労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2020年 問4

疫学調査と事業場内における健康情報の把握




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 このページは、2020年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

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2020年度(令和2年度) 問 4 疫学調査と事業場内における健康情報の把握についての基本的な知識を問う問題である。
事業場の健康情報の把握
2020年11月03日執筆

問4 ある事業場から生活習慣病及びその予備的状態を有する従業員が増えてきたため、客観的な実態調査とその後の対策に関する協力依頼を受けた。

以下の設問に答えよ。

なお、定期健康診断は例年最低限の法定項目(問診や聞き取りを含む。)のみを行っており、昨年度より結果が電子データ化されている。また、労働組合等従業員代表とのデータ使用についての合意と従業員への説明は実施済みである。

【本問について(解説者による総説)】

本問は、設問の形式や内容に、以下のような疑問を感じる面があり、この問題を選択することにはリスクがあると思える。

本来、公的資格試験の記述問題には得点を与える客観的な基準があるはずで、受験者はこの基準を推定してそれに合致する解答をする。ところが、本問は以下に示すように、問題文の意味が不明だったり、出題者の意図(受験者に何を求めているのか)が分からない小問があり、出題者の一方的な考え方によって得点されるかどうかが決まるおそれがあるためである。

  • 問題文に、意味がどうとでもとれるような曖昧な箇所がある。このような問題には、なにを正答とするかの客観的な基準があるとは思えず、出題者が恣意的に作成した基準によって正誤が定まるのではないかと思える。
  • 問題の全体の流れから考えて、この事業場における健診と問診の追加項目から、疫学調査(記述疫学)の手法によって、この事業場の問題点を把握しようとしているように見える。しかし、このような手法は常識を逸脱している。生活習慣病及びその予備的状態や、そのリスク要因は、すでに判明しているものを用いて分析するべきであり、個々の事業場の疫学調査によって調べるようなものではない。そのため、何を解答するべきかに迷うのである。
  • 問題文に、日本語として意味が通じない箇所があること。
  • (1)基本的な疫学的手法について次の問に答えよ。
    ① 記述疫学について簡単に説明せよ。

    • 【解説】
      記述疫学(Descriptive Epidemiology)とは、観察研究(※)の一つで、分析疫学(Analytic Epidemiology)と対比させて用いられる概念である。日本疫学会のWEBサイトによると、「人間集団における疾病の疫学特性(発症頻度、分布、関連情報)を人、場所、時間別に詳しく正確に観察し、記述する研究である。研究結果に基づき、発生要因の仮説設定が行われる」とされている。
      ※ 調査対象に対して介入を行う研究を「介入研究」といい、それに対して介入せずにたんに調査するのみの研究を観察研究という。
      分かりやすく言えば、ある対象に対して調査を行い、それによって得られたデータの分布や頻度などを詳細に調べて、ありのままに記述することにより、調査対象の疫学的特性を明らかにしようとするものである。この手法は、仮説を設定するために行われることがある。
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    • 【解答例】
      記述疫学とは、調査対象群に対して介入することなく調査を行い、その結果を分析してそのままの形で記述する疫学調査である。「分析疫学」や「実験疫学」が仮説の検証を行うために行われるのに対し、「記述疫学」は仮説を設定するために行われることがある。
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  •   ② 分析疫学には一般的に三つの調査手法(デザイン)がある。それぞれについて簡単に説明せよ。

