労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問09

酸素欠乏症及び硫化水素中毒




問題文
トップ
受験勉強に打ち込む

※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2024年度(令和06年度) 問09 難易度 一部に専門的な内容の肢もあるが、基本的な知識で正答可能。過去問の学習だけでも正答できる。
酸欠及び硫化水素  3 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問9 酸素欠乏症及び硫化水素中毒とその予防に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)酵母など発酵する物を入れてある醸造槽の内部での作業は、酸素欠乏症の危険がある。

(2)空気中の酸素濃度が 12 ~ 16 %程度では、一般に、集中力の低下や、頭痛、吐き気などの症状がみられる。

(3)硫化水素は無色で、その比重は空気より大であり、滞留性がある。

(4)高濃度の硫化水素は、脳細胞内の呼吸酵素の働きを阻害し、意識消失を瞬時に引き起こす。

(5)空気中の硫化水素濃度が1~5ppmで、嗅覚麻が生じる。

正答(5)

【解説】

問9試験結果

試験解答状況
図をクリックすると拡大します

(1)正しい。発酵とは、微生物(酵母)がエネルギーを得るために有機物を分解する現象である。発酵それ自体は酸素を必要とせず、酸素がない状態で嫌気性の微生物が生きていくための作用なのである。

しかし、酵母は、酸素がなくても生きられる嫌気性生物ではあるが、酸素をまったく必要としないわけではなく、増殖する過程では酸素を消費するのである。

このため、酵母など発酵する物を入れてある醸造槽の内部では酸素が消費されて欠乏している可能性がある。そのためその内部での作業は、酸素欠乏症の危険があるのだ。

【安全衛生法施行令】

別表第六 酸素欠乏危険場所(第六条、第二十一条関係)

一~七 (略)

 しようゆ、酒類、もろみ、酵母その他発酵する物を入れてあり、又は入れたことのあるタンク、むろ又は醸造槽の内部

九~十二 (略)

【酸素欠乏症等防止規則】

(定義)

第2条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~五 (略)

 酸素欠乏危険作業 労働安全衛生法施行令(昭和47年政令第318号。以下「令」という。)別表第六に掲げる酸素欠乏危険場所(以下「酸素欠乏危険場所」という。)における作業をいう。

七及び八 (略)

(2)正しい。空気中の酸素濃度が 12 ~ 16 %程度では、一般に、集中力の低下や、頭痛、吐き気などの症状がみられる。

【酸素欠乏症】
酸素
濃度
症状等
21% 通常の空気の状態
18% 安全限界だが連続換気が必要
16%
12%
8%
6%
頭痛、吐き気
目まい、筋力低下
失神昏睡、7~8分以内に死亡
瞬時に昏倒、呼吸停止、死亡
【硫化水素中毒】
硫化水素
濃  度
症状等
5ppm程度 不快臭
10ppm 許容濃度(眼の粘膜の刺激下限界)
20ppm

350ppm

700ppm
気管支炎、肺炎、肺水腫
 
生命の危険
 
呼吸麻痺、昏倒、呼吸停止、死亡

※ 厚生労働省「なくそう 酸素欠乏症・硫化水素中毒

(3)正しい。硫化水素は、無色で、その比重は空気より大であり、滞留性がある(※)。このため、温泉の近くのスキー場等で、窪地に硫化水素中毒が発生することがある。

※ 政府のモデルSDS「硫化水素」など

(4)正しい。高濃度の硫化水素は、脳細胞内の呼吸酵素の働きを阻害し、意識消失を瞬時に引き起こす。

【しきい値については、どのように考えるべきでしょうか。】

ガス濃度[ppm] 作用
0.025 臭いで感知しうる限界
0.3 明瞭に感知される
5~10 悪臭を強く感じる
20~50 目の炎症
50~150 頭痛、めまい、吐き気
150~200 悪臭の麻痺により臭気を感じなくなる
300 亜急性中毒(意識不明)
700~800 臭気を感ぜずに意識不明、30 分で生命危機
1000~2000 失神、痙攣、呼吸停止、死に至る
※ 環境省長野自然環境事務所「地獄谷歩道沿いの管理作業における安全対策マニュアル作成の手引き」(2012 年3月)

(5)誤り。硫化水素の許容濃度は10ppm(管理濃度は1ppm)である。空気中の硫化水素濃度が1~5ppmでは、不快臭があるものの、通常は健康影響は表れない。