労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問14

労働者の健康の保持増進のための指針(THP指針)




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2024年度(令和06年度) 問14 難易度 THP指針に関する知識問題。やや細かな内容も含まれるが、正答率は極端に低くはなかった。
THP指針  5 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問14 厚生労働省の「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」に関する次のイ~ニの記述について、適切なもののみを全て挙げたものは(1)~(5)のうちどれか。

イ 労働者の高齢化を見据えた取組として、筋力や認知機能等の心身の活力低下するフレイルやロコモティブシンドロームの予防に取り組むことが重要である。

ロ 健康保持増進対策を継続的かつ計画的に行うための取組として、推進体制の確立、課題の把握、目標の設定、措置の決定、計画の作成、計画の実施、実施結果の評価の7項目が定められている。

ハ 労働者の健康状態の把握においては、転倒等の労働災害を防止するため、体力の状況を把握し、自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、ロコモ度テスト等の健康測定等を実施する。

ニ 健康指導は、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、口くう保健指導及び保健指導を含むもの又はこれらに関係するものであり、全ての措置の実施が困難な場合には、可能なものから実施する。

(1)イ  ロ  ハ

(2)イ  ロ  ニ

(3)イ  ハ  ニ

(4)イ  ハ

(5)ロ  ニ

正答(3)

【解説】

問14試験結果

試験解答状況
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本問は、問題文本分にもあるように「事業場における労働者の健康保持増進のための指針(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)」(以下「指針」という。)に関する問題である。

なお、最終改正時の通達「「事業場における労働者の健康保持増進のための指針の一部を改正する件」の周知について(令和5年3月 31 日基発 0331 第1号)」も適宜、参照されたい。

イ 適切である。指針の2の③に、労働者の高齢化を見据えた取組として、筋力や認知機能等の心身の活力低下するフレイルやロコモティブシンドロームの予防に取り組むことが重要であるとされている。

本肢の内容は、当然のことであって、誤っていると解する余地がないのである(※)

※ 本問は、あくまでも指針の内容を問うものであって、内容の適否を問うものではない。しかし、内容が正しければ、指針に定めてあるとしてよい。仮に正しい内容の事項が、指針に定められていないとすれば、それは厚生労働省が定めた指針の欠陥ということになろう。そのような問題を厚生労働省が所管する試験に出すわけがないのである。

【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】

2 健康保持増進対策の基本的考え方

  (前略)

  さらに、事業者は、健康保持増進対策を推進するに当たって、次の事項に留意することが必要である。

①及び② (略)

③  労働者の高齢化を見据えた取組

  労働者が高齢期を迎えても健康に働き続けるためには、心身両面の総合的な健康が維持されていることが必要であり、若年期からの運動の習慣化や、高年齢労働者を対象とした身体機能の維持向上のための取組等を通じて、加齢とともに筋力や認知機能等の心身の活力が低下するフレイルやロコモティブシンドロームの予防に取り組むことが重要である。健康保持増進措置を検討するに当たっては、このような視点を盛り込むことが望ましい。

  (後略)

※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)より

ロ 適切ではない。指針の3には、本肢に示されている7項目の前に「(1)健康保持増進方針の表明」があり、合わせて8項目が定められている(※)

※ もちろん、8項目が定められているということは、本肢の7項目は間違いなく定められているのであるから、本肢は(日本語としては)正しいのである。しかし、本肢を正しいとすれば、正答がなくなってしまうので本肢は誤りと考えるしかない。

問題文が精査されていないのである。ある意味では、問題文に欠陥がある出題ミスともいうべきであろう。

【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】

3 健康保持増進対策の推進に当たっての基本事項

  事業者は、健康保持増進対策を中長期的視点に立って、継続的かつ計画的に行うため、以下の項目に沿って積極的に進めていく必要がある。また、健康保持増進対策の推進に当たっては、事業者が労働者等の意見を聴きつつ事業場の実態に即した取組を行うため、労使、産業医、衛生管理者等で構成される衛生委員会等を活用して以下の項目に取り組むとともに、各項目の内容について関係者に周知することが必要である。

(1)健康保持増進方針の表明

  (内容略)

(2)推進体制の確立

  (内容略)

(3)課題の把握

  (内容略)

(4)健康保持増進目標の設定

  (内容略)

(5)健康保持増進措置の決定

  (内容略)

(6)健康保持増進計画の作成

  (内容略)

(7)健康保持増進計画の実施

  (内容略)

(8)実施結果の評価

  (内容略)

※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)より

ハ 適切である。指針の4の(2)のイの(イ)により、労働者の健康状態の把握においては、転倒等の労働災害を防止するため、体力の状況を把握し、自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、ロコモ度テスト等の健康測定等を実施するとされている。

【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】

4 健康保持増進対策の推進に当たって事業場ごとに定める事項

  以下の項目は、健康保持増進対策の推進に当たって、効果的な推進体制を確立するための方法及び健康保持増進措置についての考え方を示したものである。事業者は、各事業場の実態に即した適切な体制の確立及び実施内容について、それぞれ以下の事項より選択し、実施するものとする。

