労働衛生コンサルタント試験 2016年 労働衛生一般 問15

疲労




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合格

 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問15 難易度 あまり出題されない範囲の高度な知識問題である。専門家以外は捨て問と割り切るべきか。
疲労

問15 疲労に関する次の記述のうち、誤っているものはどれか。

(1)疲労は、身体的疲労と精神的疲労に分類され、精神的疲労では主観的な不快感が長く続くことがある。

(2)疲労を測定する手法には、厚生労働省の労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト、日本産業衛生学会の自覚症しらべ、POMS(Profile of Mood States)などがある。

(3)疲労を生理的に測定する検査として、心拍変動の測定、二点弁別閾検査や血清シアル化糖鎖抗原KL−6の量の検査などがある。

(4)疲労を起こす要因には、作業強度、作業時間など以外にも、休憩、余暇、睡眠や食事のとり方などの生活習慣、心理的な要因などもある。

(5)交替勤務や深夜勤務ではサーカディアンリズムに反することから、慣れることができない人は、夜間の労働中に眠気や疲労感を感じ続けることがある。

正答(3)

【解説】

本問は、(2)と(3)が、やや専門的な知識を問うている。医師以外の受験生にとっては、(確率2分の1ではあるが)かなりの難問だったのではなかろうか。

(1)正しい。まず、本肢前半で、「疲労は身体的疲労と精神的疲労に分類される」としていることは正しい。ここで、精神的疲労とは、精神的なストレスによる疲労である。なお、疲労を、肉体的疲労、精神的疲労及び神経的疲労の3つに分類する考え方もあるが、あまり一般的ではない。

そして、身体的疲労でも、精神的疲労でも主観的な不快感を伴うことが多く、慢性的な疲労ではこの不快感が長続きする。従って、本肢は誤っているとは言えない。

なお、疲労とは精神的な疲労であろうと身体的な疲労であろうと、主観的な感覚であり、精神的な疲労のみが主観的な感覚だというわけではないことに留意すること。

(2)正しい。厚生労働省では、「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト作成委員会」を設置し、労働者が疲労蓄積度を簡便に自己診断できるチェックリストの検討を行い、「労働者の疲労蓄積度自己診断チェックリスト」を平成16年6月に公表した。なお、前年の6月には試行版を公表していた。

また、日本産業衛生学会産業の疲労研究会は、疲労のチェックシートとして、「自覚症しらべ」「疲労部位しらべ」「作業条件チェックリスト」の3種類のチェックシートを公表している。

問題は、気分プロフィール検査(POMS=Profile of Mood States)が疲労を測定する手法といえるかどうかであろう。POMSは、緊張、抑うつ、怒り、活気、疲労、混乱の6種の因子が測定できる心理テストであり、確かに疲労の測定もできないわけではない。だが、どちらかといえば、日本ではメンタル面で活用されてきた経緯がある。その意味では、やや疑問を感じないわけではない。

しかしながら、本肢は、やや疑問はあるものの、誤っているとまではいえないだろう。

(3)誤り。疲労とは主観的な感覚であるが、これを客観的に測定しようとする試みが行われている。心拍変動と、二点弁別閾検査は、疲労を生理的に測定する手段として用いられている。ただし、いずれも、現時点では、広く実用化されているとまでは言い難いように思える。

なお、秋田大学の高橋らや日本スポーツ振興センターの飯塚らは心拍変動によって身体疲労を定量的に評価する試みを行っている。

一方、KL-6は、間質性肺炎に特異度が高い検査値であり、間質性肺炎を診断する目的で用いられている。また、間質性肺炎の活動性を測定する指標ともなる。疲労の検査に用いられるものではない。従って、本肢は明らかに誤っている。

(4)正しい。疲労とは、ヒトが過剰な活動を防止するための生体アラームのひとつである。疲労の原因には、運動、精神ストレス、環境ストレス、感染、消耗性疾患、睡眠・リズム障害などさまざまなものがある。本肢にいう“休憩”、“余暇”、“睡眠などの生活習慣”、“心理的な要因”が疲労の原因になることに問題はないだろう。

受験者が迷うとすれば、“食事のとり方”であろう。これについて、企業の男子営業部員を対象とした添野尚子他「営業マンの自覚症状と食生活との関連」(栄養学雑誌1993年)は、朝食の欠食と疲労の自覚症状の間に相関があるとしている。また、看護学生を対象とした關戸啓子他「欠食による空腹が疲労の自覚症状に及ぼす影響」(川崎医療福祉学会誌2004年)も、朝食を欠食した学生は「エネルギーを消費する実習の授業の時に空腹の影響がみられ、精神的に授業に集中できなくなっている様子が示唆された」としている。だが、これらは定説とまでは言い難いかもしれない。

しかし、勤務の関係で夕食の時間が遅くなると、睡眠時間が不足がちになるケースはしばしばみられる。また、勤務の関係で昼食と夕食の間隔が長いホワイトカラー労働者には、間食に糖分をとるケースが散見される。その結果、血糖値が上昇してインスリンが分泌され、血糖値が低下しすぎて、疲労の遠因になることも考えられる。食事のとり方は、疲労と関係がないとはいえない。そのように考えると、本肢は誤っているとまでは言えないだろう。

なお、国の脳・心臓疾患の業務上外の認定基準においては、“異常な出来事”“短期間の過重業務”“長期間の過重業務”の有無によって業務上外を判断することとなるが、このうち“長期間の過重業務”については、労働時間のみならず、①不規則な勤務、②拘束時間の長い勤務、③出張の多い業務、④交代制勤務・深夜勤務、⑤作業環境(温熱環境・騒音・時差)、⑥精神的緊張を伴う業務かどうかが考慮される。このことは試験までに記憶しておくこと。

(5)正しい。サーカディアンリズム(circadian rhythm)とは、概日リズムと訳されるが、生物に存在する約24時間周期の生理現象の変動のことで、体内時計と言われるものである。交代制勤務や国際線の搭乗員などで問題になり、看護師についての研究は進んでいる。

(公社)日本看護協会「夜勤・交代制勤務に関するガイドライン」も本肢と同様な指摘をしている。また、宮崎真帆他「二交代制勤務に従事する看護師の睡眠パターンと疲労感との関連」(神戸大学大学院保険学研究科紀要2013年)、原野かおり他「介護労働における夜間勤務者の疲労の実態」(川崎医療福祉学会誌2012年)など、本肢と同様な研究成果も多い。

2019年12月01日執筆 2020年04月18日修正