問15 厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。(1)~(5)のうちどれか。
(1)メンタルヘルスケアを継続的かつ計画的に行うため、心の健康づくり計画を策定し、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置づける。
(2)心の健康づくり計画の策定、実施体制の整備等の具体的な実施方策や個人情報の保護に関する規程等の策定等に当たっては、衛生委員会等において調査審議を行う。
(3)産業医等は、対策の実施状況の把握、教育研修の企画及び実施、セルフケア及びラインによるケアの支援、情報の収集及び提供、健康情報の保護等を行う。
(4)メンタルヘルス不調への気付きと対応のため、産業医は、労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して対応できる体制を整備し、相談等により把握した情報を事業者が事業場外の医療機関に提供する。
(5)事業者が把握した心の健康に関する情報を理由として、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないことは、不利益な取扱いに該当する。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
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2024年度(令和06年度) | 問15 | 難易度 | メンタルヘルス指針に関する知識問題だが、内容的には常識問題となっている。確実に正答しておきたい。 |
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メンタルヘルス指針 | 1 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問15 厚生労働省の「労働者の心の健康の保持増進のための指針」に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。(1)~(5)のうちどれか。
(1)メンタルヘルスケアを継続的かつ計画的に行うため、心の健康づくり計画を策定し、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置づける。
(2)心の健康づくり計画の策定、実施体制の整備等の具体的な実施方策や個人情報の保護に関する規程等の策定等に当たっては、衛生委員会等において調査審議を行う。
(3)産業医等は、対策の実施状況の把握、教育研修の企画及び実施、セルフケア及びラインによるケアの支援、情報の収集及び提供、健康情報の保護等を行う。
(4)メンタルヘルス不調への気付きと対応のため、産業医は、労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して対応できる体制を整備し、相談等により把握した情報を事業者が事業場外の医療機関に提供する。
(5)事業者が把握した心の健康に関する情報を理由として、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないことは、不利益な取扱いに該当する。
正答(4)
【解説】
本問は、問題文本分にもあるように「労働者の心の健康の保持増進のための指針(最終改正:平成 27 年 11 月 30 日 健康保持増進のための指針公示第6号)」(以下「指針」という。)に関する問題である。
なお、指針策定時の通達「労働者の心の健康の保持増進のための指針について(平成 18 年3月 31 日基発第 0331001 号)」も適宜、参照されたい。
(1)適切である。指針の4により、メンタルヘルスケアを継続的かつ計画的に行うため、心の健康づくり計画を策定し、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置づけるとされている。
【労働者の心の健康の保持増進のための指針】
4 心の健康づくり計画
メンタルヘルスケアは、中長期的視点に立って、継続的かつ計画的に行われるようにすることが重要であり、また、その推進に当たっては、事業者が労働者の意見を聴きつつ事業場の実態に則した取組を行うことが必要である。このため、事業者は、3に掲げるとおり衛生委員会等において十分調査審議を行い、心の健康づくり計画を策定することが必要である。心の健康づくり計画は、各事業場における労働安全衛生に関する計画の中に位置付けることが望ましい。
(後略)
※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成 27 年 11 月 30 日 健康保持増進のための指針公示第6号)より
(2)適切である。指針の3により、心の健康づくり計画の策定、実施体制の整備等の具体的な実施方策や個人情報の保護に関する規程等の策定等に当たっては、衛生委員会等において調査審議を行うこととされている。
【労働者の心の健康の保持増進のための指針】
2 メンタルヘルスケアの基本的考え方
(前略)
このため、事業者は、以下に定めるところにより、自らがストレスチェック制度を含めた事業場におけるメンタルヘルスケアを積極的に推進することを表明するとともに、衛生委員会又は安全衛生委員会(以下「衛生委員会等」という。)において十分調査審議を行い、メンタルヘルスケアに関する事業場の現状とその問題点を明確にし、その問題点を解決する具体的な実施事項等についての基本的な計画(以下「心の健康づくり計画」という。)を策定・実施するとともに、ストレスチェック制度の実施方法等に関する規程を策定し、制度の円滑な実施を図る必要がある。
(後略)
3 衛生委員会等における調査審議
メンタルヘルスケアの推進に当たっては、事業者が労働者等の意見を聴きつつ事業場の実態に即した取組を行うことが必要である。また、心の健康問題に適切に対処するためには、産業医等の助言を求めることも必要である。このためにも、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用することが効果的である。労働安全衛生規則(昭和 47 年労働省令第 32 号)第22条において、衛生委員会の付議事項として「労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること」が規定されており、4に掲げる心の健康づくり計画の策定はもとより、その実施体制の整備等の具体的な実施方策や個人情報の保護に関する規程等の策定等に当たっては、衛生委員会等において十分調査審議を行うことが必要である。
(後略)
※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成 27 年 11 月 30 日 健康保持増進のための指針公示第6号)より(下線強調引用者)
【労働安全衛生法】
