労働衛生コンサルタント試験 健康管理 2016年 問1

職場の化学物質に関する労働衛生管理




トップ
合格

 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「健康管理(記述式)」問題の解説と解答例を示しています。

 各小問をクリックすると解説と解答例が表示されます。もう一度クリックするか「閉じる」ボタンで閉じることができます。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

 他の問題の解説をご覧になる場合は、グローバルナビの「安全衛生試験の支援」か「パンくずリスト」をご利用ください。

 柳川に著作権があることにご留意ください。

2016年度(平成28年度) 問 1 化学物質の労働衛生管理に関する基本的な知識を問う問題である。
化学物質の労働衛生管理
2018年10月21日執筆 2020年04月21日修正

問1 職場の化学物質の有害性に関する労働衛生管理について、以下の設問に答えよ。

  • (1)作業環境管理、作業管理及び健康管理にはどのような内容が含まれているか。それぞれを100 ~ 150 字程度で簡潔に述べよ。

    • 【解説】
      コンサルタント試験について一定の学習をしていれば、誰でも知っていることではあるが、文字数に制限があるので簡潔かつ的確にまとめなければならない。
      どう端的にまとめるかが勝負どころだろう。なお、個人ばく露測定や、生物学的モニタリングについては触れなくてもよいのではないかと思う。
      閉じる
    • 【解答例】
      作業環境管理とは、作業環境中の有害因子の状態を把握し、容認し得ないリスクがない状態を維持するための管理である。作業環境中の有害因子の状態を把握するには作業環境測定が行われる。リスク低減措置としては、化学物質の代替化等の本質安全化、密閉化、局所排気装置やプッシュプル型換気装置、全体換気装置の設置等がある。
      作業管理とは、有害因子の環境中への発散をさせず、また有害要因へのばく露を軽減するような作業方法を定め、それを適切に実施させるように管理することである。保護具の使用や、作業方法・有害性の表示、掲示なども含まれる。
      健康管理とは、労働者個人個人の健康の状態を健康診断により直接チェックし、健康の異常を早期に発見したり、その進行や増悪を防止したり、さらには、元の健康状態に回復するための医学的及び労務管理的な措置をすることである。
      閉じる
  • (2)職場の労働衛生対策を充実させるために実施すべき労働衛生教育の目的、対象者、内容、時機について300 字程度で具体的に説明せよ。

    • 【解説】
      これは誰でもある程度の解答ができる問題ではあるが、それだけに差をつけることができにくい問題ともいえる。また、対象者、内容、時機について具体的に説明するとなると、かなり簡潔にまとめないと300字に納まらないだろう。因みに下記の解答例は、句読点を含めて324文字である。
      ポイントとしては、①対象者にトップを含むこと、短時間労働者や派遣労働者、関係事業場の労働者も含むことの2点を記すこと、②内容として職業性疾病の防止の心身両面の健康教育の2つを含めること、リスクアセスメントについて言及することなどであろうか。
      閉じる
    • 【解答例】
      労働衛生教育の目的は、労働衛生の3管理が的確に行われて職業性疾病を発生させないことと共に、労働者の心身の健康の保持増進を図ることにある。教育の対象者はトップを始めとした管理職を含むすべての者であり、短時間労働者や派遣労働者、また必要に応じ関係事業場の労働者等を含む。
      その内容としては、①有害な作業を行う者に対する、有害な因子の状況、ばく露を防止するための方法、保護具の適切な使用方法など、②すべての労働者に対する心身の健康の保持増進のために必要な事項、③管理監督者に対する労働衛生管理の重要性とリスクアセスメントの手法、具体的な対策の方法などがある。
      実施する時期は、有害な因子を取り扱う前、管理監督者になる前などに行うととともに、その後定期的に実施する。
      閉じる
  • (3)リスクコミュニケーションの重要な手段としてSDS(安全データシート)があるが、これに関して次の問に簡潔に答えよ。
    ① SDS を作成する目的は何か。

    • 【解説】
      問(3)のようにサブ問題が複数存在するような問では、解答はごく簡単に書いても減点の対象とはならないと考えてよいだろう。「目的」を問う問題では、究極的な目的は労働災害の防止だが、そこまで書く必要はなく。直接の目的のみを回答すればよい。
    • 【解答例】
      危険性又は有害性を有する化学物質を他人に譲渡又は提供する場合に、譲渡提供先にその危険有害性の内容や、適切な取り扱いの方法、適用される国内法令等を知らせるためである。
      閉じる
  •   ② SDS はどのようなタイミングで、誰から誰に提供されるものか。

