労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問17

有機溶剤による健康影響等




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2024年度(令和06年度) 問17 難易度 メンタルヘルス指針に関する知識問題だが、内容的には常識問題となっている。確実に正答しておきたい。
有機溶剤  2 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問17 有機溶剤の健康影響等に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)トルエンは、接着剤や塗料の溶剤などに使用され、代謝物である尿中のメチル馬尿酸は、生物学的モニタリングの指標として利用される。

(2)ジクロロメタンは、金属部品の脱脂洗浄剤などとして使用され、慢性ばく露により、肝臓が障害される。

(3)ノルマルヘキサンは、溶剤や接着剤などで使用され、代謝物は2,5-ヘキサンジオンであり、末梢神経障害を生じる。

(4)N,N-ジメチルホルムアミドは、合成繊維などの製造工程で溶剤として使用され、慢性ばく露により、頭痛、めまい、消化不良、肝機能障害などがみられる。

(5)二硫化炭素は、レーヨンの製造工程で液剤として使用され、高濃度のばく露では精神障害を生じる。

正答(1)

【解説】

問17試験結果

試験解答状況
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本サイトが解説を掲示している 2012 年度以降の過去問では、有機溶剤による健康影響等は、2017 年度問22013 年度問 19 とかなり間隔をあけて出題されている。しかも本年度の設問の各肢は、過去問にないものがほとんどである。

しかし、正答の(1)は、衛生管理者の基本的なテキストには必ず記載されている基本的な事項である。また、第1種衛生管理者試験の「労働衛生(有害業務)」の科目では定番の問題となっている。

このため、正答率は極めて高い。過去問に例がないとはいえ、確実に正答できなければならない。

(1)誤り。特殊健康診断で義務付けられているトルエンの、生物学的モニタリングの指標は「尿中の馬尿酸の量」である。なお、接着剤や塗料の溶剤などに使用されることは正しい。

特殊健康診断で義務付けられている生物学的モニタリングの指標は覚えておかなければならない。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項 略)

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3~5 (略)

【安全衛生法施行令】

(健康診断を行うべき有害な業務)

第22条 法第66条第2項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。

一~五 (略)

 屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第六の二に掲げる有機溶剤を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるもの

2及び3 (略)

【有機溶剤中毒予防規則】

(健康診断)

第29条 令第22条第1項第六号の厚生労働省令で定める業務は、屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)における有機溶剤業務のうち、第3条第1項の場合における同項の業務以外の業務とする。

 事業者は、前項の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6月以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

一及び二 (略)

 有機溶剤による健康障害の既往歴並びに自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査、別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)についての既往の検査結果の調査並びに別表の下欄(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査を除く。)及び第5項第二号から第五号までに掲げる項目についての既往の異常所見の有無の調査

 (略)

3~6 (略)

別表 (第二十九条関係)

有機溶剤等 項目
(略) (略) (略)
(六)

一 トルエン

二 前号に掲げる有機溶剤をその重量の5パーセントを超えて含有する物

尿中の馬尿酸の量の検査
(略) (略) (略)

【安衛法令の特殊健康診断で義務付けられる生物学的モニタリング指標】
物質名 ばく露指標(特殊健康診断の検査内容)
トルエン 尿中馬尿酸
キシレン 尿中メチル馬尿酸
スチレン 尿中マンデル酸
テトラクロルエチレン 尿中トリクロル酢酸又は総三塩化物
1.1.1-トリクロルエタン
トリクロルエチレン
N.N-ジメチルホルムアミド 尿中N-メチルホルムアミド
ノルマルヘキサン 尿中2,5-ヘキサンジオン
血液中鉛、尿中デルタアミノレブリン酸

(2)正しい。ジクロロメタンは、金属部品の脱脂洗浄剤などとして使用され、モデルSDSでは、特定標的臓器・全身毒性(反復ばく露)は区分1(中枢神経系、肝臓)となっている。

(3)正しい。ノルマルヘキサンは、溶剤や接着剤などで使用される。上記表(安衛法令の特殊健康診断で義務付けられる生物学的モニタリング)にあるように、代謝物は尿中の 2,5-ヘキサンジオンである。また、「労働基準法施行規則の規定に基づき厚生労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病を定める件」において、末梢神経障害が症状又は障害として定められている。(※)

※ なお、モデル SDS に「本物質を扱う作業場において、末梢神経障害の発生率がn-ヘキサンへの長期間の職業ばく露に起因する可能性があることが多数の報告がある」とされている。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項 略)

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3~5 (略)

【安全衛生法施行令】

(健康診断を行うべき有害な業務)

第22条 法第66条第2項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。

一~五 (略)

 屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第六の二に掲げる有機溶剤を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるもの

2及び3 (略)

【有機溶剤中毒予防規則】

(健康診断)

第29条 令第22条第1項第六号の厚生労働省令で定める業務は、屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)における有機溶剤業務のうち、第3条第1項の場合における同項の業務以外の業務とする。

 事業者は、前項の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6月以内ごとに1回、定期に、次の項目について医師による健康診断を行わなければならない。

一及び二 (略)

 有機溶剤による健康障害の既往歴並びに自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査、別表の下欄に掲げる項目(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査に限る。)についての既往の検査結果の調査並びに別表の下欄(尿中の有機溶剤の代謝物の量の検査を除く。)及び第5項第二号から第五号までに掲げる項目についての既往の異常所見の有無の調査

 (略)

3~6 (略)

別表 (第二十九条関係)

有機溶剤等 項目
(略) (略) (略)
(八)

一 ノルマルヘキサン

二 前号に掲げる有機溶剤をその重量の5パーセントを超えて含有する物

尿中の二・五―ヘキサンジオンの量の検査

(4)正しい。N,N-ジメチルホルムアミドは、「労働基準法施行規則の規定に基づき厚生労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病を定める件」において、ジメチルホルムアミドとされており、本物質にさらされる業務による、特定の症状又は障害を主たる症状又は障害とする疾病(頭痛、めまい、嘔吐等の自覚症状、皮膚障害、前眼部障害、気道障害、肝障害又は胃腸障害)が、症状又は障害として定められている。

(5)正しい。二硫化炭素は、レーヨンの製造工程で液剤として使用される。「労働基準法施行規則の規定に基づき厚生労働大臣が指定する単体たる化学物質及び化合物(合金を含む。)並びに厚生労働大臣が定める疾病を定める件」では、本物質にさらされる業務による、せん妄、躁うつ等の精神障害、意識障害、末梢神経障害又は網膜変化を伴う脳血管障害若しくは腎障害が、症状又は障害として定められている。

※ 二硫化炭素は、高濃度の単回ばく露で、興奮、情緒不安定、せん妄、幻覚、妄想、自殺願望等の精神障害を生じる。