労働衛生コンサルタント試験 2020年 労働衛生関係法令 問12

有機溶剤中毒予防規則




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合格

 このページは、2020年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2020年度(令和2年度) 問12 難易度 有機則は(2019年を除き)ほぼ必出。本年度はやや細かい内容となっているが、正答しておきたい。
有機溶剤中毒予防規則

問12 次の記述のうち、有機溶剤中毒予防規則(以下「有機則」という。)上、正しいものはどれか。

(1)タンク等の内部において有機溶剤含有物を用いて塗装の業務を行う場合であって、作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量が有機溶剤等の許容消費量を常態として超えず、かつ、その作業場を有する事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長の認定を受けたときは、当該業務については、有機則の規制が適用されない。

(2)事業者は、有機則に基づき設置したプッシュプル型換気装置を使用しているときは、原則として1年以内ごとに1回、定期自主検査を実施し、その所定の事項を記録して3年間保存しなければならない。

(3)有機則に基づき設置する囲い式フード型の局所排気装置の制御風速については、そのフードの開口面における平均風速が毎秒0.4メートル以上でなければならない。

(4)事業者は、有機溶剤含有物を用いて行う建築物の屋上及び外壁の防水の業務に常時従事する労働者に対し、雇入れの際、当該業務への配置替えの際及びその後6か月以内ごとに1回、定期に、有機溶剤等健康診断を行わなければならない。

(5)屋内作業場の床に有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務を行う場合で有機溶剤の蒸気の発散面が広いため、局所排気装置の設置が困難であるときは、当該作業場の床面積に応じて算定される所要の換気量を出し得る能力を有する全体換気装置を設けて作業させることができる。

正答(2)

【解説】

(1)誤り。タンク等の内部において有機溶剤含有物を用いて塗装の業務を行う場合は、作業時間1に消費する有機溶剤等の量が有機溶剤等の許容消費量を常に超えない場合でなければ、有機則の適用除外は受けることはできない。本肢の要件を満たして有機則の適用除外が受けられるのは、タンク等の内部以外の屋内作業場等での作業である。

なお、そのタンクが有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。)の場合は、そもそも有機則第3条の適用除外の対象とはならない。また、第3条の適用除外の要件に合致したとしても、有機則のすべての条文が適用除外になるわけでもない。

根拠
条文
対象業務 適用除外
される条文
適用される要件 署長認定
作業の場所 有機溶剤等の使用量 要件
第2条 第1条第1項第六号ハからルまでの業務 第2章、第3章、第4章中第19条、第19条の2及び第24条から第26条まで、第7章並びに第9章の規定 屋内作業場等のうちタンク等の内部以外の場所 1時間に消費する量 許容消費量を超えない 不要
タンク等の内部 1日に消費する量 許容消費量を超えない
第3条 第1条第1項第六号ハからルまでの業務 上記に併せて以下の条文も適用除外となる
第4章中第20条から第23条まで、第5章及び第6章
屋内作業場等のうちタンク等の内部以外の場所 1時間に消費する量 許容消費量を常態として超えない 必要
タンク等の内部 1日に消費する量 許容消費量を常に超えない
表:有機溶剤の許容量
消費する有機溶剤等の区分 有機溶剤等の許容消費量
第一種有機溶剤等 W=(1/15)×A
第二種有機溶剤等 W=(2/5)×A
第三種有機溶剤等 W=(3/2)×A

備考 この表において、W及びAは、それぞれ次の数値を表わすものとする。

W 有機溶剤等の許容消費量(単位 グラム)

A 作業場の気積(床面から4m を超える高さにある空間を除く。単位 m3)。ただし、気積が150m3を超える場合は、150m3とする。

【有機溶剤中毒予防規則】

第1条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~五 (略)

 有機溶剤業務 次の各号に掲げる業務をいう。

イ~チ (略)

 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)

ヌ及びル (略)

 有機溶剤等を入れたことのあるタンク(有機溶剤の蒸気の発散するおそれがないものを除く。以下同じ。)の内部における業務

 (略)