(衛生委員会)
第18条 事業者は、政令で定める規模の事業場ごとに、次の事項を調査審議させ、事業者に対し意見を述べさせるため、衛生委員会を設けなければならない。
一~三(略)
四 前三号に掲げるもののほか、労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項
2 (略)
【労働安全衛生規則】
(衛生委員会の付議事項)
第22条 法第18条第1項第四号の労働者の健康障害の防止及び健康の保持増進に関する重要事項には、次の事項が含まれるものとする。
一~九(略)
十 労働者の精神的健康の保持増進を図るための対策の樹立に関すること。
十一及び十二(略)
(3)適切である。指針の5の(3)の⑤のアにより、産業医等は、対策の実施状況の把握、教育研修の企画及び実施、セルフケア及びラインによるケアの支援、情報の収集及び提供、健康情報の保護等を行うこととされている。
【労働者の心の健康の保持増進のための指針】
5 4つのメンタルヘルスケアの推進
(柱書 略)
(3)事業場内産業保健スタッフ等によるケア
(柱書 略)
①~④ (略)
⑤ 一定規模以上の事業場にあっては、事業場内に又は企業内に、心の健康づくり専門スタッフや保健師等を確保し、活用することが望ましいこと。
なお、事業者は心の健康問題を有する労働者に対する就業上の配慮について、事業場内産業保健スタッフ等に意見を求め、また、これを尊重するものとする。メンタルヘルスケアに関するそれぞれの事業場内産業保健スタッフ等の役割は、主として以下のとおりである。なお、以下に掲げるもののほか、ストレスチェック制度における事業場内産業保健スタッフ等の役割については、ストレスチェック指針によることとする。
ア 産業医等
衛生管理者等は、心の健康づくり計画に基づき、産業医等の助言、指導等を踏まえて、具体的な教育研修の企画及び実施、職場環境等の評価と改善、心の健康に関する相談ができる雰囲気や体制づくりを行う。またセルフケア及びラインによるケアを支援し、その実施状況を把握するとともに、産業医等と連携しながら事業場外資源との連絡調整に当たることが効果的である。
イ~オ (略)
※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成 27 年 11 月 30 日 健康保持増進のための指針公示第6号)より(下線強調引用者)
(4)適切ではない。産業医が相談等により把握した情報を、意味もなく事業者が無関係な事業場外の医療機関に提供することなど、許されることではないし、またあり得ないことであろう。
※ 少なくとも問題文には、医療機関へ情報を提供する目的も書かれていなければ、どのような医療機関かについての限定もされていない。従って、事業者が「何の意味もなく無関係な外部の医療機関に、労働者のメンタルヘルスに関する情報を提供する」としか読めない。そんなことをされても、外部の医療機関としても困るだろう。これは、情報提供ではなく、情報漏洩と言うべきである。
そもそも問題として成立していない。出題者は何かを書き忘れたのではないかと疑いたくなるような設問である。
【労働者の心の健康の保持増進のための指針】
6 メンタルヘルスケアの具体的進め方
(柱書 略)
(3)メンタルヘルス不調への気付きと対応
(前略)
このため、事業者は、個人情報の保護に十分留意しつつ、労働者、管理監督者、家族等からの相談に対して適切に対応できる体制を整備するものとする。さらに、相談等により把握した情報を基に、労働者に対して必要な配慮を行うこと、必要に応じて産業医や事業場外の医療機関につないでいくことができるネットワークを整備するよう努めるものとする。
ア (略)
イ 管理監督者、事業場内産業保健スタッフ等による相談対応等
(前略)
事業場内産業保健スタッフ等は、管理監督者と協力し、労働者の気付きを促して、保健指導、健康相談等を行うとともに、相談等により把握した情報を基に、必要に応じて事業場外の医療機関への相談や受診を促すものとする。また、事業場内産業保健スタッフ等は、管理監督者に対する相談対応、メンタルヘルスケアについても留意する必要がある。
(後)
ウ 労働者個人のメンタルヘルス不調を把握する際の留意点
事業場内産業保健スタッフ等が労働者個人のメンタルヘルス不調等の労働者の心の健康に関する情報を把握した場合には、本人に対してその結果を提供するとともに、本人の同意を得て、事業者に対して把握した情報のうち就業上の措置に必要な情報を提供することが重要であり、事業者は提供を受けた情報に基づいて必要な配慮を行うことが重要である。ただし、事業者がストレスチェック結果を含む労働者の心の健康に関する情報を入手する場合には、労働者本人の同意を得ることが必要であり、また、事業者は、その情報を、労働者に対する健康確保上の配慮を行う以外の目的で使用してはならない。
(後)
エ (略)
※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成 27 年 11 月 30 日 健康保持増進のための指針公示第6号)より(下線強調引用者)
(5)適切である。指針の8により、事業者がメンタルヘルスケア等を通じて把握した心の健康に関する情報を理由として、期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないことは、不利益な取扱いに該当する。
なお、指針は、あくまでも「メンタルヘルスケア等を通じて労働者の心の健康に関する情報を把握した場合」について、その情報を理由として不利益な扱いをしてはならないとしているのである。本人がメンタル的な問題のために本来の職務を遂行する能力がなく、配転等を行っても可能な職務がないというような場合にまで不利益に取り扱ってはならないとしているのではない。
【労働者の心の健康の保持増進のための指針】
8 心の健康に関する情報を理由とした不利益な取扱いの防止
(1)事業者による労働者に対する不利益取扱いの防止
事業者が、メンタルヘルスケア等を通じて労働者の心の健康に関する情報を把握した場合において、その情報は当該労働者の健康確保に必要な範囲で利用されるべきものであり、事業者が、当該労働者の健康の確保に必要な範囲を超えて、当該労働者に対して不利益な取扱いを行うことはあってはならない。
このため、労働者の心の健康に関する情報を理由として、以下に掲げる不利益な取扱いを行うことは、一般的に合理的なものとはいえないため、事業者はこれらを行ってはならない。なお、不利益な取扱いの理由が労働者の心の健康に関する情報以外のものであったとしても、実質的にこれに該当するとみなされる場合には、当該不利益な取扱いについても、行ってはならない。
① (略)
② 期間を定めて雇用される者について契約の更新をしないこと。
③~⑤ (略)
(2)(略)
※ 厚生労働省「労働者の心の健康の保持増進のための指針」(最終改正:平成 27 年 11 月 30 日 健康保持増進のための指針公示第6号)より(下線強調引用者)