労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2021年 問1

職場における熱中症及びその予防対策




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意識の高い女性

 このページは、2021年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2021年度(令和3年度) 問 1 職場における熱中症及びその予防対策に関する基本的な知識を問う問題である。
熱中症及びその予防対策
2021年11月07日執筆

問1 暑熱環境における作業の労働衛生に関する以下の設問に答えよ。

  • (1)職場において発生した熱中症による死傷者数(休業4日以上)は業種によって大きく異なる。次の業種から、2019 年の熱中症による死傷者数が多い業種を、上位三つ挙げよ。
      運送業、警備業、建設業、商業、製造業、清掃・と畜業、農業、林業

    • 【解説】

      業種別熱中症災害発生件数の推移

      図をクリックすると拡大します

      職場における熱中症の発生状況は、毎年4月に厚生労働省から公表される。最新版は、2021年4月に公表された「令和2年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)」で、熱中症による死傷者数の業種別の状況(年次推移)が示されている。
      なお、右図に業種別の職場における熱中症(休業4日以上)の発生件数の推移を示す。
      具体的な数値を知らなくても屋外型産業である建設業で発生件数が多いことは分かるだろう。ただし、ここで留意しなければならないことは、例年、建設業、製造業、運送業の順なのだが、2019年(※)は製造業、建設業、運送業の順となっていることである。
      ※ 問題作成時の最新版だったのだろう。コンサルタント試験の災害統計の問題では、例年、2年前の数値が出題される。
      本問が、上位3つの業種が正しければ順不同でも減点されないのか、順位まで正しくないと減点されるのかは判然としないが、後者だとするとやや意地の悪い設問である。
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    • 【解答例】
      製造業、建設業、運送業
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  • (2)職場における熱中症による死傷者数(休業4日以上)は月によって大きく異なる。2019 年の熱中症による死傷者数が多い月を、上位二つ挙げよ。

    • 【解説】

      業種別熱中症災害発生件数の推移

      図をクリックすると拡大します

      これは解説するまでもないと思うが、気温が高い月を選べばよいのである。なお、前月よりも気温が高い月も熱中症のリスクは高くなる。
      前小問(1)に示した「令和2年「職場における熱中症による死傷災害の発生状況」(確定値)」に月別の数値の年次推移も示されている。
      数字を知らなくとも予想できると思うが、全体の8割以上が7月及び8月に発生し、8月、7月の順である。
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    • 【解答例】
      8月、7月の順で多い。
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  • (3)熱中症の症状として、熱失神、熱射病、熱疲労及び熱けいれんがある。これら四つの症状がどのようなものか、それぞれ50 字から100 字程度で簡潔に説明せよ。
     また、これらのうちで重症度が最も高いものはどれか。

    • 【解説】
      熱中症には、本小問に挙げられた4つの症状がある。
      1 熱失神
      熱によって皮膚血管が拡張して下肢への血液貯留が起き、これによって血圧が低下して脳への血流が一時的に減少することにより起きる。炎天下で作業をした後等に起きるが、じっとしていたり、立ち上がった直後にも起きることがある。めまい、顔面蒼白、一時的な失神などの症状が見られ、脈拍が早くて弱くなる。足を高くして寝かせることにより多くは回復する。
      2 熱射病
      熱によって体温調節が破たんして体温が上昇し、中枢機能に異常をきたした状態。脱水が背景にあることが多い。体温が上昇して触ると熱いほどになり、意識障害、けいれん、手足の運動障害が起きる。呼びかけや外部の刺激への反応に異状がみられ、言動の不自然さ、全身のけいれん、ふらつきが伴うことがある。重症になると、昏睡に至る。
      重症の場合は、血液凝固障害、肝機能以上、腎機能障害など全身の多臓器障害を合併して死亡することもある。意識障害が少しでもあれば、様子を見ることはせず、直ちに救急車を要請し、できるだけ早く身体を冷やす。
      3 熱疲労(熱ひはい)
      熱さで大量に汗をかき、一方で水分の補給が追いつかない場合に脱水によって起きる。全身倦怠感、脱力感、悪心・嘔吐、頭痛、めまい、集中力・判断力の低下などの症状が起き、ごく軽い意識障害を伴うことがある。体温はそれほど上昇しない。スポーツドリンクや0.2%食塩水などで、水分と塩分を補給することで回復することが多い。
      4 熱けいれん
      熱さで大量に汗をかき、水だけを補給した場合に起きる。血液の塩分(ナトリウム)濃度が低下する低ナトリウム症である。筋の興奮性が亢進するため、足、腕、腹部(腹筋)の筋肉に「こむら返り」(けいれんと痛み)が起きる。生理食塩水(0.9%食塩水)など、やや濃いめの食塩水を補給したり、医療機関で点滴することで回復することが多い。
      上記の説明で分かるように、これらのうち重症度が高いものから順に、熱射病(Ⅲ度)、熱疲労(Ⅱ度)、熱けいれん(Ⅰ度)、熱失神(Ⅰ度)である。
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    • 【解答例】
      1 熱中症の4つの症状
      (1)熱失神
      暑熱環境下で皮膚血流の著しい増加と多量の発汗とにより、相対的に脳への血流が一時的に減少することにより生ずる立ちくらみのような症状のことをいう。
      (2)熱射病
      中枢神経症状や腎臓・肝臓機能障害、さらには血液凝固異常まで生じた状態のことで、普段と違う言動やふらつき、意識障害、全身のけいれん(ひきつけ)などが現れる。
      (3)熱疲労
      脱水が進行して、全身のだるさや集中力の低下した状態をいい、頭痛、気分の不快、吐き気、嘔吐などが起こり、そのまま放置しておくと、致命的な「熱射病」に至る。
      (4)熱けいれん
      汗で失われた塩分が不足することにより生じる筋肉のこむら返りや筋肉の痛みのことである。
      2 熱中症の4つの症状のうち重症度の高いもの
      これらのうち最も重症度が高いものは熱射病である。
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  • (4)暑熱環境を評価するために WBGT 値がある。WBGT 値を算出するために必要な測定値を三つ挙げ、日射のある場合に WBGT 値を求める計算式を示せ。

