問15 石綿障害予防のため事業者が講ずべき措置に関する次の記述のうち、石綿障害予防規則上、正しいものはどれか。
(1)建築物の解体等の作業を行う場合、当該建築物について石綿等が吹き付けられていないことが明らかであるときには、石綿等の使用の有無について、目視、設計図書等による事前調査を省略することができる。
(2)石綿等が使用されている建築物の解体等の作業を行うときに、あらかじめ作成すべき作業計画は、作業の方法及び順序、石綿等の粉じんの発散を防止し又は抑制する方法、作業環境測定及び健康診断の実施予定が示されているものでなければならない。
(3)壁、柱、天井等に石綿等が吹き付けられた建築物の解体等の作業を行う場合において、他の作業場所から隔離を行った作業場所で、当該石綿等を除去する作業に労働者を従事させるときは、電動ファン付き呼吸用保護具又はこれと同等以上の性能を有する空気呼吸器、酸素呼吸器若しくは送気マスクを使用させなければならない。
(4)石綿等の粉じんが発散する屋内作業場に設ける局所排気装置には、重量法で測定した粒径分布において最大頻度を示す石綿等の粉じんの粒径が5マイクロメートル未満の場合には、マルチサイクロンによる除じん方式による除じん装置を設けなければならない。
(5)石綿等を製造し、又は取り扱う事業者が事業を廃止しようとするときは、試験研究のために製造する事業者を除き、石綿関係記録等報告書に、石綿等に係る作業の記録、作業環境測定の記録、石綿健康診断個人票又はこれらの写しを添えて、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
このページは、2020年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。
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2020年度(令和2年度) | 問15 | 難易度 | 石綿則は最近は2年に一度の出題。今後もこの傾向は続くだろう。正答できるようにしておきたい。 |
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石綿障害予防規則 | 2 |
問15 石綿障害予防のため事業者が講ずべき措置に関する次の記述のうち、石綿障害予防規則上、正しいものはどれか。
(1)建築物の解体等の作業を行う場合、当該建築物について石綿等が吹き付けられていないことが明らかであるときには、石綿等の使用の有無について、目視、設計図書等による事前調査を省略することができる。
(2)石綿等が使用されている建築物の解体等の作業を行うときに、あらかじめ作成すべき作業計画は、作業の方法及び順序、石綿等の粉じんの発散を防止し又は抑制する方法、作業環境測定及び健康診断の実施予定が示されているものでなければならない。
(3)壁、柱、天井等に石綿等が吹き付けられた建築物の解体等の作業を行う場合において、他の作業場所から隔離を行った作業場所で、当該石綿等を除去する作業に労働者を従事させるときは、電動ファン付き呼吸用保護具又はこれと同等以上の性能を有する空気呼吸器、酸素呼吸器若しくは送気マスクを使用させなければならない。
(4)石綿等の粉じんが発散する屋内作業場に設ける局所排気装置には、重量法で測定した粒径分布において最大頻度を示す石綿等の粉じんの粒径が5マイクロメートル未満の場合には、マルチサイクロンによる除じん方式による除じん装置を設けなければならない。
(5)石綿等を製造し、又は取り扱う事業者が事業を廃止しようとするときは、試験研究のために製造する事業者を除き、石綿関係記録等報告書に、石綿等に係る作業の記録、作業環境測定の記録、石綿健康診断個人票又はこれらの写しを添えて、所轄労働基準監督署長に提出しなければならない。
正答(3)
【解説】
(1)誤り。石綿則第3条の規定により、建築物の解体等の作業を行う場合には、石綿等の使用の有無について、目視、設計図書等による事前調査を行わなければならない。当該建築物について石綿等が吹き付けられていないことが明らかであるときには、事前調査を省略することができるとする規定はない(※)。
※ 石綿則第3条は、改正により本問出題当時とは異なっているが結論に変わりはない。
そもそも、事前調査の対象は吹き付けられた石綿だけではない。石綿ボードなどの使用も対象なのである。吹き付けられていないことが明らかだったとしても、事前調査を省略して良いわけがなかろう。
