労働衛生コンサルタント試験 2018年 労働衛生関係法令 問13

危険物又は有害物に関する規制




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 このページは、2018年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生関係法令」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2018年度(平成30年度) 問13 難易度 化学物質に関するごく基本的な問題である。必ず正答できなければならない。
化学物質管理

問13 危険物又は有害物に関する規制についての次の記述のうち、労働安全衛生法令上、正しいものはどれか。

(1)名称等を表示すべき危険物及び有害物を容器に入れて提供する者は、その名称、人体に及ぼす作用、貯蔵又は取扱い上の注意等所定の事項をその容器に表示し、又は同事項を記載した文書を相手方に交付しなければならない。

(2)名称等を通知すべき危険物及び有害物を提供する者は、文書の交付その他所定の方法により、その名称、成分及びその含有量、物理的及び化学的性質等所定の事項を、提供する相手方に通知しなければならない。

(3)事業者は、危険性又は有害性等を調査すべき対象物を原材料等として新規に採用するとき及びその後6か月以内ごとに1回、定期に、その危険性又は有害性等の調査を実施し、その結果に基づき、労働者の危険又は健康障害を防止するための必要な措置を講ずるように努めなければならない。

(4)ベンゼンは、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で一定の要件に該当するときを除き、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。

(5)事業者は、新規化学物質を製造し、又は輸入したときは、遅滞なく、変異原性試験又はがん原性試験による有害性の調査を行い、その結果を厚生労働大臣に届け出なければならない。

正答(2)

【解説】

(1)誤り。安衛法第 57 条第1項の規定により、名称等を表示すべき危険物及び有害物を容器に入れて提供する者は、その名称、人体に及ぼす作用、貯蔵又は取扱い上の注意等所定の事項をその容器に表示しなければならない。同事項を記載した文書を相手方に交付する方法は認められていない。

なお、同条第2項の規定は、「前項に規定する方法以外の方法により」譲渡等を行う場合の規定であり、容器に入れて提供する場合にはこの方法は認められない。

【労働安全衛生法】

(表示等)

第57条 爆発性の物、発火性の物、引火性の物その他の労働者に危険を生ずるおそれのある物若しくはベンゼン、ベンゼンを含有する製剤その他の労働者に健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は前条第一項の物を容器に入れ、又は包装して、譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、その容器又は包装(容器に入れ、かつ、包装して、譲渡し、又は提供するときにあっては、その容器)に次に掲げるものを表示しなければならない。ただし、その容器又は包装のうち、主として一般消費者の生活の用に供するためのものについては、この限りでない。

 次に掲げる事項

 名称

 人体に及ぼす作用

 貯蔵又は取扱い上の注意

 イからハまでに掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

 当該物を取り扱う労働者に注意を喚起するための標章で厚生労働大臣が定めるもの

 前項の政令で定める物又は前条第1項の物を前項に規定する方法以外の方法により譲渡し、又は提供する者は、厚生労働省令で定めるところにより、同項各号の事項を記載した文書を、譲渡し、又は提供する相手方に交付しなければならない。

(2)正しい。安衛法第 57 条の2により正しい。なお、本肢に「主として一般消費者の生活の用に供される製品」についての記述がないが、他の肢が明らかに誤っているので、本肢が正しいのであろう。

なお、表示(ラベル)すべき事項からは「成分」が除かれたが、SDS については除かれていないので、混乱しないようにしなければならない。

【労働安全衛生法】

(文書の交付等)

第57条の2 労働者に危険若しくは健康障害を生ずるおそれのある物で政令で定めるもの又は第56条第1項の物(以下この条及び次条第1項において「通知対象物」という。)を譲渡し、又は提供する者は、文書の交付その他厚生労働省令で定める方法により通知対象物に関する次の事項(前条第2項に規定する者にあっては、同項に規定する事項を除く。)を、譲渡し、又は提供する相手方に通知しなければならない。ただし、主として一般消費者の生活の用に供される製品として通知対象物を譲渡し、又は提供する場合については、この限りでない。

