問7 電離放射線の生体影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)細胞分裂が盛んな組織は、放射線感受性が高い。
(2)しきい線量以下では、確定的影響は見られない。
(3)眼の水晶体の混濁は、確定的影響かつ晩発影響である。
(4)最も放射線感受性が高い細胞は、卵巣の濾胞上皮細胞である。
(5)放射線誘発がんの代表的なものとして、白血病が挙げられる。

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
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2024年度(令和06年度) | 問07 | 難易度 | 電離放射線の生体影響に関する基本的な知識問題である。正答率も高い。確実に正答しなければならない。 |
---|---|---|---|
電離放射線の生体影響 | 3 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問7 電離放射線の生体影響に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。
(1)細胞分裂が盛んな組織は、放射線感受性が高い。
(2)しきい線量以下では、確定的影響は見られない。
(3)眼の水晶体の混濁は、確定的影響かつ晩発影響である。
(4)最も放射線感受性が高い細胞は、卵巣の濾胞上皮細胞である。
(5)放射線誘発がんの代表的なものとして、白血病が挙げられる。
正答(4)
【解説】
電離放射線の生体影響については、環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和6年度版)」の「第3章 放射線による健康影響」(以下「基礎資料第3章」という。)の資料が参考になる。
それほど長大な資料ではないので、電離放射線の健康影響について自信がない場合は、ざっと眼を通しておくと役に立つかもしれない。
(1)正しい。基礎資料第3章の「3.2 人体影響の発生機構」の「臓器・組織の放射線感受性」によれば、「細胞分裂が盛んで、分化の程度の低い細胞ほど、放射線感受性が高い傾向にあります。
」とされている。
(2)誤りとは言い切れない。基礎資料第3章の「3.1 人体への影響」の「確定的影響(組織反応)と確率的影響」によれば「確定的影響の第一の特徴は、これ以下なら影響が生じない、これ以上なら影響が生じるという「しきい線量」が存在するということです。放射線感受性には個人差があり、感受性の高い人ほど低い線量で発症します。ICRP2007年勧告では全体の1%の人に症状が現れる線量をしきい線量としています。しきい線量を超えると、影響が現れる人の数が増え、影響の発生率は増加します。確定的影響の第二の特徴として、しきい線量を超えると、線量の増加に伴いよりたくさんの細胞死や変性が起こり、症状の重症度は重くなります
」とされている。
【確定的影響(組織反応)と確率的影響】
第3章 放射線による健康影響
3.1 人体への影響
確定的影響(組織反応)と確率的影響
確定的影響の第一の特徴は、これ以下なら影響が生じない、これ以上なら影響が生じるという「しきい線量」が存在するということです。放射線感受性には個人差があり、感受性の高い人ほど低い線量で発症します。ICRP 2007 年勧告では全体の1%の人に症状が現れる線量をしきい線量としています。しきい線量を超えると、影響が現れる人の数が増え、影響の発生率は増加します。確定的影響の第二の特徴として、しきい線量を超えると、線量の増加に伴いよりたくさんの細胞死や変性が起こり、症状の重症度は重くなります。
※ 環境省「放射線による健康影響等に関する統一的な基礎資料(令和6年度版)」(下線強調引用者)
すなわち、しきい線量は、「割り切り」で定められているのであり、それ以下であったとしても、(少なくとも理論上は)1%未満の人には健康影響が表れないとは限らないのである。
この点について国立国会図書館のサイト Sirabe は次のように記述している。すなわち、確定的影響という「疾病」がほとんどすべての人に起きない限界がしきい値なのである。疾病に至らない「影響」はしきい値以下でもすべての人に起きることは当然である=もちろん、だからといってほとんどすべての人にとっては、それはとくに問題とはならないのではあるが・・・。
【しきい値については、どのように考えるべきでしょうか。】
※ 国立国会図書館「しきい値については、どのように考えるべきでしょうか。」(国立国会図書館のサイト Sirabe)(下線強調引用者)
分野 問 しきい値については、どのように考えるべきでしょうか。 答え しきい線量(しきい値)は、確定的影響(やけどのような症状や不妊など)について、その線量以下ではほとんど発生しない(発生するとしても1-5%)とされる線量です。この線量は確定的影響にのみ存在し、がんや突然変異、遺伝性影響などのような確率的影響には存在しないとされています。それはICRPが、放射線防護の観点から、約100mSvよりも低い低線量域では、がん又は遺伝性影響の発生率は、関係する臓器及び組織の等価線量の増加に直線的に正比例し、しきい値は無いと仮定したLNTモデルを採用していることによります。
大抵の細胞には寿命があり、寿命がきた細胞の不足分を補うように細胞が増殖します。しかし、やけどや病気などで寿命前の細胞が大量に死ぬと、増殖が追いつかなくなり、生き残った細胞が能力を補うこともできず、組織として機能を維持できなくなります。細胞が放射線を浴びたときも、傷ついた遺伝子を修復できず死ぬことがあります。線量が増えると死ぬ細胞が増えるため、障害の程度も重くなり、治りにくくなります。障害が確認できるほど細胞が死ぬ線量がしきい値ともいえます。
(以下略)
キーワード 図表 図 確率的影響と確定的影響(組織反応)の比較 (略) (略)
しかし、確定的影響にはしきい値が存在しているというのが一般的な理解(多数説)であり、一般にはしきい値とは、それ以下であれば影響が表れない値と定義されている。従って、誤りとは言い切れない(※)。
※ ちなみに本肢を正答である(すなわち内容が誤りである)と回答した受験者は、医師以外では 108 人中 14 人(13.0 %)であったが、医師では 40 人中8人(20.0 %)で、医師の方が有意(p=0.035)に多かった。
(3)正しい。図は、基礎資料第3章の「3.1 人体への影響」の「影響の種類」から引用した図である。
この図にあるように、眼の水晶体の混濁(白内障)は、確定的影響かつ晩発影響とされている(※)。
※ (公社)放射線影響研究所「放射線白内障(水晶体混濁)」によると「放射線白内障は、水晶体の一部ににごりが生じるものであり、水晶体の後側表面を覆う傷害を受けた細胞に発生する。放射線被曝後、高線量であれば早くて1-2年、それより低線量であれば何年も経ってから症状が現れる。放射線白内障がどれくらいの頻度で重度の視力障害を生じるほどに進展するのかは明らかではないが、最近行われた調査では、手術を受けた白内障症例は1 Gy当たり約20-30%の過剰であった。被曝後早期に出現した放射線白内障については、影響を生じない低線量での「しきい値」があるかもしれないと考えられているが、最近の調査では、しきい値はないか、あったとしても0-0.8 Gy程度ではないかと示唆されている。
」とされている。
(4)誤り。図は、基礎資料第3章の「3.2 人体影響の発生機序」の「臓器・組織の放射線感受性」から引用した図である。細胞分裂が盛んで、分化の程度の低い細胞ほど、放射線感受性が高い。
本肢の卵巣の濾胞上皮細胞よりも、骨髄にある造血幹細胞の放射線感受性は極めて高い。
(5)正しい。基礎資料第3章の「3.7 がん・白血病」の「白血病と線量反応関係」によれば、「原爆被爆者の調査の結果から、慢性リンパ性白血病及び成人T細胞白血病を除いた白血病の線量反応関係は二次関数的であり、線量が高くなるほどリスク上昇が急になる凹型の線量反応が示されています
」とされている。