問9 鉛業務従事者に対する健康管理に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。
(1)鉛業務に常時従事する労働者に対して定期に行う健康診断において、医師が必要でないと認めるときは、鉛による自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の調査以外の項目を省略することができる。
(2)鉛業務に常時従事する労働者に対して定期に行う健康診断において、医師が必要と認めるときは、尿中のプロトポルフィリンの量の検査を行わなければならない。
(3)鉛化合物を含有する絵具を用いて行なう絵付けの業務に常時従事する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に健康診断を行わなければならない。
(4)労働者が鉛業務に従事しなくなってから6か月以内に、腹部の疝痛を訴えた場合には、すみやかに、医師による診断を受けさせなければならない。
(5)鉛業務に10 年間従事した経験を有する者は、離職の際に健康管理手帳の交付を受けることができる。
このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。
他の問題の解説をご覧になる場合は、「下表の左欄」、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」又は「パンくずリスト」をご利用ください。
柳川に著作権があることにご留意ください。
2021年度(令和3年度) | 問09 | 難易度 | 鉛則の特殊健康診断について、かなり細かい条文内容を問う知識問題。かなりの難問だったようだ。 |
---|---|---|---|
鉛中毒予防規則 | 5 |
※ 難易度は本サイトが行ったアンケート結果の正答率に基づく。
5:50%未満 4:50%以上60%未満 3:60%以上70%未満 2:70%以上80%未満 1:80%以上
問9 鉛業務従事者に対する健康管理に関する次の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。
(1)鉛業務に常時従事する労働者に対して定期に行う健康診断において、医師が必要でないと認めるときは、鉛による自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の調査以外の項目を省略することができる。
(2)鉛業務に常時従事する労働者に対して定期に行う健康診断において、医師が必要と認めるときは、尿中のプロトポルフィリンの量の検査を行わなければならない。
(3)鉛化合物を含有する絵具を用いて行なう絵付けの業務に常時従事する労働者に対し、1年以内ごとに1回、定期に健康診断を行わなければならない。
(4)労働者が鉛業務に従事しなくなってから6か月以内に、腹部の疝痛を訴えた場合には、すみやかに、医師による診断を受けさせなければならない。
(5)鉛業務に10 年間従事した経験を有する者は、離職の際に健康管理手帳の交付を受けることができる。
正答(3)
【解説】
(1)誤り。鉛則第53条第2項によって省略できる健康診断項目は、前回の健康診断において血液中の鉛の量の検査及び尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査に掲げる項目について健康診断を受けた者について、医師が必要でないと認めるときに、その項目について省略できるにすぎない。
かなり細かいことを問うているという気はする。ただ、鉛特殊健康診断に限らず、特殊健康診断で省略できない事項に(法令に明記されてはいないが)「医師による問診」があり、問診で調査すべき健診項目事項として「業務の経歴の調査」と「作業条件の簡易な調査」がある。これは医師が特殊健康診断の問診を行うに当たって欠かせない項目である。
※ なお、本問中に示した条文で、出題当時にはなかった項が追加されているものがある。いずれも内容は省略しており、本問の各肢の正誤には影響はない。
【労働安全衛生法施行令】
(健康診断を行うべき有害な業務)
第22条 法第66条第2項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。
一~三 (略)
四 別表第四に掲げる鉛業務(遠隔操作によつて行う隔離室におけるものを除く。)
五及び六 (略)
2及び3 (略)
【鉛中毒予防規則】
(健康診断)
第53条 事業者は、令第22条第1項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6月(令別表第四第十七号及び第1条第五号リからルまでに掲げる鉛業務又はこれらの業務を行う作業場所における清掃の業務に従事する労働者に対しては、1年)以内ごとに1回、定期に、次の項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
一 業務の経歴の調査
二 作業条件の簡易な調査
三 鉛による自覚症状及び他覚症状の既往歴の有無の検査並びに第五号及び第六号に掲げる項目についての既往の検査結果の調査
四 鉛による自覚症状又は他覚症状と通常認められる症状の有無の検査
五 血液中の鉛の量の検査
六 尿中のデルタアミノレブリン酸の量の検査
2 前項の健康診断(6月以内ごとに1回、定期に行うものに限る。)は、前回の健康診断において同項第五号及び第六号に掲げる項目について健康診断を受けた者については、医師が必要でないと認めるときは、同項の規定にかかわらず、当該項目を省略することができる。
3及び4 (略)