 名称

 成分及びその含有量

 物理的及び化学的性質

 人体に及ぼす作用

 貯蔵又は取扱い上の注意

 流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置

 前各号に掲げるもののほか、厚生労働省令で定める事項

2及び3 (略)

(3)誤り。事業者が、危険性又は有害性等を調査するべき時期は、安衛則第 34 条の2の7に定められている。ここで、調査対象物を原材料等として新規に採用するときは定められているが、その後6か月以内ごとに1回とは定められていない。

なお、本肢が「危険性又は有害性等の調査の結果に基づき、労働者の危険又は健康障害を防止するための必要な措置を講ずるように努めなければならない」としているのは、安衛法第 57 条の3第2項により本問出題の時点では正しいとしてよかった。

しかしながら、その後、化学物質の自律的管理関連の改正により、安衛則に第 577 条の2(※)が新設されたために、これも努力義務ではなく義務なので誤りとする余地もでてきた。

※ 厚労省は、最近は安衛法関連の省令について根拠条文を明らかにしないという方針のようである。そのことの問題点については「省令の義務規定と法律上の根拠条文」を参照されたい。

しかし、筆者が信頼できる筋から独自に得た情報によると、厚労省としては本条の根拠条文は安衛法第 20 条及び第 22 条(委任条文は同法第 27 条)であるとしているようである。

【労働安全衛生法】

(第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物について事業者が行うべき調査等備)

第57条の3 事業者は、厚生労働省令で定めるところにより、第57条第1項の政令で定める物及び通知対象物による危険性又は有害性等を調査しなければならない。

 事業者は、前項の調査の結果に基づいて、この法律又はこれに基づく命令の規定による措置を講ずるほか、労働者の危険又は健康障害を防止するため必要な措置を講ずるように努めなければならない。

3及び4 (略)

【労働安全衛生規則】

(化学物質管理者が管理する事項等)

第12条の5 事業者は、法第57条の3第1項の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。以下「リスクアセスメント」という。)(以下本条 略)

(リスクアセスメントの実施時期等)

第34条の2の7 リスクアセスメントは、次に掲げる時期に行うものとする。

 (略)

(ばく露の程度の低減等)

第577条の2 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う事業場において、リスクアセスメントの結果等に基づき、労働者の健康障害を防止するため、代替物の使用、発散源を密閉する設備、局所排気装置又は全体換気装置の設置及び稼働、作業の方法の改善、有効な呼吸用保護具を使用させること等必要な措置を講ずることにより、リスクアセスメント対象物に労働者がばく露される程度を最小限度にしなければならない。

 事業者は、リスクアセスメント対象物のうち、一定程度のばく露に抑えることにより、労働者に健康障害を生ずるおそれがない物として厚生労働大臣が定めるものを製造し、又は取り扱う業務(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。)を行う屋内作業場においては、当該業務に従事する労働者がこれらの物にばく露される程度を、厚生労働大臣が定める濃度の基準以下としなければならない。

 事業者は、リスクアセスメント対象物を製造し、又は取り扱う業務に常時従事する労働者に対し、法第六十六条の規定による健康診断のほか、リスクアセスメント対象物に係るリスクアセスメントの結果に基づき、関係労働者の意見を聴き、必要があると認めるときは、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。

 事業者は、第2項の業務に従事する労働者が、同項の厚生労働大臣が定める濃度の基準を超えてリスクアセスメント対象物にばく露したおそれがあるときは、速やかに、当該労働者に対し、医師又は歯科医師が必要と認める項目について、医師又は歯科医師による健康診断を行わなければならない。

5~12 (略)

※ 安衛則第 34 条の2の7は、本問出題当時は以下のようになっていた。2024年4月1日施行の化学物質の自律的管理関連の改正により現在は上記のようになっている。リスクアセスメントの実施時期に関しては、本質的な改正は行われていないので本問の正誤に影響はない。

また、安衛則第 12 条の5及び第 577 条の2は、自律的管理関連の改正によって新設された条文である。

(調査対象物の危険性又は有害性等の調査の実施時期等)

第34条の2の7 法第57条の3第1項の危険性又は有害性等の調査(主として一般消費者の生活の用に供される製品に係るものを除く。次項及び次条第一項において「調査」という。)は、次に掲げる時期に行うものとする。

