問4 有害物の性状、測定等に関する次のイ~ホの記述について、誤っているものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
イ 環境空気中の有害物質の濃度の分布は、一般に、正規分布に従う。
ロ 1,4-ジオキサンは、脂溶性と水溶性の双方を有している。
ハ アセトンは、トルエンより極性が大きい。
ニ 空気中の有機溶剤の体積分率 0.5 %は、5000 ppm に相当する。
ホ 粉じんの相対沈降径は、光学的観察による粉じん粒径の測定により求める。
(1)イ ハ
(2)イ ホ
(3)ロ ニ
(4)ロ ハ
(5)ニ ホ

※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2024年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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2024年度(令和06年度) | 問04 | 難易度 | やや細かな内容の肢もあるが、基本的な知識があれば正答できる。確実に正答しておかなければならない。 |
---|---|---|---|
化学物質の性状等 | 3 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問4 有害物の性状、測定等に関する次のイ~ホの記述について、誤っているものの組合せは(1)~(5)のうちどれか。
イ 環境空気中の有害物質の濃度の分布は、一般に、正規分布に従う。
ロ 1,4-ジオキサンは、脂溶性と水溶性の双方を有している。
ハ アセトンは、トルエンより極性が大きい。
ニ 空気中の有機溶剤の体積分率 0.5 %は、5000 ppm に相当する。
ホ 粉じんの相対沈降径は、光学的観察による粉じん粒径の測定により求める。
(1)イ ハ
(2)イ ホ
(3)ロ ニ
(4)ロ ハ
(5)ニ ホ
正答(2)
【解説】
イ 誤り。「作業環境評価基準(最終改正:令和2年4月 22 日厚生労働省告示第 192 号)」では、環境空気中の有害物質の濃度の分布が対数正規分布となっていると仮定(※)して、作業環境測定結果を評価するようになっている。
※ 例えば、(公社)日本作業環境測定協会「中堅作業環境測定士向け 実務能力向上のための知識」(2022 年4月)によれば、「作業環境の無数の測定点における有害物質の濃度分布を時間的・空間的に見た場合、各点の濃度の実現確率は、低濃度側に極大値を持ち、それより高い濃度では、高濃度になるに従い実現確率は小さくなっていく。その分布は、対数正規分布で近似できることが知られている
」とされている。
しかし、濃度分布が対数正規分布となることに科学的(理論的)な根拠があるわけではないし、統計的に(帰納法的に)サンプル数を増やしていけば対数正規分布に近付くなどということもない。対数正規分布に近い分布になることが多いので、それで近似することにしようと決めただけである。
ロ 正しい。政府のモデル SDS によると、1,4-ジオキサンのn-オクタノール/水分配係数の値は、log P=-0.27(測定値:SRC(access on Jun. 2009)となっており、脂溶性及び水溶性を有していると評価される(※)。
※ 一般に、脂溶性と水溶性は相反する性質だと考えられており、n-オクタノール/水分配係数が1より大きければ脂溶性、小さければ水溶性(対数(logP)で表した場合は、プラスなら脂溶性、マイナスなら水溶性)に分類される。
しかし、脂溶性の物質は全く水に溶けないわけではなく、水溶性の物質は全く脂質に溶けないというわけではない。労働衛生対策をとる上では、単純に割り切れるものではなく、n-オクタノール/水分配係数が1に近い物質(対数で表したときはゼロに近い物質)は、水溶性と脂溶性の双方を有しているものとして扱うべきである。
ハ 正しい。アセトン(極性:5.1)は、トルエン(極性:2.4)より極性が大きい。アセトンなどの炭化水素は非極性溶剤であり、トルエンなどのケトンは極性溶剤である。この他、アルコール、エーテル、エステル、塩素系溶剤なども極性溶剤である。