    • 【解説】
      解答例の通り。
    • 【解答例】
      危険性又は有害性を有する化学物質を他人に譲渡又は提供する前に予め提供する。提供するのはその化学物質を譲渡又は提供する者であり、提供されるのはその化学物質を譲渡又は提供される者である。
      閉じる
  •   ③ SDS に記載すべき項目を五つ挙げよ。

    • 【解説】
      法令の条文に従って書いてもよいし、実際のSDSの項目を書いてもよいだろう。下記解答例は、Aは法令の条文によっており、Bは実際のSDSの項目を書いている。
    • 【解答例】A(※ 以下のうち5つ選んで書く。ただし、①、②、④、⑦及び⑧にしておく方が無難か)
      ① 名称
      ② 成分及びその含有量
      ③ 物理的及び化学的性質
      ④ 人体に及ぼす作用
      ⑤ 貯蔵又は取扱い上の注意
      ⑥ 流出その他の事故が発生した場合において講ずべき応急の措置
      ⑦ 化学物質を譲渡又は提供する者の氏名(法人にあつては、その名称)、住所及び電話番号
      ⑧ 危険性又は有害性の要約
      ⑨ 安定性及び反応性
      ⑩ 適用される法令
      【解答例】B(※ 以下のうち5つ選んで書けばよい。ただし、①、②、③、⑦、⑨、⑪、⑮から選ぶ方が無難か)
      ① 化学物質等及び会社情報
      ② 危険有害性の要約
      ③ 組成及び成分情報
      ④ 応急措置
      ⑤ 火災時の措置
      ⑥ 漏出時の措置
      ⑦ 取扱い及び保管上の注意
      ⑧ ばく露防止及び保護措置
      ⑨ 物理的及び化学的性質
      ⑩ 安定性及び反応性
      ⑪ 有害性情報
      ⑫ 環境影響情報
      ⑬ 廃棄上の注意
      ⑭ 輸送上の注意
      ⑮ 適用法令
      閉じる
  •   ④ SDS の記載内容とGHS(化学品の分類および表示に関する世界調和システム)の関係について述べよ。

    • 【解説】
      出題者が何を聞きたいのか、やや迷うような問ではあるが、無難に答えておけばよいだろう。
      閉じる
    • 【解答例】
      GHSは化学物質(化学品)の危険性及び有害性を世界的に統一された基準に従って区分、分類しようとするものである。また、その結果は絵表示等によっても表示される。
      SDSは、その結果や絵表示等を記載した書類である。化学物質が製造・輸入業者から最終製品となるまで、危険性及び有害性等に関する情報を的確に伝達するためのものである。
      閉じる
  • (4)ある事業場で有害性が十分把握されていない化学物質A を使用していたところ、他の事業場において化学物質A による健康障害が発生した事例が報告された。この場合の当該事業場における化学物質A による健康障害の発生の有無を把握するためにはどのようにすべきか。また、健康障害が発生している場合はどのように対応すべきか。箇条書きでそれぞれ三つ述べよ。

