性又は有害性を特定する。

(3)リスクアセスメント対象物による疾病のリスクの低減措置の検討においては、法令に定められた事項を行うことを前提として、リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の密閉化を最優先とする。

(4)リスクアセスメント対象物の「ばく露の程度」及び「有害性の程度」を考慮して行うリスクの見積りでは、ばく露の程度の把握に関し、気中濃度を実測する方法のほか、数理モデルを用いて推定する方法がある。

(5)毎回異なる環境で作業を行う場合のリスクアセスメントの方法として、典型的な作業でのばく露濃度測定結果を基にリスク低減措置マニュアル等を作成し、これに定められた措置の実施状況を確認する方法がある。

正答(3)

【解説】

問30試験結果

試験解答状況
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本問は、問題文本文にもあるように「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号)」の別添2「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針」(以下「指針」という。)に関する問題である。

(1)適切でないとは言えない。指針の4の(1)のウにより、化学物質管理者を選任し、リスクアセスメント及びリスク低減措置に関する技術的事項を管理させることとされている。

なお、本件については、2024 年4月の化学物質の自律的管理に関する法令改正(安衛則第 12 条の5第1項(第二号及び第三号))により、現在は法定事項となっている。

【化学物質等リスクアセスメント指針】

4 実施体制等

(1) 事業者は、次に掲げる体制でリスクアセスメント及びリスク低減措置(以下「リスクアセスメント等」という。)を実施するものとする。

ア及びイ (略)

 化学物質等の適切な管理について必要な能力を有する者のうちから化学物質等の管理を担当する者(以下「化学物質管理者」という。)を指名し、この者に、上記イに掲げる者の下でリスクアセスメント等に関する技術的業務を行わせることが望ましいこと。

エ~カ (略)

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号)」の別添2「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針

【労働安全衛生法】(以下参考)

(第五十七条第一項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等)

第57条の3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。

 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。

3~5 (略)

【労働安全衛生規則】

(化学物質管理者が管理する事項等)

第12条の5 事業者は、法第57条の3第1項の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。以下「リスクアセスメント」という。)をしなければならない令第18条各号に掲げる物及び法第57条の2第1項に規定する通知対象物(以下「リスクアセスメント対象物」という。)を製造し、又は取り扱う事業場ごとに、化学物質管理者を選任し、その者に当該事業場における次に掲げる化学物質の管理に係る技術的事項を管理させなければならない。ただし、法第57条第1項の規定による表示(表示する事項及び標章に関することに限る。)、同条第2項の規定による文書の交付及び法第57条の2第1項の規定による通知(通知する事項に関することに限る。)(以下この条において「表示等」という。)並びに第七号に掲げる事項(表示等に係るものに限る。以下この条において「教育管理」という。)を、当該事業場以外の事業場(以下この項において「他の事業場」という。)において行つている場合においては、表示等及び教育管理に係る技術的事項については、他の事業場において選任した化学物質管理者に管理させなければならない。

 (略)

 リスクアセスメントの実施に関すること。

 第577条の2第1項及び第2項の措置その他法第57条の3第2項の措置の内容及びその実施に関すること。

四~七 (略)

2~5 (略)

(ばく露の程度の低減等)

第577条の2 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。

 事業者は、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない。

3~12 (略)

(2)適切でないとは言えない。指針の8のア及びイにより、リスクアセスメント対象物の安全データシート(SDS)を入手した場合には、SDS に記載されている情報を確認することにより、危険性又は有害性を特定することとされている。

【化学物質等リスクアセスメント指針】

8 危険性又は有害性の特定

  事業者は、化学物質等について、リスクアセスメント等の対象となる業務を洗い出した上で、原則としてア及びイに即して危険性又は有害性を特定すること。また、必要に応じ、ウに掲げるものについても特定することが望ましいこと。

 国際連合から勧告として公表された「化学品の分類及び表示に関する世界調和システム(GHS)」(以下「GHS」という。)又は日本工業規格 Z 7252 に基づき分類された化学物質等の危険性又は有害性(SDS を入手した場合には、当該 SDS に記載されている GHS 分類結果)

 日本産業衛生学会の許容濃度又は米国産業衛生専門家会議(ACGIH)のTLV-TWA 等の化学物質等のばく露限界(以下「ばく露限界」という。)が設定されている場合にはその値(SDS を入手した場合には、当該 SDS に記載されているばく露限界)

