労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問27

疫学、統計等




問題文
トップ
受験勉強に打ち込む

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2024年度(令和06年度) 問27 難易度 疫学及び統計に関する基本的な内容の知識問題である。
疫学及び統計  4 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問27 疫学、統計等に関する次のイ~ニの記述について、正しいもののみを全て挙げたものは(1)~(5)のうちどれか。

イ 健康管理統計において、「ある時点における有所見者の割合」は動態データである。

ロ 統計上、二つの事象の聞に強い相関が認められても、それらの間に因果関係がないことがある。

ハ 疫学において、ある疾病とその原因との関係の仮説をたて、その仮説に基づいて、原因のある群とない群に分け、その後追跡調査をして、疾病の発生の相違を調べる調査方法は、前向き調査といわれる。

ニ ある集団の体重の平均が 60kg、標準偏差が5 kg で、正規分布をしている場合、55 ~ 65kg の範囲内にいる人数の割合は、その集団の約 95 %である。

(1)イ  ロ

(2)イ  ハ  ニ

(3)イ  ニ

(4)ロ  ハ

(5)ロ  ハ  ニ

正答(4)

【解説】

問27試験結果

試験解答状況
図をクリックすると拡大します

本問は、正答の(4)と誤答の(5)に受験者の解答が分かれた。ニで迷った受験者がかなりいたということであろう(※)。しかし、ニについても統計に関する基本的な内容であり、正答できなければならない問題である。

※ ニ以外は、すべて過去問の中に同種の問題がある。

イ 誤り。動態データ(フローデータ)とは、ある期間の集団に関するデータであり、たとえばある1年間における出生数や死亡数などである。健康管理統計において、「ある時点における有所見者の割合」は静態データ(ストックデータ)である。

ロ 正しい。2016 年度問1の(1)と同じ問題であるが、これは当然であろう。よく言われるジョークで、「大勢の子供たちの足の大きさと算数の試験の結果を調べると、この2つの間には強い相関がある」というのがある。だからといって、足の大きさと算数の成績の間に因果関係はあるまい。種明かしをすれば、この「子供たち」の中には年齢の異なる子供がいるのである。年齢の高い子供は、一般に、足が大きいし、算数の問題もよく解けるから相関があるわけだ。

トーマスという名前の人気度とメイン州での車の盗難数

図をクリックすると拡大します

ちなみに、相関関係はあるが因果関係があるとは思えないものを集めたtylervigen.comというサイトがある。その中で「Popularity of the first name Thomas(トーマスという名前の人気度)」と「Motor vehicle thefts in Maine(メイン州における自動車盗難)」の相関関係が紹介されている。

※ 図はtylervigen.com “Spurious correlations” より

この2つの間には、かなり強い正の相関関係がある。だからといって、高級車を所有するメイン州の住民が、トーマスという名前を付けられる子供の数を気にする注意する必要はないだろう(※)

※ もちろん、トーマスという名前をつける米国人が増えたときに、メイン州に旅行して車を盗まれても筆者(柳川)は責任を追わない。そこは自己責任でお願いします😅。

ハ 正しい。縦断研究のうち、前向き研究は、将来に向って追跡調査を行う研究である。例えば、喫煙者と非喫煙者を長年にわたって観察し、疾病率の有無を調べるような研究である。

【前向き研究 prospective study】

前向き研究 prospective study

  一定の期間を経て前向きにデータをとる縦断研究の一つです。疾患の起こる可能性がある要因にさらされるかどうかに注目して群分けし、研究を開始してから将来(数ヵ月後、数年後)にわたって追跡を続け、疾病などの発生状況を比較する研究方法です。研究を開始する時点で。交絡因子などの影響を把握することができるといった利点がありますが、研究を終えるまで、かなりの時間と費用が必要となることが欠点としてあげられます。

  ランダム化比較試験(RCT)やコホート研究などが代表的なものです。

※ 日本理学療法学会研究会「前向き研究 prospective study」(EBPT 用語集)より

正規分布と標準偏差

図をクリックすると拡大します

ニ 誤り。ある集団の体重の平均が60kg、標準偏差が5kgで、正規分布をしている場合、55 ~ 65kg の範囲内にいる人数の割合は、その集団の約 68 %である。50 ~ 70kg の範囲内にいる人数の割合が、その集団の約 95 %となる。

ある集団の変数が正規分布関数をしている場合、平均値±標準偏差(σ)の範囲には約 68 %の範囲のサンプルが該当し、平均値±2×標準偏差(σ)の範囲には約 95 %の範囲のサンプルが該当するのである。

なお、標準偏差(σ)とは、文字通り各サンプルの平均値からの標準的な差を意味し、ばらつきを表すための指標なのである。平均値から標準偏差(σ)だけ離れた位置は、標準偏差のグラフの変曲点(inflection point=グラフが上に凸から下に凸に変わる点)に一致する。そのことを知っていれば、95 %はさすがに大きすぎる(標準とはいえない)と気づけるだろう。