(2)誤り。鉛則第53条第3項によって、鉛業務に常時従事する労働者で医師が必要と認めるものに行わなければならないのは赤血球中のプロトポルフィリンの量の検査である(※)。プロトポルフィリンは、骨髄又は肝臓で行われるヘム合成の過程で生成されるポルフィリン体のひとつである。
※ 中央労働災害防止協会のサイト「わかりやすい生物学的モニタリング 鉛編」参照。
これもかなり細かいことを問うている。本サイトのアンケート結果では、医師の資格を有している受験生でさえ誤答した受験生がおり、かなりの難問だったようだ。
ちなみに鉛健康診断では、尿中デルタアミノレブリン酸の検査が必要となる。
【鉛中毒予防規則】
(健康診断)
第53条 (第1項及び第2項 略)
3 事業者は、令第22条第1項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者で医師が必要と認めるものについては、第1項の規定により健康診断を行わなければならない項目のほか、次の項目の全部又は一部について医師による健康診断を行わなければならない。
一 作業条件の調査
二 貧血検査
三 赤血球中のプロトポルフィリンの量の検査
四 神経学的検査
4 (略)
(3)正しい。鉛健康診断の頻度は、他の多くの特殊健康診断と同じく6月以内ごとに1回とするものが多いのだが、一部の鉛業務に就いては1年以内ごとに1回となっているのである。
鉛化合物を含有する絵具を用いて行なう絵付けは、安衛令別表第4第第四号(鉛則第1条第五号ル)の鉛業務である。この鉛業務に常時従事する労働者は、同規則第53条第1項により、1年以内ごとに1回、定期に、医師による健康診断を行わなければならない。
これもかなりの細かい内容である。はんだ付けの作業に就いている労働者の鉛健康診断が1年に1回であることは知っていても、絵付けまでは知らない受験者がほとんどだろう。
ちなみに1年以内ごとに1回の健康診断となる鉛業務は次のものである。
表:健康診断が1年以内ごとに1回である鉛業務等
- 以下の鉛業務
- 安衛令別表第4第十七号 動力を用いて印刷する工程における活字の文選、植字又は解版の業務
- 鉛則第1条第五号リ 自然換気が不十分な場所におけるはんだ付けの業務
- 鉛則第1条第五号ヌ 鉛化合物を含有する釉薬を用いて行なう施釉又は当該施釉を行なつた物の焼成の業務
- 鉛則第1条第五号ル 鉛化合物を含有する絵具を用いて行なう絵付け又は当該絵付けを行なつた物の焼成の業務
- 上記の鉛業務を行う作業場所における清掃の業務
【労働安全衛生法施行令】
(健康診断を行うべき有害な業務)
第22条 法第六十六条第二項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。
一~三 (略)
四 別表第四に掲げる鉛業務(遠隔操作によつて行う隔離室におけるものを除く。)
五及び六 (略)
2及び3 (略)
別表第4条 鉛業務(第六条、第二十一条、第二十二条関係)
一~十四 (略)
十五 鉛化合物を含有する絵具を用いて行なう絵付け又は当該絵付けを行なつた物の焼成の業務(筆若しくはスタンプによる絵付け又は局所排気装置若しくは排気筒が設けられている焼成窯による焼成の業務で、厚生労働省令で定めるものを除く。)
十六~十八 (略)
備考 (略)
【鉛中毒予防規則】
(定義)
第1条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、当該各号に定めるところによる。
一~四 (略)
五 鉛業務 次に掲げる業務並びに令別表第四第八号から第十一号まで及び第十七号に掲げる業務をいう。
イ~ヌ (略)
ル 鉛化合物を含有する絵具を用いて行なう絵付け又は当該絵付けを行なつた物の焼成の業務
ヲ及びワ (略)
(健康診断)
第53条 事業者は、令第二十二条第一項第四号に掲げる業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後六月(令別表第四第十七号及び第一条第五号リからルまでに掲げる鉛業務又はこれらの業務を行う作業場所における清掃の業務に従事する労働者に対しては、一年)以内ごとに一回、定期に、次の項目について、医師による健康診断を行わなければならない。
一~六 (略)
2~4 (略)
(4)誤り。鉛則第56条により、腹部の疝痛を訴えた労働者に健康診断を行わなければならないのは、労働者を鉛業務に従事させている期間又は鉛業務に従事させなくなってから四週間以内である。
【鉛中毒予防規則】
(診断)
第56条 事業者は、労働者を鉛業務に従事させている期間又は鉛業務に従事させなくなつてから四週間以内に、腹部の疝痛、四肢の伸筋麻痺若しくは知覚異常、蒼白、関節痛若しくは筋肉痛が認められ、又はこれらの病状を訴える労働者に、すみやかに、医師による診断を受けさせなければならない。
2 (略)
(5)誤り。安衛法第67条による健康管理手帳の対象者は安衛令第23条に定められているが、鉛業務は対象となっていない。
健康管理手帳の対象となるものとしての考え方は「健康管理手帳交付対象業務等検討結果報告」(平成7年12月)に示されているが、発がん性などのある化学物質が対象である。鉛業務は含まれていない。このことは覚えておく必要がある。
【労働安全衛生法】
(第六十七条)
第67条 都道府県労働局長は、がんその他の重度の健康障害を生ずるおそれのある業務で、政令で定めるものに従事していた者のうち、厚生労働省令で定める要件に該当する者に対し、離職の際に又は離職の後に、当該業務に係る健康管理手帳を交付するものとする。ただし、現に当該業務に係る健康管理手帳を所持している者については、この限りでない。
2~4 (略)
【安全衛生法施行令】
(健康管理手帳を交付する業務)
第23条 法第67条第一項の政令で定める業務は、次のとおりとする。
一~十五 (各号は略すが、鉛業務はない。各自、確認してほしい。)