また、石綿が吹き付けられていないことが明らかな建物とは、現実には、石綿の使用が禁止された後に立てられた建物のみである。それ以前に建てられた建物で、石綿の吹き付けがされていないことが明らかなどという状況は現実には想定しにくい。
そして、その建物が、石綿の使用が禁止された後に立てられた建物かどうかも、建築の記録等の事前調査によって、はじめて分かることである。事前調査というのは、そのような調査も含むのであって、それを省略して良い状況というのは考えにくい。そんな条文があるわけがないのである。
【石綿障害予防規則】
(事前調査)
第3条 事業者は、建築物、工作物又は船舶(鋼製の船舶に限る。以下同じ。)の解体又は改修(封じ込め又は囲い込みを含む。)の作業(以下「解体等の作業」という。)を行うときは、石綿による労働者の健康障害を防止するため、あらかじめ、当該建築物、工作物又は船舶(それぞれ解体等の作業に係る部分に限る。以下「解体等対象建築物等」という。)について、石綿等の使用の有無を調査しなければならない。
2 前項の規定による調査(以下「事前調査」という。)は、解体等対象建築物等の全ての材料について次に掲げる方法により行わなければならない。
一 設計図書等の文書(電磁的記録を含む。以下同じ。)を確認する方法。ただし、設計図書等の文書が存在しないときは、この限りでない。
二 目視により確認する方法。ただし、解体等対象建築物等の構造上目視により確認することが困難な材料については、この限りでない。
3 前項の規定にかかわらず、解体等対象建築物等が次の各号のいずれかに該当する場合は、事前調査は、それぞれ当該各号に定める方法によることができる。
一~八 (各項目については略すが、本肢のような規定はない。)
4~7 (略)
(2)誤り。石綿則第4条第2項により、石綿等が使用されている建築物の解体等の作業を行うときに、あらかじめ作成すべき作業計画は、作業の方法及び順序、石綿等の粉じんの発散を防止し又は抑制する方法が示されているものでなければならない。しかし、作業環境測定及び健康診断の実施予定が示されているものである必要はない。
※ 石綿則第4条は、改正により本問出題当時とは異なっているが結論に変わりはない。
そもそも、建築物の解体の作業は、作業環境測定の対象業務ではない。測定を行ったとしても、そのときの作業の状況によって濃度は大きく変わってしまうし、測定結果によって作業環境を改善できるというようなものでもない。また、健康診断の実施は、建築物の解体とは別な話である。
【石綿障害予防規則】
(作業計画)
第4条 事業者は、石綿等が使用されている解体等対象建築物等(前条第四項ただし書の規定により石綿等が使用されているものとみなされるものを含む。)の解体等の作業(以下「石綿使用建築物等解体等作業」という。)を行うときは、石綿による労働者の健康障害を防止するため、あらかじめ、作業計画を定め、かつ、当該作業計画により石綿使用建築物等解体等作業を行わなければならない。
2 前項の作業計画は、次の事項が示されているものでなければならない。
一 石綿使用建築物等解体等作業の方法及び順序
二 石綿等の粉じんの発散を防止し、又は抑制する方法
三 石綿使用建築物等解体等作業を行う労働者への石綿等の粉じんのばく露を防止する方法
3 (略)
(3)正しい。石綿則第14条第1項のカッコ書き(並びに第6条第1項(第一号)及び同条第2項(第一号))の規定により、「石綿等の切断等の作業」のうち、「壁、柱、天井等に石綿等が吹き付けられた建築物の解体等の作業を行う場合において、他の作業場所から隔離を行った作業場所で、当該石綿等を除去する作業」に労働者を従事させるときは、電動ファン付き呼吸用保護具又はこれと同等以上の性能を有する空気呼吸器、酸素呼吸器若しくは送気マスクを使用させなければならない(※)。
※ 石綿則の本肢の関係条文は、改正により本問出題当時とは異なっているが結論に変わりはない。
なお、同規則第13条第1項(第五号)の規定により、「壁、柱、天井等に石綿等が吹き付けられた建築物の解体等の作業を行う場合において、他の作業場所から隔離を行った作業場所で、当該石綿等を除去する作業」は「石綿等の切断等の作業等」に該当する。
【石綿障害予防規則】
(作業の届出)
第5条 (柱書 略)
一 解体等対象建築物等に吹き付けられている石綿等(石綿等が使用されている仕上げ用塗り材(第六条の三において「石綿含有仕上げ塗材」という。)を除く。)の除去、封じ込め又は囲い込みの作業
二 (略)
2 (略)
(吹き付けられた石綿等及び石綿含有保温材等の除去等に係る措置)