    • 【解説】
      分析疫学は、横断研究(Cross-sectional study)と縦断研究(Longitudinal study)に分かれる。横断研究は時間の経緯を考慮しないのに対し、縦断研究は時間の経緯による変化を考慮する点で異なっている。そして、縦断研究は、前向き研究(prospective study)と、後ろ向き研究(retrospective study)に分かれる。本小問の3つのデザインとは、この3種の研究を指すものだと思われる(※)
      ※ 前向き研究はコホート研究しかないが、後ろ向き研究は症例対照研究(患者対照研究)とコホート研究に分かれる。そのため、本小問の出題者が期待している解答は、横断研究、症例対照研究、及び、コホート研究で3つの可能性もある。解答例は、出題意図がそこにある可能性にも備えて記述した。
      横断研究は、その時点における関係を調べるもので、国勢調査もそのひとつである。産業保健の例では、現時点におけるある有害因子へのばく露の状況と、ある疾病の有病率の関係を調べるものが該当するだろう。
      縦断研究のうち、前向き研究は、将来に向って追跡調査を行う研究である。例えば、喫煙者と非喫煙者を長年にわたって観察し、疾病率の有無を調べるような研究である。
      縦断研究のうち、後ろ向き研究である「症例対照研究」は、現時点において疾病が発症しているグループとしていないグループに分けて、それぞれの過去の有害因子へのばく露状況を調べるものである。また、同じ後ろ向き研究である「後ろ向きコホート研究」は、現時点において、過去のコホートを調査して、現時点の疾病発生率を比較する方法である。
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    • 【解答例】
      分析疫学は、①横断研究、②縦断研究のひとつである前向きコホート研究、及び、③縦断研究のひとつである後ろ向き研究(症例対照研究と後ろ向きコホート研究がある)の3つがある。
      ① 横断研究
      横断研究は、その時点における状況を調べるものである。産業保健の例では、現時点におけるある有害因子へのばく露の状況と、ある疾病の有病率の関係を調べるものが該当する。
      ② 縦断研究のうち前向き研究
      縦断研究のうち、前向き研究は、将来に向って追跡調査を行う研究である。
      ③ 縦断研究のうち後ろ向き研究である「症例対照研究」
      縦断研究のうち、後ろ向き研究である「症例対照研究」は、現時点において疾病の発症の有無ごとに、それぞれの過去の有害因子へのばく露状況を調べるものである。また、同じ後ろ向き研究である「後ろ向きコホート研究」は、現時点において、過去のコホートを調査して、現時点の疾病発生率を比較する方法である。
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  •   ③ 疫学調査における、はずせない重要な項目(解析因子)は何か。二つ挙げよ。

    • 【解説】
      疫学調査とは、ある危険な因子へのばく露状況と、それによる帰結(ある疾病の発症)の関係を探るものだと言ってよい。調査項目は多ければよいと思うかもしれないが、あまりに項目が多いと、対象者からの協力が得られなくなり無回答や誤回答(いい加減な回答)が増えることになる。そこで、多変量解析における変数の作成方法や、エンドポイントとの関係を念頭において、数を絞ることにならざるを得ない。問題文には書かれていないが、そのことは当然の前提である。
      しかしながら、この小問は、あまりにも内容が不明瞭で漠としており、出題者の出題意図を考えないと、疫学調査について充分な知識があっても得点できないだろう。一般論で抽象的な解答をするべきなのか、設問にある「生活習慣病及びその予備的状態を調査」をするために欠かせない項目(喫煙状況や睡眠状況など)を具体的に挙げろというのかについての出題意図が不明なのである。
      問題の流れから言えば、前者だろう。そうだとすると、一般的な意味で欠かせないものを2つ挙げるとすれば、「防御因子」と「交絡因子」は確かに欠かせないだろう。しかし、「個人属性状況」と「リスク因子」を挙げても解答としては成り立つ。また、「発病前情報」と「発病後情報」という考え方もあるだろう。まさか、「ばく露の有無」と「疾病の有無」だの、「ヒト」「場所」「時間」のうちの2つだのというのではあるまい。まあ、いずれにしても、あまりにも常識的すぎてバカバカしい答えだろう。
      それでは、具体的なものを求められているのだろうか。しかしそうだとしても、欠かせない2つの因子とは何だろう。「遺伝的素養」「基礎疾患」「生活習慣」は欠かせないだろう。すなわち、ここまで広い因子を挙げても2つに絞ることなど、とうていできそうもないのだ。
      正直に言って、出題意図(採点基準)の見当がつかない。一応、それらしい解答例は書いておくが、出題意図に合致しているか自信はない。読者諸兄のアドバイスを受けたい。掲示板かメールでご教示いただければ幸いである。
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    • 【解答例 A】
      「交絡因子」と「防御因子」
        疫学調査では、結果が真実なのかバイアスによるものなのかを見極めることが重要となる。そのため、交絡因子についての項目を調査することは欠かせない。また、単純な有害因子へのばく露状況のみならず、防御因子についても調査することが重要となる。
      【解答例 B】
      「個人属性状況」と「危険因子」
        生活習慣病についての疫学調査では、遺伝的要素や基礎疾患などの「個人属性状況」についての調査は欠かせない。また、「危険因子」として、食生活、喫煙・飲酒の状況、睡眠時間や疲労回復の状況、運動の状況、ストレスの状況などの調査が欠かせない。
      【解答例 C】
      「疲労回復の状況」と「ストレスの状況」
        事業場の生活習慣病についての調査では、職業生活による疲労が十分に回復できているか、近年の複雑な勤労生活においてストレスの状況が同化がきわめて重要となる。
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  • (2)今年度の健康診断時の調査について、次の問に答えよ。
    ① 1か月後に今年度の健康診断が計画されている。問診票を作成し、質問項目を少し加えることが可能であるとのこと。もう少し生活習慣病への影響を調べたいと考えた場合、どのような項目を追加するか。