    • 【解説】
      たぶん、解説する必要もないと思うが、WBGTとは人体の熱収支に着目した指標で湿度、ふく射熱、気温及び気流の4つの要素(気流は間接的)を取り入れている。測定は、乾球温度、湿球温度、黒球温度の値を使って計算する。
      1 屋内
      WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.3 × 黒球温度
      2 屋外
      WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
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    • 【解答例】
      1 WBGT値を算出するために必要な測定値
      乾球温度、湿球温度、黒球温度
      2 日射のある場合にWBGT値を求める計算式
      WBGT = 0.7 × 湿球温度 + 0.2 × 黒球温度 + 0.1 × 乾球温度
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  • (5)熱中症のリスクの判定のために職場や作業者の条件別に WBGT 基準値が設定されている。そこで使用されている条件を挙げよ。
     また、それらの条件がそれぞれどうであればリスクが高くなるか述べよ。

    • 【解説】
      厚生労働省が策定した「職場における熱中症予防基本対策要綱」(令和3年4月20日基発0420第3号(※))に「表1-1 身体作業強度等に応じた WBGT 基準値」が示されている。
      ※ 令和3年7月 26 日基発 0726 第2号「「職場における熱中症予防基本対策要綱の策定について」の一部改正について」によって一部改正されていること。なお、本文のリンク先は改正後の要綱。
      これは作業区分(0安静、1低代謝率、2中程度代謝率、3高代謝率、4極高代謝率)、順化の有無(暑熱順化者、暑熱非順化者)ごとに定められている。
      さらに、衣類の組合せにより、WBGT値に加えるべき着衣補正値が示されている。ただ、これは基準値の設定の要件ではなく、WBGTを算定する手法なので、求められている答えではない可能性がある。しかし、出題者がそれを求めている可能性があるので、触れておいた方が良い。
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    • 【解答例】
      WBGT 基準値に使用されている条件には、作業区分(0安静、1低代謝率、2中程度代謝率、3高代謝率、4極高代謝率)と順化の有無(暑熱順化者、暑熱非順化者)があり、それらの区分ごとに基準値が定められている。
      作業区分が強度になるほどリスクは高くなり、暑熱馴化が行われていなければリスクは高くなる。
      なお、WBGT 基準値ではないが、衣類の組合せにより、WBGT値に加えるべき着衣補正値が示されている。
      服装の透湿性及び通気性が悪ければリスクは高くなる。
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  • (6)WBGT 値がWBGT 基準値を超え又は超えるおそれのある場合に講ずべき対策を、具体的な措置を含めて箇条書きで六つ挙げよ。