 令第十八条各号に掲げる物及び法第57条の2第1項に規定する通知対象物(以下この条及び次条において「調査対象物」という。)を原材料等として新規に採用し、又は変更するとき。

 調査対象物を製造し、又は取り扱う業務に係る作業の方法又は手順を新規に採用し、又は変更するとき。

 前二号に掲げるもののほか、調査対象物による危険性又は有害性等について変化が生じ、又は生ずるおそれがあるとき。

 (略)

(4)誤り。これは解説するまでもないであろう。ベンゼンは第二類の特定化学物質である。試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で一定の要件に該当するときを除き、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならないとはされていない。

なお、製造等禁止物質は安衛令第 16 条に定めているが、ベンゼンを溶剤の5wt%を超えて含有するゴムのリは、製造等禁止物質である。

【労働安全衛生法】

(製造等の禁止)

第55条 黄りんマツチ、ベンジジン、ベンジジンを含有する製剤その他の労働者に重度の健康障害を生ずる物で、政令で定めるものは、製造し、輸入し、譲渡し、提供し、又は使用してはならない。ただし、試験研究のため製造し、輸入し、又は使用する場合で、政令で定める要件に該当するときは、この限りでない。

【労働安全衛生法施行令】

(製造等が禁止される有害物等)

第16条 法第55条の政令で定める物は、次のとおりとする。

 黄りんマツチ

 ベンジジン及びその塩

 四―アミノジフエニル及びその塩

 石綿(次に掲げる物で厚生労働省令で定めるものを除く。)

 石綿の分析のための試料の用に供される石綿

 石綿の使用状況の調査に関する知識又は技能の習得のための教育の用に供される石綿

 イ又はロに掲げる物の原料又は材料として使用される石綿

 四―ニトロジフエニル及びその塩

 ビス(クロロメチル)エーテル

 ベータ―ナフチルアミン及びその塩

 ベンゼンを含有するゴムのりで、その含有するベンゼンの容量が当該ゴムのりの溶剤(希釈剤を含む。)の5パーセントを超えるもの

 第二号、第三号若しくは第五号から第七号までに掲げる物をその重量の1パーセントを超えて含有し、又は第四号に掲げる物をその重量の0.1パーセントを超えて含有する製剤その他の物

 (略)

(5)誤り。新規化学物質の有害性の調査は、安衛法第 57 条の4の規定により、あらかじめ実施しなければならない。製造し又は輸入したときに遅滞なく行えばよいわけではない。本肢は誤っている。

なお、行うべき調査は、安衛則第 34 条の3第1項の規定により、「変異原性試験と同等以上の知見を得ることができる試験又はがん原性試験」であり、変異原性試験又はがん原性試験に限られているわけではない。

【労働安全衛生法】

(化学物質の有害性の調査)

第57条の4 化学物質による労働者の健康障害を防止するため、既存の化学物質として政令で定める化学物質(第3項の規定によりその名称が公表された化学物質を含む。)以外の化学物質(以下この条において「新規化学物質」という。)を製造し、又は輸入しようとする事業者は、あらかじめ、厚生労働省令で定めるところにより、厚生労働大臣の定める基準に従って有害性の調査(当該新規化学物質が労働者の健康に与える影響についての調査をいう。以下この条において同じ。)を行い、当該新規化学物質の名称、有害性の調査の結果その他の事項を厚生労働大臣に届け出なければならない。ただし、次の各号のいずれかに該当するときその他政令で定める場合は、この限りでない。

一~四 (以下略)

2~5 (略)

【労働安全衛生規則】

(有害性の調査)

第34条の3 法第57条の4第1項の規定による有害性の調査は、次に定めるところにより行わなければならない。

 変異原性試験、化学物質のがん原性に関し変異原性試験と同等以上の知見を得ることができる試験又はがん原性試験のうちいずれかの試験行うこと。

 組織、設備等に関し有害性の調査を適正に行うため必要な技術的基礎を有すると認められる試験施設等において行うこと。

 (略)

2018年10月20日執筆 2024年11月19日法令改正への対応のため改訂