労働衛生コンサルタント試験 2024年 労働衛生一般 問05

石綿による健康影響等




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※ イメージ図(©photoAC)

 このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。

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2024年度(令和06年度) 問05 難易度 専門的な肢があるためか、正答率は低い。しかし、正答できる問題である。捨て問とするべきではない。
石綿の有害性  1 

※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上

問5 石綿に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)クロシドライトは、これまでに使用されてきた石綿の9割以上を占める。

(2)石綿繊維は極めて細いため、長さ数十μmの石綿繊維が肺内に検出されることも少なくない。

(3)石綿関連疾患には、石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水が含まれる。

(4)石綿ばく露によって生じる肺がんの発生部位、病理組織型は、通常の肺がんと差異はない。

(5)胸膜プラークや、肺組織中の石綿小体は、過去の石綿ばく露の指標となる。

正答(1)

【解説】

問5試験結果

試験解答状況
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本問は、受験者の解答が、正答の肢(1)よりも誤答の肢(4)の方が多かった(※)。(1)は労働衛生の専門家で石綿の健康被害にかかわった経験があれば正答できるのではないだろうか。正答率は低いが、捨て問と割り切るのは惜しい問題である。正答できるようにしておきたい。

※ 医師である受験者の方が、医師ではない受験者より正答率は低かった。医師ではない受験者で(4)が正しいと判断できる受験者は多くはないだろうから、(1)が誤りだと分かった受験者の割合が、医師よりも医師以外の受験者の方が多かったということだろうか。

(1)誤り。過去に、石綿製品の原料として最も多く使用されたのはクリソタイルである(※)。これまでの世界の石綿使用量の9割以上を占めている。

※ 例えば、国土交通省「アスベスト対策Q&A」のQ1によると、「我が国で過去使用されたアスベストは圧倒的にクリソタイルが多く、クロシドライトやアモサイトも輸入・使用されましたが、1995(平成7)年にはこれら2種類は輸入と使用が禁止されたため、以後は主にクリソタイルだけが使用されてきました」とされている。

(2)正しい。「「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書」(2006年)などに記載されているように、石綿繊維は極めて細いため、長さ数十μmの石綿繊維が肺内に検出されることも少なくない。

【「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書】

Ⅰ 石綿ばく露に関連する医学的所見

2 石綿小体及び石綿繊維

  人の呼吸器官には侵入してくる異物を排除する機能が備わっているので、普通の粉じん粒子はその粒径に依存して鼻腔、咽頭、喉頭、気管、気管支の各箇所で捕捉され排出され、肺胞には数 μm 以下の極めて微細な粒子の一部のみが到達し得る。しかし、石綿繊維の場合は吸入された数十 μm といった比較的長い繊維も直径が極めて細いので肺胞にまで到達することができる。また、長い石綿繊維はマクロファージ等の貪食作用は機能せずにそのまま長期間滞留する。そうした石綿繊維の一部は、石綿繊維表面に鉄蛋白(フェリチンやヘモシデリンなど)が付着して亜鈴状になった、いわゆる石綿小体を形成する。(以下略)

※ 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会「「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書」(2006 年2月)

(3)正しい。石綿関連疾患には、石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚などがある。

【石綿関連疾患 診断のポイント(動画)】

1.目的

  (前略)

  石綿関連疾患には、石綿肺、肺がん、中皮腫、良性石綿胸水、びまん性胸膜肥厚や、病態として、胸膜プラークなどがありますが、その診断に関しては医学的な知識・経験に加え、石綿そのものや、石綿にばく露する作業等に関する知識も必要とされています。

  (後略)

※ 厚生労働省「石綿関連疾患 診断のポイント(動画)」(厚労省サイト)

(4)正しい。石綿ばく露によって生じる肺がんには、発生部位や病理組織型(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がんなど)の特徴はない。本問では本肢を正解(誤っている)とした受験者が、108名中63名(58.3%)(※)と非常に多かった。

※ 医師である受験者は 40 名中 33 名(82.5%)、医師以外の受験者では 68 名中 33 名(48.5%)が本肢を正答とした。医師以外の受験者の方が少ないのは、(1)について分かっていたかどうかの違いであろう。

本肢については、(独法)環境再生保全機構のサイトを参照して頂きたい。

【アスベスト(石綿)とは?】

石綿(アスベスト)関連疾患

2.肺がん(原発性肺がん)

 診断

  (前略)

  救済法の対象とする肺がんは “原発性” 肺がんで、転移性肺がんと鑑別が必要なことがしばしばあります。石綿ばく露によって生じる肺がんには、発生部位や病理組織型(腺がん、扁平上皮がん、小細胞がんなど)の特徴はありません。石綿ばく露が原因である肺がんの診断には、比較的高濃度の石綿ばく露作業歴のほかに、じん肺法で定められた1型以上と同様の肺線維化所見(いわゆる不整形陰影)、広範囲な胸膜プラーク、肺内の石綿小体(乾燥重量肺1g 当り 5,000 本以上)などの医学的所見が参考になります。

※ (独法)環境再生保全機構「アスベスト(石綿)とは?」(ERCAサイト)

(5)正しい。胸膜プラークや、肺組織中の石綿小体は、過去の石綿ばく露の指標となる。これについては(4)の解説で挙げた資料の他、下記の検討会報告書等を参照されたい。

【「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書】

Ⅰ 石綿ばく露に関連する医学的所見

  石綿ばく露の指標となる医学的所見としては、胸膜プラーク、石綿小体、石綿繊維、石綿肺があげられる。

※ 石綿による健康被害に係る医学的判断に関する検討会「「石綿による健康被害に係る医学的判断に関する考え方」報告書」(2006 年2月)