なお、極性とは、誘電率や双極子モーメント等で評価される値で、極性の高い溶質は極性の高い溶媒に溶けやすく、これを親水性(水に溶けやすい性質)という。一方、極性の低い溶質は極性の低い溶媒に溶けやすい性質があり、これを疎水性(水に溶けにくい)という。
また、高極性溶媒と低極性溶媒は混じりにくく、混ぜ合わせても水と油のように2層に分かれる。
溶媒名 | Rohrschneider の極性パラメータ |
溶媒名 | Rohrschneider の極性パラメータ |
---|---|---|---|
シクロヘキサン | -0.2 | エタノール | 4.3 |
n-ヘキサン | 0.1 | 酢酸エチル | 4.4 |
四塩化炭素 | 1.6 | メチルエチルケトン | 4.7 |
イソプロピルエーテル | 2.4 | ジオキサン | 4.8 |
トルエン | 2.4 | アセトン | 5.1 |
ベンゼン | 2.7 | メタノール | 5.1 |
塩化メチレン | 3.1 | アセトニトリル | 5.8 |
二塩化エチレン | 3.5 | 酢酸 | 6.0 |
イソプロピルアルコール | 3.9 | ジメチルホルムアミド | 6.4 |
テトラヒドロフラン | 4.0 | エチレングリコール | 6.9 |
n-プロパノール | 4.0 | ジメチルスルホキシド | 7.2 |
クロロホルム | 4.1 | 水 | 10.2 |
ニ 正しい。「%」(percent)とは百分率の単位であり、ppm(Parts per million)は百万分率の単位である。従って、「%」で表した場合と「ppm」で表した場合は、数値の方は1万倍の違いとなる。従って、空気中の有機溶剤の体積分率 0.5 %は、5000 ppm に相当する。
ホ 誤り。相対沈降径は、「作業環境測定基準の施行について」(昭和 51 年6月 14 日基発第 454 号)に「当該粉じんの沈降速度と等しい沈降速度を有する比重一の球の直径をいうこと
」とされている。光学的観察による粉じん粒径の測定により求めるわけではない。
【作業環境測定基準の施行について】
2 第二条関係
(1)~(5)(略)
(6)第二項の図中「粉じんの相対沈降径」とは、当該粉じんの沈降速度と等しい沈降速度を有する比重一の球の直径をいうこと。
※ 厚生労働省「作業環境測定基準の施行について」(昭和 51 年6月 14 日基発第 454 号)
粉じん(dust)の個々の粒子は、一般に大きさや形がバラバラである。そのため、労働衛生分野や環境分野では、その大きさを表すために様々な方式が考えられてきた(※)。
※ 例えば、三上貴司「2.粉粒体の基本物性」(粉体工学 令和6年4月14日改訂版)など参照
なお、本肢の相対沈降径(空気動力学径)が密度は 1,000kg/m3 で終末沈降速度が問題とする粒子と同じ球形粒子径として定義される等価粒径であるのに対し、下記表のストークス径は問題とする非球形粒子と同じ密度と終末沈降速度(Vt)の球形粒子粒径として定義される等価粒径である。
※ 三上貴司「2.粉粒体の基本物性」(粉体工学 令和6年4月14日改訂版)
分類 名称 記号 定義 三軸径 長径 ℓ 外接直方体の長軸寸法 短径 b 外接直方体の短軸寸法 厚み t 外接直方体の厚み 相当径 等体積球相当径 DV いびつな粒子と等しい体積をもつ球の直径 等表面積球相当径 DS いびつな粒子と等しい表面積をもつ球の直径 ヘイウッド径 DH いびつな粒子と等しい投影面積をもつ円の直径 ストークス径** DSt いびつな粒子と等しい沈降速度をもつ球の直径 定方向径 フェレ―径 DF 投影粒子を定方向の二本の平行線で挟んでできる垂線の長さ マーチン径 DM 粒子の投影面積を二等分する定方向の線分の長さ クルムバイン径 DK 投影した粒子像の定方向の最大長さ(定方向最大径ともいう。) 有効径* ふるい目開き径 DP ふるいの目開きで定義される寸法 (ストークス径)** (DSt) いびつな粒子と等しい沈降速度をもつ球の直径 * 粒子群に対する定義であるが、実用的(測定が便利)であるため、単一粒子径の分類表と一緒に記載している成書が多い。
** 粒子群に対する定義であることから、相当径の代わりに有効径として分類している成書もある。