第6条 事業者は、次の作業に労働者を従事させるときは、適切な石綿等の除去等に係る措置を講じなければならない。ただし、当該措置と同等以上の効果を有する措置を講じたときは、この限りでない。
一 前条第一項第一号に掲げる作業(囲い込みの作業にあっては、石綿等の切断等の作業を伴うものに限る。)
二 (略)
2 事業者は、前項ただし書の場合において、石綿含有成形品のうち特に石綿等の粉じんが発散しやすいものとして厚生労働大臣が定めるものを切断等の方法により除去する作業を行うときは、次に掲げる措置を講じなければならない。ただし、当該措置と同等以上の効果を有する措置を講じたときは、この限りでない。
一 前項各号に掲げる作業を行う作業場所(以下この項において「石綿等の除去等を行う作業場所」という。)を、それ以外の作業を行う作業場所から隔離すること。
二及び三 (略)
3 (略)
(石綿等の切断等の作業に係る措置)
第13条 事業者は、次の各号のいずれかに掲げる作業(次項及び次条において「石綿等の切断等の作業」という。)に労働者を従事させるときは、石綿等を湿潤な状態のものとしなければならない。ただし、石綿等を湿潤な状態のものとすることが著しく困難なときは、この限りでない。
一 石綿等の切断等の作業(第六条の二第二項に規定する作業を除く。)
二~四 (略)
五 前各号に掲げる作業、第六条の二第二項に規定する作業又は第六条の三に規定する作業(以下「石綿等の切断等の作業等」という。)において発散した石綿等の粉じんの掃除の作業
2及び3 (略)
第14条 事業者は、石綿等の切断等の作業等に労働者を従事させるときは、当該労働者に呼吸用保護具(第六条第二項第一号の規定により隔離を行った作業場所における同条第一項第一号に掲げる作業(除去の作業に限る。第三十五条の二第二項において「吹付石綿等除去作業」という。)に労働者を従事させるときは、電動ファン付き呼吸用保護具又はこれと同等以上の性能を有する空気呼吸器、酸素呼吸器若しくは送気マスク(同項において「電動ファン付き呼吸用保護具等」という。)に限る。)を使用させなければならない。
2及び3 (略)
(4)誤り。石綿則第18条第1項の規定により、石綿等の粉じんが発散する屋内作業場に設ける局所排気装置には、重量法で測定した粒径分布において最大頻度を示す石綿等の粉じんの粒径が5マイクロメートル未満の場合には、ろ過除じん方式又は電気除じん方式による除じん装置を設けなければならない。
【石綿障害予防規則】
(除じん)
第18条 事業者は、石綿等の粉じんを含有する気体を排出する製造設備の排気筒又は第十二条第一項の規定により設ける局所排気装置若しくはプッシュプル型換気装置には、次の表の上欄に掲げる粉じんの粒径に応じ、同表の下欄に掲げるいずれかの除じん方式による除じん装置又はこれらと同等以上の性能を有する除じん装置を設けなければならない。
粉じんの粒径 (単位 マイクロメートル) |
除じん方式 |
---|---|
五未満 | ろ過除じん方式 電気除じん方式 |
五以上二十未満 | スクラバによる除じん方式 ろ過除じん方式 電気除じん方式 |
二十以上 | マルチサイクロン(処理風量が毎分二十立方メートル以内ごとに一つのサイクロンを設けたものをいう。)による除じん方式 スクラバによる除じん方式 ろ過除じん方式 電気除じん方式 |
備考 この表における粉じんの粒径は、重量法で測定した粒径分布において最大頻度を示す粒径をいう。 |
2及び3 (略)
(5)誤り。石綿則第49条の規定により、石綿関係記録等報告書に、石綿等に係る作業の記録、作業環境測定の記録、石綿健康診断個人票又はこれらの写しを添えて、所轄労働基準監督署長に提出しなければならないのは、石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する事業者又は石綿分析用試料等を製造する事業者である。
本肢にいう「石綿等を製造する事業者」というのは、現時点では試験研究のため製造する事業者又は石綿分析用試料等を製造する事業者以外に存在していない。そして、試験研究のために製造する事業者は、義務の対象から除かれていない。
【石綿障害予防規則】
第49条 石綿等を取り扱い、若しくは試験研究のため製造する事業者又は石綿分析用試料等を製造する事業者は、事業を廃止しようとするときは、石綿関係記録等報告書(様式第六号)に次の記録及び石綿健康診断個人票又はこれらの写しを添えて、所轄労働基準監督署長に提出するものとする。
一 第三十五条の作業の記録
二 第三十六条第二項の測定の記録
三 第四十一条の石綿健康診断個人票