    • 【解説】
      (1)法定された問診の項目とは
      まず、法定の定期健康診断項目は安衛則第44条に定められているが、「問診」という項目はない。実務では「既往歴及び業務歴の調査」及び「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」(の一部)を問診によって行うべきものと考えられている。
      そして「自覚症状及び他覚症状の有無の検査」のうち「他覚症状」については、例えば平成29年8月4日基発0804第4号「定期健康診断等における診断項目の取扱い等について」等にも示されているが、「打診、聴診、触診などの臨床診察的な手法による」もので「問診」によって行うべきものではない。
      すなわち、「問診」によって質問すべき事項は、法律上は「既往歴及び業務歴の調査」と「自覚症状」のみであり、この事業場ではそれのみを問診によって検査していることとなる。
      (2)本小問で問われていることとは?
      さて、本小問では「生活習慣病への影響」を調べるために、問診に追加するべき項目を問われている。ここで、問題文の「生活習慣病への影響」の意味をまず解読しなければ問題は解けない。
      そもそも「生活習慣病への影響」というなら、日本語として前に「〇〇による」が書かれているか、後ろに「を与えているもの」が書かれていなければならないはずだがそれがなく、きわめて分かりにくい文章で、日本語としても意味をなしていない。しかし、次のようなことが考えられるだろう。
      ① 「生活習慣病」に影響を与え得る、この事業場の労働者の生活習慣
      問題文の文意からは外れるが、常識的に考えれば、最も知りたい事項はこれだろう。
      ② 労働者の生活習慣が、現に「生活習慣病に与えている影響」
      問題文の文意には沿う。また、本問は、この事業場で疫学調査を行うことを前提としているようなので、それとも適合する。しかし、そもそも「原因となっている生活習慣」が何なのかについて仮説を立てない限り、これを問診で調べるというのは常識的に考え難い。仮説を立てずに、総花的に訊くというなら、すでに法定の問診項目(自覚症状の有無)に含まれているとも考えられる。
      ③ 「生活習慣病」に影響を与え得る事業場の問題点
      例えば、長時間労働、不規則な労働時間や深夜勤務、出張の多さ、裁量性のなさ、責任の重さ、人間関係、仕事の役務の不明瞭さ、仕事のレベルなどの「職場の要因による生活習慣病への影響」である。事業場での調査事項としてはこれは欠かせない所ではあるが・・・。
      本問は、ほとんど問題文として(というより日本語として)成立していないが、解答例には、常識的な線で答えておいた。
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    • 【解答例】
      (1)生活習慣病に影響を与え得る生活習慣
      生活習慣病に影響を与え得る生活習慣を調べるために、以下の調査が考えられる。
      ① 睡眠や休養によって疲労は回復できているか。疲労を次の労働日に持ち越すことはないか。
      ② 喫煙、飲酒の状況はどうか、食事は規則正しくバランスのとれた食事ができているか。
      ③ 運動の習慣はあるか。どのような運動をしているか。
      (2)労働者の生活習慣が「生活習慣病に与えている影響」
      生活習慣が、生活習慣病に影響を与えているかを調べるために、以下の調査が考えられる。
      ① ストレスを感じていないか。
      ② 不定愁訴はないか。
      ③ 家族の状況はどうか、周囲に困ったことの相談をできる者はいるか。
      (3)「生活習慣病」に影響を与え得る事業場の問題点
      職業上の問題が、生活習慣病に影響を与えているかを調べるために、以下の調査が考えられる。
      ① 長時間労働、不規則な労働時間や深夜勤務、出張の多さ、裁量性のなさ、責任の重さ、人間関係、仕事の役務の不明瞭さ、仕事のレベルなどはどうか。不満は感じていないか。
      ② 仕事や職業生活に関してストレスはないか。
      ③ 仕事に関して、上司や同僚に相談できる雰囲気はあるか。
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  •   ② 今年度の健康診断及び調査の結果をもとに本事業場の傾向と問題点を調べていきたい。どのような方法で進めていくのが良いか。