    • 【解説】
      このような具体的な対応を求める問題では、作業環境管理、作業管理、健康管理、安全衛生教育、緊急時の対応に分けて考えると答えやすい。
      前述した厚生労働省の「職場における熱中症予防基本対策要綱」に基本的な対策が示されているので、それに従ってまとめると以下のようになる。
      1 作業環境管理
      ①発熱体と労働者の間に熱を遮ることのできる遮へい物等を設け、屋外の作業場所においては、直射日光並びに周囲の壁面及び地面からの照り返しを遮ることができる簡易な屋根等を設けることによりふく射熱を避ける、②高温多湿作業場所に適度な通風又は冷房を行うための設備を設ける、③屋内の高温多湿作業場所における空調設備には、除湿機能があるものを採用する等。
      2 作業者への支援措置
      ①作業場所の近隣に、冷房を備え又は日陰等の涼しい、足を伸ばして横になれる広さの休憩場所を設けること、②作業場所に飲料水、スポーツ飲料、塩飴などの備付け等を行うこと、また、③作業場所の近隣に氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の身体を適度に冷やすことのできる物品及び設備を設けること。
      3 作業管理
      ①作業時間の短縮、休止時間・休憩時間の確保等、②事前の暑熱順化、③水分及び塩分のこまめな摂取、④透湿性及び通気性の良い服装や冷却服の着用等の奨励、⑤作業中の巡視による作業管理状況や作業者の健康状態の確認を図る。
      4 健康管理
      ①健康診断結果に基づき、医師等の意見をを勘案して、必要があるときは、就業場所の変更、作業の転換等の適切な措置を講ずる、②作業者に対して、睡眠不足、体調不良、前日等の飲酒、朝食の摂取等の熱中症の発症に影響を与えるおそれがある事項について、日常の健康管理について指導を行うとともに、③作業開始前に、健康の問題があるときは事前に申し出させるなど、労働者の健康状態を確認すること、④休憩場所等に体温計、体重計等を備え、必要に応じて、体温、体重その他の身体の状況を確認させること。
      5 労働衛生教育
      作業を管理する者及び労働者に対して、あらかじめ、①熱中症の症状、②熱中症の予防方法、③緊急時の救急処置、④熱中症の事例等について労働衛生教育を行うこと。
      6 救急時への対応への備え
      ①あらかじめ、病院、診療所等の所在地及び連絡先を把握するとともに、緊急連絡網を作成し、関係者に周知すること、②熱中症を疑わせる症状が現われた場合は、救急処置として涼しい場所で身体を冷し、水分及び塩分の摂取等を行う体制を整えること、また、③意識障害が現れるなど、必要な場合は、救急隊を要請し又は医師の診察を受けさせることを徹底すること。
      ただ、これでは詳細すぎるので解答例はかなり略したが、実際の試験では各項目に例が一つづつあれば合格点は取れると思う。
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    • 【解答例】
      1 作業環境管理
      ①発熱体との間の遮へい物、直射日光等を遮る簡易な屋根等を設けてふく射熱を避ける、②適度な通風の確保又は冷房を行うための設備の設置、③屋内の高温多湿作業場所における除湿機の採用
      2 作業者への支援措置
      ①冷房を備え又は日陰等の涼しい、足を伸ばして横になれる広さの休憩場所の設置、②飲料水、スポーツ飲料、塩飴などの備付け等、③氷、冷たいおしぼり、水風呂、シャワー等の身体を適度に冷やす物品及び設備の設置
      3 作業管理
      ①作業時間の短縮、休止時間・休憩時間の確保、②事前の暑熱順化、③水分及び塩分のこまめな摂取の奨励、④透湿性及び通気性の良い服装や冷却服等の奨励、⑤作業中の巡視による作業管理状況や作業者の健康状態の確認を図る。
      4 健康管理
      ①健康診断結果と医師等の意見を勘案して、必要な場合の就業場所の変更、作業の転換等を講ずる、②作業者に対する、睡眠不足、体調不良、前日等の飲酒、朝食の摂取等の健康指導の実施、③作業開始前の労働者の健康状態の確認、④休憩場所等に体温計、体重計等を備え付け。
      5 労働衛生教育
      作業を管理する者及び労働者に対する、事前の、①熱中症の症状、②熱中症の予防方法、③緊急時の救急処置、④熱中症の事例等についての労働衛生教育の実施。
      6 救急時への対応への備え
      ①病院、診療所等の所在地及び連絡先の把握、緊急連絡網の作成、それらの関係者への周知、②熱中症を疑わせる症状が現われた場合に、救急処置として涼しい場所で身体を冷し、水分及び塩分の摂取等を行う体制の整備、③意識障害が現れるなど、必要な場合は、救急隊を要請し又は医師の診察を受けさせることの徹底。
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  • (7)熱中症が疑われる場合の、作業現場での応急処置について述べよ。

    • 【解説】
      先述した「職場における熱中症予防基本対策要綱」の「図:熱中症の救急処置(現場での応急処置)」に基づいて解答すればよい。
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    • 【解答例】
      以下の順序に従って対応する。ただし、以下の手順の途中で体調が悪化した場合は、ただちに救急車を要請する。
      ① 問(3)に示した熱中症を疑う症状の有無について確認する。
      ② 症状が認められるか、疑わしい症状が認められれば、意識障害の有無を確認する。少しでも意識障害があったり、身体がぐったりして力が入らないなどの熱疲労の症状があれば、直ちに救急車を呼ぶ(近くに医療機関があれば搬送する)。この場合でも、できるだけふく射熱や日光の当たらない涼しい場所へ移し、身体を冷やすようにする。
      ③ 意識が清明で、問いかけに正常に反応する場合は、ふく射熱や日光が遮られる涼しい場所へ移し、身体を冷やすようにする。
      ④ スポーツドリンク又は0.2%食塩水をとらせ、自力で摂取できないようなら医療機関へ搬送する。
      ⑤ スポーツドリンク又は0.2%食塩水を自力で摂取できた場合は、回復するかどうかを確認し、回復しないようなら医療機関へ搬送する。
      ⑥ スポーツドリンク又は0.2%食塩水を自力で摂取して回復した場合は、様子を見て、帰宅させるなどの措置をとる。
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  • (8)熱中症を予防するための労働衛生教育の内容に含まれる事項を三つ挙げよ。

    • 【解説】
      先述した「職場における熱中症予防基本対策要綱」の第2の4に基づいて解答すればよい。
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    • 【解答例】
      1 熱中症の症状
      2 熱中症の予防方法
      3 緊急時の救急処置
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