労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問06

けい肺の症状等




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2024年度(令和06年度) 問06 難易度 前問に続きやや専門的に過ぎる肢があるが、正答率は高い。このレベルの問題は確実に正答しておきたい。
けい肺の特徴  2 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問6 けい肺症に関する次の記述のうち、適切でないものはどれか。

(1)遊離結晶性シリカの吸入により生じる。

(2)採石場労働者、石切り工、研磨作業員、ガラス職人に多い。

(3)肺結核及び非結核性肺抗酸菌症を発症するリスクが高い。

(4)急性けい肺症は、短期間(数か月~数年)の多量の原因物質ばく露により引き起こされる。

(5)胸部エックス線写真で下肺野に線状影が多く見られる。

正答(5)

【解説】

問6試験結果

試験解答状況
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(1)正しい。けい肺は、遊離結晶性シリカの吸入により生じる。例えば、坂部(※)によると「珪肺とは “遊離珪酸の微粒子を吸入することによっておこる肺の線維増殖性疾患” である。遊離珪酸の中では石英が最も普遍的な存在であるため、ほとんどの珪肺は石英によってひきおこされる」とされている。

※ 坂部弘之「珪肺と塵肺」(窯業協會誌 Vol.64 No.727 1956年)の第1表

(2)正しい。けい肺は、(1)の解説に示したように、遊離結晶性シリカの粉じんを吸入することによって発症する疾病である。従って、遊離結晶性シリカの粉じんの発生しやす作業場で働く、採石場労働者、石切り工、研磨作業員、ガラス職人などに多く発症する。

【珪肺症】

2.じん肺

2)じん肺の種類

(2)珪肺

  珪肺は、シリカの職業的曝露で生じる結節性の肺の線維化を特徴とする肺疾患である。シリカは岩石に含まれる鉱物で、珪石、珪砂、セメント、ガラス、陶磁器の原料として使用されている。鉱山・トンネル掘削業、炭鉱や採石場労働者、隧道業、石切り工、陶磁器・ガラス・セメントの製造・研磨業(窯業)従事者で認められる。古典的な慢性珪肺は、曝露後20年以上後に発症し、珪肺結節を特徴とする。

※ 青木亜美他「職業に伴う間質性肺疾患」(日本内科学会雑誌 Vol.111 No.6 2022年)

(3)正しい。肺結核が、けい肺を含むじん肺の合併症となっており、けい肺により肺結核のリスクが高まることに問題はないであろう。

【じん肺法】

(定義)

第2条 この法律において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

 (略)

 合併症 じん肺と合併した肺結核その他のじん肺の進展経過に応じてじん肺と密接な関係があると認められる疾病をいう。

三~五 (略)

 合併症の範囲については、厚生労働省令で定める。

 (略)

(合併症)

第1条 じん肺法(以下「法」という。)第二条第一項第二号の合併症は、じん肺管理区分が管理二又は管理三と決定された者に係るじん肺と合併した次に掲げる疾病とする。

 肺結核

二~六 (略)

問題は、非結核性肺抗酸菌症(NTM症)の発症リスクの有無である。これについては、中野他(※1)が「じん肺における NTM 症の発生状況について検討した結果、NTM 症は続発性気管支炎などのじん肺合併症を有している例やじん肺の病状が進んでいる例で多くみられることがわかった」としている。また、森山(※2)は「珪肺症には肺結核や非結核性抗酸菌症、肺癌等が合併しやすいため、新規病変の出現時には喀痰抗酸菌培養検査や肺癌を念頭においた検査を行う」としている。(5)が明らかに誤りであることから、正しいとしてよいであろう。

※1 中野郁夫他「じん肺における非結核性抗酸菌症の発生状況に関する研究」(日本職業・災害医学会会誌 JJOMT Vol.62 No.2 2013年)

※2 青木亜美他「職業に伴う間質性肺疾患」(日本内科学会雑誌 Vol.111 No.6 2022年)

(4)正しい。以下に引用する青木他にも示されているように、急性けい肺症は、短期間(数か月~数年)の多量の原因物質ばく露により引き起こされる。

【珪肺症】

2.じん肺

2)じん肺の種類

(2)珪肺

  一方、急性珪肺症は数カ月から数年の短期間の高濃度シリカ曝露で引き起こされ、肺胞蛋白症に類似した病態、画像所見を示す。急性珪肺症は強皮症、関節リウマチ、全身性エリテマトーデス等の自己免疫疾患に合併するといわれている。

※ 青木亜美他「職業に伴う間質性肺疾患」(日本内科学会雑誌 Vol.111 No.6 2022年)

(5)誤り。「じん肺健康診断とじん肺管理区分決定の適切な実施に関する研究」にも示されているが、けい肺症では上肺野に優位な小粒状影を呈することが多い。

【珪肺症】

Ⅱ.分担研究報告

じん肺診査ハンドブック(案)

Ⅱ じん肺健康診断の方法と判定

3 エックス線撮影検査及びエックス線写真の読影

(2)じん肺陰影の特徴

イ.粒状影

(イ)けい肺

  けい肺の胸部エックス線写真像は、その他のじん肺と同様に、一般的に、吸入粉じん量により異なり必ずしも一律ではない。初期の極めて線維化の弱い時期には、個々の粒状影は認めにくく、末梢の血管影が見えにくくなり、血管影と血管影との間に異常陰影が出現し次第に増加してくる。このような陰影は、上中肺野に初発する(特に側方部である)。けい肺の示す粒状影は、一般に濃厚で円形である。粒状影が両肺野に少数認められる段階のものをじん肺法では第1型としている。粒状影は、経過とともに次第に大きさと数を増してきて全肺野に及ぶようになる。遊離けい酸含有率の高い粉じんによるけい肺では、個々の結節の径が 10㎜ に達することがある。

  (以下略)

ハ.大陰影

  けい肺の場合には、上肺野における粒状影がその数と大きさを増してきて、次第に個々の粒状影が識別できない塊状影となり、比較的鮮鋭な辺縁と濃厚な陰影を示す大陰影になるのが一般的な経過である。この大陰影の形成進展の前半では、肺野全般の粒状影分布はほとんど影響されない。しかし、収縮機転を伴う塊状影の形成に胸膜の癒着肥厚等が加わると、下肺野での気腫(性変化)が著明となり、肺門部の上方、側方、後方ヘの偏位、心陰影ほか縦隔陰影の変形が生じ、下肺野での粒状影はエックス線写真像上粗あるいはほとんど認識できない状態となることがある。その際、他肺野の粒状影も同様に認識出来なくなっていることが多い。

  (以下略)

※ 芦澤和人他「じん肺健康診断とじん肺管理区分決定の適切な実施に関する研究」(2024 年3月)