問24 人力による重量物の運搬における負担軽減対策に関する次のイ~ニの記述について、適切なもののみを全て挙げたものは(1)~(5)のうちどれか。
イ 荷物を台車に乗せて運搬するときに段差を越える際は、一般に、台車は押すよりも引くとよい。
ロ 荷物を持ち上げるときは、肩より上に持ち上げないようにする。
ハ 作業時には、床との接触面積が大きく、摩擦係数が高い靴を履く。
ニ 荷物を持ち運ぶ際は、小分けにして運搬回数を増やすより、荷物をまとめて運搬回数を減らす。
(1)イ ロ ハ
(2)イ ロ
(3)イ ハ ニ
(4)ロ ハ ニ
(5)ニ

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。
柳川に著作権があることにご留意ください。
2024年度(令和06年度) | 問24 | 難易度 | 作業改善に関する問題は、例年、意味不明な内容となっている。正答率は高いので、気にする必要はない。 |
---|---|---|---|
重量物の運搬 | 1 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問24 人力による重量物の運搬における負担軽減対策に関する次のイ~ニの記述について、適切なもののみを全て挙げたものは(1)~(5)のうちどれか。
イ 荷物を台車に乗せて運搬するときに段差を越える際は、一般に、台車は押すよりも引くとよい。
ロ 荷物を持ち上げるときは、肩より上に持ち上げないようにする。
ハ 作業時には、床との接触面積が大きく、摩擦係数が高い靴を履く。
ニ 荷物を持ち運ぶ際は、小分けにして運搬回数を増やすより、荷物をまとめて運搬回数を減らす。
(1)イ ロ ハ
(2)イ ロ
(3)イ ハ ニ
(4)ロ ハ ニ
(5)ニ
正答(1)
【解説】
本問は、ニが不適切で、ロが適切であることは分かるだろう。そうなると(1)又は(2)が正答ということになる。問題はハであるが、ハの日本語は、床との接触面積が大きいとだけされており、何に比べてどの程度大きいかの基準が示されていないのできわめてあいまいな内容となっている。問題が不適切と言うべきであろう。
作業管理に関する問題は、ここ数年は、意味不明な内容の肢のある問題が続いている。しかし、他の正誤の明らかな肢によって正答できるため、正答率は高い。この種の問題はあまり気にする必要はない。
イ 適切であるとしておくが疑問。二が明らかに不適切なので、これを適切としないと正答がなくなってしまう。一般の台車は引くものではなく押すものである。通常の台車は押して移動するべきものであり、これは段差を上がる場合であっても同じである(※)。
※ ただし、段差を降りる場合や、坂道を下る場合は、荷を滑り落とさないために後ろ向きに移動せざるを得ないことがある。また、ロールボックスパレットなどを店舗の内部で扱う場合は、来客への衝突防止のために引くことがあるが、それは例外的な場合である。
工場内などでは、そもそも台車が通る通路にあまり大きな段差を設けるべきではない。一般の道路だとそうもいかないが、台車を押した状態でも、段差を乗り越えやすいキャスタや台車のための段差乗り越え機構も開発されており、台車を引くようなことは普通はしない。
しかし、物理的な「楽さ」だけを考えると、押しながら前輪(ハンドルのない側のキャスタ)を浮かせるより、引きながら後輪(ハンドルの側のキャスタ)を持ち上げる方が楽である(※)。もっとも、こんなことをすれば台車から荷がすべり落ちる危険性がある。
※ 後輪を段差の上に上げて台車を牽けば、(段差がそれほど大きくなければ、)前輪は自然に段差を上がる。
ロ 適切である。あまりにも当然のことであり、不適切だと考える余地がない。ロの入っていない(3)又は(5)と答えた受験者はほとんどいなかった。
なお、「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」に運送業における腰痛予防対策のポイントとして「荷物はできるだけ肩より上で扱わないことが望ましい
」とされている。
【運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ】
第6章 作業別腰痛予防対策のポイント
(2)積み下ろし
荷物の積み下ろしでは、積み上げられた荷物を降ろした後は、荷物を移動することになるため、(1)の「積み込み」で解説した腰部への負担の特徴と共通する点が多く、対策のポイントについても、「積み込み」で述べたポイントが参考になります。この(2)では、高い場所の荷物を積み下ろすことを想定し、対策のポイントを解説します。
〈対策のポイント例〉
・ (前略)
・ 荷物はできるだけ肩より上で扱わないことが望ましい
・ (後略)
※ 中央労働災害防止協会「運送業務で働く人のための腰痛予防のポイントとエクササイズ」(2010年10月)より
ハ 適切であるとしておくが不明。摩擦係数が高い靴を履くというのは、やや疑問がないわけではない(※)が、正しいとしてよいだろう。
※ 職場のあんぜんサイト「転倒防止に有効な安全靴」に、「滑り易い床には滑りにくい靴底が有効ですが、滑りにくい床に滑りにくい靴底では、摩擦が強くなりすぎて歩行時につまずく場合があります
」という表現があり、やたらに摩擦係数が高い靴がよいとも限らない。
問題は「床との接触面積が大きく」の意味が不明なことである。大きければ大きいほど良いというものではなだろう。踵部分の靴底の面積の少ないヒール靴がよくないというのであれば、正しいとしてよい。しかし、それなら問題文にもそう書くべきだし、そもそも重量物の運搬作業にヒール靴を履くなどあまりにも非常識である(※)。
※ ヒール靴を履いて事務作業などを行っている女性が、重量のある書類の入った箱を運ばされるというようなシチュエーションならあり得るだろうが・・・。
通常は、「床との接触面積が大きく」とだけ書かれていれば、靴底が平らだったり、厚底靴で靴底が拡がっているような靴を思い浮かべるのが普通だろう。しかし、現実にそのような靴があるとも思えない。
厚労省の「人や重量物の運搬作業の基本」にも、「作業用の靴は足にピッタリのサイズで滑りにくいものがいい
」とされており、床との接触面積についての言及はない。その他にも、靴の床との接触面積と、重量物の運搬における負担軽減対策の関係に関する学術的な論文や行政文書は寡聞にして知らない。
物理的にも、床との接触面積が広くしたとしても、(安定はよくなるにせよ)摩擦力が大きくなるわけではない。踵の狭い靴は好ましくないが、通常の安全靴や運動靴であればよく、あえて床との接触面積が大きい靴を使う必要はないだろう。
というわけで、意味不明な問題文としか言いようがないが、「ヒール靴はよくない」という趣旨だと考えて、適切だとしておく。
ニ 適切ではない。荷物を持ち運ぶ際は、小分けにして運搬回数を増やせば、重量物の運搬作業そのものがなくなる(※)。あまりにも当然すぎるので何かあるのではないかと疑いたくなるが、不適切であることは明らかだろう。
※ 現実には荷を小分けにしたところで、早く作業を終わらせる必要があるため、現場で複数の荷をまとめて運ぶことになるだけというのが自体ではあるが・・・。