(1)体制の確立

  (内容略)

(2)健康保持増進措置の内容

  事業者は、次に掲げる健康保持増進措置の具体的項目を実施する。

イ 健康指導

(イ)労働者の健康状態の把握

  (前略)

  筋力や認知機能等の低下に伴う転倒等の労働災害を防止するため、体力の状況を客観的に把握し、自らの身体機能の維持向上に取り組めるよう、具体的には以下の健康測定等を実施することが考えられる。

 (略)

 移動機能を確認するロコモ度テスト

  (後略)

(ロ)(略)

 (略)

※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)より

ニ 適切である。指針の4の(2)のイの(イ)により、健康指導は、運動指導、メンタルヘルスケア、栄養指導、口くう保健指導及び保健指導を含むもの又はこれらに関係するものであることは正しい。

また指針1の記述により、全ての措置の実施が困難な場合には、可能なものから実施することも正しい。なお、THP指針が策定された直後の数年間は、国がTHPの活動に補助金を付けていたこともあり、指針はすべての項目を実施しなければならないとして省略は認めていなかった(※)

※ THP 制度のアイデアは高度経済成長期に発案されたものだったこともあり、企業としても実施が可能だと思われていたのである。制度が創設された当初は、3年間は補助金を出して、事業場に THP 制度を実施してもらい、その後は自力で THP 活動を進めてゆくことが想定されていたのである。しかし、制度が始まったときは、すでに高度経済成長期は終了しており、企業の状況が変わっていたのだ。

それでも、補助金制度(大規模事業では補助率1/3、中小規模事業場では2/3)があった時期は、企業としても法定の健康診断程度の費用を負担すれば、高度な健康測定が(3年間は)受けられるというので、補助金を受けてTHP指針に従った健康測定が盛んに行われたのである。

しかし、THPの必要性を理解した上で行っていたわけではなかったため、補助を受けられる3年間が過ぎると、ほとんどの事業場が元の法定健診しか行わない状況に戻ってしまったのである。その後、一度、補助金制度を見直したこともあったのだが、結局は、完全な形で定着することはなかった。そもそもの制度設計に問題がある制度だったというべきであろう。

そのため、その後、THP指針も、事業者が実施しやすいように、かなり柔軟なものとする方向で改正を繰り返してきて現在の姿になったのである。

【事業場における労働者の健康保持増進のための指針】

1 趣旨

  (前略)

  本指針は、労働安全衛生法(昭和 47 年法律第 57 号)第 70 条の2第1項の規定に基づき、同法第 69 条第1項の事業場において事業者が講ずるよう努めるべき労働者の健康の保持増進のための措置(以下「健康保持増進措置」という。)が適切かつ有効に実施されるため、当該措置の原則的な実施方法について定めたものである。事業者は、健康保持増進措置の実施に当たっては、本指針に基づき、事業場内の産業保健スタッフ等に加えて、積極的に労働衛生機関、中央労働災害防止協会、スポーツクラブ、医療保険者、地域の医師会や歯科医師会、地方公共団体又は産業保健総合支援センター等の事業場外資源を活用することで、効果的な取組を行うものとする。また、全ての措置の実施が困難な場合には、可能なものから実施する等、各事業場の実態に即した形で取り組むことが望ましい

4 健康保持増進対策の推進に当たって事業場ごとに定める事項

  以下の項目は、健康保持増進対策の推進に当たって、効果的な推進体制を確立するための方法及び健康保持増進措置についての考え方を示したものである。事業者は、各事業場の実態に即した適切な体制の確立及び実施内容について、それぞれ以下の事項より選択し、実施するものとする。

(1)体制の確立

  (内容略)

(2)健康保持増進措置の内容

  事業者は、次に掲げる健康保持増進措置の具体的項目を実施する。

イ 健康指導

(イ)(略)

(ロ)健康指導の実施

  労働者の健康状態の把握を踏まえ実施される労働者に対する健康指導については、以下の項目を含むもの又は関係するものとする。また、事業者は、希望する労働者に対して個別に健康相談等を行うように努めることが必要である。

 労働者の生活状況、希望等が十分に考慮され、運動の種類及び内容が安全に楽しくかつ効果的に実践できるよう配慮された運動指導

 ストレスに対する気付きへの援助、リラクセーションの指導等のメンタルヘルスケ

 歯と口の健康づくりに向けた口腔保健指導食習慣や食行動の改善に向けた栄養指導

 勤務形態や生活習慣による健康上の問題を解決するために職場生活を通して行う、睡眠、喫煙、飲酒等に関する健康的な生活に向けた保健指導

  (後略)

 (略)

※ 厚生労働省「事業場における労働者の健康保持増進のための指針」(最終改正:令和5年3月 31 日 健康保持増進のための指針公示第 11 号)より(下線強調引用者)