問6 減圧症に関する次の記述のうち誤っているものはどれか。
(1)肥満は、減圧症の危険因子である。
(2)Ⅱ型減圧症では、神経又は心肺の障害が生じ重篤となる。
(3)チョークスでは、肺の血管に気泡塞栓が生じる。
(4)減圧症が疑われたときは、直ちに高流量100%酸素投与を開始する。
(5)潜水から浮上して24~48時間経過すれば、飛行機での旅行などの高所ばく露で減圧症は生じない。
※ イメージ図(©photoAC)
このページは、2022年の労働衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」の問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等を削除した場合があります。
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2022年度(令和04年度) | 問06 | 難易度 | 減圧症に関する高度な知識問題である。同種の過去問もなく、かなりの難問だった。 |
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減圧症の症状と対策 | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問6 減圧症に関する次の記述のうち誤っているものはどれか。
(1)肥満は、減圧症の危険因子である。
(2)Ⅱ型減圧症では、神経又は心肺の障害が生じ重篤となる。
(3)チョークスでは、肺の血管に気泡塞栓が生じる。
(4)減圧症が疑われたときは、直ちに高流量100%酸素投与を開始する。
(5)潜水から浮上して24~48時間経過すれば、飛行機での旅行などの高所ばく露で減圧症は生じない。
正答(5)
【解説】
本問は、正答した受験生よりも誤った肢を選んだ受験生の方が2倍以上となっており、かなりの難問だった。労働衛生一般は、医師の受験生が免除を受けることができることも、正答率が低かった原因かもしれない。
潜水について専門的な知識があるか、医師でもない限り、正答するのは難しかっただろう。捨て問と割り切ってもよいかもしれない。
(1)正しい。ちなみに高圧則第41条第七号は、肥満症に罹患している労働者は、医師が必要と認める期間、高気圧業務への就業を禁止しなければならないとしている。
【高気圧作業安全衛生規則】
(病者の就業禁止)
第41条 事業者は、次の各号のいずれかに掲げる疾病にかかつている労働者については、医師が必要と認める期間、高気圧業務への就業を禁止しなければならない。
一~六 (略)
七 ぜんそく、肥満症、バセドー氏病その他アレルギー性、内分泌系、物質代謝又は栄養の疾病
(2)正しい。Ⅱ型減圧症は重篤なレベルである。軽度では、軽いしびれからチクチク感がある。症状が進むと神経症状や呼吸器症状が生じることがある。重度になると、痙攣発作、言語不明瞭、視力障害、錯乱、昏睡などが生じる。とくに重篤なケースでは死亡することもある。
(3)正しい。チョークスでは、肺の血管に気泡塞栓が生じる。
(4)正しい。減圧症が疑われたとき、とりわけ意識障害や運動麻痺があるときは、直ちに高流量(1分当たり10~15リットル以上) 100 %酸素投与を開始する。これにより肺と体循環の間の窒素分圧較差が拡がり、塞栓した窒素気泡の再吸収が加速する。
これを誤りとする受験生が多かったが、これは酸素にも有害性がある(※)ことを知っていたためであろう。確かに、高い分圧の酸素を摂取した場合には、活性酸素(フリーラジカル)による細胞・組織の障害(酸素中毒)を発症することがあることは事実である。また、肺胞内が純粋な酸素で満たされていると、酸素がすべて肺静脈中に移動して肺胞内にガスがなくなる吸収性無気肺のおそれもある。
※ 政府が行った酸素の GHS 分類及び区分の健康に対する有害性の項目によれば、「生殖毒性」が区分2、「特定標的臓器・全身毒性(単回ばく露)」が区分3(気道刺激性)とされている。
しかしながら、医師の行う治療は、副作用と効用を考量して行う必要がある。酸素投与は医療行為であって医師が行う必要があるとされているのはそのためである。
(5)誤り。芝山他(※)によると「飛行機搭乗中に発現した人数は76件(10.1%)ある。このケースでは潜水後12時間~1日後の飛行機搭乗で発症している
」とされている。潜水から浮上して24~48時間経過すれば、飛行機での旅行などの高所ばく露で減圧症は生じないとは言い切れない。
※ 芝山正治他「シンポジウム11「減圧症の予防から治療まで」東京医科歯科大学で過去44年間にわたりレジャーダイバーの減圧障害の傾向を検討」(第19回日本高気圧環境・潜水医学会関東地方会 抄録集)
なお、本肢は、「潜水から浮上して24~48時間経過すれば・・・生じない」とされており、論理的にいかにも怪しげな表現である。「24~48時間経過」したら「生じない」というのでは、36時間経過した場合は生じるのか生じないのかどちらなのだろうか。「生じない」と断じるのであれば、条件に幅を持たせるのは論理的におかしいのである。
これが、「24~48時間経過しても発症した例がある」というなら論理的に分かるのである。おそらく、学術誌か何かに「潜水から浮上して24~48時間経過した後でも、飛行機での旅行などの高所ばく露での減圧症の事例がある」とされていたのを、出題者が「生じない」と変更して誤った肢としたのだろう。
なお、一般には浮上後 18 時間、できれば 24 時間は飛行機に搭乗しないことが推奨されている。本肢を正しいとした受験生が多かったのは、そのこともあるのだろう。