    • 【解説】
      本小問の「本事業場の傾向と問題点」が、「労働者の生活習慣や健康状態」についてのものなのか、「労働時間や仕事の内容、裁量性など職場の問題」についてのものなのかが明確ではないが、ここは双方についてだと考えよう。
      また、あくまでも問われているのは「対策をとるための手続き」ではなく「傾向と問題点を調べるための手続きである」。この点、解答に当たっては、医師や学者としてではなく、実務家たる衛生コンサルタントとしての視点が必要だろう。
      なお、本小問でいきなり「調査」という言葉が出ており、その意味がやや不明瞭だが、おそらく問診に追加した項目(による調査)という趣旨だろう。この部分は法定の項目ではないので、健康診断とは別な調査だという趣旨で「調査」という言葉を使ったのだろうと思う。
      本問は、全体の流れから判断して、疫学調査の手法を用いて問題点を把握することを考えているようだ。例えば、喫煙者と非喫煙者のグループで、ある健診項目の所見率に有意差がないかなどを調べるべきとしているように見える。これは、事業場の状況の調査としてはかなり非常識な手法ではある(※)が、一応、解答例は、それに対応できるようにしておいた。
      ※ 例えば、この喫煙者と有所見率の関係について言えば、1事業場のわずかな例から思うような結果が得られるとは思えないし、そもそも疫学調査によるまでもなく、衛生コンサルタントならその因果関係など分かっていて当然のことだからだ。
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    • 【解答例】
      (1)データの取扱い
      データの取扱いは以下による。
      ① 個別の調査票などの、いわゆる生データは医療職の下に留めるべきであり、事業場の管理職やコンサルタントが見ることは避けるべきである。
      ② 事業者側の管理職などは、電子化された情報を統計的に処理された結果のみを閲覧し、それを基に検討を行うべきである。
      ③ その他、健康情報の取扱いは、「労働組合等従業員代表とのデータ使用についての合意と従業員へ説明」した範囲内で行うべきである。
      (2)分析の方法
      分析は以下による。
      ① 問題点の分析をコンサルタント自身が行うのか、コンサルタントは分析の手法を事業者側に示すのみとするのかは、事業者との契約による。
      ② コンサルタント自身が分析を行うのであれば、労働時間などの職場の問題は、平均値ではなく、最悪のケース並びに上位5%及び上位10%など、悪いグループについての検討を行うべきである。
      ③ 電子データの解析ソフトや事業場との契約の上で可能であれば、高齢者や基礎疾患を有する者と、労働時間などの問題点とのクロス集計を行うべきである。
      ④ 高齢者や基礎疾患を有する者、肥満、高脂血症、高血圧などの有所見者の割合を算出し、同業種の全ての労働者との有所見率の比較を行うべきである。また、データがあれば、年齢階層ごとの比較をすることが望ましい。
      (3)疫学調査の方法
      本事業場が極めて大規模な事業場であり、疫学調査の手法により、生活習慣病への影響を知ることが可能と考えられる場合は、以下によることも考えられよう。
      ① ある有害因子又は有害な生活習慣に着目し、ばく露軍の程度により、あるいは習慣の強度・頻度等の程度によりサンプルを数グループに分割する。
      ② 分割したいくつかのグループごとに、生活習慣病又は有所見率を調査し、ばく露量の程度や習慣の強度・頻度等と、発病率・有所見率の関係を考察する。
      ③ この結果から、生活習慣病に影響を与えている有害因子を推定する。
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  •   ③ 健康障害に大きく影響する問題点を抽出して対策を提案した。その後のフォローのために実施すべき事項として提案しておくべきことを説明せよ。

    • 【解説】
      健康障害に大きく影響する問題点というのが、労働者の健康上の問題なのか、生活習慣のことなのか、それとも事業場の労働時間等のことなのかを、問題文は明確にしていない。
      そこで、これは分けて解答するべきだろう。なお、解答するべきことは、対策そのものではなく、フォローのために実施するべき事項であることを留意すること。
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    • 【解答例】
      (1)問題点が労働者の健康上のことである場合
      ① 労働者の健康状態を運動指導、栄養指導等によって改善することはきわめて困難ではあるが、指導や健康教育を地道に続けてゆくことが重要である。
      ② 生活習慣病のリスクと考えられる所見を有する労働者に対して、継続的に指導を行うようにする。
      ③ 運動などは、小集団活動のノウハウを用い、地道に実施している者について顕彰したり、公表したりすること等も考えられる。
      (2)問題点が労働者の生活習慣のことである場合
      ① 一般に「良い生活習慣」を続けさせることは困難であることを理解した上で、禁煙指導、睡眠指導、メンタル面に関してのコーピングの方法やリラクセーションの方法等についての教育を継続してゆくこと。
      ② 禁煙治療、運動施設の利用等について、会社から助成を行うこと。
      (3)問題点が事業場の働き方(労働時間、不規則勤務、インターバル時間、出張の多さ、人間関係など)である場合
      ① 長時間労働の解消は、記録上は守られていても実際には守られていないということがある。コンピュータの動作時間や入退場の記録などで管理する必要がある。また、持ち帰り残業などが横行することもあるので、自宅への書類等の持ち出し禁止や、メールの禁止等を徹底する必要がある。
      ② その他、業務上の問題は、無理に解消しても、仕事が回らないと元へ戻ってしまうので、根本的な手立て(増員や仕事量の減少など)を図る必要がある。
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  • (3)生活習慣病に関する実態調査についての依頼案件が終了した後、最近のトピックスとして感染症について質問を受けた。
    ① 検査の偽陰性とは何か。感度と特異度について説明した上で、これらとの関係性について触れながら簡単に説明せよ。

