労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問08

減圧症の症状と対策




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

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2024年度(令和06年度) 問08 難易度 一部に専門的な内容の肢もあるが、基本的な知識で正答可能。過去問の学習だけでも正答できる。
減圧症の症状と対策  4 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問8 減圧症に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)窒素は、脂肪含量の高い組織に溶解しやすい。

(2)減圧症は、圧力が急速に減少することにより、血液又は組織に溶解していたガスが気泡を形成することで生じる。

(3)心臓内の右左短絡は、減圧症の危険因子である。

(4)スクイーズと呼ばれる息切れ、胸痛などの呼吸器症状が生じる。

(5)減圧性の骨死が生じる。

正答(4)

【解説】

問8試験結果

試験解答状況
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(1)正しい。窒素ガスは、脂肪含量の高い組織に溶解しやすい。例えば、岡崎(※)によると、窒素の大気圧における生理食塩水と肝油への溶けやすさを調べるため、93 %の窒素ガスを1時間接触させたところ、5ccの生理食塩水には 0.017 ~ 0.200 ccの窒素が溶け込んだのに対し、同量の肝油には 0.100 ~ 0.105 cc の窒素が溶け込んだとされる。

※ 岡崎哲「体液及び脂肪の窒素瓦斯排除に関する研究」(岡山医学会雑誌 Vol.63 No.1 1951年)

なお、液体中に溶け込むガスの量は、ヘンリーの法則により、液体と平衡にあるガスの分圧に比例する。したがって、高圧下では、組織中に溶ける窒素ガスの量は大気圧下よりも増大する。

(2)正しい。減圧症は、浮上などで圧力が急速に減少することにより、血液又は組織に溶解していたガス(主に窒素)が気泡を形成することで生じる。

(3)正しい。本肢の心臓内の右左短絡(シャント)とは、心臓の内部で右から左への短絡が生じることで、重篤になるとチアノーゼ(血液中の酸素不足によって皮膚や粘膜が暗紫色になる症状)が発生する。減圧症の空気塞栓症状で、重篤な場合は呼吸困難やチアノーゼが生じることがあるが、心臓内の右左短絡はこのリスクを高めることになる。

さらに、心臓内の右左短絡によって、静脈中の窒素ガスの気泡が直接動脈に移行してしまうこともある。このため、心臓内の右左短絡は減圧症の危険因子となる。

(4)誤り。本肢のスクイーズ(squeeze/圧障害)とは、身体に圧力が加わることによって、体内の各組織に圧力差が生じることによって起きる。潜水中に中耳腔がスクイーズを起こすと耳に圧迫感や痛みを感じ、鼻腔がスクイーズを起こすと前額部の疼痛が起きる。

本肢の「息切れ、胸痛などの呼吸器症状」は、チョークスなど空気塞栓によるものである。

(5)正しい。減圧性骨壊死(虚血性骨壊死)とは、骨組織(とくに大腿骨頭部、肩関節部、大腿骨遠位部、脛骨近位部)が破壊される疾患である。骨壊死そのものは痛み等を感じず、レントゲンでも発見しにくい(※)ため、初期には気付かないことも多い。そのため、数カ月から数年で徐々に悪化して、重度の関節炎による障害を起こすことがある。

※ 高圧作業の労働者については、特殊健康診断の結果に基づいて医師が必要と認めた場合は「関節部のエツクス線直接撮影による検査」が義務付けられている。安衛法上の義務はないが、潜水労働者に対しては、MRI による検査を行うことが望ましい。

骨壊死の原因としては、骨の栄養動脈への血流が妨げられることがある。減圧作業では、減圧時に血管内に気泡や血栓が発生することで、骨の栄養動脈への血流が阻害されて、減圧性骨壊死が生じるリスクとなるのである。なお、潜水の深さと時間の長さ、浮上にかける時間の短さなどの他(※)、年齢、肥満、さらには締め付けの強いウエットスーツも発症の危険因子となる。

※ このため、安衛法の適用のない個人事業主である漁師の発症が多いとされている。