    • 【解説】
      1 当該事業場における健康障害の発生の有無を把握する方法
      まず、当該事業場における化学物質A による健康障害の発生の有無を把握する方法について考えよう。まず、この健康障害の発生そのものは、作業を行った者やばく露した可能性がある者について、健診を行うことにより把握できると解答すればよいであろう。
      さらに、対象者のばく露状況についても調査することも重要となる。もっとも、現実には正確なばく露の状況など分かるものではない。業務歴、作業歴などを調査して、A物質に関わる作業を行っていた期間を調査することとなろう。
      次に、健康障害が発生していたとした場合、問題は、それが「化学物質A による」かどうかである。これは、①この健康障害が一般国民においてもそれほどめずらしくない疾病なのか、それともきわめて特殊なものなのかによって、また、②当該事業場における対象労働者数とそのうち健康障害に罹患していた者の数によっても異なるだろう。
      2 健康障害が発生している場合の対応
      健康障害が発生している場合、実務においては、まず、行政への報告の問題が発生する。休業していれば労働者死傷病報告の義務も発生する。また、労災補償の給付の申請等も行わなければならない。そして、民事賠償をどうするかの問題も発生する。
      しかし、受験テクニックとしては、コンサルタントの試験なのであるから、それよりも、他の労働者へのばく露防止対策が先に来るべきであろう。また、健康障害を発生させた労働者の増悪の防止を図る必要もある。ここを中心に書けばよい。
      なお、リスクアセスメントの実施についてはどうだろうか。私自身は、これは求められている正答ではないような気がする。現に健康障害が発生しているのだからリスクはあることを前提に対策を立てる必要がある。この機会に他の化学物質についてリスクアセスメントを行うというのであれば誤りとは言えないかもしれないが、それを答えるのは得策ではないように思える。
      閉じる
    • 【解答例】
      (1)当該事業場における健康障害の発生の有無を把握する方法
      ① 退職者や死者を含めた全労働者について、作業歴を調査し、化学物質Aにばく露した可能性のある作業に従事した期間及びその内容を把握する。
      ② 化学物質Aにばく露した可能性のある者について当該健康障害の有無についての健診を行う。死者については、遺族からの聞き取り調査を行う。
      ③ 当該健康障害の発症が把握された場合、ばく露の可能性のある労働者数が少ない場合は、当該健康障害は化学物質Aによるものと推定する。ばく露の可能性のある労働者数が多い場合は、当該健康障害についての一般国民の年齢・性別の発症率を調査し、それとの比較によって判断することとなろう。
      (2)健康障害が発生している場合の対応
      ① 今後のA物質へのばく露防止対策をとる。できれば有害性が低いことが分かっている他の物質への代替を図る。困難であれば、密閉化装置による取扱い、局所排気装置の導入等を図る。また、経皮ばく露の可能性があるため、その化学物質を取り扱う場合は、化学防護手袋、化学防護服などを使用するようにする。
        この場合、他の事業場の発生事例で、ばく露経路が分かっているのであれば、それも参考とする。
      ② 健康障害が発生している労働者については、適切な治療への支援と補償の実施を図るほか、配置転換等の検討、治療と職業の両立支援の検討を行う。また、場合によっては、メンタルヘルス対策を含めた、被災労働者やばく露歴のある労働者への、専門家による相談の実施を図る。
      ③ 化学物質Aによる健康障害の内容、当該事業場における被害の状況、現時点におけるばく露の可能性とばく露防止対策等に関する安全衛生教育を実施する。
      閉じる
  • (5)有機溶剤中毒予防規則の規制対象物質であったが、最近、特定化学物質障害予防規則の規制対象物質(特別管理物質)に移行したクロロホルムなどの化学物質がある。この移行に関し、次の問に答えよ。
    ① この移行の根拠となった有害性は何か。

    • 【解説】
      クロロホルムほか9物質は、有機溶剤の中に位置づけられていたが、発がん性を踏まえて、特定化学物質の第2類物質の「特別有機溶剤等」の中に位置づけられるとともに、特別管理物質となった。
      なお、それまで「エチルベンゼン等」として分類されていたエチルベンゼン等、1,2-ジクロロプロパン等も、この改正に合わせて「特別有機溶剤等」の中に位置づけられている。
      閉じる
    • 【解答例】
      発がん性である。
      閉じる
  •   ② 一般に、化学物質がこの有害性を有する場合とそうでない場合、健康診断などの各種記録の保存についてどのような違いがあるか。

    • 【解説】
      単純な法令問題である。法令では、発がん性のあるものや生殖毒性のあるものは特化則で特別管理物質と位置付けられている。
      そして、特別管理物質とその他の物質で記録の保存について、法令の規定が異なるのは、健康診断だけでなく、作業環境測定の結果及び作業記録がある。
      なお、解答例では法令について回答しているが、実務では離職後も含めてできるだけ長く保存する方が良い。民事賠償請求訴訟に備えるためである。
      閉じる
    • 【解答例】
      各種記録を保存すべきものとして、特殊健康診断の結果、作業環境測定の記録及び作業記録がある。
      法令上、特殊健康診断の保存年限は一般には5年(じん肺は7年)であるが、特別管理物質(発がん性のあるもの等)は特化則により30年間(なお、石綿は40年間)の記録が義務付けられている。
      作業環境測定の結果は、一般には3年(放射性物質の濃度等は5年、じん肺は7年)であるが、特別管理物質は特化則により30年間(なお、石綿は40年間)の記録が義務付けられている。
      また、特別管理物質については、作業記録を30年間保存しなければならないとされている。
      閉じる