    • 【解説】
      偽陽性、偽陰性、真陽性、真陰性とは、次の表で表される。すなわち、感染していないにも関わらず検査結果が陽性となる者は偽陽性、感染していなくて検査の結果が陰性となる者は真陰性である。一方、感染しているにもかかわらず検査の結果が陰性となる者が偽陰性で、感染していて陰性となる者は真陰性である。
      表:感染と検査結果
      実際の感染
      感染あり 感染なし
      検査
      結果
      陽性 真陽性 偽陽性
      陰性 偽陰性 真陰性
      そして、検査の感度とは、感染している者のうち、検査で陽性となる者(※)の割合である。
      ※ ここにいう「陽性となる者」とは、あくまでも感染している者の中の陽性となる者(真陽性)である。偽陽性のものは含まない。
      また、特異度とは、感染していない者のうち、検査で陰性となる者の割合である。
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    • 【解答例】
      検査の感度とは、感染している者のうち、検査で陽性となる者の割合である。
      一方、検査の特異度とは、感染していない者のうち、検査で陰性となる者の割合である。
      感度と特異度は、ともに100%であることが望ましいが、現実にはこれらは100%となることはない。そして、感度をあげようとすれば特異度が下がり、特異度をあげようとすれば感度が下がることとなる。
      そして、感染しているにもかかわらず検査の結果が陰性となる者を偽陰性といい、これを減らそうとして検査の感度を挙げると、特異度が低下して偽陽性が増加することとなる。
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  •   ② 感染症の疫学において他の疾病と異なる特徴は何か。二つ挙げよ。

    • 【解説】
      (1)疫学調査とは本来が感染症対策から始まった
      疫学調査の「疫」とは、疫病の「疫」と同じで感染症のことを意味する。疫学調査を行った最初の例は、2つの上水道会社のサービスを受けている住民の疫病の発生率を統計的に調べて、差があることを指摘したものであった。当時は、川の水を消毒せずに用いていたが、一方の水道会社は町の上流で取水し、もう一方は下流で取水していたのである。
      この疫学調査の手法が、感染症以外にも広まったのである。産業保健の分野では、様ざまな職業性疾病に疫学調査の手法が用いられており、すでに疫学の本来の意味を意識することもなくなっているが、当初は感染症の分析から始まったのである。
      (2)感染症と他の疾病の疫学調査の違い
      感染症以外の疫学調査は、ある危険な因子へのばく露状況と、それによる帰結(ある疾病の発症)の関係を探るものである。すなわち、ある疾病と有害因子との関係を調べるものと言ってよい。
      これに対して、感染症の疫学調査は、ある感染症が流行したときに、感染者がいつ、どこで、どのような人にどの程度、発生したか、また、どのように感染したか(感染経路)などについて調査するものである。
      一般の疫学調査と、感染症の疫学調査は、同じような手法を用いるものではあるが、その目的・内容はやや異なっている。違いを2つ挙げるとしたら、解答例に示したようなことであろうか。
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    • 【解答例】
      1 感染症以外の疾病の疫学調査は、ある疾病と想定される原因との関係を予測したり、因果関係を確認したりするために行う。これに対し、感染症の疫学調査では、原因はウイルス又は細菌などであると分かっており、その発生の実態や感染経路を調査するために行う。
      2 感染症以外の疾病の疫学調査は、疾病に罹患した群と罹患していない群、想定される原因にばく露した群とばく露していない群を調査して、その関連を調べることが基本である。これに対し、感染症の疫学調査では、疾病に罹患した群について、発症した時、発症した地域(場所)、人(性、年齢、最近の行動など)についての情報を調査する。
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