第3条 この省令(第4章中第27条及び第8章を除く。)は、事業者が第1条第1項第六号ハからルまでのいずれかに掲げる業務に労働者を従事させる場合において、次の各号のいずれかに該当するときは、当該業務については、適用しない。この場合において、事業者は、当該事業場の所在地を管轄する労働基準監督署長(以下「所轄労働基準監督署長」という。)の認定を受けなければならない。

 屋内作業場等のうちタンク等の内部以外の場所において当該業務に労働者を従事させる場合で、作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量が有機溶剤等の許容消費量を常態として超えないとき。

 タンク等の内部において当該業務に労働者を従事させる場合で、1日に消費する有機溶剤等の量が有機溶剤等の許容消費量を常に超えないとき。

 (略)

(2)正しい。事業者は、有機則第20条の2第2項により、プッシュプル型換気装置については原則として1年以内ごとに1回、定期自主検査を実施しなければならない。また、同規則第21条により、所定の事項を記録して3年間保存しなければならない。

【労働安全衛生法】

(定期自主検査)

第45条 事業者は、ボイラーその他の機械等で、政令で定めるものについて、厚生労働省令で定めるところにより、定期に自主検査を行ない、及びその結果を記録しておかなければならない。

2~4 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(定期に自主検査を行うべき機械等)

第15条 法第45条第1項の政令で定める機械等は、次のとおりとする。

一~八 (略)

 局所排気装置、プッシュプル型換気装置、除じん装置、排ガス処理装置及び排液処理装置で、厚生労働省令で定めるもの

十および十一 (略)

 (略)

【有機溶剤中毒予防規則】

(局所排気装置の定期自主検査)

第20条 (第1項 略)

 事業者は、前項の局所排気装置については、1年以内ごとに1回、定期に、次の事項について自主検査を行わなければならない。ただし、1年を超える期間使用しない同項の装置の当該使用しない期間においては、この限りでない。

一~七 (略)

 (略)

(プッシュプル型換気装置の定期自主検査)

第20条の2 令第15条第1項第九号の厚生労働省令で定めるプッシュプル型換気装置(有機溶剤業務に係るものに限る。)は、第5条又は第6条の規定により設けるプッシュプル型換気装置とする。

 前条第2項及び第3項の規定は、前項のプッシュプル型換気装置に関して準用する。この場合において、同条第2項第三号中「排風機」とあるのは「送風機及び排風機」と、同項第六号中「吸気」とあるのは「送気、吸気」と読み替えるものとする。

(記録)

第21条 事業者は、前2条の自主検査を行なつたときは、次の事項を記録して、これを3年間保存しなければならない。

一~六 (略)

(3)誤り。有機則に基づき設置する囲い式フード型の局所排気装置の制御風速とは「フードの開口面における最小風速」であり「そのフードの開口面における平均風速」ではない。なお、毎秒0.4メートル以上でなければならないことは正しい。

【有機溶剤中毒予防規則】

(局所排気装置の性能)

第16条 局所排気装置は、次の表の上欄に掲げる型式に応じて、それぞれ同表の下欄に掲げる制御風速を出し得る能力を有するものでなければならない。

型式 制御風速(メートル/秒)
囲い式フード 0.4
外付け式フード 側方吸引型 0.5
下方吸引型 0.5
上方吸引型 1.0

備考

一 この表における制御風速は、局所排気装置のすべてのフードを開放した場合の制御風速をいう。

二 この表における制御風速は、フードの型式に応じて、それぞれ次に掲げる風速をいう。

イ 囲い式フードにあっては、フードの開口面における最小風速

ロ 外付け式フードにあっては、当該フードにより有機溶剤の蒸気を吸引しようとする範囲内における当該フードの開口面から最も離れた作業位置の風速

 (略)

(4)誤り。有機溶剤等健康診断の対象は、「屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)」という限定があり、「有機溶剤含有物を用いて行う建築物の屋上及び外壁の防水の業務に常時従事する労働者」は対象とならない。

【労働安全衛生法】

(健康診断)

第66条 (第1項 略)

 事業者は、有害な業務で、政令で定めるものに従事する労働者に対し、厚生労働省令で定めるところにより、医師による特別の項目についての健康診断を行なわなければならない。有害な業務で、政令で定めるものに従事させたことのある労働者で、現に使用しているものについても、同様とする。