 (略)

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号)」の別添2「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針

(3)適切でない。指針の 10 の(1)においては、密閉化よりも「危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減」を優先することとしている。

もっとも、実務においては、密閉化した容器を開閉しないのであれば、本肢の「リスクアセスメント対象物に係る機械設備等の密閉化」の方が、「危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減」よりもリスクを下げることになるだろう。

【化学物質等リスクアセスメント指針】

10 リスク低減措置の検討及び実施

(1)事業者は、法令に定められた措置がある場合にはそれを必ず実施するほか、法令に定められた措置がない場合には、次に掲げる優先順位でリスク低減措置の内容を検討するものとする。ただし、法令に定められた措置以外の措置にあっては、9(1)イの方法を用いたリスクの見積り結果として、ばく露濃度等がばく露限界を相当程度下回る場合は、当該リスクは、許容範囲内であり、リスク低減措置を検討する必要がないものとして差し支えないものであること。

 危険性又は有害性のより低い物質への代替、化学反応のプロセス等の運転条件の変更、取り扱う化学物質等の形状の変更等又はこれらの併用によるリスクの低減

 化学物質等に係る機械設備等の防爆構造化、安全装置の二重化等の工学的対策又は化学物質等に係る機械設備等の密閉化、局所排気装置の設置等の衛生工学的対策

 作業手順の改善、立入禁止等の管理的対策

 化学物質等の有害性に応じた有効な保護具の使用

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号)」の別添2「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針

(4)適切でないとは言えない。指針の9の(1)のイによれば、リスクアセスメント対象物の「ばく露の程度」及び「有害性の程度」を考慮して行うリスクの見積りでは、ばく露の程度の把握に関し、気中濃度を実測する方法のほか、数理モデルを用いて推定する方法が例示されている。

【化学物質等リスクアセスメント指針】

9 リスクの見積り

(1)事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第 34 条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用により化学物質等によるリスクを見積もるものとする。

 (略)

 当該業務に従事する労働者が化学物質等にさらされる程度(ばく露の程度)及び当該化学物質等の有害性の程度を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があるが、このうち、(ア)の方法を採ることが望ましいこと。

(ア)対象の業務について作業環境測定等により測定した作業場所における化学物質等の気中濃度等を、当該化学物質等のばく露限界と比較する方法

(イ)数理モデルを用いて対象の業務に係る作業を行う労働者の周辺の化学物質等の気中濃度を推定し、当該化学物質のばく露限界と比較する方法

(ウ) (略)

 (略)

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号)」の別添2「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針

(5)適切でないとは言えない。指針の9の(1)のウの(ウ)に、毎回異なる環境で作業を行う場合のリスクアセスメントの方法として、典型的な作業でのばく露濃度測定結果を基にリスク低減措置マニュアル等を作成し、これに定められた措置の実施状況を確認する方法が示されている。

もっとも、ここまでくるとリスクアセスメントというより、たんなる作業標準の作成とその遵守に過ぎないが・・・。

【化学物質等リスクアセスメント指針】

9 リスクの見積り

(1)事業者は、リスク低減措置の内容を検討するため、安衛則第 34 条の2の7第2項に基づき、次に掲げるいずれかの方法(危険性に係るものにあっては、ア又はウに掲げる方法に限る。)により、又はこれらの方法の併用により化学物質等によるリスクを見積もるものとする。

ア及びイ (略)

 当該業務に従事する労働者が化学物質等にさらされる程度(ばく露の程度)及び当該化学物質等の有害性の程度を考慮する方法。具体的には、次に掲げる方法があるが、このうち、(ア)の方法を採ることが望ましいこと。

(ア)及び(イ) (略)

(ウ)毎回異なる環境で作業を行う場合において、典型的な作業を洗い出し、あらかじめ当該作業において労働者がばく露される物質の濃度を測定し、その測定結果に基づくリスク低減措置を定めたマニュアル等を作成するとともに、当該マニュアル等に定められた措置が適切に実施されていることを確認する方法

※ 厚生労働省「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針について(平成 27 年9月 18 日基発 0918 第3号)」の別添2「化学物質等による危険性又は有害性等の調査等に関する指針

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