労働衛生コンサルタント試験 2016年 労働衛生一般 問06

有害物とそれによる主な健康障害




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合格

 このページは、2016年の労働安全衛生コンサルタント試験の「労働衛生一般」問題の解説と解答例を示しています。

 解説文中の法令の名称等は、適宜、略語を用いています。また、引用している法令は、読みやすくするために漢数字を算用数字に変更するなどの修正を行い、フリガナ、傍点等は削除しました。

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2016年度(平成28年度) 問06 難易度 化学物質による健康影響は、必ず出題される。効率的に得点できる分野である。確実に正答したい。
有害物による健康障害

問06 有害物とそれによる主な健康障害の次の組合せのうち、適切でないものはどれか。

有害物 主な健康障害
(1) ・・・ 腹部の疝痛、伸筋麻痺による垂れ手
(2) 金属水銀 ・・・ 手指の震え、精神障害
(3) メタノール ・・・ 視神経障害
(4) シアン化水素 ・・・ 呼吸困難、痙攣
(5) 塩化ビニル ・・・ 膀胱がん

正答(5)

【解説】

(1)適切である。鉛中毒は、かつて花柳界で用いられた白粉に含まれており、女性が肌につけて中毒になった例や、また乳児が乳房についた鉛粉を摂取した例があるため、その症状についての知見は多い。

鉛中毒の、三大症状は、貧血、腹部症状、神経症状である。このうち、腹部症状のひとつに激しい痛み(鉛疝痛)がある。また、神経症状としては、末梢神経の障害で運動神経が障害を受けて腕が垂れる、いわゆる垂れ手が起きる。幽霊絵で、腕を垂らした女性が描かれることがあるが、鉛中毒による垂れ手の女性にヒントを得ているとの説がある。

(2)適切である。水銀中毒として有名なのは水俣病であるが、職業病としては経気道ばく露が主であると考えられている。主な症状として、中枢神経、内分泌器、腎臓などの器官に障害を与える。このうち、中枢神経系に与える症状として、国のモデルSDSには「被刺激性、情緒不安定、振戦、精神障害、記憶障害、言語障害を生じることがある」としている。なお、振戦とは、体の様々な部位の細かい“震え”のことである。

(3)適切である。メタノールは、戦後、いわゆるメチルアルコールの混入した人造酒のカストリによって、“メチルで目が散る”などと言われたものである。誤飲等による急性中毒として、頭重感・意識障害・視力障害・錐体外路徴候(パーキンソン症候群)や代謝性アシードーシスがあり、慢性中毒としても、中枢神経に障害をもたらし、視力障害を受ける。

(4)適切である。シアン化水素の気体はいわゆる青酸ガスである。殺虫剤や化学兵器としても使用される。モデルSDSには、CERIハザードデータ集からの引用として「呼吸困難、徐脈、不整脈、心室拡張期のT波異常、意識混濁と呼吸の中断、脳波の変化、呼吸困難、昏睡、衰弱、歩行困難、痙攣」が挙げられている。

(5)適切ではない。塩化ビニルはモデルSDSでも発がん性GHS区分が1Aとされている発がん性物質である。しかし、同SDSにも、「世界各国で実施されている疫学調査によれば、職業ばく露を受けた労働者で肝臓がんや血管肉腫の発生頻度の増加(NITE初期リスク評価書 (2005))が明らかにされており、また、一部に脳及び中枢神経系のがん、肺がんの増加(NITE初期リスク評価書 (2005))も報告されている」とはあるが、膀胱がんに関する報告は存在していない。

なお、本肢の塩化ビニルは、ポリマーではなくモノマーのことであることは言うまでもないだろう。

2019年12月01日執筆 2020年04月18日修正