3~5 (略)

【労働安全衛生法施行令】

(健康診断を行うべき有害な業務)

第22条 法第66条第2項前段の政令で定める有害な業務は、次のとおりとする。

一~五 (略)

 屋内作業場又はタンク、船倉若しくは坑の内部その他の厚生労働省令で定める場所において別表第六の二に掲げる有機溶剤を製造し、又は取り扱う業務で、厚生労働省令で定めるもの

2及び3 (略)

【有機溶剤中毒予防規則】

(健康診断)

第29条 令第22条第1項第六号の厚生労働省令で定める業務は、屋内作業場等(第三種有機溶剤等にあつては、タンク等の内部に限る。)における有機溶剤業務のうち、第3条第1項の場合における同項の業務以外の業務とする。

2~5 (略)

(5)誤り。有機則の全体換気装置の能力(換気量)は、有機溶剤の種類と作業時間1時間に消費する有機溶剤等の量から、有機則第 17 条によって算出される。「当該作業場の床面積に応じて算定される」のではない。

常識的に考えても、必要換気量が(作業場の気積ならともかく)床面積だけで計算できるわけがないだろう。

なお、この場合には有機則第33条により「送気マスク又は有機ガス用防毒マスク」を使用させなければならない。そのことも覚えておこう。

【有機溶剤中毒予防規則】

(定義等)

第1条 この省令において、次の各号に掲げる用語の意義は、それぞれ当該各号に定めるところによる。

一~五 (略)

 有機溶剤業務 次の各号に掲げる業務をいう。

イ~チ (略)

 有機溶剤含有物を用いて行う塗装の業務(ヲに掲げる業務に該当する塗装の業務を除く。)

ヌ~ヲ (略)

 (略)

(局所排気装置等の設置が困難な場合における設備の特例)

第10条 事業者は、屋内作業場等の壁、床又は天井について行う有機溶剤業務に労働者を従事させる場合において、有機溶剤の蒸気の発散面が広いため第5条又は第6条第2項の規定による設備の設置が困難であり、かつ、全体換気装置を設けたときは、有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないことができる。

(全体換気装置の性能)

第17条 全体換気装置は、次の表の上欄に掲げる区分に応じて、それぞれ同表の下欄に掲げる式により計算した一分間当りの換気量(区分の異なる有機溶剤等を同時に消費するときは、それぞれの区分ごとに計算した一分間当りの換気量を合算した量)を出し得る能力を有するものでなければならない。

消費する有機溶剤等の区分 一分間当りの換気量
第一種有機溶剤等 Q=0.3W
第二種有機溶剤等 Q=0.04W
第三種有機溶剤等 Q=0.01W

この表において、Q及びWは、それぞれ次の数値を表わすものとする。

Q 一分間当りの換気量(単位 立方メートル)

W 作業時間一時間に消費する有機溶剤等の量(単位 グラム)

 前項の作業時間一時間に消費する有機溶剤等の量は、次の各号に掲げる業務に応じて、それぞれ当該各号に掲げるものとする。

 第1条第1項第六号イ又はロに掲げる業務 作業時間一時間に蒸発する有機溶剤の量

 第1条第1項第六号ハからヘまで、チ、リ又はルのいずれかに掲げる業務 作業時間一時間に消費する有機溶剤等の量に厚生労働大臣が別に定める数値を乗じて得た量

 第1条第1項第六号ト又はヌのいずれかに掲げる業務 作業時間一時間に接着し、又は乾燥する物に、それぞれ塗布され、又は付着している有機溶剤等の量に厚生労働大臣が別に定める数値を乗じて得た量

 (略)

(送気マスク又は有機ガス用防毒マスクの使用)

第33条 事業者は、次の各号のいずれかに掲げる業務に労働者を従事させるときは、当該業務に従事する労働者に送気マスク又は有機ガス用防毒マスクを使用させなければならない。

一~三 (略)

 第10条の規定により有機溶剤の蒸気の発散源を密閉する設備、局所排気装置及びプッシュプル型換気装置を設けないで行う屋内作業場等における業務

五~七 (略)

 (略)

2020年12月13日執筆 2021年01月10日加筆